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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第2章「絶対もふもふ戦線」
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どうかしましたか?

こちらは本日2回目の投稿です。

「それでは行きましょう!」

「ミリア、慌てなくても時間はありますから落ち着いて」

「仕方ありませんクロシュ様。お嬢様にとって、ここは憧れにして夢の地です」


 やはり夢の国だったか、と脳裏に浮かんで挨拶する夢鼠を振り払う。

 

「カノンさんの言う通りですね。私もちょっと落ち着きませんし……」

「二人とも子供ですわね。私はそんなこと……あっ! あれは冒険者専用の武具店!? あっちには魔導具店まで! 観光用ではなく本当に本物ですわ!」


 観光用とは魔獣の被害に怯えることのない平和な街で販売している、良く言えば玩具の武具店のことらしい。

 有名な冒険者ともなれば一種の英雄として扱われることも多いらしく、彼女たちが聖女ミラに憧れるのと同じく、年頃の少年少女は英雄に夢を抱くそうだ。

 そんな微笑ましい夢を商売として、人気のある英雄が愛用する武具を模した玩具を販売しているのだとか。

 それで心を満たせるのであれば本人はもちろんのこと、親にしてもプレゼントすれば喜ばれるのだから願ったり叶ったりだろう。

 しかし、そんな偽物では満足しないのが、彼女たちお嬢様方である。

 ミリアちゃんも当初は玩具を集めていたそうだが、徐々に満足できなくなってしまい、現在では俺も知っての通りだとカノンは話す。

 だからこそ過去に何人もの英雄が滞在し、今も現役の冒険者が活躍する城塞都市は夢の地なのだ。


 さて、現在の俺たちは観光を目的として歩いていた。

 すでにクーデルが手配してくれた宿へと赴き、予定通りにナミツネは先立って活動していた捜索隊と連絡を取り、より細かな情報を得る手はずとなっている。

 その間、ヒマになる俺たちは明日から本格的に始める捜索に向けて、今日一日を休息に充てるワケだが、出発時にアミスちゃんから希望があったように冒険者ギルドを観光することになったのだ。

 もちろんミリアちゃんとソフィーちゃんも了承しているし、それに加えて珍しいことに、ミルフレンスちゃんまでも同行を申し出たのである。


「…………」


 黙々と歩く彼女からは相変わらず意図が掴めないが、やはりみんなと同じように冒険者に対して一種の憧れがあるのだろう。

 ちなみに護衛騎士は四名だけの小人数となっている。あの人数をすべて連れていてはギルドに入り辛いし、狭い通りも歩けないので残りは宿で待機だ。

 その気になればミリアちゃんの権限により、視察という名目とすれば様々な点においてギルド側に優遇させることも可能らしいけど、誰が敵と繋がっているかも不明な状況では迂闊に居場所を喧伝するようなマネはしないほうがいいだろう。

 なにより、名目上とはいえ視察では観光を楽しめない。

 ご両親の捜索も重要だけど、ミリアちゃんたちの笑顔も大切なのである。

 そんなワケで護衛四名にも俺から話を通しておき、緊急時以外は観光の邪魔にならず、目立たないよう僅かに距離を置いて貰っている。

 いざという時は俺のほうが【察知】で早く行動できるからね。

 よりぶっちゃけてしまえば、護りに関しては護衛騎士はいてもいなくても変わらないのだが……その四名はなぜか俺の護衛として付けさせてくださいなどと突拍子もないことを言い出した。

 さすがの俺も、お前らはミリアちゃんたちの護衛だろうと呆れてしまった。

 もう置いて行こうかとも考えたが、屈強な騎士が周囲にいるだけで余計なトラブルを回避できる場合もある、とはナミツネ談だ。

 言われてみれば、見た目女性だけの集団で子供が多いとわかれば目を付ける愚か者がいないとは言い切れなかった。お忍びなので俺を含めたみんなはフード付きローブで素顔を隠しているものの体型から判断するのは難しくない。

 機関車においてトラブルをひとつ回避して見せた男の助言でもあるので、今回は顔を立てる意味も含めて大人しく従っておくとしよう。

 みんなが、ほっと一安心みたいな空気を出しているのが気になるが……。

 そうしてミリアちゃん一行はギルドへの道中を気ままに楽しんでいるのである。


「ところで道は知っているのですか?」

「さっきパンフレットを貰いましたから大丈夫ですよ」


 軽い足取りで先頭を行くミリアちゃんが広げた紙には、城塞都市の簡単な地図や、各施設の解説が載せられていた。

 どうやら観光客用の物らしいが、そういうのは嫌がるんじゃないかな?

 少し心配したけど、店が本物なら関係ないそうだ。道理である。

 安心して俺もパンフレットを覗き込む。

 かなり簡略化された地図だけど、わかりやすく要点がまとめられていた。

 城塞都市は城壁により、大きく三つのエリアに区切られている。


 まず駅がある北側は住居エリアだ。

 魔の森から最も離れた位置であり、安全性の高さから戦闘能力のない者……例えば商人や職人とその家族の住居、観光で訪れた者が宿泊する施設が並んでいる。

 俺たちの宿もこのエリアにあり、当然の如く最高級の宿だった。


 次に、中央の城から東西にあるのが商業エリアだ。

 商業と一括りにされてはいるが、正反対に位置しているためかまったく異なる役割を担っている。

 というのも西側は食料店や喫茶店に酒場と食事処が並んでいるのに対し、東側には武器や防具の店と鍛冶場が軒を連ねているのだ。

 これは住居エリアと、南のエリアのどちらからでも楽に行き来ができるようにと考えての配置だろう。


 最後の南側に位置するのは魔獣防衛エリアである。

 地図によると耀気機関による新型の弩が配備され、強固な城壁と深い堀によって魔獣の侵入を防ぐと説明されていた。

 仮に都市内へ侵入された場合でも、エリアを隔てる壁の封鎖により被害は最小限に抑えられ、さらに城壁の上に設けられた通路から討伐隊が急行できるという。

 そんな説明分は、城塞都市が建造されてから一度も魔獣に侵入されたことがないと、一際目立つ大きな文字で締め括られていた。

 このパンフレットは防衛設備はしっかりしていると安全をアピールする目的もあるようだ。

 その他に魔獣を討伐する冒険者向けの店が多いそうだけど、観光客にオススメできないからか詳細は記載されていなかった。


 ところで、ここまで読んで気になる点がひとつ。

 俺たちは北の住居エリアにある宿から、中央にあるギルドへ向かっている。

 だが周囲には先ほどソフィーちゃんがはしゃいでいたように、武器と防具の店が見えるばかりだ。

 まっすぐに進めば、東の商業エリアを訪れたりはしないと思うのだが……。

 ちらりと、これまで先導していたミリアちゃんを覗き見る。


「……あ、あれ?」


 ようやく間違いに気付いたかのように、地図と周辺を見比べていた。

 もはや現在地もわからないのか、顔を曇らせるミリアちゃんだけど迷ったとは言い出し辛いようで、ついには立ち止まって地図に指を這わせていた。

 俺は改めてパンフレットを眺める。


「ここからなら下手に戻るより、まず大通りに出て東口を目指しましょう」

「え、あ……」

「恐らく商業エリアに入ったばかりなので、このまま行けば必ず大通りに出られるはずです。そこからずっと道なりに進めば……」

「わ、わかりました」


 こっそりアドバイスすると、気を取り直して再び歩き出した。

 みんなは街並みに気を取られて気付いてなさそうだけど、カノンだけはミリアちゃんの様子から察していたようで軽く礼をされる。

 それから、ほどなくして無事に大通りを見つけられたことでミリアちゃんからも可愛らしい笑顔で感謝されてしまった。

 初めは、もしかして迷いましたか? などと無神経にみんなの前で言ってしまいかけていたのだが……口を滑らせなくて本当に良かった。




 城塞都市の中央にそびえ立つ城、冒険者ギルドが間近に迫って来た頃だ。

 このまま進めば東口から入れるはずなので特に心配せず、俺も周囲の店を眺めつつ歩いていた。

 行き交う人は多く、ほとんどは冒険者か商人と思しき格好している。

 その中に、小さな子供たちが列を成して歩いていた。

 先頭にいる大人が引率しているらしく、なんとなく幼稚園の遠足かなにかを思い出す光景だ。カルガモのようにちょこちょこと後を追う姿が微笑ましい。


「あれは、たぶん孤児院の子供たちだと思います」


 またもや俺の視線を辿ったのかミリアちゃんが教えてくれた。

 妙に鋭いというか、そんなに俺の視線ってわかりやすいのだろうか?

 変なところを注視しないよう気をつけよう。


「孤児院ですか?」

「地図には載っていませんけど、魔獣の犠牲になった冒険者や事故に巻き込まれて亡くなる人は多いそうです」


 必然的に孤児も多くなるというワケだ。

 可哀相ではあるけど、楽しそうな雰囲気からは悲惨さを感じられない。

 今はそれなりに幸せな生活を送っているのだろうと安心する。

 特にひとりだけ、やたら元気な子がいた。

 ここからでは後ろ姿しか確認できないが、右へ左へと飛び跳ねており、俺とミリアちゃん以外ではこれまで見たことのない珍しい黒髪をなびかせる幼女だ。


「あれ……?」

「どうかしましたか?」


 急に足を止めた俺をミリアちゃんが心配してくれているようだったが、その言葉も耳に入らなくなっていた。

 ……おかしい。

 まったく知らない幼女のはずなのに、やたらと胸が騒ぐ。

 どこかで会ったことが……いや、そんなはずはない。

 300年前も、目覚めてからもミリアちゃんたち以外の幼女など記憶に……。


 ほんとうに、そうかなー?


 その瞬間、街から喧騒が消え失せた。

 ミリアちゃんはこちらを見つめたまま凍りついたように止まり、辺りを見渡せば街中の人間も、空を飛ぶ鳥も、世界そのものが静止している。

 俺は知っている、この現象を!

 慌てて黒髪の幼女に視線を戻せば、先ほどまでと同じく後ろ姿を見せていた幼女が、時が止まっているにも関わらずゆっくりと振り返った。

 

 わたしは、かえって、きたー。

また明日の夜辺りに投稿する予定です。

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