消しちゃおうかー
とまあ、鑑定はこのくらいにしておこう。
ミラちゃんが想像以上に残念だったのと、他のみんなが優秀っぽいのがわかったからね。でもそんなのは問題にならない。なぜなら俺という存在を手に入れたのだから、これだけでもう人生の勝利者だよ。だから頑張ってね。
今後ステータスは小まめにチェックするとして……。
そろそろ、あっちも始めようか。
――――採寸――――
これは装備者の体格にサイズを調整するためのスキルなんだが、そのためには色々と測る必要があるわけでわっしょいわっしょい。
……視える。俺にも視えるぞ。色々と視える。
ふむふむ、へー、ほーほー、なるほどねー、そうかそうかー。
うん、別に数字を知っても俺は何とも思わないんだけどね。ふう。
じゃあ楽しみ終わったことだし、そろそろサイズを調整しますかね。
あ、でもマズイかな。
どうしたー?
神様、着ている服が急にサイズぴったりになったらどう思います?
こわいねー。
ですよねー。
いきなり恐怖体験させるほど鬼畜じゃないよ。俺。
でも、たぶん、だいじょうぶかなー。
なんでさ。
まほうの、そうびは、そういうこともあるよー。
ふむふむ、魔法の装備はサイズ調整機能があったりすると。
すこし、じかんが、かかったり、かからなかったりー。
ほむほむ、今から調整しても、そういうもんだと勘違いしてくれると。
じゃあいっか!
「ひゃあぁぁっ!?」
「ど、どうしたのさミラ!」
「どこか痛いのか?」
「急にこの服が……っ!」
先程までダボっとしていたクロークが、あら不思議、ミラちゃんの身体にピッタリのサイズに早変わり。
着ている本人は急激に縮んだように感じただろうから、さぞかし驚いただろう。
「サイズが変わったね。ってこれ魔法具だよ! すごいよ!」
「たしかに魔法具は、そういう魔法がかかっていることが多いらしいが……」
「……でも、どうして今になって変わったんでしょうか?」
「ああ、それは装備者の体型を認識するのに時間がかかる場合があるそうだ」
上手い具合に話が進んでくれたな。さすが神様。
「ともかく、これは思った以上の収穫だな。間に合わせ程度に考えてたが」
「そうだねー。ねえミラ。その魔法具そのまま使ってみる?」
「えっと、でも私にはもったいない気もしますし……」
いやいや、使ってよ。
「ミラ。まずは鑑定。それから決める」
「あ、そうですね」
「私も魔法具を見たのは初めてだ。ちょっと楽しみだな」
「よーし、早くギルドに戻って鑑定して貰おう!」
うーん、あまり性能が良すぎても遠慮しちゃうのか。謙虚だなぁ。
そうなると、これ以上スキルを取得するのは少し控えるべきかな。
ああでもバレない範囲でなら……っと待てよ。
神様やーい。
なーにー?
俺が鑑定されたら、どこまでわかっちゃうのかな?
えーっとねー。
幼女神様でも答えにくい質問だったのか?
おたがいの、れべると、きみの、いしによるかなー。
互いのレベル差でどのくらいの情報が得られるかが決まるのはわかった。
でも俺の石、……意思? それによるってのは?
みせたくない、じょうほうは、ひとくされるよー。
じゃあ俺が転生者である称号を隠したいと思えば、そこだけ見られないのか。
れべるが、ひくかったらねー。
相手の方がレベルが高い場合だと、どうやって鑑定を防ぐんだ?
いんぺい、かなー。
隠蔽スキルか。そういえばレインが持っていたな。
む、ということは俺の見たステータスも完全ではなかった可能性があるな。
きっと隠蔽にもレベルが関係するんだろうけど、明らかに向こうが上だし。
きみの、かんていは、れべる3、くらいだねー。いんぺいは5かなー。
何がどう計算されてそうなるのかわからんけど確実に見えてなかったのは確かなようだ。
というか、その辺も一緒に表示してくれないんですかね。
れべるあっぷだねー。
せめて自分のスキルのレベルくらい見せてよね。ステータス閲覧の役立たず!
やっぱり鑑定のレベルが低いと不便だなぁ。
他人のスキルを確認できるだけでも使えるけどね。
しかし、これはマズイ状況じゃないか。
このままだと俺はギルドの誰かさんに鑑定されるんだろうけど、話から察するにそいつは鑑定を生業にしているだろう。要するにプロで確実に高レベル。
隠蔽のスキルすら持っていない俺では抵抗できないかも知れない。
俺は転生者の称号を知られるのだけは避けたいと考えている。
他のスキルや称号を知られても平気だが、これがバレるのだけは危険だ。
というのも転生者ってことは元人間だって話で、どこの誰かも知らない人間を着るなんて女の子が許すだろうか。仮に本人は良くても周りはどうか。きっと心配して止めるだろう。
逆にインテリジェンス・アイテムの称号により、この防具には意思があって男の声が聞こえるという情報だけなら不安は残るものの構わないだろう。ペットの性別を気にしないようなものだからな。服がオスだったからなんだという話だ。相手が人間であれば、そうはならない。
どうにかしなければ……どうにかなるのか?
こまってるのー?
いきなり詰んだかも知れません。
どうしてー?
転生者の称号があるとわかったら俺を装備する人は減るでしょう。
それどころか実験材料として扱われる危険も高いか。
なにせ、こっちは抵抗できないんだもの。
じゃあ、けしちゃおうかー。
え、消すってなにを……?
はい、けしたよー。
うぇ!?
まさかまさか……。
○称号
【成長する防具】【インテリジェンス・アイテム】【神の加護】【説明不要】
ないぃぃぃぃぃーーーーーーっ!!
えへへー。
かわいいけど、これはヤバいって!
どうしてー?
転生者の称号は前世の知識とか何やらを引き継ぐって書かれてたでしょう!
もう、おわったから、へいきだよー。
え、それってつまり、引き継ぎ終わっていれば必要ないの?
そういえば特に何かを忘れた気はしない。普通に思い出せるな。
そゆことー。
……ええまあ、今回はいいんですけどね。
次回からはちゃんと確認を取ってからですねぇ……。
もんすたーが、あらわれた!
ちょっと神様、ちゃんと聞いてくださいよ……え?
天井から灰色のゲル状モンスター、スライムが降り注いだ。
その位置は、ちょうどミラちゃんの真上で――。
「ウィンドショット!」
咄嗟にレインが魔法を放つ。
空気の塊を圧縮して撃ち、着弾すると解放された空気の圧力で敵を吹き飛ばす初級の風魔法だと、あとから神様に聞いた。
見事に直撃を喰らったスライムは体液を撒き散らしながら壁にべちゃりと張り付き、そのまま煙を噴出して消滅する。無事に倒せたようだ。
「大丈夫かミラっ!」
「え、あ、はい……」
緊迫した様子でノットが声を荒げるが、ミラちゃんは状況をよくわかってなさそうだった。
「まさかアサライムが現れるなんて……私の責任だっ」
人が通る通路の天井に潜み、通りがかった人間に奇襲を仕掛ける暗殺者のようなスライムらしい。
このモンスターのいやらしいところは、自分より強い相手には襲いかからず弱者だけを狙う習性と、高度な潜伏技術だ。
斥候であるノットが反応できず、レインが撃退できたのも位置関係の問題で、ミラちゃんの姿を背後から視界内に捉えていたからに過ぎないとはレイン自身の言葉である。
「上層で出口も近いから油断した……本当に、すまない!」
「だ、大丈夫でしたから! 頭をあげてください!」
「それとレイン、感謝する。私のせいで仲間を失うところだった」
「ノット。元気だして」
見ればノットの顔は真っ青になっていた。血の気を失うとはよく言ったものだ。
「とにかく今は外へ出るのが先だよ。反省は後で、でしょ?」
「ああ、そうだな……」
励ますようなディアナの言葉でようやく下げた頭を戻す。
それほどショックだったのだろうか。
まあ危ない場面ではあったけど、失敗した時のためにフォローしてくれる仲間がいるんだし、あまり気に病む必要はないと思うけどなぁ。実際みんな無事だったんだし。
「ミラ。その服」
「はい? ……あっ!」
言われてミラは纏っていたクロークに視線を落とす。そこには焼け焦げたように小さな穴が開いてっておいぃぃぃぃ!!
す、ステータスの確認だ!
【クローク】
HP:83/100
MP:11/11
思ったよりは軽傷だけど減っていた。
どうやら、さっきのスライムの体液が少しだけかかっていたようだ。
ほんの僅かな量が付着しただけなのに、これほどのダメージということは、まともに受けていたら……。
無い心臓が跳ねた気がした。
今さらながら俺も、どれだけの危機だったのかを思い知り、理解する。
俺の考えは甘く、覚悟が足りないと。
一歩間違えれば死んでいたのだ。ノットの反応こそが正しかった。
今回は無事だったからと言って次も、その次も助かるとは限らない。
もしこの件が無ければ俺はそう遠くない未来、最悪の事態に陥って初めて慌てふためき、遅すぎたと後悔し、この世界に絶望していたのではないか?
過去に読み漁った幾多の物語を思い出す。
俺が求めているのは主人公が苦労して成長する異世界転生物じゃない。
かわいい幼女たちと明るく楽しく騒いでキャッキャウフフムーチョムーチョする、そんな夢の溢れる祝福を受けた素晴らしい世界だ。
だからきっと、俺には覚悟が足りていなかった。
幼女神様は言っていたはずだ、努力が必要だと。
それに俺は感謝した。努力すれば叶うのなら、と。
だから調子に乗ってしまった。
異世界という環境、転生という状況に酔っていた。
でも、もう違う。
こんな無様な防具が幼女と合体などと何をほざいているのか!
この先ミラちゃんすら護れない防具に、幼女を護れるはずがない!
元人間だから? 平和な世界で育ったから?
そんなものは言いわけに過ぎないだろうが!
やると決めたのなら、あとは覚悟を決めて努力するのみだ!
すべては幼女のためにっ!!
改めて俺は、幼女のためにミラちゃんを必ず護ると誓いを立てた。
初心は忘れるなってことだな。うん。
そうしてようやく落ち着いたので、気になっていた彼女のHPを確認する。
【ミラ】
HP:41/80
MP:13/100
やはりというかミラちゃんのHPも減っているな。
本人が気付かないわけがないし、たぶんノットが気に病むのを懸念して我慢しているのだろう。
ちなみに俺が気付かなかったのは痛覚が無いから。
防具がダメージを痛がってたらダメでしょう。
「す、すみませんっ。またダメにしてしまって……。もう使えないですよね。せっかくみなさんが見つけた物を……」
「いや、それは私のせいにしてくれ。ミラは悪くない」
「前の服より、安心。見えない」
「そうだね。元々ミラが戻るのに使ってただけだし気にしないでよ。ノットも」
落ち込んだ空気の中で俺は再び悩む。
このままダンジョンを出たら捨てられてしまうのではないか?
穴の開いた防具なんて役に立たないだろう。当然の話である。
じゃあ先にこっちを取得しなければならないか。
【修復】(1)
欠損した部分を元通りに直す。修復度は使用するMPで変化する。
【自動修復】(2)
自動的に欠損した部分を直す。修復速度は遅い。
HPの減少は開いた穴がダメージになっているだろうから。それを塞げば回復できるはず。つまり俺に取っての回復手段がこれだろう。
俺の残りSPは1だから、ここは修復の一択だな。
ちがうよー?
いつもの神様アドバイスですな。頼りにしてます。で、違うとはなんでしょう。
えすぴー。
SPが違うとは何を差しているのやら。
修復を取得するのに必要なSPは1だ。これは変わらない。
じゃあ所持SPかな?
SP:4
これは、まさか……。
【クローク】
レベル:3
やっぱりレベルが上がっている。でもどうして?
心当たりがあるとすれば、さっきの暗殺スライムか。
あんなの一匹を倒しただけでレベルが上がるのだろうか。
でもまあ、まだレベル3だからな。必要経験値も低いんじゃないかな。
ともかく嬉しい誤算だ。これで自動修復を習得できる。
修復くらいなら永続的に効果のあるこっちのが良さそうだし。
そうなると、これで残りSP2か……。
あとはミラちゃんのHPがかなり減ってるのが気になるんだよね。ほぼ半分だし。だというのに自分の魔法で回復する気配がない。MPも減ってるから節約してるのかな?
というわけで。
【治癒】(1)
装備者の傷を癒す。治癒度は使用するMPで変化する。
【自動治癒】(2)
自動的に装備者の傷を癒す。治癒速度は遅い。
どちらかを取得しても良いんだけど、やっぱりSPの無駄使いは避けたい。
後悔しない選択をするには……。
へい、神様!
こんどは、なにかなー?
治癒で消費するMPだけど、今のミラちゃんを完治するならどれくらい必要?
そーだねー、39くらいかなー。
【ミラ】
HP:41/80
……それってMPとHPの等価交換じゃん。
思った以上に使えないスキルな気がするぞ。地雷か?
似たスキルの修復と洗浄も同じかも知れないし、やっぱ自動の一択か。
こうなると自動治癒かって思うけど、面白いことに気付いちゃった。
【HP譲渡】(1)
装備者にHPを譲渡する。装備者より装備のHPが下回ると不可。
残りHPをミラちゃんへと与えられるスキルだ。
治癒と違う点としてミラちゃんより俺のHPが下だと使えないのと、これはMPではなくHPを使う。
ここで思い出そう。今回取得するもう一つのスキルである自動修復を。
俺に取ってのダメージとは服が破れたり、穴が開いたりすることだ。これを直すのに修復のスキルが有効。
自動修復で俺のHPは回復し続ける。そのHPをミラちゃんに渡す。
無限回復コンボの完成である。
おー、よく、きづいたねー。
お褒めに預かり光栄です。
これ、ごほうびだよー。
【称号、技巧者を取得しました。】
【技巧者】
優れた技術を生み出し使う者。消費MPが軽減する。
神様ってほいほい称号とかスキルとかくれるけど、良いの?
だって、かみさま、ですしー?
別に良いんなら気にせずに貰いますけどね。
じゃあサクッとスキルも取得しましょうか。
【スキル、自動修復を取得しました。】
【スキル、HP譲渡を取得しました。】
これで今度こそ残りSPは1だな。貯金しとこ。
これから少しだけ主人公がマジメになります。たぶん。ほんの僅かに。きっと。