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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第2章「絶対もふもふ戦線」
54/209

大変なことになっています

あまり時間が取れなかったので短いですが、キリが良いので投稿します。

 森の落ち葉を蹴りながら小川を軽やかに飛び越え、木々の間をするりと抜けて、もはや影も形もない敵を迷うこともなく追い続ける。

 どれだけ逃げたり隠れても、この程度の距離なら【察知】の範囲内だ。こちらに害を成そうとする限り、俺はそのイヤな気配から居場所を把握できる。

 途中でより詳しく位置を確認すると、別行動をしていた仲間と合流して一か所に留まっていた。数は合わせて30人ほどか。

 こんなところで立ち止まっているのは、たぶん追手を振り切れたと思っているからだろう。どうするか相談中ってところか。

 その隙を突くためにも迅速に移動する。このまま一網打尽にするチャンスだ。


 しかし色々と予定が狂ってしまったな。


 まず使者として……たしか車内で見かけた青髪の子がアミステーゼちゃんで、車上にいた金髪ツインテールがソフィーリアちゃんだったか、もうひとりいたみたいだけど……あの子たちがこの場にいること自体が驚きだ。

 前に見たのは、選定の儀でミリアちゃんと一緒にいた時だった。俺の記憶が確かであれば第二門と第三門、ヒゲおっさんと、デブおっさんの娘のはずだ。

 しかも奴らに襲われていたのは演技ではなく、本気であるように感じられた。

 ということは黒幕は、あのおっさん共ではなかったのだろうか。

 これが疑いを逸らすための策略で、彼女らはなにも知らないという可能性もあるけど、さすがに娘を囮にするほど冷血ではないと思いたい。それに娘を当主に据えるつもりなら、やはりこの襲撃は予想外だったと考えられる。

 ならば、いったい誰がミリアちゃんの命を狙っているのか……。

 謎が深まってしまったが、わざわざ彼女らがここへ訪れたのには関係がありそうだ。屋敷へ戻ったら詳しく聞いてみるとしよう。


 本当なら今ごろは、俺が護衛しながら屋敷へ向かうはずだったんだけどね。

 なのに、どうして予定を変更して敵を追っているのか……。

 それは奴らを逃がしたら後が面倒だからというのもあるけど、実は口封じされてしまった者たちの代わりとして何人か捕えるつもりが、さっきの戦闘でうっかり皆殺しにしてしまったからである。

 魔力の調節に慣れたことで杖の威力調整は完璧だったけど、すべて急所を貫いて即死させていたのだ。

 操作を間違えたわけではない。その時の俺は確実に殺すつもりで狙っていた。


 でも……その理由が正直なところ、自分でもよくわからない。


 車上にいたソフィーリアちゃんが矢で射られそうになっていたのを目撃した辺りから冷静さを欠いているのは自覚していたけど、まさか殺してしまうとは……。

 命を奪ったことに罪悪感はないし、むしろ当然の末路だと思っている。

 だけど新たな情報源を失ってしまったのは痛いし、完全に俺のミスだろう。

 というわけで、これを挽回するためにも生き残っている奴らを捕えなければならず、面倒だけど後を追いかけているワケだ。

 そしてなによりも、この寒い中を走り続けなきゃならないワケでもある。


「寒いっ!」


 つい声に出してしまうほどに寒いので、声に出した。

 ああダメだ。思考も凍り付いているかのように上手く回らない。どれだけミラちゃんが寒いの苦手なのかを身を以て知ったよ。

 これは【属性耐性】で緩和できたりしないかな。たしか氷属性とかあった気がするけど……なんとなく違う気がするので取得はガマンする。

 さっさと捕まえたら、暖かい部屋で温かいお茶を飲みながら、あったか柔らかいミリアちゃんを抱きしめていたい……また叱られるかな。

 などと現実逃避をしているものだから集中力も途切れてしまったようだ。


「おっと」


 気付けば周囲に人影が現れ、円を描くように包囲されていた。

 優秀なスキルも使い手がしっかりしなければ意味がないと実感させられるね。

 というか、これってもしかして誘い込まれた?


「……貴様は何者だ。なぜ我々を追う」


 仮面集団のひとりが口を開いた。他の仮面と見分けが付かないが、あれがリーダなのだろうか。

 なにか情報を得られるかも知れないし、とりあえず答えてみると同時に【鑑定】でステータスを確認すると大して強くはなさそうだった。


「俺は護衛みたいなものだ。襲撃者であるお前らを追うのは当然だろ」


 こいつらには言葉を取り繕う必要もない。

 俺の回答を受けて、仮面のリーダーは再び口を開いた。


「……先ほどの襲撃は我々の確認不足だ。目標では無かった。これより撤退する為、追跡を止めて貰いたい。お互いの為にも……」


 どこに隠し持っていたのか、二本の剣を音もなく抜き放つと俺へ突きつける。

 双剣使いという奴だ。ステータスにもそう書いてあった。

 さて、どう答えるべきかな。

 少し整理すると、このまま付いて来られると困るけど、そっちもこの状況じゃ勝ち目ないし引き分けってことで見逃してね、という意味だろう。

 もちろん見逃すつもりは微塵もないのだが、ここはもう少し探ってからでも遅くはないか。


「目標ではないと言ったが、じゃあ本当は誰を狙っていたんだ?」

「……いいだろう。この先の屋敷にいるミーヤリア・グレン・エルドハートだ。これで納得したならわれ、われを、おうの、は……?」

「なにか勘違いしているみたいだから訂正しようか。俺の護衛対象には、そのミーヤリアも含まれているんだよ」


 仮面リーダーは舌が回らないようで、そのまま硬直したように倒れた。

 途端に俺の攻撃を察した周囲の者たちが一斉に武器を構え、端から順に手放して倒れていく。


「今度は殺さないように注意っと」


 最小の魔力を込めて杖から魔力弾を撃つと、放たれる光が小さく弱いものになることで視認性が下がるらしい。魔力に鈍感な者であれば肉眼で捉えるのも難しいだろう。例えプロの暗殺者であったとしてもだ。

 ただ、これでも当たり所が悪いと人体を貫通、あるいは破壊する程度の力があるため、なるべく手足などの失ってもダメージの少ない箇所を狙う。

 包囲が完全に解けたのは、僅か数秒後のことだった。


「な、なに、が……」


 一瞬で行動不能にされたことに理解が追い付かない様子のリーダーだが、説明してやる義理はない。

 スキルの【異常付加・痺】を使って、命中した相手をマヒさせている、なんて話したところで意味ないからな。

 ちなみに、この方法はナミツネと別れてから道中で思い付いたものだ。さっきは試すのも忘れて撃ち殺してしまったので、ここでテストができて良かった。

 杖に頼り切りで自分自身の力を試せなかったのは残念だが、よくよく考えたら俺の攻撃方法は布を大量に伸ばしてキュッと巻き付けるだけなので大して違いはなさそうである。

 強いて言うなら、締め付けられて内臓破裂からの胴体を引き千切られて死ぬか、魔力弾で急所を貫かれて死ぬかの違いはある。どっちがよりグロいか程度の差だ。


「さてさて、ここにいるのは30人……ちょうどかな」


 これだけ数があれば、誰かしら情報を吐いてくれるだろう。

 順番に尋問と行こうか。




 うーん、これで残り三人か。

 もうちょっと素直に話してくれると思ったけど、少しばかり楽観的に考えすぎていたようだ。どれだけ痛めつけても口を割らないのである。

 ステータスには出てないけど痛みに耐性でもあるのかな?

 屋敷に戻る時間も考えて、あまり尋問に手間をかけられない部分もあるけど、これでは情報を得るのは難しそうだ。


「じゃあ次はお前だ。誰に依頼された? なぜ狙う? 他に仲間は? 知っていることはひとつも余さずに吐け」

「……我々は死んでも裏切らない。殺すがいい」

「またそれかぁ」


 とうとう残り二人になってしまった。

 辺りに飛び散った汚いあれこれを【浄火】による青白い炎で焼却すると最初からなにもなかったかのように消滅した。匂いも消えるし、なかなか便利だ。

 しかし、痛みどころか死への恐怖さえ耐性があるんじゃ困ったものだ。

 本当に口を割らないなら捕まえても意味がないからね。まいっちゃうよ。


「次はお前だ。もう質問すらしないけど、話してくれないかな?」

「……我々はぐひゅっ!」


 最後のひとりになった。


「いよいよ本命のリーダーだ。さすがに話してくれないと俺も手ぶらじゃ帰れないからね。ちょっと厳しめでやるけど……どうかな?」

「……貴様は、本当は我々に何も話して欲しくないのだろう」


 なに言ってんだこいつ。


「貴様が望んでいるのは情報ではなく殺戮だ。ただ我々を殺したがっている」

「まあお前らを殺したいってのは事実だけど……あれ、なんでだっけ?」


 なんで殺したいのかはわからないな。怒りなのか、あるいは恐怖か。

 ……違う。もっと心の奥深く、底から滲み出るドロドロとしたなにかだ。

 ミリアちゃんと話していた時も似たような感覚に囚われた記憶がある。あの時は何事もなかったのに、今は殺意が溢れて心が蝕まれるような錯覚に陥る。

 ついさっきもそうだ。ドス黒い負の感情に支配されていた。

 ああ、そうか。今ならわかるぞ。この感情の正体は……。


「貴様は、我々が憎いのだろう」

「……そうだ。その通りだよ。俺はお前らが憎いんだった。ふふ、どうして気付かなかったんだろうな」


 以前はインテリジェンス・アイテムだったからで、肉体を得たから?

 なんだっていい。この憎悪が消えることはないのだから。

 俺はミリアちゃんの笑顔を曇らせる者を許さない。幸せな日常を汚す者を許さない。輝ける未来を奪わんとする者を許さない。その存在を許さない。


「お前も、例え死んでも話すつもりはないんだよな?」

「……当然だ」

「良かった。じゃあ、この感情を教えてくれた礼だ。受け取ってくれ」


 そして誰もいなくなった……わけじゃないか。俺がいるからね。

 嬉しいことに、じゃない、残念なことに誰ひとりとして情報を吐く者はおらず、尋問の果てに自ら命を絶ってしまった。そういうことにしておこう。

 でも、まだ終わりじゃない。

 この憎しみの根源、ミリアちゃんの敵は確実に殺す。

 そうだとも。誰にも邪魔はさせない。

 彼女の幸せを阻む者は、みんな消してしまえ。



 【称号、魔王の卵を取得しました。】

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