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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第2章「絶対もふもふ戦線」
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またですか

 早朝、まだ太陽が半分も姿を見せていない頃合いのことだ。

 イヤな感覚に襲われた俺は瞬時に【人化】を使用する。

 例の苦痛は最初の一回だけだったらしく、今回はすんなりとミラちゃんの肉体へと変化できた。毎回あれだったら、さすがに使用を控えるつもりだったよ。

 さて、この感覚は【察知】によるものだろうけど……また来たのか。

 前回の襲撃からほんの二日しか経っていないというのに、しつこい連中だ。そんなにもミリアちゃんを亡き者にしたいというのか。

 苛立ちをどうにか抑えると窓から外の景色を眺め、意識を集中させて正確な位置を探ってみる。

 まだ正確な目的は不明だが、そいつらは森の中を二つのグループに別れて行動しているようで少し距離があった。それに数も前回より減っているみたいだが決して少なくはない。およそ50人といったところか。


 ふと見下ろせば騎士たちが屋敷の前を慌ただしく動き回っており、その中にはナミツネの姿も確認できる。ちゃんと仕事をしているようで安心した。

 ここは本職である彼らに任せてもいいんだけど、万が一ということもある。確実に敵を排除するなら手伝うべきだろう。

 今の俺ならミリアちゃん抜きでも戦うことができるからな。

 ただ、この状態の俺が戦力になるのかはハッキリ言って未知数だ。

 改めて確認するが、今の【人化】している俺はランクが2段階も下がっているのである。これは相手が元のランクと同ランクだった場合、すべてのステータスが大幅に弱体化することを意味する。

 相手があの襲撃者たち程度なら楽勝だとは思うんだけどね……。

 それを試すのにも、これはちょうど良い機会だった。仮に失敗してもミリアちゃんがいなければ危険はないし、いざとなれば撤退すればいいのだけの話だ。

 そう結論付けると、部屋を出る前にベッドの上に寝かせておいた杖を手に取る。

 うっかり返し忘れていた物だが念のためだ、もう少しだけ拝借するとしよう。




 正面玄関を開け放つと、途端に冷たい外気が内部へと流れ込み目を細める。

 疑っていたわけではないけど、冬というのは本当だったのかと感心させるほどの冷気だ。吐く息は白く染まって薄暗闇の空を舞う。

 上着が俺の本体一枚だけというのも心許なく、防寒的なスキルのひとつでも欲しくなるところである。

 特にミラちゃんは寒がりらしく、この気温は身に堪えるようだな。

 現在は俺の体でもあるので他人事ではない。寒い。

 ……早く終わらせて屋敷に戻ろう!

 そう決意すると、ひとまずナミツネに状況を確認するべく話しかけた。


「おはようございます。ナミツネ」

「む……こ、これはクロシュ殿! どうしてこのような場所に?」


 薄暗いせいか最初は俺が誰なのかわからない様子だったが、すぐに目を見開いて近寄って来る。近くには昨夜も見た気がする顔がちらほらとあった。

 それぞれが武装しており、戦闘準備を整えているけど、まだ人数が揃っていないようだ。完了するにはもう少しかかりそうである。


「侵入者がいるのでしょう? ちなみに数は50人程ですね。恐らくは先日の襲撃者たちの仲間だと思われます」

「なんと、すでにそこまで把握されているとは……」


 どうやら見張りの者たちが侵入者を発見したものの見失ってしまい、正確な数までは把握していなかったようだ。その割には随分と物々しい感じで準備をしているようだが……襲撃があったばかりだから当然か。


「私も手を貸しましょう。先行して奇襲を仕掛けますので後詰めを頼みます。半分は残って屋敷の警護を、残りは討ち漏らした敵を追撃してください」


 手早く指示を出して向かおうとするとナミツネに引き止められた。


「ちょ、ちょっとお待ちを! 協力はありがたいのですが、実は何台か耀気動車(ようきどうしゃ)がこちらへ向かって来ていましてな」


 ようき……ああ、馬車と勘違いしていたあれか。


「こんな朝早くにですか?」

「それが先日のごたごたで確認が遅れていたようなんですが、第二門から第三門および第四門の使者がお越しになると連絡があったそうで」


 それが今日だったのか?

 いや、このタイミングはあまりにも出来過ぎている。なにか意図でもあるんじゃないだろうか。例えば襲撃と同時に訪れることで混乱させ、どさくさに紛れてなにかしらの工作を行うとか。

 支門のおっさん三人は黒幕として有力候補だからあり得ない話ではない。

 ナミツネも似たような意見だったが、どちらにせよ表向きは使者がこちらに来るというだけで確たる証拠はなかった。


「もし本当に偶然だとしたら、このままでは侵入者と遭遇しかねませんね」

「そうなった場合、敵の目的にもよりますが、お嬢様を乗せていると勘違いして襲撃する可能性が高いですな」

「わかりました。では、まずはその……車と合流してみますね」

「よろしくお頼みします。私たちも準備が出来次第、向かいますので」


 話を終えると、俺は全速力で駆け出した。

 あの車は森の中を走れないから、道順に行けばすぐに見つけられるだろう。

 面倒だが屋敷まで護衛してやる必要がありそうだな。

 幸い俺は護るほうが得意だし、そのためにも少し急ぐとしよう。




 「このままでは……」


 苦々しげに呟いたアミステーゼ・レプリ・クス・エルドハートは震える手を押さえながらも、決して諦めようとはせずに突破口を探し続けていた。

 切り揃えられた前髪を撫で付け、澄んだ青色の瞳を必死に動かす。

 周囲は仮面を付けた謎の武装集団に取り囲まれており、護衛の騎士たちは毒による影響なのか動きが悪く、徐々に押され始めていた。

 素顔を隠し、巧みに毒を扱い、さらに精鋭の護衛騎士に匹敵する技量の者たちとなれば、敵は噂に聞くプロの暗殺集団ではないかと予想が付く。

 だからと言って弱点を知るわけでもなく、むしろ熟練の暗殺者となれば自らの命を犠牲にしても標的を葬ると知っているからこそ、絶望感は強くなる一方だった。

 どうしてこうなったのかと、無意識のうちに記憶を振り返ってしまうほどに。


 エルドハート家の第二門、その令嬢である彼女がこの場にいることは公にされておらず、お忍びという形でやって来ていた。

 にも関わらず、こうして何者かの襲撃を受けているのはなぜか?

 聡明な彼女はすぐに原因へと思い至る。

 元々アミステーゼがこの場所、すなわち主門のミーヤリアが滞在する屋敷へと訪れたのは父であるジェノトリアからの話が発端だった。


 曰く、今回の騒動は裏に大きな陰謀が隠されている。

 曰く、敵は正体不明の組織であり、迂闊に動くのは危険である。

 曰く、ミーヤリアが仮当主と任命されたことで命を狙われる可能性が高い。


 ジェノトリアは娘に詳細こそ話さなかったが、それに対してアミステーゼは不満も漏らさず、ただミーヤリアを救うにはどうすれば良いのかと問う。

 鍵となるのは魔導布であり、かの伝説を味方に引き込めば状況を打破できる。

 そのためにアミステーゼが直接、説得に向かうのが最善であると教えられ、迷うことなく彼女は出立の準備を始めた。

 より細かい事情を付け加えるならば、第二門の当主であるジェノトリアが自ら動くには目立ち過ぎること、昔からの友人である娘のほうが警戒心を抱かせないと配慮したこと、精鋭の騎士を護衛に付ければ場所が主門の領内ということも相まって安全面でも不安はないことから決断したのだが。

 そこに誤算があったとすれば敵の行動が非常に迅速で、形振り構わないことか。

 一日でも急ごうと前日は最寄りの街に宿泊し、早朝から耀気動車を走らせたのも災いしていた。


 恐らく、敵の本当の狙いはミーヤリアなのでしょうね。

 私たちを攻撃しているのは単なる間違いか、別の目的があるのか……。


 命を狙われている年下の友人、未だ幼いミーヤリアの下へ向かうと決めた時、アミステーゼはこのような状況に陥ることも覚悟はしていたつもりだ。

 だが彼女もまた、幼い少女であった。

 どれだけ剣の修練を繰り返していても実戦のひとつも経験がない少女にとって、この突発的に始まった本物の命のやり取りは心に重く圧し掛かり、冷静でいられる精神をすり減らしていた。

 それでも気丈に振舞えているのは、一重に自身の後ろには護るべき存在がいると理解しているからだろう。


 そうだ、あの二人は!?


 つい戦況に気を取られすぎてしまったが、先ほどまでは後方の車両で震えながら息を潜めているであろう友人たちを思い、どうにか二人だけでも逃がせないかと思案していたはずなのだ。

 だと言うのに肝心の二人への注意を疎かにしてしまった。

 自分の迂闊さ、不甲斐なさを呪いながらアミステーゼは急いで後方を確認するべく、小さな覗き窓に顔を近付けた。

 するとそこには……。


「とりゃー! かかってらっしゃーい!」


 果敢にも車の屋根の上に立ち上がり、左右で結わえた金色の髪をなびかせ、両手を天へ向けて振り回す少女……第三門の令嬢たるソフィーリア・レプリ・ケス・エルドハートの姿があった。




 ソフィーリアは襲撃を受けていると護衛から報告を受けると、自分はどうするべきか悩んだ。およそ3秒ほど。

 父親より日頃から、もう少しよく考えてから行動しなさい、とアゴの肉を揺らしながら言われていたので彼女にしては長く考えたのである。

 その結果、考えるまでもないわね、と少女は不敵に笑う。

 まずは準備を始めた。戦う術は持っているものの、自身のそれには準備が必要だからだ。幸いにも護衛たちが時間を稼いでいるので落ち着いて行動できた。

 すべてが整った頃、外を窺うとどうやら雲行きが怪しい。


 やはり(わたくし)が出なければならないようね!


 などと謎の自信に充ち溢れたソフィーリアは護衛の騎士たちが止める間もなく、車をするりと抜け出すと屋根の上に立つ。

 そして仮面の集団に向かって言い放った。


「とりゃー! かかってらっしゃーい!」


 これは単なる挑発ではない。

 劣勢に立たされている護衛騎士たちから、自身へと敵の注意を引き付けるための陽動であると共に、彼女のスキル【思い込み】による士気高揚術だ。

 一時的に自身の精神力を向上させ、ステータスを強化する効果がある。

 襲い来る仮面集団の視線が向けられたのを感じると、ソフィーリアは右腕を大きく振り回す。その様はまさに縦横無尽。

 彼女の人差し指には指甲のように鋭く、鈍色をした指輪が嵌められていた。

 指輪は宙をなぞる度に光の線が走り、やがて光の軌跡が三つの陣を描き出す。

 それこそソフィーリアが所有する攻撃用のスキル【刻印術】である。


「行きますわよー!」


 最後の一画が埋まり、完成した陣のひとつ、その中央から真っ赤な炎が迸る。

 火柱の如く立ち上る炎は収まることを知らないかのように勢いを増し続け、空に留まる紅蓮の塊は徐々に様相を変えて行く。

 姿を現したのは、まさに燃え盛る怪鳥であった。


「さ、さあ、謝るならイマのうちでしてよ!」


 凄まじい熱量を内包する怪鳥が羽ばたくと、味方である騎士たちですら怯むほどの熱波が周囲を包み込む。

 これには対峙する者たちもたじろぎ、だからといって背を向ければ即座に飛び込まれて灰も残さずに焼かれる、そんな光景を幻視して進退きわまっていた。

 半ばこう着状態にもつれ込んだ戦場だが……。


 ど、どうして降参しないんですの!?


 ソフィーリアの脳内では圧倒的な術を披露することで戦意を挫き、投降した敵を騎士たちが捕える作戦だったのだ。

 だが実際のところ、敵対している仮面集団は目的遂行のためなら命すら惜しまないプロの暗殺者であった。怖れるのは無意味に果てることだけであり、故に迂闊な動きを見せないでいるのだ。

 さらには味方の騎士たちも事前に作戦を聞かされていないため、炎の怪鳥のせいで加勢するのをためらっていた。下手に手を出せば巻き込まれる……と。

 途中までは上手く運んでいた作戦も、ここに至って浅はかさが露見してしまったのは、彼女の年齢を考えれば仕方のないことであった。

 そして……。


「も、もう……むりぃ、ですわ……っ!」


 元より、ソフィーリアはこれほどの大魔術を行使するほどの能力など持ち合わせていなかった。すべては三つの制約によって成せていたのである。

 制約とは指に嵌めたアーティファクト『刻む魔女の指甲』で【刻印術】を補助させること、スキル【思い込み】によるブーストで魔力の底上げをすること……そして最後のひとつが、術式工程数の削減である。

 つまり彼女が生み出した炎の怪鳥は、指輪のアーティファクトを装備していることが前提であり、なおかつスキル効果中のみ術を維持でき、さらに魔法陣が略式のため炎で怪鳥を象るくらいが精一杯であって、攻撃が一切できないのだ。

 もっと小規模な術であれば応用も可能だったのだが、これが最善と一度信じたら疑わずに突っ走るのが【思い込み】の副作用であり、彼女自身の性格でもある。

 ともあれ、ただの大道芸でしかない炎の怪鳥もすでに形を維持することが困難となり、徐々に崩壊を始めている。

 単なる魔力切れなので暴発の危険性はなかったが、それは同時にこう着状態の解消を意味していた。

 しかし状況は以前より悪い。

 すでに注目されているソフィーリアを敵が放置するはずがない。


「あ……」


 どこからか飛来する矢を少女の瞳が捉えた。

 まっすぐに自分の胸へと目掛けて向かうソレは、彼女の身体能力では避けることも叶わず、遮蔽物のない車上では防ぐ手立てもなく、ただただ、ゆっくりと突き刺さる瞬間を見ていることしかできずに……。


「間一髪でしたね」


 襲い来るであろう痛みを予想して反射的に体が竦んだが、ソフィーリアの身を包むのは優しくも力強い、あと柔らかい感触だった。

 聞き覚えのない声に困惑するも、何者かに抱き抱えられているのだと気付いて抜け出そうと試みるが、しかしがっちりとホールドされていて逃げられない。


「危ないので、もう少しこのままでいてください」


 再び頭上から聞こえる声はどこまでも慈愛に満ちている気がして、どうしてだかソフィーリアは言う通りに大人しくなり、そして何者かの顔を見た。


「……っ!?」


 夜を凝縮したかのように艶やかな長い黒髪に、黒き宝玉を思わせる二つの瞳は強い意志の輝きを宿し、伝説に語られる聖女を思わせる整った顔立ち。

 思わず声を発しかけるも、上手く言葉にならない。

 ただパクパクと魚のように小さな口を開閉させていると、その麗しい何者かは苦笑しながらもそっと唇に指を当てて止める。


「すぐに終わらせますので」

「は、はぃ……」


 無意識にこくこくと頷いてしまうソフィーリアだが、そこで状況を思い出す。

 先ほどの矢から守ってくれたのは、この麗しい方なのだろうと理解した。だがすぐに終わらせるとはどのような意味なのだろうか。

 その答えも、すぐに理解することになる。


 突如として現れた第三者であろうと暗殺者は容赦しない。

 特に、それが標的を庇う者であればなおさらだった。

 どのようにして矢を防いだのかは見切れなかったが、少女を守りながら一度に複数の矢を受ければ誰だろうとひとたまりもない。そう判断した木陰に潜む弓使いたちは互いに合図を出し合い、一斉に矢を放った。

 およそ十を超える矢は、それぞれ矢尻に特別な毒が塗布されており、かすっただけでも致命傷となる凶悪な代物だ。

 射手は命中を確信して仮面の下でほくそ笑み、毒を知る騎士たちも絶望に顔を歪ませ、なにも知らないソフィーリアですらも矢の数に目を覆い隠してしまいそうになった……その瞬間。

 白い帯のような物が高速で飛び交い、すべての矢を払い除けた。


「ほぇ?」


 静寂の中でソフィーリアの間が抜けた声がよく響いた。

 それは目撃した者すべての心を代表する言葉だっただろう。

 だが、これで終わりではなかった。


「今度はこちらの番ですね」


 しゅるしゅると白い帯から杖と思われる物体を受け取ると、水平に構えて先端を敵のひとりへと向けた。

 すると杖の表面がぼんやりと光を発し――。


 パァンッ!


 渇いた破裂音が鳴り響き、気付いた時には敵が地面へと伏していた。

 ソフィーリアはなにが起きたのかを理解するよりも先に、杖は新たな目標を定めるとさらに破裂音が連続して響き、連動しているかのように敵が倒れる。

 三人、四人、五人、六人……。

 数えるのもバカらしくなってしまうほどに速く、そして酷く簡潔だった。


 ここまで来ると、あの杖がなんらかの魔術を放っているのだと敵も勘付いた。音がする前にチカッと一瞬だけ光が見えたのがそれだろうと予想する。

 ならば、同時に複数の相手を狙うことはできないはずだ。

 そう判断してしまった仮面集団は得意とする連携により、同時に攻撃を仕掛けるべく動き出そうとした。

 結果を言えば、その前に十人ほどが同時に倒されたのだが、それを見てソフィーリアもようやく理解できた。

 今までよりも一際強い魔力によって放たれたことで、杖から飛び出た光が途中で幾条にも分かれて、敵を貫く光景を彼女の目でも捉えることができたのである。

 そしてそれは、一度や二度でも終わることはなかった。


 一方的な攻撃ならぬ蹂躙により、いよいよ残りも片手で数えられるほどに減少してしまった仮面の暗殺者たち。

 ここで撤退を決断したのか、倒れた仲間を置き去りにして森の奥へと疾走する。

 残されたのはピクリとも動かない敵と、毒によって今も苦しむ味方である。

 守られていた安心感から冷静さを取り戻せたソフィーリアは、すぐに救援を呼ばなければと騎士のひとりに指示を出そうとし、それよりも先に麗しの君が動きだしたので思わず後を追ってしまう。

 あれほどの力を見せた彼女が今度はなにをするのか気になったのもあるが、もしかしたら毒をどうにかできるのではという希望もあったのだ。


「あ、あの、騎士たちは毒を……」


 とにかく状況を説明しようとソフィーリアは考えたのだが。


「大丈夫です。任せてください」


 そう言って手をかざすだけで、なにをしているのかはソフィーリアにはわからなかった。

 やがて他の負傷した騎士たちも見て回り、満足気に頷くと。


「私は逃げた者の後を追いかけますが、皆さんはここで待っていてください。すぐに応援の者が来ますので」


 そう言って颯爽と駆け出し、すぐに後ろ姿すら見えなくなった。

 騎士たちの傷が癒えて、毒の影響がなくなったのを確認できたのは、その直後のことである。

 もちろんソフィーリアは、あの人が助けてくれたのだと理解していた。

 ただひとつだけ、理解できないことがあった。


「この胸の高鳴りは、いったいなんですの……?」

「ちょっとソフィー! 貴女はいったいなにをしているんですか!」


 あの顔を、声を思い出すだけで頬が熱くなるような気さえしていた。

 誰かの大声も耳に入らず、頭の中は先ほどの謎の人物のことで一杯である。


「そういえば、お名前を聞き忘れてしまいましたわ……」

「ちゃんと聞きなさーい!」


 主門の護衛騎士たちが駆け付ける数分後まで、そんなやり取りが続けられるのであった。

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