不躾ですね
「……お願い、します。力を貸してください」
〈はい。私にお任せですよ〉
その返事と共に、俺は【変形】を駆使してミーヤリアちゃんへと巻き付くような形で近付くと、その勢いのまま【合体】した。
ちょっと弱みにつけ込むようで心苦しさはあったけど、本当に時間がないから急がなければならないのだ。多少の強引さは見逃して貰いたいね。
途中から説得するのに熱が入り過ぎて、俺もなにを言っているのかよくわからなくなっていたけど結果オーライだろう。
ともあれ一応の合意を得られたので早速【合体】を使ったわけだが……。
ミーヤリアちゃんが妙な武器を使っていた間、俺はヒマだったから【透視】を駆使して外の状況を把握していた。
周囲は木々がまばらに生えている林で、道は一本だけ。後ろは空いているけど、前は大木が倒されていて人はともかく車では通れなさそうだ。
この場に残っていた20人の護衛たちは、ついに半数が戦闘不能となり、残りは10人にまで減っていた。
ちなみに護衛たちの装備は軽装であり、武器も剣だけである。
対して敵勢力である仮面の集団は散らばっていて確認し辛いが、まだ20人以上はいるようだ。さっき突撃した護衛らが追う敵を含めると100人を超えるか?
さらに、奴らの武器には毒が塗られているようで、こちらは僅かな傷を受けただけでも致命傷となる。
もはや雌雄は決したという有様であった。
だが、俺は味方をひとりとして死なせない。死ぬことを許さないつもりだ。
死者が出れば、きっとミーヤリアちゃんが悲しむからな。
心も護ると宣言しちゃったし、またウソつきだなんて言われたくもない。
まず優先すべきは目の前にいる負傷者の手当てだ!
……本当に治せるのか試したいという思惑もあるけど、そこはナイショだ。
「カノン、その人が動かないよう抑えていてください」
ミーヤリアちゃんの口から発せられた言葉に、それまで黙って成り行きを見守っており、【合体】した辺りから呆然と見ていたカノンはパチパチと瞬きをする。
「お、お嬢様……? そのお姿はいったい……」
「話は後ですカノン。負傷者の治療をします」
はあ、などと気の抜けたことを言いつつ首を傾げられた。
まったく意図が伝わっていないようなので勝手に進めるとしよう。
護衛を蝕んでいる毒は【鑑定】によると以下のような結果が出た。
【デッドリーポイズン】(Cランク)
徐々に体力を削り、死に至らしめる猛毒。人間に対してのみ有効。
自然界に存在しない特殊毒であり、魔法薬か魔術、スキルによって解毒可能。
やばい毒もあったものだ。
ちょっと説明が詳しくなっているのは、もしかして【解析】の効果かな?
あれはアイテムにしか効果がないはずだが、毒もアイテムという括りということなのか。まあその辺は追々で、今は治療を急ごう。
早速、手の平を上に向けて伸ばして【癒水】を使用すると、中心辺りから濃い緑色をした水が湧き出た。
なんか洗ってないプールの水みたいだけど、これ傷口に塗るのかな?
邪魔な矢を無理やり引っこ抜くと、悲鳴があがったのを無視してすぐに水をぶっかけてやる。直接手で触るのはイヤだから上から垂らすだけだ。
すると、あっという間に傷口は塞がり流血は収まった。ステータスを確認すると毒も除去できていたので、どうやら使い方は正しかったようだ。ぶっつけ本番で緊張したけど上手くいってよかった。
本当はミーヤリアちゃんのために取得したスキルだったんだけど、結果的に彼女のためになっているし事前に取得しておいて正解だったな。この調子で外の護衛らも治してやろう。
おっと、その前に【防護結界・円形】を周囲に展開しておく。
【透視】で確認すると、護衛らは近くに集まっていたので上手くグルリと囲むようにドーム状の結界が張られていた。敵も味方もいきなり現れた半透明の壁に動揺して右往左往しているけど構わないだろう。
これでしばらく持つはずだ。
「すごい……本当に傷が治って、それに顔色も……」
信じれらないといった様子でカノンは護衛と俺に交互に見ていた。
「あの、もしかしてクロシュ様ですか?」
「そうです、カノン。詳しくは後ほど話しますが、次は外をどうにかしますので」
「お嬢様は大丈夫なのでしょうか?」
いきなり姿も変わって、別人みたいになれば心配にもなるよね。
「今は眠っているだけです。すべて終われば元通りになりますよ」
「あ、いえ、そうではなく、もしお嬢様の体にお怪我などされたら……」
おっと、そういう意味か。
「むしろ戦闘に関してのほうが得意なので、安心してください」
「そうなのですか……」
「しかし、私がミーヤリアの体を乗っ取ったとは考えなかったのですか?」
「実は聖女ミラの伝説が好きでして、何度も読んだことがあります。その中で様々な魔法を操ったとありました。ずっとお伽噺だと思っていましたけど、すべて真実だと分かりましたので、心配はしていません。このことを知れば、お嬢様も喜ばれると思いますよ!」
「それは、どういうことでしょう?」
「お嬢様も本当は【魔導布】の……クロシュ様のファンなんですよ。あ、これ私が言ったのはナイショですよ」
その割にはずいぶんな扱いだったけど……ウソついたせいか?
というか、のんびり話している場合じゃない。
「少し話しすぎましたね。私はそろそろ行きますので」
「あ、引き止めてしまってすみません!」
「カノンはそのまま、ここで待っていてください」
【結界】で敵の攻撃を防いでいるといっても、すでに受けた傷はそのままだし毒の件もある。最初に矢を受けた護衛もそろそろ危ない。
急いで扉を開けると、そこには結界の性質を理解したのか内側から剣を突き出す護衛らと、逆に阻まれ攻めあぐねている仮面集団がいた。たまに矢が飛んで来るけど同様に弾かれている。
結界が攻撃を受ける度に俺のMPが削られるのだが……。
【ミーヤリア・クロシュ】
MP:8840/9090
ぜんぜん、よゆーですな。
そういえば【合体】するとステータスが3倍になるんだった。
MP切れを起こす心配はないだろうが、だからといって慢心はしない。してはいけない。その心の隙が、かつてミラちゃんを窮地に陥らせてしまったのだから。
「ミーヤリアお嬢様!? ここは危険です! 中にお戻りください!」
護衛たちは戦場に現れたミーヤリアちゃんの姿に驚きを隠せないようだ。
このまま無視してもいいのだが、そうすると余計に混乱を招きそうだからな。
「敵は私の結界によりなにもできません。今のうちに怪我人を治療します」
「え、いやしかし……っ! お嬢様、その格好は!?」
その反応は【合体】によって容姿が変化しているからか。
一から説明すると面倒だな。てきとうに言っておけば勝手に納得するだろう。
「これは【魔導布】の力によるものです」
「おお、それが伝説に謳われた!」
「本当にお嬢様が受け継いだのか……」
結界のおかげで敵の攻撃は完全に防がれているせいか、護衛たちは敵を背にして俺……というかミーヤリアちゃんに意識を集中させる。
まだ戦闘中なんだけど、まあちょうどいいか。
「もう一度言います。敵の攻撃は見ての通り私が防いでいますので怪我人を治療させてください。早くしなければ毒で命を落としますよ」
毒という単語にざわつき、一斉に動き出して戦闘不能になった者たちのところまで案内される。
そこはミーヤリアちゃんたちが乗っていた車の後部に、ぴったりと幅を寄せた大型の車だった。元々は護衛らが乗って来たものだが、戦えなくなった者は邪魔にならないよう、そして敵にトドメを刺されぬように押し込まれていたのだ。
急いで最も状態の悪い者から順に【癒水】を使って治療していく。
鍛えられているだけあってHPは高く、どうにか間にあったようだ。
ただ、すぐには動けないらしい。というのも、どうやら【癒水】では傷や毒を回復できても、減ったHPまでは回復できないのだと判明したのだ。
その辺は他のスキルじゃないとダメなのかな?
思えばHPを回復するスキルは【HP譲渡】しかない気がする。なにか対策を考えておかないとな……。
などと悩んでいたら、護衛たちの視線が妙に熱く感じた。
いったいなんだ?
「傷が塞がってる……顔色も良くなっているぞっ!」
「おお、奇跡だ……まさに聖女の再来だ……」
「あのお嬢様が、こんなに立派になられて……っ!」
「お館様が戻られたら、さぞ喜ばれるぞっ!」
中には感激のあまり涙を流す者まで現れる始末だった。
本当になんなんだ、いったい。
「みなさん、戦闘はまだ終わっていませんよ」
「そ、そうでしたな! お前ら、立派になられたお嬢様を絶対にお館様にお見せするんだ! こんな奴らに邪魔はさせんぞっ!!」
「おおッ!!」
やる気なのはいいけど、またケガしても治さないぞ。
今度は俺のターンだからな。
元気が有り余る護衛らは放っておいて、俺は元の車へと引き返した。
「あれ、まだクロシュ様ですよね? どうかしましたか?」
「ちょっと忘れ物を取りに来ました」
そう言って座席に放置されていた銃を手にする。
うん、どこから見ても完全に銃だよな。これ。
なんて言ったか……ライフル? ショットガン? 長銃?
銃の知識なんてないから呼び方は曖昧だけど、細長いそれは見覚えのある形だ。
ちなみに【鑑定】してみると。
【螺旋刻印杖】(Cランク)
使用者の魔力を溜めて発射する魔道具。
込める魔力によって威力が変化する。最低必要MP10。
これでも杖というカテゴリらしい。
なんにせよ、こいつをミーヤリアちゃんが撃っているのを見ていたが、なかなか効率が良さそうだったので使いたかったんだ。
それと、いくつかの言葉で起動するみたいだが少し試したいことがあった。
まず【魔力放出】からの【魔力操作】で銃に魔力を込める。
さっきのミーヤリアちゃんはMP15くらい詰めていたので、俺は最低限必要であるMP10だけにしておこう。
あっさり魔力は銃に充填され、表面に彫られた紋様が発光し出した。
上手くできたみたいだな。
で、たしか内部の魔力を回転させながら圧縮する感じだったかな?
前にもやったことがあるからコツは掴んでいるぞ。
ぐーるぐーる。
「く、クロシュ様……杖が勝手に動いてっ!?」
「いえ、これは私がやっているので安心してください」
傍からではそう見えるのか。
これ以上カノンを怯えさせるのは忍びないので、さっさと外へ出ることにする。
そして、いよいよ試し撃ちだ。
仮面集団は未だに諦めず結界に攻撃しているし、護衛らも相変わらず剣で突っついている。遊んでいるの?
誰もこちらに注意を向けていないので好都合ではある。
だ、れ、に、し、よ、う、か、な。
「決めた」
さっきから矢をぴゅんぴゅん飛ばしてる奴がウザいので、そちらへ向けて狙いを定める。殺しはしないが、それなりに痛い目に遭って貰おう。
引き金……は存在しないので、そのまま先端から飛び出るようなイメージで操作すると、破裂音と共に黒色の魔力弾が発射された。
「あ、やば……っ!」
想像以上に勢いが強かった。このままだと即死級の破壊力で爆発四散、哀れにも血の雨が降るぞ。
咄嗟に【魔力操作】で減速しようと試みたところ、思い描いた通りの軌跡を残して魔力弾は敵の太股を貫き、悲鳴があがった。
あれでは死にはしないだろうけど、まともに身動きできないはずだ。
とりあえずは成功か?
しかし今の感じ……ちょっとアレンジできそうだな。
てっきり弾というのは、ただ真っ直ぐに飛ぶだけのものだと決め付けていたが、実際には俺自身が放つ魔力の塊なのだ。ということは【魔力操作】で軌道を操れるのは道理である。
そこまで理解したところで、俺は杖に込める魔力を大幅に増やす。
とりあえずMP100くらいかな。
暴発されても困るので、これ以上は控えておこう。
さっきと同様に回転から圧力を加えて……。
今度のイメージは発射するだけではなく、その後まで想像する。
点を線に、直線を曲線に、単一を複数に。
銃からはこれまでにない異音を周囲に響かせている。限界まで圧縮された高魔力の負荷による悲鳴か、あるいは主の敵を討ち滅ぼさんと渇望する咆哮か。
狙う必要はない。上空へ向けたら後はもう、ただ撃つのみ!
轟音、と同時に閃光が山林を包み込んだ。
護衛たちと仮面集団はあまりの衝撃に堪え切れず大地へとうずくまり、嵐が過ぎ去るのを待つかのようだった。収まればすぐに戦闘を再開するだろう。
だが、すでに勝敗は決している。
無造作に放たれた魔力の奔流は途中で枝分かれして飛び散り、それぞれが意思を持つかの如く敵だけを選別し、その手足を貫いたのだ。
「ぎッ、あああァァァ!」
「足がぁッ! 俺のぉ足ぃぃぃ!!」
「ひぃぃぃぃぃ! 来るなっ、くるうああああッ!!」
「なんなんだ、これは!? どうして俺たちだけうごあぁっ!!」
もちろん俺が操作しているからである。
実態を知らぬ者からすれば、ドス黒い光の帯が人を襲っているように見えたはずだ。現に護衛らは突如として繰り広げられた惨状を目にして完全に怯えている。
「こ、これは……これも、お嬢様がやったのか?」
「美しい……これが、魔導布の魔法か……!」
「いったい、なにがどうなってるんだよぉ」
半ば放心状態にあるみたいだが、自分たちに被害がないことから落ち着いて事態を眺めていた。
説明するにも、操作に集中しなきゃならないので難しい。
前線に出ていたのは不意打ちであらかた倒したが、少し距離があった奴らは分が悪いと判断してか、逃げに徹し始めたのだ。
しかし、そんな無防備な後ろ姿を晒していいものかな?
遠くから続々と響き渡る悲鳴が途絶えるのに、そう時間はかからなかった。
完全に【察知】による反応がなくなったのを確認してから、護衛らに指示を出して倒れている襲撃者たちを一か所に集めさせた。
このままだと出血で死ぬからな。
縄で縛って無力化してからキズを治してやる。やたら人数が多く、思ったよりキズが深いのもあって戦闘よりも時間を取られてしまった。
もうちょっと手加減できればよかったのだが、あの銃は込める魔力が多いと制御が難しくなるようだ。覚えておこう。
それもようやく終えた頃になって、山林へと踏み込んで消えた護衛部隊が慌ただしく戻って来た。……どこでなにをやっていたんだ?
「ぜぇ……ぜぇ……この、状況は、いったい……?」
息も絶え絶えといった感じで、護衛騎士隊総長という護衛らの中で最も偉いらしい初老の男は、襲撃者たちが捕縛されている光景を目にして驚きを口にした。
残して行った護衛らはあくまで時間稼ぎであり、自分らが戻るまで戦況は覆らないと考えていたのだろう。
ところが、こうして戻ってみればとっくに戦闘は勝利に終わっており、敵味方共に死者ゼロというのだから驚くのも無理はない。
改めて彼らの装いを眺めてみると、騎士と言っても鎧は肩から腕にかけての手甲くらいで、足回りは革のブーツと足甲を組み合わせているだけのようだ。他には紺色のコートを羽織っており中央部になんらかの紋章みたいな刺繍が入れられている。その下にはチェインメイルを着込み、巻き付けた革ベルトには複数のポーチやナイフなどが括られていた。腰に剣を携え、背中には盾を背負い、そのどちらにも鎖が繋がれており装備の喪失を防ぐ役割を担っているようだ。
全体的に軽量化による機動性の確保と、最低限の見栄えを考慮した形になっていた。総長だけは赤いフサフサの飾りや勲章が目立って判別しやすい。
「おお、お嬢様! ご無事でしたかっ!!」
「総長さん、いったいどこに行っていたんですか?」
俺が言いたかったことを、いつの間にか隣に立っていたカノンが代弁する。
「申し訳ないカノン殿! 敵の罠にまんまと嵌って……」
総長の報告によると、弓矢部隊を狙って山林に入るとすぐに敵は後退しながら矢を放つという器用な戦法を取ったという。放置するわけにもいかず、誘い込まれているのだと理解しながらも追撃を判断したそうだ。
その先で盆地に辿り着くと、敵を見失ってしまったため引き返そうとしたところ足元に奇妙な模様が浮き出て、その中に囚われてしまったのだ。
「模様ですか?」
「はい、お嬢様が持つ杖に刻まれている……秘文字でしたか? それに似ておりました。こう、円になるようにグルリと描かれてましたな」
恐らく魔法陣のことだろう。
中に入った者を捕えて出さない魔法陣というと、例の悪魔を思い出すが……。
「それから、敵は襲って来たのですか?」
「我々も警戒しておりましたが、どうも足止めが目的だったようで」
弓矢だったら魔法陣の外から一方的に攻撃できるはずだし違ったかな?
できれば確認しておきたいけど、効果が切れると同時に魔法陣は消失して跡形もなくなったらしい。残念だ。
だがなくなったものは仕方ない。それにまだ情報源は生かしているのだから悲観する必要ないだろう。
そうして俺たちが戦闘を終えるまで足踏みしていた総長らは、脱出してから全速力でここまで戻って来たわけだ。ちなみに反対側へ向かった部隊も、似たような状況に陥ったらしい。すべて敵の作戦通りだったようだ。
「ともかく無事で安心しました。しかし……そのお姿はどうなされたのです?」
言いつつ総長はジロジロとミーヤリアちゃんの全身を舐め回すように眺める。
なんかイラッとしたので銃の先端で小突いておく。
「おぐッ! な、なにを?」
「不躾です」
「そうですよ総長さん。あまり見ていては失礼というものです」
そうだそうだ、もっと言ってやれカノン。
だいたい、そこまで見た目が変わったか?
疑問に思ってあちこち確認してみると……ふむ。
じっくり確認するヒマがなかったので気付かなかったが、大きく変化した点は髪の長さだった。肩にかかるくらいの長さが、現在は足の付け根にまで届く超ロングヘアーになっていたのだ。というか気付けよ俺。
指で軽く梳いてみるとサラリとした感触が手に伝わり、ふわりと甘い香りがするような気がした。素晴らしい髪質だ。
たしかミラちゃんの時はなぜか髪が変色して黒くなったけど、元々ミーヤリアちゃんは黒髪だからか色に変化はなさそうである。
それに服装も【合体】前と見た目に変化がない。白いロングコートのままだ。
あくまで見た目だけで、服の内側は皮膚と融合していたりするんだけど、以前のようにピッチリスーツにはならなかった。これが【進化】した影響だとしたら少しばかり惜しいことをしたな。
だが、気付けば他の護衛らもチラチラとこちらを盗み見ているようだ。
外見上では髪の長さしか変化がないのに、なぜこんなにも注目を集めるのか。
……いや、普通はいきなり髪が伸びたら周りは戸惑って当然だった。
俺自身が人から布になったり、他にも槍やら片眼鏡になった奴らを知っているから、髪くらいじゃ驚かなくなっていたよ。
「ではお嬢様の麗しくなられたお姿については、また後にしましょう。ひとまず屋敷へは襲撃者を移送するのに応援を要請しておりますが、お嬢様とカノン殿はお疲れでしょう。二番隊が共をしますので、どうぞ先にお戻りください」
そう言って捕縛されている集団へ鋭い視線を向けた。
大部分には逃げられたようだが、それでも俺が捕えただけで20人以上はいる。これだけの数を一斉に移動させるには、こちらも相応の数が必要なのだろう。まだ回復し切っていない護衛らには難しい。
まあ、応援が来るなら俺が手を貸す必要もないはずだ。
すでに【察知】の反応はなくなっており、どこかに潜んでいて再び襲ってくるという心配もなさそうだしな。
遠慮せず、さっさと帰らせて貰うとしよう。
あと、そろそろ【合体】を解きたいんだけど、どうもミーヤリアちゃんは眠っているらしいので、もう少しこのまま頑張ることにする。
その後、道を塞いでいた大木の撤去が終わると、俺とカノンは車へと乗り込み、護衛に伴われて屋敷へと向かったのだった。
ただひとつ、これ馬車じゃなかったの? という俺の疑問を残して。




