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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第2章「絶対もふもふ戦線」
42/209

大した推理ではありませんよ

「【魔導布】様……、【魔導布】様?」


 誰かに呼ばれていると思ったら、なんだメイドさんが俺を呼んでいただけか。

 ところでここは……ああ、そうか。

 ここは招待した貴族たちに披露するためとかで、半ば強制的に展示という名の公開処刑を受けていた大広間だ。いつの間にか俺を見物していた貴族たちも帰ったようで守衛らしき男が数人ほど残っているだけだった。

 片眼鏡が言っていた通りちゃんと帰れたようだな。

 まるで夢から覚めたばかりのようで、まだ少しぼんやりするが支障はない。

 改めて正面に立つメイドさんに意識を向ける。薄い茶髪に素朴ながらも可愛い顔立ちをしているが、記憶にはなかった。


〈なにか用でしょうか?〉

「ああ、よかった! また眠りに就かれたのかと思いましたよ……」


 たしかに傍目に見ると起きているのか、寝ているのかなんて見分けがつかないよな。もうちょっと早く返事をしてあげるべきだったか。

 ひとまず通常なら眠ることはなく、今のは考え事をしていたと誤魔化しておく。 あの場所のことは簡単に明かすべきでないだろう。


「あ、申し遅れました。ミーヤリアお嬢様のお側付きをしているカノーラン・トラッシュと言います。どうぞ気軽にカノンとお呼びください」


 お側付きって専属従者みたいなもんかな。

 かなり若く15歳くらいに見えるが、意外と彼女は重要な役を任されているようだ。こういうのってもっと熟練の人がなるもんだと思うけど、それだけ仕事ができるのだろうか。

 俺はカノンにも【魔導布】ではなくクロシュと呼ぶよう伝える。せっかくノットに付けて貰った名前だからね。


〈それでカノンは、なにか私に用があったのでは?〉

「そうでした! お嬢様が屋敷にお帰りになりますので、私がクロシュ様をお迎えにあがりました。それで、その、私が運んでもよろしいでしょうか?」

〈構いませんよ〉


 わざわざ、その程度のことで確認するのか。俺も偉くなったなぁ。

 などと感慨に耽っていたらヨイショと再び箱に入れられた。フタを閉めれば真っ暗闇にただいまだ。


 うん、別にいいんだけどね。できれば直接こう抱えたりして欲しかったね。


 楽しみはミーヤリアちゃんに装備して貰えるまで取っておくか。

 だけど、まずは話をしなければならないだろう。

 誤解があればそれを解き、俺を装備してくれるよう説得し、逆に装備することで様々な恩恵を得られるとアピールするのも忘れてはならないだろう。悪魔程度ならちょちょいのちょいだ。


 ……だが待てよ。


 冒険者でもないのに、そこまでの戦力は果たして必要なのだろうか?

 ミラちゃんのようにダンジョンへ挑む機会などなさそうだし、当然だが護衛の騎士なんかも精鋭が揃っているはず。

 もし力を必要としていないのであれば、俺の有用性など皆無になってしまうんじゃないか?

 立ち位置的にぞんざいな扱いをされるとは考えにくいが、これは戦い以外の面でも役に立つのだと証明する必要がありそうだな……。

 カノンに運ばれながら今の内にと、俺は新スキル取得を検討し始めた。




 ガタゴトという物音と振動が定期的に響くのを感じ、たぶん馬車に乗っているのだろうと箱の外を想像しながら、俺はステータスを見つめていた。

 それは新たに取得したスキルである。



 Aランク

【解析】

 アイテムの鑑定でより詳しい情報が閲覧できる。



 Bランク

【防護結界・円形】

 装備者の周囲に円形の結界を展開する。使用中はMPを消費する。


【健康】

 装備者をあらゆる病から護り、健康状態を良好に保つ。


【清浄化】

 触れた物から害となる要素を取り除く。浄化中はMPを消費する。



 Cランク

【修復】

 欠損した部分を元通りに直す。修復度は使用するMPで変化する。


【修繕】

 指定した壊れた物を直す。修復度は使用するMPで変化する。


【修正】

 誤った状態の物を正しく直す。修正度は使用するMPで変化する。


【洗浄】

 装備と装備者の汚れを払い清潔にする。清潔度は使用するMPで変化する。


【浄化】

 指定した空間内を清潔にする。浄化中はMPを消費する。


【治癒】

 装備者の傷を癒す。治癒度は使用するMPで変化する。


【治療】

 触れている者の傷を癒す。治癒度は使用するMPで変化する。


【解毒】

 触れた生物から害となる要素を取り除く。使用中はMPを消費する。


【医療】

 指定した人物の健康状態を把握し、最善に導く。使用中はMPを消費する。


【自動治癒】

 自動的に装備者の傷を癒す。治癒速度は遅い。


【迷彩】

 周囲の風景に溶け込む。使用中はMPを消費する。


【変装】

 装備者の見た目を変えられる。発動時にMPを消費する。



 こうして見ると回復系に偏っているが仕方ない。日常生活に役立ちそうなスキル、ということでまとめて取得した結果だ。

 ついでに選んだ【防護結界・円形】はより広範囲を守れるし、【解析】というのはまだ試していないが損はしないだろう。

 ちなみに【変装】はミーヤリアちゃんがお忍びで街に遊びに出かけられるようにと俺なりの配慮である。こういった痒いところに手が届く便利アイテムこそ重宝されるのだ。

 以上から513もあったSPを94消費してSP419になった。まだまだ余っているけど、ひとまずこのくらいにしておこう。

 まあ他にも気になるスキルはあるんだけどね。

 例えば、これだ。



【擬体】(20)

 魔力により肉体を形成する。僅かでもダメージを受けると消滅してMP消費。



 たぶん人の姿になれるスキルとは、これではないかと思う。

 一種の幻術や幻影みたいだけど、見た目だけなら人間になれるようだ。

 でも、これは今の俺に必要ないので別にいいかな。残りのSPは今後のために取っておいたほうが賢明だろう。



【複合スキル、修雷を取得しました。】

【複合スキル、浄火を取得しました。】

【複合スキル、癒水を取得しました。】

【複合スキル、オートリカバーを取得しました。】



 なんだって?

 いきなりのアナウンスに軽く戸惑いながらステータスを確認すると……。



【修雷】

 道具を正常な状態へと直す電気を放つ。ランクにより効果が増減する。

 以下の三種が統合されました。

 【修復】【修繕】【修正】


【浄火】

 不浄な物だけを焼却する火を灯す。ランクにより効果が増減する。

 以下の三種が統合されました。

 【洗浄】【浄化】【清浄化】


【癒水】

 生物の傷や機能障害を癒す水を流す。ランクにより効果が増減する。

 以下の四種が統合されました。

 【治癒】【治療】【解毒】【医療】


【オートリカバー】

 自身と装備者の損傷、不潔をゆるやかに回復する。

 以下の三種が統合されました。

 【自動修復】【自動洗浄】【自動治癒】



 などという四つのスキルが追加されていた。その代わりに類似するいくつかのスキルが消滅したようだ。

 これは額面通りに受け取るなら、ひとつのスキルにまとめられた、ということだろうか。

 スキル一覧がごちゃごちゃしているよりかは見やすくなっていいかもしれないけど、元のスキルとは効果が微妙に違っているようにも思えるのだが……その辺はどうなのかな。さすがに弱体化はしていないだろうけど、この世界を運営している神様たちは、ちょっと間が抜けている気がするので心配だな。

 うーんと唸りながらステータスを眺めていると【知識の書庫】が目に留まる。


 そうか、こういう時こそ【知識の書庫】で聞けばいいのか。

 

 どうにも俺は自分のスキルを把握し切れていない感じがする。きっとスキルの数が一気に増えたせいだろうが、咄嗟の時に最適な判断ができないようでは、どれだけ強力なスキルがあろうと宝の持ち腐れだ。

 やはり『神話領域』による擬似的な高速思考を失ったのは痛いか。

 それに幼女神様とお話できないのは、やはり寂しい。


 ……っと、泣き言を言ってもしょうがない。

 いつか会える日まで、今は俺ひとりでも頑張るんだ。じゃないといつか再会した幼女神様にぷーくすくすーとか笑われてしまいそうだからな。割とマジで。

 決意を新たにした俺は【知識の書庫】を起動する。



【複合スキル:3種類以上のスキルを統合したスキル。元となったスキルの効果をそのままに、より応用が効くように進化したスキル。】



 あっさり【知識の書庫】によって疑問が解決した。

 通常通りに使えるなら問題はないか。応用ってのがイマイチわからないけど、いずれ使う機会もあるだろう。

 続けて、前から気になってたランクについて調べてみる。



【ランク:生物のクラスとアイテム、スキルに割り当てられた等位。ランク差により能力値に補正がかかる。相反するスキルはランク差により成否が決まる。】


【例1:攻撃力『C』のランク☆(ブロンズ)と、ランク☆☆(アイアン)の場合、ランク☆☆(アイアン)の攻撃力は『B』相当となる】


【例2:攻撃力『C』のランク☆(ブロンズ)と、ランク☆☆☆(シルバー)の場合、ランク☆☆☆(シルバー)の攻撃力は『A』相当となる】


【例3:ランクCの【異常耐性】は、ランクB以上の【異常付与】により貫通される。同ランクの場合、各種能力値に依存する。】


【ランク一覧

 ☆     (ブロンズ)

 ☆☆    (アイアン)

 ☆☆☆   (シルバー)

 ☆☆☆☆  (ゴールド)

 ☆☆☆☆☆ (ミスリル)

 ☆☆☆☆☆☆(オリハルコン)】


【スキルランク:取得者のレベルや称号などによりランクが変動する。】



 ……まあ、なんとなく、わかった、気がする。たぶん。

 要するに同じ能力値Aでも、ランクが高いほうが強いんだな。うん。

 あとスキルの場合は、まったく同じスキルでも人によってランクが違うことがあるようだな。ランクが高いほうが有利な点は一緒か。

 じゃあ俺の【鑑定】はAランクだから、B以下の【隠蔽】では対抗できないってわけだ。

 それがわかっただけでも、大きな収穫である。


 それにしても【知識の書庫】は本当に便利だな。ひょっとしたらアドバイザーなんて用意する必要なかったんじゃないか?

 ただの無駄骨だったのかと落ち込みながらも、次はこの国……帝国と、その周辺国家について調べようと試みる。

 答えは……。



【帝国:情報がありません。】



 帝国というのなら、それなりに広い国土を有していると想像できるのだが、そんな国どころか、その他の国すらも不明だという。

 あれだけ事細かに教えてくれたというのに、いったいどういうことか。

 考えられる原因として、これまで答えてくれていたのはステータスやスキルといった、この世界の根本に値する部分……言わば世界の常識だ。

 対して国というのは、人間たちが築いた文明である。

 この二つの違いからの予想だが、【知識の書庫】は文明や文化、歴史などといった記録がないんじゃないだろうか。

 だとすれば……。


 人間とインテリジェンス・アイテム、それと魔法について教えてくれ。



【人間:最も数が多い人種のひとつ。多様性に富むが突出した能力がない。】

【インテリジェンス・アイテム:意思を持つ道具の総称。転生により生み出された物と、自然発生した物がある。】

【魔法:魔力を消費して行使する神秘のひとつ。属性毎に効果が異なる。】



 やっぱりこれは答えてくれるか。じゃあ……。

 聖女ミラ、刻印術、魔導技師、それから白龍姫について教えてくれ。



【聖女ミラ:情報がありません。】

【刻印術:秘文字を用いた魔法の代替術。】

【魔導技師:魔力に別の技術を組み合わせるクラス。】

【白龍姫:情報がありません。】



 スキルやクラスとして存在する【刻印術】と【魔導技師】は大丈夫だけど、やはり人物やインテリジェンス・アイテムの名前は有名だろうと関係ないようだ。

 そうなると、ステータス関連ならこれまで通り【知識の書庫】で調べればいいけど、国や歴史といった一般常識なんかは誰かに教えて貰うしかなさそうだな。

 これはアドバイザー君が無駄にならずに済んだと喜ぶべきなのか……うわ!?


 ガタタンッ、という激しい物音と共に、衝撃が俺を襲う。

 な、なんだ今のは、箱が座席から落ちたりでもしたのか?


「わわわっ、お、お嬢様、お怪我は!?」

「……大丈夫だから、そのままにしておいて」


 この声は……カノンとミーヤリアちゃんだ。

 さっきの衝撃で僅かにフタが開いたのか、今まで聞こえなかった二人の声が箱の中にまで届いていた。


「それより、さっきの続き」

「あ、はい……えっとですね、先遣隊と追加で派遣した部隊は無事に合流し、予定通りの工程を終えて帰還したとのことです」


 いったい、なんの話をしているんだ?

 後にミーヤリアちゃんの説得が控えている俺としては、少しでも情報を集めておきたいので二人の会話に意識を集中して耳を澄ませる。

 そうだ、ついでに【透視】も使って外の様子を見てみよう。

 すぐに闇一色だった視界は切り替わると、そこには薄暗い車内で肌色のふとももが眩しく輝いていた。


 うおおっ、こ、これはミーヤリアちゃんのお御足!?


 先ほどの座席から落ちたという予想は大当たりだったようだ。

 現在、俺が収納されている箱は座席の下に位置しており、そこから見上げるようにして視線を動かせば狭い車内では自然と二人の足に集中してしまい……。


「現地に残っている部隊は?」

「半数ほどになりました……これ以上の捜索は範囲を縮小することに」

「それはダメ。追加の部隊を手配して」

「お嬢様……」


 おっとマジメに話を聞かないと……でも、でも目が離せないよぉ。

 従者であるカノンはさっきと同じメイドの姿だが、今のミーヤリアちゃんは私服に着替えたらしく、かなりラフな格好をしていた。

 上は黒色をしたノースリーブ姿により脇が丸見えになりそうで、下は灰色のショートパンツと無骨な茶色の編み上げロングブーツが絶対領域を構築している。

 全体的に暗めの配色で飾り気がないのに魅力的に映るのはなぜだろうね。

 決まっている、素材がいいからさ!

 なかなか動きやすそうな格好だけど、貴族のお嬢様が着るにはボーイッシュすぎる気もする。でも、かわいいならオッケーだよね!

 ……じゃなくって、マジメにマジメに。


「これ以上の人員追加はもう無理です。他はどこも手が足りていませんし……なによりも戦闘可能な者となると騎士はおろか、兵士の代わりに傭兵を雇わざるを得ない状況で」

「わかってる!」


 諭すように優しく話しかけていたカノンに、ミーヤリアちゃんは声を荒げた。

 しかし、すぐに冷静さを取り戻すと静かに顔を俯かせる。


「わかってるよ……でも、それでも……私だけでも、お父様とお母様が、きっと、そうすれば……みんな、元通りに……」


 弱々しく吐き出すように呟かれた言葉は支離滅裂で、まるで自分に言い聞かせているようにも感じられた。

 だけど、これで俺にも話が理解できた。

 あのおっさんどもは彼女の両親を死亡したものとして扱っていたけどミーヤリアちゃんは諦めていなかったんだ。今もなお生存を信じて捜索隊を出しているのだろう。ただ無情にも、未だ発見には至っていないようだ。

 これは弱みにつけ込むようで、あまり気は進まないけど、チャンスではある。

 行方不明の両親を見つけ出すのに協力すれば、きっと受け入れて装備してくれるだろう。


 ……違うだろ。

 そんなこと、今はどうだっていいんだ。


 ミーヤリアちゃんは悲痛な面持ちで黙り込み、カノンまでもかける言葉を失ってしまい、車内は重い雰囲気に包まれていた。

 そうだ、ミーヤリアちゃんが悲しそうな顔をしている。苦しんでいる。心が傷ついているんだよ。

 あんな顔をさせたまま黙って見ていて、なにが『護る』だ。

 幼女に似合うのは笑顔なんだよ!


〈ミーヤリア、私が協力しますので、どうか顔をあげてください〉


 突然の【念話】に二人は驚きながらも足元にある箱を見下ろす。


「まど……クロシュ様、聞かれていたのですか?」

〈盗み聞きのような形になってすみません。途中からでしたが〉

「ああ、さっきの衝撃で留め金が外れてしまったようですね」


 ならばと、カノンはフタを開いて俺を隣に座らせてくれる。座るというか置いただけだが気持ち的に座っている。ミーヤリアちゃんは向かいの座席だ。


〈改めてミーヤリア、ある程度は状況を把握しました。私にあなたの手伝いをさせてくれませんか?〉

「……お父様たちがいない間に主門の座が取られるのを防げたのは感謝してます。でも私は、あなたの力を借りるつもりはありません」


 なんか、めっちゃ敬語なんですけど。カノンとは親しげに話してたのに。


〈なぜでしょうか。単純に戦力という意味でなら、私は役に立つ自信がありますが……やはり私を信用できないからですか?〉

「そうです」


 ひょっとして会ったばかりだからか?

 そう思い聞いてみたら、それも理由のひとつではあるらしいが違うという。


〈では、いったいどうして……〉

「嘘だからです」

〈はい?〉

「嘘をついたからです」


 俺がウソを言った?

 なんだっけ……まったくウソをつかないなんて言ったら。それこそウソになるけど、ミーヤリアちゃんと会ってから少ししか話してないぞ。

 その中でのウソって……あ。


〈こ、心当たりがないのですが……〉

「また嘘ですね」

〈そこまで言うのなら、どんなウソかを教えてくれませんか?〉


 などと言ってみたが、ひとつだけ心当たりがある……しかしバレるはずがない。

 咄嗟に誤魔化した、あの時の言葉。


『この【魔導布】クロシュの眠りを覚ましたのは、誰だ……?』


 うっかり【進化】で騒動を起こした俺が、覚醒の時に自然と発する光であって誰にも責任はないかのように思わせたあれだ。

 誰もなにも追及してこないから上手くいったものだと、とっくに忘れていた。

 しかしミーヤリアちゃんのスキルにもウソを見破る類のものはないし、まさか気付くはずが……。


「選定の儀の最中に光った時より、もっと前から目覚めてましたよね?」


 バカなっ!?


〈な、なぜそう思うのですか?〉

「ずっと眠っていたはずなのに【魔導布】の称号を知っていたからです。あなたが眠りに入ったあとから当時の第二皇子より贈られた名前のはずなので、目覚めたばかりのあなたが知っているはずがないのです」

〈そ、それは……っ!〉

「つまり! あなたは選定の儀よりも前から、目覚めていたのです!」


 ズビシッ、と指を突きつけられて俺は観念する。


〈なるほど……どうやら、すべて知られてしまったようですね〉

「やはり、あなたは……」

〈ええ、そうですよ。私はあの時よりも前から、目を覚ましていたのです。そして【魔導布】と呼ばれていることを知りました〉

「だからあなたは名乗る時に分かりやすいよう、うっかりその名前を口走ってしまった……それが失敗でしたね」

〈誰にもバレていないとタカをくくっていましたが、とんだ名探偵がいたようですね。私の負けです。〉

「ふふっ……この程度、大した推理ではありませんよ」

「あのー、なんですかこれ」


 おっと、カノンからツッコミが入ったので、ここで終了です。

 ミーヤリアちゃんのノリがそんな感じがしたから、ついつい俺も乗っかってしまったが名演技、名台詞のオンパレードでしたな。主演女優賞は決まりですぞ。


「い、今のはその……」

「なんだか、お嬢様が好きな推理小説の主人公みたいでしたね」

「あぅ……」


 恥ずかしさが込み上げてきたのか、真っ赤に染まった顔を外へと向けて両手で覆い隠した。耳まで赤いのは黙っておこう。

 ともあれ雰囲気がさっきより明るくなったぞ。これで少しは笑顔が戻ってくれると嬉しいんだけど、どうだろうか。


「と、とにかく、今も嘘をついて騙そうとしたあなたを信用できません! なにが目的で協力を申し出たのかは知りませんが、屋敷に到着したらすぐに封印させて貰いますし、お父様とお母様は自分の力で探し出します!」


 むう……完全に墓穴を掘ってしまったようだ。

 しかも協力することまで裏があると誤解されてしまった。自業自得なので文句は言えないが、このままではいかんな


〈ミーヤリア、たしかに私は自分に都合がいいようにウソをつきました。でも、あなたに協力したいと言ったのは本気ですよ〉

「っ……。それも、また嘘ですね」


 一瞬だけ言い淀むと、なにか迷うように視線を泳がせた。


「お嬢様、クロシュ様はかつて聖女ミラを支えた上に、自らを犠牲に皇子を救ったことがあるんですよ? 少しは信じてもいいのでは?」


 ありがとうカノン。でも少し、なんだね。


「……やっぱり、ダメです」


 その視線は俺へと向けられていなかった。

 ここまで頑なに拒むのは、俺がウソをついたからというより、他人を信じられなくなっている部分もあるんじゃないだろうか。

 確実に味方だと判断できるカノンのような内部の者ならともかく、外部の者……俺はいきなり現れたのだから特にそうなんだろう。

 不信の原因はなんとなく想像が付くが、だとすれば言葉よりも、行動で誠意を示すしか彼女の心を動かすことはできない。

 これも下手なウソをついたせいか。ホントに自業自得だな……。


 再び重い空気になりかけた時だった。

 乗っていた馬車が突如として急停止し、ミーヤリアちゃんが反動で座席から飛ばされてしまう。


「きゃあっ!」

「お嬢様、大丈夫でしたか?」

「うん。なんとか……ありがとうカノン」


 ちょうど正面にいたカノンがミーヤリアちゃんを受け止めたおかげで、ケガはしなかったみたいだ。良かった。


〈しかし、今のはいったいなにが……っ!〉


 この感覚……敵襲だと?

 スキルの【察知】が反応しているから間違いない。敵意を持ったなにかが接近している。それも数が多いぞ。数える気にもならない反応から10や20では足りない、大規模な襲撃と予想する。

 それと同時に前方から声がかかった。


「ミーヤリアお嬢様! 何者かに包囲されています! 護衛の騎士たちが戦いますので決して表に顔を出さないように!」


 幸か不幸か。早速だが名誉挽回できる機会が向こうから訪れてくれたようだ。

 だが、それは別として……。

 どこの阿呆だか知らんがミーヤリアちゃんが乗る馬車を襲うなどとふざけたマネをしてくれる。もしケガでもしていたら、どう責任を取ってくれるんだ?

 どうやらゴミ共は、命が惜しくないようだ。

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