レベルアップー
現在、俺は少女たちに運ばれている。
普通なら羨ましい状況だろうけど彼女らは10代中盤くらいな気がするね。
別に嫌いじゃないよ?
もちろん彼女たちをババアとか年増などと罵ったりしないしない。心は紳士だからね。身体は紳士服だよ。
ただ、もう少し下の方だったらね。良かったのにね。
そしたら喜んで紳士服がその身を優しく包んで差し上げたのに。
実に、惜しい。
ひとりで残念に思っている間にも彼女たちは歩き続ける。
その足取りは周囲を警戒しているようで、先頭を盗賊娘のノット、その後ろに剣士娘のディアナ、最後にエルフっぽい狩人娘のレインと並ぶ。
どうやら、ここはダンジョンか何かのようだ。床も壁も天井もまっ平らに整備されており四角い灰色の通路が延々と続く。今のところはモンスター的なのも登場していないけど、彼女たちの様子からそれに該当する存在を予感させる。
ちなみに俺を背負って運んでいるのは行動の邪魔にならないということでレインだ。基本的に後方から弓で射るだけらしい。
やがて広い部屋へと辿り着いた。
通路も狭くはなかったが、それよりも更に大きくした空間で壁や床などはまったく同じ材質でできているようだ。入って来た通路とは別に、奥にも通路が見える。他に道はない。
そんな所に、隅の方で青髪の少女が座り込んでいた。
「ミラ、ただいまー」
「お帰りなさい、みなさん」
「何もなかったか?」
「はい、ちゃんと結界を張っておいたから大丈夫でした」
「ミラ。渡す物がある」
レインは俺をミラへと手渡す。
そこで気付いた。このミラという少女の異常に。
彼女は白いローブをまとっていたのだが、それがビリビリに破れていた。中に着ていたであろう服も無残な状態になっている。
うずくまっていたり、両腕で抑えている分には問題ない。だが立ちあがって手を離せば彼女の身体を隠す障害は失われ、豊満な胸や白い下着が露わになってしまうのだ。
「わあ! ありがとうございます!」
「これで上に帰れるね」
「いざとなったら、その姿で戻って貰うつもりだったけどな」
「そんなことしたら恥ずかしくて、もう二度とここに来れませんよぉ……」
「ミラ。これで安心」
「はい! じゃあ、ちょっと待っててくださいね」
そう言っていそいそと着替え出す。
どうやら思っていた以上にミラの服は酷い状態だったようで、背面はほとんど服の機能を失っていた。背中もお尻も丸見えだ。何があったのかは想像もできないが、そんなところに俺というまともな着替えが手に入ったのがよほど嬉しいのだろう。彼女は笑顔で俺に首を通し、見事に一体化した。
ふむふむ、これが着られるという感触か。悪くないね。
本来なら俺はクローク、つまり大きいマントみたいな物で上着という扱いになる。
でもミラの服はローブと一緒にダメになったので脱ぎ捨てており、中は下着だけ。繰り返す、現在のミラは下着とマントだけだ。
これが男なら監獄島へご招待するところだが、彼女なら許そう。俺が許す。
何故ならすべすべのお肌と柔らかお乳ともちもちお尻アンド太ももが堪能できるからであります。文句がありますでしょうか。
幼女じゃないけどいいのかって、いいに決まってるだろう。
気持ちいい肉体に罪はない。
「うわぁ! これすべすべで気持ちいいですっ!」
おや、まったく同じ感想ですね。ワタクシたち仲良くなれそうですわよ。
肌触りを全身で堪能するように俺というすべすべ布を腕や足や腰に巻き付けているミラに、俺は少しだけ心を開くのであった。俺の身体は素直だからな。
「前の服は、どうしましょうか?」
「そこまで破損したら直しようがないな。諦めて捨てることだ」
「長く使ってると愛着が沸くからねぇ。迷う気持ちはわかるよー、ミラ」
「ディアナは折れた剣も捨てたがらないですからね」
「あそこまで行ったら手遅れだ。ミラはああならないようにな」
「ちょっと酷いよ!?」
わいわいと三人寄れば姦しいを体現しながらダンジョンを移動する。
そんな中でも警戒は怠っていないところから彼女たちの実力を垣間見れた。
ちなみにレインさんは黙って後ろから付いて行った。
さてさて、ようやく俺を装備してくれる人が現れたのはいいんだけども、これからどうすっべ。
縛りしりとりの最中にも、いくつかの行動パターンは考えておいたけど実際にどんな人が来るか見てみないことには決められなかったからねぇ。
というわけで今の内に整理しておこう。
その1。念話を使ってコミュニケーションを図る。
わざわざスキルにあるんだから使えってことだろう?
ただね、こいつは精度が悪いみたいだから、その辺が気になる。
試そうにも実践で確認するしかないし、もし変な会話になって『この服なんかキモーイ!』などと言われたら俺のHPが瞬時に消滅してしまう。悪口とか暴言って何であんなに心に突き刺さるの?
という懸念もあって保留だ。
仮に上手く会話できても協力関係を築けるとは限らないし。というか俺なら男の意思が宿った服なんてその場で燃やしますね。キモイし。
その2。おはようからおやすみまで見守る。
俺はそんなつもり無いんだけどなー。
でも他に良い方法が思いつかないんだよなー。
別にずっと、ってわけじゃないしー。
ある程度まで強くなれたら離れるつもりだからなー。
では満場一致のようですな。
議会によってパターン2が可決されました。おめでとう。ありがとう。
俺が今後の方針を定めている間に、どうやら状況に変化があったようだ。
4人は足を止め、それぞれの武器を構えて前方を睨むように見つめている。
何もない。
そう思った直後に壁からすり抜けるようにして異形の怪物が出現した。
腕が三本で頭部が無い人間が合計で3体だ。
「バッドストーカーが3! 一気呵成で!」
ディアナが叫ぶ。瞬時に3人が応えるように動き出す。
今のは敵の確認と、それに対してどう動くかの号令だろうか。
何となく今回の作戦は、ガンガンいこうぜ! な気がする。
状況に応じてパターンを変えたりするんだろう。
かなり連携が取れているパーティのようだ。
程なくして戦闘はあっけなく終わる。
本当にあっという間だったけど、しかし色々とわかったことがある。
まずダンジョンのモンスターは壁からいきなり出る。なかなかスリリングだ。
でも、どうやって察知しているんだろうな。そういうスキルでもあるのか。ノットちゃんなら盗賊だから持ってそうだ。先頭を歩いてるし。
あと、それぞれの実力と戦い方についてもわかった。
ディアナは見た目通り、長剣での接近戦が得意だ。
基本は守りに徹して攻撃を受け流し、ここぞという時に強烈な一撃を叩き込む。
攻撃と、仲間を守る壁という前衛の役割を見事に果たしていた。
前衛が彼女ひとりなので負担が大きいようにも思えるが、そこは仲間がカバーしている。
ノットは短剣を使い、敵をかく乱させるのが役割だ。
いくつかのアイテムを用いて足止めしたり、相手の感覚を潰している。
さらに死角からの攻撃は致命となり、即死させるほどの威力を持つ。
状況に応じて動く。言うのは簡単だが実践してみせる彼女の実力は高い。
ミラは杖を使い、補助の魔法を味方にかけていた。
この魔法は劇的な変化こそ期待できないようだが僅かに力や速度を向上させているようで無いよりはマシみたいだ。
他にも簡単なキズを癒したり、たまに水の弾を放って攻撃していたりする。
残念ながら戦力として比べると、彼女だけ数ランクは低い。
レインは後方から弓の狙撃によって援護する。
狙いは正確で無駄撃ちはせず、回避の行動後に生じる硬直、攻撃に転じる瞬間の隙、そういった機を見計らって放つ。
後ろから眺めていた俺だからわかるけど、貢献度で言えば彼女が最も高い。
総評するとバランスは良いけど、ちょっと回復手段と魔法攻撃に乏しいかな。
思いっきりミラちゃんの担当だけどね。
でも、その辺は彼女らは連携がしっかり取れているから上手く補えている。
やはり仲が良いだけの、お気楽パーティではないらしい。
けっこう、つよいねー。
おお、我らの神が戻られた。
これなら、ほかのもんすたーも、らくしょうだねー。
さっきのモンスターがどの程度の強さかは知らないけどね。
あれは、れべる20、くらいかなー?
基準がわからん。それを倒せるなら、みんなは同レベルか、それ以上なんだな。
たぶんねー。
ふむ、実はレベルが低い場合もあると?
なかまとか、そうびとか、すきるとか、いろいろかなー。
人数の差や、装備による能力の底上げ、スキルの相性でレベル差は覆せるって話かな?
いぐざくとりー。
何語だかわからんよ。英語? 知らんな。
でも、かったからねー。
勝ったのなら本来のレベルは関係ないと。神が言うのだからそうなのでしょう。
ひとりだけ、ざんねんだけど、がんばってるから、おうえんしよー。
ミラちゃんはきっと大器晩成型なんだ。これからだってできるできる気持ちの。
ちょっと、ちがうなー。
言葉だけでは真心が伝わらないということか。念話も使ってないしな。
きみの、ちからを、つかってみてー。
我が右腕に封じられし邪眼を覚醒させる刻が訪れたというのか。
すてーたす、みてねー。
おっとチートの予感。
――――――――――――――――――――
【クローク】
レベル:2
クラス:ただの布
レア度:1
○能力値
HP:100/100
MP:10/11
○上昇値
HP:1
MP:1
攻撃力:0
防御力:2
魔法力:2
魔防力:2
思考力:0
加速力:0
運命力:1
――――――――――――――――――――
あれ、ちょっと上がってるな。
れべるあっぷー。
もしかして、さっきの戦いでか。
でも俺は何もしてないっていうか、物理的にできなかったというか。
違った。
そうじゃなかったな。そもそも俺は何もできなくて良いんだ。
称号の【成長する防具】でも書かれていたはずだ。
【成長する防具】
現状に甘んじない精神。装備者の成長に伴って強化される。
これはつまり、俺は戦わないで寄生していれば強くなれるって話だろう。
どうも人間だった頃の感覚で、自分で戦わないといけない気になっていた。
俺の役割は装備者の補助だ。
今で言うならミラちゃんを助けることに他ならない。
わかったかなー?
うん。ボク防具。ミラちゃん守るよ。
いいこ、いいこー。
頭を撫でていただけると、ありがたいでやんす。
れべる、あがったらねー。
マジ頑張ろう。
俺に必要なのは情報だ。身体を動かせない分は頭を働かせろ。
改めてステータスを確認するぞ。
――――――――――――――――――――
【クローク】
レベル:2
クラス:ただの布
レア度:1
○能力値
HP:100/100
MP:10/11
○上昇値
HP:1
MP:1
攻撃力:0
防御力:2
魔法力:2
魔防力:2
思考力:0
加速力:0
運命力:1
○属性
○ボーナス
○スキル
【念話・劣】【神託】【進化】【ステータス閲覧】
○称号
【転生者】【成長する防具】【インテリジェンス・アイテム】【神の加護】
SP:3
――――――――――――――――――――
ああん?
最後の方にちょびっと書かれてるのなにさ。アンタどこに隠れてたのよ。
おめでとー。
ありがとう。それで、なんざんしょ?
あらたな、ちからに、めざめよー。
もしや新スキルを取得できるポイント的なチートでしょうか。
せつめい、いらずだねー。
【称号、説明不要を取得しました。】
【説明不要】
一を知って十を識る者。鑑定レベルが上がる。
いるよ。説明めっちゃ必要。
情報を制する者は世界を制するんだから勘違いしないでよね。
それと鑑定レベルが上がるのに肝心な鑑定とやらを持ってないのですがそれは。
たぶんスキルだろうけど、どうせなら一緒におくれよ。
とはいえ無い物ねだりをしても、しょうがないか。
貰えないなら今は新スキルの確認でしょ。
じゃあ、えらんでねー。
【防護結界・被膜】【念話・下位】【透視】【変形】【採寸】【援護攻撃】
【属性付与】【属性耐性】【鑑定】【HP譲渡】【MP譲渡】
【修復】【自動修復】【洗浄】【自動洗浄】【治癒】【自動治癒】
【消費MP削減】【近距離転移】【異常耐性】【察知】【警報】
【支配】【呪縛】
鑑定あったわ。