始まりは突然のようです
――――お知らせ。
○1年経過のご報告
転生より1年が経過しましたのでレベルアップボーナスが消失しました。
○魔王復活
現在、魔王の復活による大きな戦いが発生しています。
力を持つ者は魔王討伐へのご協力をお願いします。
また、これに伴い初期スキル【知識の図書室】の上位スキル【知識の図書館】をすべての転生者へ配布します。有効にご活用ください。
○知識の図書館
最上位スキル【知識の書庫】を所持しているため【知識の図書館】は受け取れませんでした。
○魔王討伐達成のご報告
皆さまのご協力により魔王は無事に討伐されました。
これに関わった方々と、直接対峙した勇敢なる皆様には報償を送ります。
○各種スキルの改定
スキルの統合と廃止、変更を行いました。
廃止スキルをすでに取得済みの方にはお詫びとしてSP10を送ります。
また、スキルにランク制を設けました。
詳しくは【知識の図書館】からご確認ください。
○ステータス表示の改定
一部のステータス表示方法が変更されました。
詳しくは【知識の図書館】からご確認ください。
○余剰魔力SP変換
最大MPを超えて余った魔力をSPへ変換可能になりました。
変換率は魔力1年分につきSP1になります。
これまでの魔力で以下のSPを取得しました。
【SP300】
○進化
規定の条件を満たしたことを確認しました。
スキル【進化】を使用してください。
――――お知らせは以上です。
……なんだ今の?
目覚ましのアラームにしては音が鳴らなかったな。
なんか電子的な文字がザーっと流れて行く光景が見えただけだし、というか読み切る前に消えたぞ。あれ読ませる気ないだろ。
いくつか気になる単語が見えたんだけど……。
いや、今はそんなの、どうでもいいか。
それよりも、ここはどこなのかが問題だろう。
なにも見えない……暗闇が広がっている中にぽつんと俺だけがいる。
あれから、どうなったんだろう。
ミラちゃんは? ノットやディアナ、レインたちは無事だったのか?
答えは返らない。他に誰も存在しないのだから当然だ。
でも、どうしてだか俺は近くに寄り添う気配を感じていた。
知っているような知らないような、この感じ、前にどこかで……。
ああ、そうか……なんで忘れていたんだろうな。
きっとこれは夢なんだ。
だから、ここにいる間だけは、理解できる。
知らなくていいことも、知らないといけないことも。
でも目が覚めたら、忘れてしまうんだろう。
だって、みんな夢だから。
そうなんだろう?
■
――新世歴700年。
大陸の北方に位置する皇帝国ビルフレスト。
帝国内における南部一帯を領地とする大貴族エルドハート侯爵家。
その領内にて、世界はひとつの大きな転機を迎えようとしていた。
「節目を迎える記念すべき年に、かのような苦難に苛まれたことを心苦しく感じると共に、新たな門出に幸多からんことを願い、そして我らが皇帝国の更なる繁栄と平穏を望み、ここに神々の御名において誓うことを――」
厳かな衣服に身を包んだ老齢の男は滔々と祝福の言葉を告げる。
しかし彼は神官ではなく、皇帝国における政に関わる職のひとつだ。
正式には皇帝国領主審査官。
だが一般的にはわかりやすく当主任命人などのように呼ばれている。
「では、当主候補らは前へ」
あらかじめ定められている長々とした文言もようやく終わり、いよいよ本日最大の催しが行われると察した観客たちは、噛み殺していたアクビを引っ込める。
その者たちに取ってこの場は一種の博覧会か、劇場のようなものなのだ。
一方、関係者からすれば一世一代の大事であるため、幾人かは緊張からか冷や汗を流しながら候補者である4人の小さな背を見守っている。
それもそのはずだ。
今日この場でエルドハート家の新たな当主……侯爵が誕生するのだから。
当然ながら観客たちも、ただの市民であるはずはない。
上位である公爵位の代理人を筆頭に、下位である伯爵位や子爵位の貴族らが集まっている。
とはいっても観客の多くは誰が当主になろうと興味はなかった。誰であろうと自身に影響はないと判断しているか、どうなっても恩恵を得られるからだ。
だからこそ今回、最も注目されているのは誰が当主になるかというよりは、誰が当主に選ばれるかという点だった。
似ているようで違う目的。その理由は……。
「これよりエルドハート家の新たな当主選定を行う。【魔導布】をここへ」
審査官の言葉を合図に、ひとりの女官が滑車付きの台座を押してくる。その上には金の意匠を凝らした重厚な箱が鎮座していた。
やがて、その場にいる者たちの正面に台座が運ばれると、審査官はゆっくりと箱に手をかけ静かに開ける。
中に納められた純白の布が注目を集めた。
「おおっ……!」
「あ、あれが【魔導布】ですか」
「伝説に謳われるインテリジェンス・アイテムの……っ」
「初めて見ました……」
「前回は何十年と前でしたからな。貴殿の歳では無理もないでしょう」
どよめく観客たちを窘めるように審査官が咳払いを響かせる。
「この選定方法を知らない者もいるので、確認の意味も込めて説明する」
曰く、エルドハート家に伝わる【魔導布】は、300年前の聖女ミラより子孫へと託された宝具である。以来、これを受け継ぐ者こそがエルドハート家の当主であることの証明となっていた。
もし装備できたなら当主として相応しいと証明されるため、幾度となく選定と称して試されてきたが、インテリジェンス・アイテムである【魔導布】は資格のある者にしか纏うことを許さないとされており、これまでの当主たちは受け継いだはいいものの、実際に装備できた例はなかった。今となっては形骸化された儀式だ。
故に、この選定の場も建前としては【魔導布】によって選ばれるが、誰も装備できなければ別の要素から選出し、装備できる次世代へと継ぐことになる。
その辺りの事情を審査官は口に出さなかったが、周知の事実であった。
だが、もちろん誰もが期待している。
真に伝説を受け継ぐことができる新たな聖女の誕生を。
つまるところ観客らのほとんどは、誰が当主になるかではなく、誰が【魔導布】に選ばれて聖女となるのかを見物に訪れているのだ。
過去の例から考えても可能性はとてつもなく低いのだが、それでも伝説が生まれる瞬間を目撃し、その生き証人となれるのなら、期待せずにはいられない。
そして――。
「ではひとりずつ、順番に触れて……?」
最初に気付いたのは最も距離が近い審査官だ。
これから候補者らに触れさせて装備が可能かどうかを試すはずだったのだが、当の布の様子がおかしかった。
「な、なんだ……【魔導布】が光って……!」
その時、不思議なことが起こった。
言葉通り、箱に納められた布が光を放ち始めたのだ。
光はだんだんと強くなり、眩いほどの輝きが場を包み込む。もはや目を開いていることもできないほどに。
「うわっ!」
「なんだ、なにが起きた!?」
「これはどういうことだっ!!」
「お、落ち着けっ! 落ち着くんだっ!」
誰かが声を張り上げたが誰も耳を貸さない。唐突な異常現象と喧騒の中では、そんな余裕など失われていた。
視界が塞がれているのが幸いし、我先に避難しようと暴走する者こそ現れなかったが時間の問題だ。いずれ闇雲に動き回ってケガ人が出るだろう。
審査官は最悪の事態を想定し、収拾に動こうとした時だった。
〈私の眠りを覚ますのは誰だ……?〉
その場にいた誰もが聞き慣れない奇妙な声が聞こえた。
不思議なことに、騒ぎの中で耳に届かないはずなのに、その声だけが、やけにハッキリと聞こえたのだ。
すぐに誰ともなく理解する。
聴こえたのではなく頭に直接響いているのだと。
気付けば閃光も薄まっており、徐々に騒動の発端が見えてくる。
再び、性別や年齢すら判別し難い声が全員に届いた。
〈この【魔導布】クロシュの眠りを覚ましたのは、誰だ……?〉
――伝説は受け継がれる。
夜にもう一回、投稿します(たぶん)




