表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第1章「受け継がれちゃう伝説」
34/209

楽しみにしてるねー

こちらは本日二回目の投稿になります。

 あぶなかったねー。


 ……幼女神様?


 ああ、そうか。また時間を止めてくれたのか。

 見れば槍の刃先がミラちゃんの胸元に触れていた。

 もし今、時間が動き出せば彼女は1秒にも満たない間に死んでしまうだろう。

 助かった……。

 しかしなんで暗黒つらぬき丸が生きていて、しかも飛んできた方向には、あの商人がボロボロの状態で倒れているのか。


 えっとねー、しんだふりー。


 完全に消えてなくなったのにフリだったと?


 きえてないよー。すきるの、おんみつ、かなー。


 【隠密】……たしかに奴はそんなスキルを持っていたな。

 つまり、あの瞬間……俺の魔力波で消し飛ぶ寸前で耐えたあいつはスキルを使って姿を隠していた、ということか?

 そして俺が油断した一瞬を狙い、魔族の魂が離れて意識のない商人の体を操って自分自身を投擲させたようだ。

 恐らく向こうもMPが枯渇しているのだろう。言わば最後の悪あがきか。

 こうして窮地に追い込まれているのだから、あながち悪あがきとは呼べないな。


 それで、どうしよっかー?


 どうしようって、いつもみたいにアドバイスはしてくれないんですか?


 えっとねー、MPがないから、むずかしいかなー。


 薄々とだが、わかっていた。

 これまでのアドバイスでも最後は俺自身がスキルを使ってやって来たのだ。MPが切れかかっている俺に出来ることなど、そう多くはない。

 ゆえにミラちゃんを救う手立ては存在しないのだと。

 でも、それでも幼女神様なら、どうにかできるんじゃないか。

 そう信じて止まない。


 じつはねー、ほうほうは、あるけど、たいへんだよー?


 大変……?


 だいしょうが、おおきいよー。


 具体的にはどんな……やっぱいいや、それでお願いします。


 いいのー?


 ミラちゃんを助けるには、それしかないんでしょう?

 彼女はこんなところで、こんなことで、死んでいいワケがない。

 だったら迷う必要なんてないじゃないか。

 なによりも俺は誓ったのだ。

 護るのだと。


 ほんとうに、いいのー?


 ……クドいですな、幼女神様。

 俺はいずれ幼女を護るため伝説に語り継がれる至上の防具になるのですよ? 

 だったら、女の子のひとりくらい護れなくてどうするというんですか。


 うん、わかったー。


 そう告げられると、俺の内側の奥底に熱いなにかが入り込んだ気がした。



 【スキル、神衣を取得しました。】

 【スキル、簒奪を取得しました。】



 これは……?


 ひとつめは一時的なものだよー。使ったら消えちゃうからねー。


 えっ、幼女神様?


 どうしたー?


 なんだか、えらく流暢に話し始めたような……。


 違うよー。クロシュくんが私と同じところまで来たからだよー。


 前に言ってたレベルがうんぬんかんぬん?


 ぬんぬんー。


 中身はあまり変わらないようだ。

 とすれば、これが【神衣】の恩恵なのだろうか。


 それがあれば、少しの間だけ超絶ハイパーミラクル強くなれるよー。具体的には全ステータスが10倍になって、止まった時間の中でも動けちゃうかなー。


 まさに神か。


 私が神だよー。


 じゃあ、もうひとつの【簒奪】っていうのは?


 おまけで付けた【剥奪】の上位スキルだねー。相手のスキルを奪い放題だよー。


 なんだ邪神か。


 ふふふー。


 きゃっきゃ。


 でもねー、代償としてかなり長く眠ることになるよー。


 なんだそれくらいのことなら……。


 あと【神託】と【神の加護】が消えちゃうかなー。


 ……マジですか?


 マジでー。


 それって要するに、もう幼女神様と話せないし、いつものように助けてもくれなくなるわけで……。

 いや! それでいい! むしろそうすべきだ!

 俺は幼女神様に頼り過ぎている。感謝しているし本気で助かったことばかりだけど、そろそろ前から考えていたように自立すべきだろう。

 ならば、これは良い機会だと考えようじゃないか!


 声が震えてるよー?


 ダイジョウブ。ナンデモ、ナイアルヨ?


 無いのー? 有るのー?


 ごほん、とにかく……それじゃあこれで、お別れって感じですかね。


 うん、でもまた、いつか会えるよー。


 そっか……なら、言うほど悪くはないのかな。

 あまり話し込んでいると、辛くなりそうだ。なんだか涙が出ちゃいそう。涙腺ないけど。だって布だもん。

 さて、ふざけるのも終わりにして、そろそろ始めようか。


 俺は【神衣】を発動した。


 これが、幼女神様のいる領域か……。

 全身が裂けてしまいそうになるほどの純粋なる力が湧き出し、痺れるような衝撃が体中を駆け巡ると意識は研ぎ澄まされ、やがて得も言われぬ全能感に包まれた。

 視界から得られたあらゆる情報は、解析されて脳内に飛び込んでくる。あまりの量に目眩がしそうになったが、すぐに慣れて適切に処理できるよう順応した。

 それらの意味は理解できないけど、感覚でわかる。


 どうすれば止まった時の中で行動できるのか。

 どうすれば飛来する槍を止めることができるのか。

 どうすれば効率よくスキルを奪えるのか。

 そして、どうすればインテリジェンス・アイテムの命を終わらせられるのか。


 黒い槍に優しく手を伸ばす。

 気付けば、俺はミラちゃんの体と【合体】していたようだ。

 あまり気にせず槍の中央辺りに手を添え、【剥奪】を使う。

 呆気なく、すべてのスキルを奪うことができた。

 そのまま指先に力を込めてバキッと真っ二つにへし折る。

 時が止まった世界で意識はないまま、暗黒つらぬき丸は二度目の死を迎えた。

 次に転生するなら、もうちょっとマシな性格になれと願いなら、残りの部分を木端微塵にする。

 今度こそ、戦いは終わった。



 危機は過ぎ去ったが、このままダンジョンにいるのも良くない。

 ひとまず意識のない商人をふん縛って引きずり、まだ目を覚まさない皇子を連れて魔法陣から転移し、森の中へ帰還する。

 ここなら危険はないだろう。


 だんだんと眠気が強くなっている。

 もう、あまり時間がないようだ。

 【神衣】が解除されれば、じきにミラちゃんが目を覚ますはずだ。あとは商人を問い詰めればノットたちの居場所も判明するだろう。その際には皇子も協力してくれること期待する。


 では幼女神様、しばしのお別れですな。


 うん、また会おうねー。


 交わす言葉はあっさりとしていたが、それだけで充分だった。

 これは永遠の別れではない。次に会う日がちょっと遠いだけだ。

 だから、悲しむ必要なんてなかった。


 再会する時には、もっと強くなっていますよ。それこそ幼女神様の手を借りずに済むくらいにね。


 楽しみにしてるねー。


 視界が暗くなり始めていた。いよいよか……。

 最後に心優しい少女に向けて念じておく。


〈しばらくまた、眠りに就きますが心配はいりません。いずれ目を覚ます時が来ます……だから、できればその時は、また一緒に――〉



 そうして俺の意識は深い闇へと飲み込まれていった。

次話で1章終了です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ