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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第1章「受け継がれちゃう伝説」
27/209

呪われてしまうとは情けないー

 眠いよぅ。

 あと10年くらいお休みを……おろ?


 目を覚ますと、よく知っている天井が視界に入った。

 というかミラちゃんが借りている宿の、いつもの部屋である。

 なんでここにいるんだっけ……と少し寝ぼけ気味の思考で、たっぷり1分ほど、ぼんやりしてから急激に脳が覚醒を始めた。

 脳なんてないけどね! などと自分にツッコミを入れるくらい快調だ。


 さて、この部屋にいる時点でわかったけど、みんなは無事に帰れたようだな。

 そう思い部屋を見渡してみると、ミラちゃんが椅子に座ったままテーブルに突っ伏しているのに気付いた。寝ているのかな?

 状況から察するに目覚めない俺を心配して看病している内に、ついウトウトとして、そのまま眠ってしまったのだろう。

 まあ看病と言っても布だからベッドに寝かせるわけでもなく、ただテーブルに置いてあるだけなんだけど、その心遣いが嬉しいね!

 すやすやと安らかな寝息を立てる彼女を起こすのは憚られたので、もうしばらく起こさないでおこう。


 他のみんなは……外はまだ明るいみたいだし、出かけているのかな。

 大丈夫だと確信はしていても、やはり姿を見ないことには落ち着かない。

 ヘルの話によると、強制的に連れ回されていた黒骸骨たちはヘルが消えれば勝手に元の階層に戻るそうなのだが、その途中で出食わさないとも限らない。

 もし黒骸骨と遭遇してしまっていたら……。


 だいじょうぶ、だよー。


 あ、ちょっと幼女神様、話が違うっすよ……。

 MPが0になると眠ってしまうなんて初耳ですわ。


 ごめんねー。うっかり、わすれてたー。


 うっかりなら仕方ない。誰にでもミスはあるものだからな。

 それにみんなも大丈夫みたいなので一安心だ。


 念の為にMP切れについて聞いてみると、意識が飛んだのはインテリジェンス・アイテムが魔力をエネルギー源として活動しているからだそうだ。

 一方、人間の場合だと魔力を用いるのは魔法だけであり、例え完全に失ったとしても直接的に生命活動へ支障が出たりはしないという。

 ここへ来てまさかの弱点が露呈したな。

 少し休めば復活できるのだから、それ自体はさほど深刻でもないだろうが……それも安全が確保されていればの話である。

 ダンジョンみたいな危険が伴う場所で易々と眠ってしまうようでは、どれだけ転生しても足りない。今後は注意しておこう。


 それじゃあ、えらんでー。


 はいはい。唐突なのにも慣れましたよ。今回はなにがなんなん?


 ぼーなすー。


 お、そういえばレベルが上がってたんだったか。


【クロシュ】

レベル:31


 えーっと、たしかレベル20だったから、ヘルを倒して11上がったのか。

 なんか急に中途半端になったな。

 もしかして、前回のレベルアップでは調整を疑ったから小細工を……っと、それを確認するのは野暮ってもんだな。ここは気付かないフリである。ボーナスを貰えるのだから良しとしようじゃないか。

 納得したところで早速ボーナスを表示する。



【HPアップ・小】

 HPが50上昇する。


【MPアップ・大】

 MPが200上昇する。


【HPブースト・小】

 装備者のHPが50上昇する。


【MPブースト・小】

 装備者のMP50が上昇する。


【防御力ブースト・小】

 装備者の防御力が20上昇する。


【魔防力ブースト・小】

 装備者の魔防力が20上昇する。



 MPアップがついに『大』になっていた。

 これは確定として、あとひとつか。

 今回の事態から鑑みるに、やはりMPはあるに越したことはないと俺は判断している。それは俺に限った話ではなく、装備者であるミラちゃんにも言えた。魔法の連発は正義だ。

 というわけで【MPアップ・大】と【MPブースト・小】を取得する。



○能力値

 HP:100/100

 MP:150/250


○ボーナス

【MPアップ・大】【獲得経験値アップ】【獲得SPアップ】



 せっかくだから【MPブースト・小】も付けたかったけど、ボーナススキルをセットできるのは3種までだったのを思い出して断念した。俺のMPアップは必須だし、経験値とSPアップはまだ外したくないからな。

 うーむ、無駄になった感じもするけど次回はより上位のボーナスが出るわけだし、将来的にはプラスになると信じよう。

 ついでだからステータスもまとめてチェックしとくか。


――――――――――――――――――――

【クロシュ】


レベル:31


クラス:呪われた布

レア度:5


○能力値

 HP:100/100

 MP:150/250


○上昇値

 HP:10

 MP:120

攻撃力:70

防御力:60

魔法力:65

魔防力:65

思考力:0

加速力:0

運命力:10



○属性



○ボーナス

【MPアップ・大】【獲得経験値アップ】【獲得SPアップ】


【MPブースト・小】


○スキル

【念話】【神託】【進化】【ステータス閲覧】【採寸】【鑑定】

【自動修復】【HP譲渡】【防護結界・被膜・大盾】【察知】【剥奪】

【透視】【変形】【色彩】【暗視】【異常耐性・痺】【異常付加・痺】

【自動洗浄】【属性付与・陽】【消費MP半減】【MP節約】

【支配】【呪縛】【合体】


○称号

【成長する防具】【インテリジェンス・アイテム】【神の加護】【説明不要】

【技巧者】【思索者】【炎獄の征伐者】


SP:56

――――――――――――――――――――



 ……『呪われた布』ってなんだよ。

 呪いなんて受けてないはずだけど……待てよ?

 まさかとは思うけど、これ【呪縛】のせいじゃないだろうか。

 装備を外せなくするスキルだし、まさに呪われた装備っぽいぞ。


 おお、クロシュくんよ、のろわれて、しまうとは、なさけないー。


 幼女神様が気にせず戯れているので大して問題じゃなさそうだな。

 そもそも【鑑定】されなきゃバレないんだし、装備するのもミラちゃんたちなんだから事情を説明すれば大丈夫だ。うん。

 この慢心がフラグとなって後々に悪影響をもたらさないことを祈ろう。


 続いてレア度は……2も上がってるけど、これなんか意味あるのかな。

 珍しさを表す数値なんだろうが、正直いらないように感じる。

 強さに関わるわけでもないし……あるとすれば称号の取得か?

 一定値に達すると称号が得られて、ステータスになんらかの補正が入るというのは可能性としては充分にあり得る。

 あまり実感が沸かないから存在感が薄いけど、あって困るものでもないし、とりあえず放っておく。


 能力値と上昇値は、特に言うことはなかった。

 ボーナスやスキルも変わりはなし。称号はひとつ増えたけど確認済みか。

 残るは、こいつだ。


SP:56


 やべえ。

 忘れかけてたけど【獲得SPアップ】の恩恵が出たようだ。

 以前までは毎回3SPだったのが5SPになり、11レベルアップで計55SPの獲得である。

 このあり余るSP、どうしてくれようか……考えるだけで滾るのう! のう!

 ただ、今後はもう幼女神様のアドバイスに頼らず自分で決めようと思う。

 【合体】のスキルの時も、本当なら俺が自力で発見し、歓喜するのを期待していたみたいだからな。

 例の槍男のことは気になるけどヘル以上のモンスターは出ないだろうし、他に差し迫った危険もない。ここからは任せて貰うよ。


 それから幼女神様といちゃいちゃしつつ、取得するスキルについて検討しながらミラちゃんの目覚めを待っていたのだが、【神託】によって会話中は時間の流れが遅延することに気付いて泣く泣く中断する。

 くっ、便利な技だと喜んでいたのに、こんな弊害があったとは……。




 結局、ミラちゃんが起きた頃には陽が沈み始めていた。疲れてたのかな。

 俺が目覚めているのをハッとして認めるやいなや、体調やら具合やらを根掘り葉掘りとばかりに問い質してきたので、ひとつひとつ順番に答えてあげた。

 そこから一波乱あったのだが、ミラちゃんの名誉のために黙秘しようと思う。

 具体的には俺の復活を咽び泣くように喜び、かと思えば無理をし過ぎだと怒って、すぐにまた笑ってと情緒不安定気味だったのだ。

 かわいい顔も涙と鼻水と涎に塗れ、あまり人には見せられない乱れっぷりなので、これは俺の中だけの秘密にしようと固く誓った。

 その後、しっかり脳裏に焼き付けておくことも忘れなかった。


 現在は少し落ち着きを取り戻したのか俺を抱き抱えてニコニコしている。

 顔のほうも【自動洗浄】ですっかり元通りなので安心だ。

 抱き付いて顔を埋められた際に色々と付着したからな……。

 たぶん本人は気付いてないんだろうけど、それも洗浄されたので良しとしよう。

 むしろ美少女の体液塗れとか貴重で大変よい経験ではないかとゲフンゲフン。

 変な思考が入り込んだようなので意識を切り替えるため、俺はミラちゃんに現状について確認してみる。


〈ミラ、私が眠ってからの……その後について聞かせて貰えますか?〉

「はい! 任せてください!」


 快い返事と共に立ち上がり、いそいそと俺に腕を通し始めた。

 なんでわざわざ俺を着るの?

 そんな俺の視線を感じ取ったのか、ミラちゃんに悲しそうな表情を向けられ、なにも言えなくなってしまった。

 僅かな間を置いて、無言を了承と受け取ったのかしっかりと俺を身に付けたミラちゃんは満足気な顔で椅子に座り直した。

 うーむ、これも尻に敷かれるという奴なのか。物理的な意味でも。

 益体もない考えを払ってミラちゃんに話を促す。


 ミラちゃんのちょっとまとまりがない説明を整理してみると、こうなった。


 まず俺が眠りに着いた直後だが、それと同時に【合体】が解除されてミラちゃんは身体の主導権を取り戻したらしい。

 すぐに意識を取り戻したのかと思いきや、ただ身動きひとつ取れなかっただけで、意識だけは最初からハッキリしていたという。


 これには俺も焦った。

 というのも【合体】中の俺はミラちゃんとスキルを共有できる。逆に言えばミラちゃんも俺のスキルの効果を得られることになり、【念話】によるヘルとの会話も聞かれていたのは確実だったからだ。

 会話の内容は別に構わないけど、俺の本来の口調や性格を知られてしまうのは今さらな感じがして恥ずかしいし、すごく気まずい。

 転校を機に大胆なイメチェンしたら昔の自分を知る人に会ったくらい気まずい。

 幻滅されるようなことはないと思うけど、どうして普段はああいう口調なのですか? とか聞かれたら答えられる自信が微塵も湧かないぞ俺……。

 いっそ黒歴史として封印したい衝動に駆られたが、幸か不幸かミラちゃんはまったく気にしていない風だったので、俺も平静を装っておく。

 誰も傷付かない優しい選択だ。

 人はそれを、問題の先送り、とも言うけどね。


 話が逸れたが、俺たちの会話を耳にしていたおかげで事情を把握していたミラちゃんは、すぐにノットたちへ説明してくれたそうだ。

 ただし、彼女が聞いていたのは【合体】してからの一部分だけだったようだ。そのため予想を挟んだ曖昧な説明となってしまったそうだが、あまり難しい話でもなかったので、まあだいたいは合っていた。


「上級悪魔が何者かに操られていたのを、クロシュさんは勝利することで解放してあげたんですよね! 倒しただけでもスゴイのに、優しさも忘れないなんて!」


 とかなんとか。

 どうにも彼女の中でおかしな解釈が成されているらしくて、だんだんと俺が神聖化されていっている気がした。

 敢えて訂正する気も起きなかったが、これに流されず謙虚な精神を保ち続けたいものである。


 話を聞いたノットたちはすぐに行動し、結果としては無事に帰還できたようだ。

 地上に出た頃には夜も更けており、疲労も限界に達しつつあったのですぐに宿へと戻って休み、夜が明けてからノットたち3人はギルドへと諸々の報告に行ったという。

 ミラちゃんは俺が心配だったのと、ノットからの、まだ誰にも知られていないが今のクロシュが狙われたら危険だ、という提案から留守番だった。

 思わず、寝ちゃったら意味ないのでは、と言いかけたが飲み込んでおく。


 とまあ、ざっくりと整理してみたが、少し気にかかるところがあるな。


〈しかし狙われているのがわかったのに、よく宿で休んでいられましたね〉


 俺としてはダンジョンを出たら、即座にギルドへと直行してすべてを暴露する予定だったのだ。そして槍男を吊るし出し、相応の制裁を行う予定である。

 被害に遭ったのは俺たち以外にも、多くの冒険者がいるのはヘルの話からも容易に想像できた。罪状は叩けばいくらでも出ることだろう。

 だが切り札であろう上級悪魔を倒されたのを知れば、なんらかの行動を起こすのは目に見えている。

 ノット辺りなら理解しているはずだが、なにか考えがあったのかな。


「えっと、あの上級悪魔さんはもういないんですよね? それにダンジョンから出ればモンスターに襲われる心配もありませんし……」


 ……ん?

 なにか、おかしい。

 俺が黙り込んだのを不安に感じたのかミラちゃんは決定的な言葉を告げた。


「ダンジョンに入って来た冒険者を攻撃するように操っている人から命令されたって上級悪魔さんが言っていたと思うんですけど……だから、ダンジョンから出れば安全だ、私たちの顔もわからないから報復の心配もないってノットも……違ってましたか?」


 ……そんなわけがない。

 たしかに最初は無差別に襲いかかっていたのだろう。

 だがヘルは言っていたはずだ。



『いいや、最初にお主たちと相見えたのは偶然である。我輩は出会った人間を攻撃するように、とだけ指示されていたのでな。これが殺せという内容であったら、今ごろはお主らも消炭と化していたであろう』


〈じゃあ俺たちを狙い始めたのは、その後からってことか?〉


『然り』



 あいつが嘘の情報を渡したのでなければ、ヘルと最初に出食わしてから槍男は確実に俺たちを狙っている。つまりヘルを通して特徴も割れているのだ。

 4人組の女の子の冒険者は珍しいし、おまけにインテリジェンス・アイテムを手に入れた冒険者としてギルドで大々的に宣伝されたので一躍有名になってしまっていた。すぐに特定されただろう。

 狙われる理由に関してはハッキリしていないが、少なくとも俺が関わっていそうだ。これは本人から聞き出せばいいことなので置いておく。

 だがミラちゃんどころか、ノットさえも警戒しないとは思わなかった。

 ひょっとして……。


〈ミラは、私とヘル……上級悪魔の会話がハッキリ聞こえていたんですよね?〉

「き、聞こえていたのは相手の声だけです。クロシュさんがなにか話しているのはわかったんですけど、なにを言っていたのかまでは……」


 なんてこった……それが原因か!

 思えば、俺の本当の口調や性格をまったく気にしていなかったのも、聞いていなかったのであれば納得できる。

 いや、今はそれよりも……。


〈あの悪魔を召喚した男は私たちを狙っています。恐らく顔も覚えられているはず。みなさんが危険です!〉


 あまり余裕もないので簡潔にそう伝えると、ミラちゃんも事態を理解したようで外してベッドの脇に立てかけていたホワイトレイピアを手に取る。


「みんなギルドへ行ったまま戻っていません……急ぎましょう!」


 俺とミラちゃんは勢いよく部屋から飛び出した。

 その間際にちらりと窓から外を見れば、もう陽は落ちて薄闇に包まれていた。

 無事だといいが……。

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