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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第1章「受け継がれちゃう伝説」
23/209

ぷっぷー

〈――という感じで、お願いします〉

「ああ、わかった」

「任せてよ!」

「が、頑張りますね、クロシュさん!」

「……了解」


 俺の作戦を伝えるのに【念話】というスキルはなかなか便利だった。

 言葉による会話だとひとつひとつ順番に話す必要があるけど【念話】は異なる内容を同時に発信できたからだ。

 おかげで細かい指示が含まれていたにも関わらず僅か数分で作戦会議を終えられた。

 あとは彼女たちの動き次第だ。


 それなりに距離があるとはいえ、目の前で自分たちを倒す算段を立てていたのに、やはり黒い骸骨たちは動こうとしなかった。通常ではありえない事態だが、この場にいることが異常なのであまり気にしないことにした。

 そういえば骸骨みたいな姿だけど不死族(アンデッド)じゃなくて悪魔族(デーモン)なんだよな。違いは知らんが。

 だが相手がなんだろうと、立ちはだかるなら容赦せんぞ。


〈では始めてください〉

「ウィンドショット!」

「アクアバレットっ!」


 ほぼ同時に唱えられた呪文だが、しかし先に形を成したのは風の弾丸だった。

 速さを優先された魔法はレインが突き出す手の平から一直線に標的へと向かい、やがて先頭に立つ骸骨(ブラックボー)戦鬼(ンウォリア―)……黒骸骨Aと呼称するか、そいつが握る剣の一振りで掻き消された。

 奴らに感情があったとして表情を確認できたら、きっと自慢げだっただろう。

 そして、すぐに苦悶に満ちることとなる。


「ッ!?」


 鳴き声のような悲鳴のような声をあげて自身の身体を見下ろしていた。

 肋骨にあたる部分が何本か砕けて、大きく損壊したようだ。HPから比較すれば、まだまだ余裕はありそうだが痛みを感じるらしく、そしてそれ以上に苦痛を与えられたことに怒りのような感情を覚えているように見える。


 奴らが簡単な魔法くらいなら無効化できることは知っていた。逆に強い魔法でも避けられる可能性があることも。

 だから俺はレインの風魔法を敢えて消させるように誘導し、即座に続くミラちゃんの水魔法に対処できないよう仕組んだ。

 成果は想像以上で、奴らはあまり頭が良くないらしい。


「シャァァァァァッ!!」


 再びあがる激しい咆哮は察するに『ぜったいに許さんぞ虫けらども! じわじわとなぶり殺しにしてくれる!』といった感じか。実際にそんなことを言っているかは確認する術もないが、少なくとも怒りの感情は持っていたようだな。

 先制攻撃は上手くいったが攻撃の手を緩めるつもりはない。


〈次、お願いします〉

「ウィンドショット!」

「アクアバレットっ!」


 気にせずに合図を出し、レインとミラちゃんが魔法を放つ。

 それと同時に、仲間を傷付けられてようやく本気で戦う気になったのか、3体の骸骨(ブラックボー)戦鬼(ンウォリア―)は駆け出していた。

 なかなか足が早いようだが、放たれた魔法が行く手を阻む。

 今度も先頭の黒骸骨Aが剣で払うが、またしても水魔法の直撃を受けて床に沈む。まだ息はあるようだけど戦闘不能だろう。学習能力がないようだ。

 そもそもミラちゃんの魔法を侮っている節があるように思えるな。

 見た目は下級の水魔法だが、その威力は俺の魔法力が上乗せされており凶器そのものと化している。舐めていると明日から病院で栄養食を食べるハメになるぞ。病院より墓場のほうが早いかもだけどね。


 あまり軽口を叩いているヒマもない。

 これで予定通り、残りは2体となったが、もはや目前まで迫っているのだ。


〈ディアナ、そしてミラ、出番です〉

「よーし、やるぞー!」

「が、がんばります!」


 呼ばれた二人が前へと踏み出す。

 彼女たちは壁役だ。それぞれ1体ずつ敵を受け持ち、他の味方に攻撃が行かないよう抑える役目を担う。

 どうしてこうなったのかと言えば他に適任な人がいなかったからだ。

 ここまでの戦闘で楽そうに見えるけど、腐っても深層のモンスター。ディアナでは1体を抑えるので精一杯だった。他のみんなも俺を装備しているミラちゃん以外は十秒も耐えられないだろう。

 ノットかレインが俺を装備するという案もあったが二人は単独でも戦力となる。

 そこへ行くとミラちゃんは俺がいないと、この場においてはまったくの足手まといとなる。だからといって遊ばせておく余裕もないのでこの配役は必然だった。

 なので、彼女には覚悟を決めて貰わなければならない。


〈来ますよ、ミラ〉

「こっちは私が防ぐからしっかりね、ミラ!」

「がが、がんばりマス!」

「……本当に大丈夫なのか?」


 ミラちゃんは大丈夫じゃなさそうだけど大丈夫です。

 実をいうと、俺にはこの方法で勝てるという確信がある。

 それというのも【知識の書庫】のおかげだ。


 以前にも攻撃力と防御力について調べていた際に、特定条件下での戦闘シミュレーションができたから、もしやと思ったんだけどね。

 味方、敵、場所などの情報から戦闘結果を尋ねると【知識の書庫】は予測として答えを出してくれるのだ。情報が多ければ多いほど予測は確かなものとなる。

 一方で情報が曖昧だったり、不確定要素が混ざると予測は外れやすくなる。過信は禁物だが頼りになるのは間違いない。

 俺はこの機能を【知識の書庫】とは別にして『仮想戦闘』と名付けた。


 細かい問題点はあるものの、他にもあるチートだと思うスキルを抑えて、断トツでこれが一番ヤバいと感じる。

 言うなればスーパーコンピュータ並みの計算能力を手に入れたようなものだからな。

 ちょっと贅沢な使い方だが、みんなが無事でいるために必要なら遠慮なく使わせて貰おう。


〈大丈夫です。私が必ず護りますからミラは攻撃に集中してください〉


 護る、という言葉にどうにか気を持ち直してくれたのか、3階層での腕試しの時にも見せた強い眼で相手を見定める。

 こちらの準備が整った時、先にディアナのほうで剣と剣を交わす鍔迫り合いが始まっていた。

 だが相手の力が強いのか、押し負けそうになったところをノットが気配を消したまま横槍を入れる。


「チッ!」


 さすがにそう簡単に事は運ばず、その骸骨(ブラックボー)戦鬼(ンウォリア―)……黒骸骨Bは瞬時に身を引き、自らの腕に迫った淡く白色に光るダガーから逃れる。

 ホーリィダガー。ノットが購入していた悪魔族に効果的な魔法がかけられている魔法具だ。命中すれば切断まではいかずとも、大打撃を与えられただけに惜しい。

 あれを脅威であると判断して避けたのは恐らく本能的なものだろう。苦手とする聖なる魔法に気付いたに違いない。

 なんにせよ、あっちは二人に任せておけば問題なく抑えられそうだ。


 でも問題はこっちなんだよな。

 俺はミラちゃんに向かって振るわれた剣を【防護結界・被膜】で弾いていた。

 どうにか魔法で反撃しようとレイピアを振るってはいるが。


「アクアスパイラルっ!」


 切っ先から渦巻く水弾を放てば、的確に避けるどころかカウンターで重い一撃を入れられる始末だ。

 この黒骸骨C、なかなかやるな!

 もちろん結界でミラちゃんは無事だけど、その度に俺のMPが削られるのであまり余裕はない。どうにかして隙を作らなければならないのだが……。

 こうなっている原因はミラちゃん自身の未熟さだけではなく、緊張によって強張るせいで動きが硬いことが挙げられる。こうならないよう事前に戦闘を経験させていたのだけど、やはり格上相手の戦闘となると精神的な負担はより大きいようだ。

 まだ早かっただろうか?

 見ればレインが助けに入りたそうに、俺の合図を今か今かと待ち構えていた。

 本当ならミラちゃんの魔法が当たった隙に、レインの魔法で一気に畳み掛けるつもりだったんだがな。


 こうなっては仕方がない。プランBだ!


〈ミラ、私が誘導します。身体の力を抜いてください〉


 有無を言わせずに俺は【変形】を駆使して彼女の全身にピッチリと貼り付くように形を変える。傍から見ればボディラインが浮き出ており、とても扇情的な格好になったミラちゃんを楽しめただろうけど誠に遺憾ながら戦闘中だ。慎みたまえ。

 レイピアを握る手を袖で包み込むと、ついでに柄の部分も覆って固定させる。これで手からすっぽ抜けることもないだろう。


「く、クロシュさん? これはいったい……」


 戸惑うミラちゃんをよそに、俺はそのまま【変形】によって筋肉もほとんど付いていない柔らかな腕を動かす。

 キィィンッ、と硬質音が響いた。

 初めてミラちゃんのレイピアが敵の剣を弾き返したのだ。

 唐突に動きが変わったことに黒骸骨Cも僅かに動揺したようだが、それも一瞬ですぐさま更なる斬撃を浴びせてくる。


「わっ、わっ、うわぁっ」


 三度に渡る連続攻撃を、こちらも冷静に捌き切ってみせる。

 高速で動かされる腕に振り回される度に、ミラちゃんは思わずといった感じで気の抜ける声を漏らす。なにが起きているのかと混乱していそうだな。

 これは俺のとっておき、いわゆる切り札とも呼ぶべき形態である。

 その名も『ピッチリスーツモード』だ。

 本当は幼女にしか使わないつもりだったんだけど特別だよ?


「はっ……、はっ……、……っ!」


 だが、体力的に無理があったようでもう息が上がっている。あまり長くは続けられそうにない。

 ミラちゃんの身体への負担もそうだが【変形】の連続使用で想像以上にMPを消費していた。

 長期戦が不利なら、一気に行くぜ!


 斜め上の角度からの攻撃、袈裟斬りを敢えてレイピアで防がずに【結界】を起動して防ぐ。おかげでさらにMPの減りが加速した。

 しかし、こっちの手がフリーになったぞ。

 これが最後とばかりに【変形】を漲らせ、間抜けにも顎ががっくりと下がっている頭骨に向かってレイピアを叩き込む。

 大きくのけ反らせたものの、これだけではダメージが足りない。


〈レイン、今です!〉


 俺はトドメの合図を出し、ミラちゃんに地面を蹴らせると横っ跳びに避難する。


「ゲイルストライク!」


 そう唱えたレインの前に彼女の背丈、その半分ほどの大きさはある緑色に輝く魔法陣が出現する。

 宙に浮いたそれは複雑な模様を目まぐるしく変動させると徐々に光度を増し、ピタリと動きを止めた次の瞬間、圧力がかかっていた瓶詰のように中央部分から烈風を解き放った。

 体勢を崩していた黒骸骨Cに回避する余裕はなく、そして抵抗する術もないまま瞬時に風の奔流に呑み込まれて姿が見えなくなり、やがて気配を完全に消失させてしまった。

 すげー、ビームみたいだ。


 今のは俺がレインに頼んでいた、彼女が使える中で最も威力のある魔法だ。

 事前に魔力の溜めが必要なことと、一方面の限られた範囲にしか効果がないこと、魔法陣の予備動作でどの方向に放たれるか丸わかりというデメリットを除けば、大抵のモンスターを一撃の下に粉砕する強力無比な魔法だという。

 ちなみに【知識の書庫】の予想でも、ただ単にぶっ放したら避けられるという結果が出ていた。

 おかげで確実に命中させられる隙を作るのに苦労したよ。


「よし、やれディアナ!」

「とりゃあああぁぁぁぁぁ!!」


 バキンッ、と小気味いい音がしたほうへ視線を向けると、ちょうどディアナが黒骸骨Bの首を断ち切っていたところだった。

 あとで確認してみたらノットがホーリィナイフでの連撃で両腕を破壊していたそうだ。おかげで抵抗もできなかっただろう哀れな悪魔は頭部を失ったことでようやく消滅した。




 結果としては、ほぼ『仮想戦闘』の予測通りだったな。

 何通りか試してみたけど、ディアナが壁役に徹してノットが弱点であるホーリィダガーで攻めれば1体だけなら確実に倒せるという回答を得られた。

 でもそれはホーリィダガーのおかげである面が強く、この武器がない場合で試すと火力不足で戦闘が長引き、ディアナが耐え切れずにやられていたようだ。用心深いノットの性格が幸いしたな。

 残りの2体も、最初に距離がある内に魔法によって数を減らし、最後の1体を俺とミラちゃんのコンビで抑え、レインがトドメを刺すという作戦が最も安定して勝てるようだった。

 ただミラちゃんがどれくらい動けるかが唯一の不確定要素ではあったんだけど、俺の奥の手が保険としてあったからな。良しとしよう。


 さて、最後に残った1体も、ノットが聖なるダガーで仕留めたようだ。

 最初に魔法をボコボコに食らってからずっと地に伏せていたあいつである。

 思えば可哀相な奴だったな。まともに戦うのではなく一方的に蹂躙されて終わるのだから。もし奴が戦士であれば屈辱だろうに。まあそれを実行したのは俺だし、だからなんだという話だが。勝てば官軍、悪魔が微笑む時代なのである。


 おちついた、ところで、ぼーなすを、えらんでねー。


 もう幼女神様ったら、ボーナスはさっき選んだでしょ?


 うん、そうだねー、じゃあ、えらんでねー。


 あらやだ本格的にボケちゃったのかしら。


 すてーたすを、みてー。


 真理はそこにあると。


――――――――――――――――――――

【クロシュ】


レベル:20


クラス:特別な布

レア度:3


○能力値

 HP:100/100

 MP:2/79


○上昇値

 HP:3

 MP:103

攻撃力:70

防御力:50

魔法力:52

魔防力:64

思考力:0

加速力:0

運命力:10



○属性



○ボーナス

【MP強化・小】【獲得経験値アップ】


○スキル

【念話】【神託】【進化】【ステータス閲覧】【採寸】【鑑定】

【自動修復】【HP譲渡】【防護結界・被膜】【察知】【剥奪】

【透視】【変形】【色彩】【暗視】【異常耐性・痺】【異常付加・痺】

【自動洗浄】


○称号

【成長する防具】【インテリジェンス・アイテム】【神の加護】【説明不要】

【技巧者】【思索者】


SP:35

――――――――――――――――――――


 ……はて?

 おかしい。さっきレベル10だったのに、もうレベル20になってる。

 バグかな。


 こわれて、ないよー。


 まさかとは思うけど、黒骸骨3体だけで10レベルもアップするの?


 けいけんち、あっぷー。


 ああ、そういえば【獲得経験値アップ】を付けていたのを忘れてたな。

 それによく考えたら、あいつらのレベルは34と高かったしな。レベル10の俺からすればかなりの経験値になったはずだ。


 だからと言ってピッタシ20に届くとは作為的なモノを感じますな。

 実は幼女神様がこっそり増やして調整していたりとか……。


 ――――――


 え? 反応なし?


 ただいま、るすに、しておりますー。


 さっきまで確かな繋がりを感じていたんですけどねぇ。


 あまり触れられたくないってことはマジだったのか。

 ゲームの運営側がひとりのプレイヤーに贔屓しているようなものだからな。あまり触れないようにしよう。こっちとしては優遇して貰ってありがたいわけだし、素直に甘受しておく。


 そうと決まればボーナスを選ぶか。



【HPアップ・小】

 HPが50上昇する。


【MPアップ・中】

 MPが100上昇する。


【獲得SPアップ】

 レベルアップ時のSPを倍にする。


【HPブースト・小】

 装備者のHPが50上昇する。


【MPブースト・小】

 装備者のMP50が上昇する。


【防御力ブースト・小】

 装備者の防御力が20上昇する。


【魔防力ブースト・小】

 装備者の魔防力が20上昇する。



 MPアップの強化版が出現しているな。この辺りは普通のスキルと同じか。

 ところで今回も二つ選べるのかな?


 そーだよー。


 おや、お早いお帰りで。


 ぷっぷー。ただいま、しんたくに、でることが、できませんー。


 【神託】って電話みたいなものだったのか?



 まあいいや。

 今回も取得するのは決まっているようだもんだし、サクッとやろう。

 俺は【MPアップ・中】と【獲得SPアップ】を選択する。



○ボーナス

【MPアップ・中】【獲得経験値アップ】【獲得SPアップ】



 取得した瞬間に【MPアップ・小】が消滅して【MPアップ・中】に上書きされた。重複はできないのか。完全に上位互換だったしな。



【クロシュ】

 MP:52/129



 MPはついに大台の100を突破した。

 これだけあれば、そうそう枯渇することもないだろう。

 ボーナススキルのセット枠も、どうやら三つが限界らしい。ちょうど収まったからいいけど次回からはどうしようかね。

 ま、その時になって考えればいいことか。

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