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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第4章「アーマード・布」
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わたしが手を貸してやろうか?

 幼女の涙を笑顔に変える。

 そんな重要ミッションを無事に達成した俺は、すっかり新築となった小屋を後にして、寂れた通りをゴキゲンな足取りで歩いていた。


 やっぱり……幼女は笑顔じゃないとね!


 うむうむ、と頷いて、この世の真理を噛み締める。

 心なしか訪れた時には薄汚れていた通りも、今はピカピカに輝いて見えた。


 いや、実際にスキル【聖域】で輝いている。

 先ほど少女の小屋でやったのと同じく、スキル【浄火】でこびりついた汚れだけを燃やし、さらに【修雷】で破損した道や崩れかけの壁を直しているので、もはや誰もスラム街だと思わないほどに清潔で整った通りに生まれ変わっていた。


 なんというか、歩いていると汚れやガレキが気になるし……主に幼女が足を取られて転んだりしないか、とかね。

 すぐに改善できるスキルを持っていたのは幸いだった。


 ちなみに、母親の病を癒したのは【聖域】と【癒水】の重複である。

 元々【聖域】には癒し効果があったので、軽症だった少女はすぐに体力が回復したけど、母親の病まで瞬時に消し去るほどの効果は出せなかった。

 しばらく【聖域】内に入れておけば、完治しそうな気配だったけど、それを待てるほど悠長じゃないよ。


 そこで活躍したのが【癒水】だ。

 だいぶ前に使った時は洗ってないプールみたいなエグい色をしていたが、効力を調整すれば色味も薄くできたので、精神的にも使いやすくなっている。

 最後に四次元【格納】から出した食べ物を渡したので、あの親子はしばらく大丈夫だろう。


 そんな感じでスラム街の幼女を助けて、ついでに浄化と修繕をして回っていた俺の前に、呆れたような顔をした赤髪の少女が現れる。


「聖女様、また人助けですか?」

「子供の涙が、私を導いたのです」


 ウソじゃないよ。聖女ウソつかない。

 しかし少女は納得していないのか、変わらずジト目を向けてくる。


「いえ、私に聖女様の行動に口出しする権利はありませんが……それでも護衛として私を連れてください。いつまた空飛ぶボールモンスターが襲ってくるか予想もできませんから」


 中からポケットなモンスターが飛び出そうな呼び方だ。

 それはさておき、彼女……王家六勇者のひとり、ファノアの心配もわかる。

 なにせ俺は甲殻球に追われて王都に逃げ戻り、こうして手も足も出せずにいるのだから。


 ……あの時、フォルティナちゃんと離れて王都へ戻ろうとした俺は、甲殻球の追撃を受けて困っていた。

 というのも攻撃は【聖域】で防げるけど、それには魔力を消費し続けるし、追われたまま王都へ戻ったら街中でのドッグファイトが始まってしまう。

 流れ弾が幼女に当たったら大変だ。


 そこで俺は咄嗟に閃いた。

 奴らは魔力を感知できる可能性が高い。ならばいっそのこと【聖域】を消し、さらに【人化】も解いて本来の姿、布形態になったのだ。

 これが大成功で、甲殻球は完全に俺を見失ったように辺りをさまよい、やがて帰還していったというワケだ。


 仮に熱センサーや、人間と同じ視界を持っていたとしても、暗闇の中で熱を持たない布は見つけられなかっただろうし、もし暗視能力があったとしても、布がひらひらと舞っているだけだ。


 そんな感じで無事に王都へ戻ったワケだけど……。

 正直、城へ行くのは気まずい。


 せっかく脱出できたのに、ひとりだけ帰ってきた上に、その理由も説明できないのだから、なにしに戻って来たんだって話である。

 ぶっちゃけ俺も、なんで戻ったほうがいいのか理解していない。ただ幼女神様のお言葉に間違いはないのは確かだ。それは疑いようもない。


 だからって急に状況が好転する様子もなく、途方に暮れていた俺が見つけたのが、こそこそ怪しい動きをしていたファノアだった。


 ……実はファノアもまた、ちょっと厄介な事情を抱えていた。


 彼女は甲殻球の騒動が起きていた頃、街中で発生していた強盗団の襲撃に対応するのに追われていた。

 話によると戦車に乗った強盗団が、手当たり次第に店を破壊し、金品を略奪していたようだ。

 ちょっと戦車っていうのが気になるけど、今は置いておこう。


 ファノアは若くして王家六勇者に選ばれているように、実力は高い。

 次々に現れる戦車を単独で撃破していったそうだが、やはり敵の数が多く、このままでは式典にも影響が出てしまう。そう懸念した時だった。


 皮肉なことに、その式典を妨害した甲殻球からのビーム攻撃によって、戦車強盗団は完全に沈黙したらしい。

 まあ、俺の予想通りなら、あの戦車は魔力を帯びていそうだし、真っ先に狙われそうではある。


 ともあれ、どうにか強盗団の捕縛に成功したファノアだったが、今度は甲殻球が飛び回る異常事態だ。

 状況確認のためにも城へ戻った彼女を待っていたのは……身柄の拘束だった。


 なぜならファノアは、裏切り者のギニアスと同じ派閥に属しており、甲殻球を操って王都を混乱に陥れた、共犯の疑いがあったからだ。


 もちろん確証はないので、あくまで一時的なものだったのだろう。

 だが、なにも知らないファノアからしてみれば、自分を拘束しようとする彼らこそが真犯人の手先に思えたようで、捕まるのは危険と逃げ出し……。


 気付けばギニアスと並んでテロリストの一員とされ、現在では指名手配犯として追われる立場になっていた。

 ちなみに俺と合流するまで、ファノアは状況をまったく把握しておらず、こそこそしていたのも誰が敵なのか判別できず、軽い疑心暗鬼だったからだ。


 そんなこんなで今さら城に戻れない二人組は、ひとまずスラム街に身を潜めていたワケである。

 なんだか脱獄した受刑者の気分だ。


 実際、この辺りは兵士の目も届かない場所も多く、犯罪者たちが少なからず隠れ住んでいるらしい。

 人目を避けたい者にとって、うってつけの地域だ。


「前にも言いましたが、私を護衛する必要はありませんよ?」

「いいえ、聖女様は皇帝国の賓客です。すでにゼノン様は避難されているので、私が護衛するのは当然のことです!」


 まあ、今さら城に戻れないし、俺の【格納】に入っている食料を頼りに生活しているから、離れられないっていうのが本音だと思うけどね。

 しかも【聖域】のおかげで体も常に浄化されているので、空き小屋でも快適に過ごせるとなれば、もはや依存しているレベルだろう。

 別に俺も嫌ってワケじゃないから、いいんだけどね。

 これで相手がおっさんだったら、初手から関わらなかったけど。


 なんて話をしながら歩いていると、曲がり角から見覚えのある少女が現れた。


「おや」

「あ? ……げっ」


 その服装は白いSF風のスーツに、三角や四角といった記号をアクセサリーのように付けている。そんな奇抜な格好を、忘れるはずもない。

 戦車を操る謎のスキルを持ったプレイスだ。


 最後に目にしたのは王都に到着した日だが、まだ王都に残っていると、なんとなく予想はしていた。

 というのも俺は、彼女こそが例の強盗団が乗っていたという戦車の出所ではないかと疑っていたのだ。

 他に気になるところもあるが……ひとまず様子を見よう。


 というか、なんかプレイスも俺を知っているような反応だったな。

 どちらかと言えば会いたくなかった感じだ。


「こんなところで奇遇ですね。あなたはプレイスさんでしたか」

「……わたしを知ってんのか?」

「それなりに有名ですよ?」


 奇抜な格好をしているし、あんな戦車を出せるくらいなら、どこかしらで名が売れているだろう。たぶん。

 彼女の名前も、ルーゲイン経由で判明したくらいだし。


「あなたこそ、私をご存知のようですね?」

「……そっちこそ有名人なんだから、別にフツーだろ。わたしらの同類で、知らねえヤツなんかいねぇよ」


 たしかに。それはそうだが……。

 俺はプレイスもインテリジェンス・アイテムなのではないかと見ていたが、いまの言葉からして間違いなさそうだ。

 向こうはとっくに知っているものだと勘違いしたっぽい。都合がいいので黙っておこう。


「お二人は、お知り合いではないのでしょうか?」


 普通の人間であるファノアは、会話から俺たちの関係を量りかねたようだ。

 ちょうどいいので、乗っかってみる。


「いえ、顔見知りといったところでしょうか。彼女は変わった乗り物を保有していましてね。そういえば……つい先日、似たようなのモノを強盗団が乗り回していましたね」


 なにを言いたいのかファノアは察し、瞬時に短剣を抜いて戦闘態勢を取った。

 これに慌てたのはプレイスで、すぐに弁解を始める。


「待て待て! あ、あれは、だな……たしかに、わたしの戦車だが、あんな風に使うとは聞いてなかったんだ! もし知ってれば貸したりしなかった!」


 つまり自分も騙された被害者だと言いたいらしい。

 もう少しとぼけたり、しらばっくれると思ったんだけど、あっさり戦車について認めた辺り、こっちの情報網を過大評価しているようだ。

 これも聖女パワーの一種だろうか。


「と、彼女は言っていますが、どうしますか?」

「……詳しく聞きたいところですが、この状況では難しいですね」


 事情聴取をしようにも、城には戻れないどころか追われる立場で、なにより甲殻球の問題も解決していないから、あらゆる行政機関がストップしている。

 大事件の重要参考人だけど、それどころじゃないっていうのが現状だ。


「そうですね。まずは先に、あれをどうにかするべきでしょう」


 危険人物であるプレイスを前にして、俺が悠然と構えていられるのは、たぶん彼女もスキルを封じられているからだ。

 じゃなければプレイスだって、さっさと王都から脱出しているはずだ。こんなスラム街をうろついていた理由も、ひとつくらいしか考えられない。


 なので今のところ、プレイスをどうこうしようとは思ってないんだけれど……さっきの、俺と出会ったのがマズいって反応が気になる。

 なにか隠しているのかな?


「な、なあ、アンタらは、浮いてるアレを止めようとしてるんだよな?」

「もちろんです」

「……だったら、わたしが手を貸してやろうか?」

ここでプレイスを登場させるか悩んでいたら遅くなりました。

当初は登場させないルートだったので。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱり幼女限定ですか(笑) しかしクロシュさんの優しさである事は代わりがない。 そして前の投稿から間が有って、前のストーリー展開を少し忘れた。。。 それにしても、ファノアさんは状況は厄介…
[一言] ポケットなモンスターというよりパスタファリアンが出てきそうだぁ…
[一言] ひとつきーぶりー? こっからーはんげきできるーかなー?
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