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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第4章「アーマード・布」
196/209

お前はなにを企んでいる?

何度か書き直したりで遅くなりました。

 ゼノンちゃんと親しくなって早四日。

 いよいよ式典当日がやって来た。

 会場となるのは王都の中心地である王城前の正面広場で、その場所は普段からお披露目や公表の場として使用されているらしい。


 ただ今回は帝国と同盟を結ぶという歴史的な日となるため、普段以上に気合を入れて準備をしているようだ。

 ちらっと見た感じ、純白の煌びやかな舞台が広場に建設されており、壇上の奥には塔みたいに大きな剣の彫像が切っ先を天へ向けて立っている。そこから左右に壁が伸びて、まるで剣から翼が生えているかのようなデザインだった。


 舞台から見て左右に招待客の席が設けられ、正面には大勢の一般人が入れる広いスペースがある。

 勝手に舞台に上がって来れないよう距離を開けて柵が設置されているため、少し遠くて見え辛そうだけど安全を考えたら仕方ない。

 それに遠いほうが誤魔化しも効くだろう。


 実のところ、かなりの突貫工事なのか舞台の細かい部分は雑というか手抜きというか……ちょっと継ぎはぎ感が隠せていない状態である。

 表から見ただけなら見栄えする造りなんだろうけど、文字通り舞台裏を知ってしまうと少し感動も薄れてしまうな。


 ともあれ、そんな舞台の上で両国の代表……つまりフォルティナちゃんとゼノンちゃんが調印をしたり、なんか握手したりするようだ。

 まあ細かい段取りを俺が覚える必要はないので置いといて、注意すべきは警備体制のほうだろう。


 当たり前だけど勇王国側の衛兵がずらっと並んでいるので、不審者が紛れ込もうものなら即座に取り押さえられてしまう。

 それは会場内だけに限らず、王都周辺も同様であり、まず式典を妨害するような行為は不可能だ。

 ……敵が普通の人間であればの話だが。


 ゼノンちゃんを狙っているのは王家六勇者のうち四人だという。

 残りの二人……ギニオスとファノアは味方だけど、相手も権力のトップに位置しているなら警備の穴を突くのも容易いだろうし、他にも敵がいないとは限らないからな。

 例えば謎の戦車少女プレイスの行方も気がかりだ。油断はできない。

 できればゼノンちゃんは欠席して、他の誰かを代表として参加させるべきだと思うんだけど、これはフォルティナちゃんも否定的だった。


『次期勇王として、この式典で民衆に健在を示せないのは痛手になるだろうな。もしゼノン殿が玉座を諦めるのであれば話は変わるが』


 前勇王である父親のことを語った時のゼノンちゃんの様子から考えると、それはないだろう。

 立派な王様になることを目指しているみたいだからね……。






 そんなワケで予定されていた時刻になり、フォルティナちゃんとゼノンちゃんは式典の舞台へと上がっていた。

 二人とも正式な礼装に身を包んで、普段以上の気品と美しさと可愛さと愛しさと切なさに溢れている。心強い。


 ゼノンちゃんの場合は勇王国の前身、聖王国から伝わるという白く清らかなドレスで、薄い緑が混ざって爽やかな色合いだ。

 それとは対照的に、フォルティナちゃんは帝国式の夜空をモチーフにした濃紺色のドレスなので非常に映える組み合わせだ。

 ちなみに俺は、フォルティナちゃんのショールに【変形】して肩から覆い被さる状態になっている。ちょうど夜空にかかる白い雲のようだな。


 一応、聖女の欠席は急に体調を崩した、という扱いになっている。

 カモフラージュとして部屋の前に護衛騎士も残したので、まさかこんな形で参加しているとは誰も思わないだろう。

 このことはゼノンちゃんに教えてあるので、いざという時にはフォルティナちゃんの近くにいるように伝えておいた。

 さらに帝国側の護衛騎士たちには、式典中の襲撃が予想されることを皇女と聖女の言葉として通達しており、メイドさんたちも万が一のために安全な場所で待機させてある。

 できる限りの範囲ではあるけど、準備は万端と言えるだろう。


 もちろん何事もなく終わるのが一番だけど……残念ながら俺の【察知】がすでに敵意を感じ取っているんだよね。

 それもひとつや二つではない。会場のあちこちに潜んでいる。

 警備はどうしたと問い詰めたいところだが、まだ動く気配はないようだ。

 嵐の前の静けさと言うべきか。なにかを待っているのか、あるいは敵意を持っているだけで騒ぎを起こす気はないのか……不気味な静けさだ。


 ちなみに左右にある招待客の席だが、舞台上から見て左側には帝国の外交官など関係者の席となっていて、本来なら聖女もこっちで観覧する手筈になっていたようだった。フォルティナちゃんと離れてしまうし、欠席して正解だったな。


 そして反対側は勇王国側の貴族……こっちでは勇家だったかな? 招待された者たちがずらりと並んでいる。さすがに帝国側より人数が多い。

 そんな中で、最前列に座るのが王家六勇者だった。

 まだ幼さが残る少女はゼノンちゃんの護衛をしていたファノアで、厳つい顔の男はフォルティナちゃんと協議していたギニオスだ。


 残りの四人は見覚えがないので、そいつらがゼノンちゃんの敵の王家六勇者なのだろう。クールそうな女性に、熟練の戦士っぽい男と、目付きが鋭い男、そして小太りの中年という組み合わせである。

 名前は憶えていないけど並んで座っているし、この六人だけ揃って由緒正しそうな白い軍服っぽい正装なので間違いないだろう。


 ただ奇妙なのは……この中で【察知】が敵意を感じ取ったのはひとりだけで、残りの五人からは微塵も怪しいところがない。

 これが意味するのはつまり……。


「――――では、ここに両国の代表による同盟締結の調印を行います」


 俺が警戒している間にも式典は進んでいく。

 長々と続いた進行役みたいな老人の話も終わり、次はフォルティナちゃんとゼノンちゃんの出番のようだ。

 さすがにフォルティナちゃんは慣れているのか冷静そのもので、堂々とした態度で舞台の中央へと足を進める。


〈ゼノンは大丈夫なのでしょうか……〉

「……本人が努力するしかない」


 こっそり【念話】で話しかけると、フォルティナちゃんも同じ思いだったのか小声で手短に返事をする。

 俺たちの視線の先では、ゼノンちゃんが緊張からか手と足が一緒に出てしまうロボットみたいな歩き方をしていた。いつもより表情も固い。

 ま、まあ遠目からなら目立たないはずだよ……たぶん。


 調印は大きな文書が広げられた台の前に二人が並んで立ち、同時に名前を書き込むことで完了するらしい。

 それが終わったら握手を交わして友好をアピールし、民衆が沸いて盛り上がったところで二人は舞台袖へ退場。そのまま街中がお祭り騒ぎになるのだとか。

 ……つまり、ここが最大の山場であり、同盟を止める最後のタイミングだ。


「ではお二方、こちらにサインを……」


 老人に誘導されるまま二人がペンを手にした……その時だった。

 初めは太陽に雲がかかったのかと思うほど静かに影が差し、ふと空に意識を向けると……俺の【察知】にも反応しないままソレは落ちてきた。


〈フォルティナ! 上です!〉

「っ!?」


 いきなりの【念話】に、フォルティナちゃんもペンを持つ手をびくりと止めて空を見上げる。

 そこにあったのは大きな丸い影が、まるで大砲の弾のように凄まじい勢いで向かって来るところだった。

 逃げるなら【近距離転移】で余裕だが……舞台上にはゼノンちゃんがいる。

 一緒に転移するのは間に合わないと判断して、俺は残された僅かな猶予の間に正面から抑え討つことを決めた。


 ――――キィィィィィン。


 その人間よりも大きな物体を【聖域】で受け止めると、硬質の甲高い音を鳴らしながら白い輝きが火花のように散って、光の膜が波打つように見えた。

 全力全開で【聖域】を展開しているのに、やたら重く感じられる。

 実際に重さを感じるワケではなく、スキルに負荷がかかっているのだろう。


 この【聖域】は結界の一種のため、ダメージを受ければMPが削られるし、耐久力も俺の魔力次第というものだ。

 幸いにも今回は防げたようだが、重さに加えて落下の衝撃がキツいし、あまり連発は受けたくないな……。


〈無事ですかフォルティナ?〉

「あ、ああ問題ない。だが聖女殿、これはいったいなんだ……?」

〈なんだかわかりませんが、攻撃されていると思ったほうがよさそうです〉


 完全に勢いを失った丸い物体。

 念のため【聖域】を維持しつつ舞台に落とすと、ドゴンッと床が陥没した。

 やべぇと焦ったけど、すでに会場が大騒ぎになっているし、俺のせいじゃないので無視しよう。


 それにしても大きい玉だ。フォルティナちゃんが見上げるほどで、直径二メートル以上はあるだろう。

 最初は爆弾かなにかを想像したけど、表面は金属的な質感の黒いプレートに覆われている。ボールと言ったものの、そのプレートを外殻のように纏っているためごつごつしていて、あまり丸っこくはない。

 むしろ足を外したカニ……いや、色的にカブトムシっぽいかな?


 ――――なんなんだ、あれは……。

 ――――急に空から降ってきたぞ……。

 ――――皇帝国の皇女様が守ってくれた……?


 被害はなかったものの、さすがに民衆がざわつき始めている。

 それは招待客の席も同様であり、勇王国側では権力者が近くの警備兵を呼びつけて文句を言っているように見えた。


「お、落ち着いてください! みなさん落ち着いてください!」


 このままでは良くないと考えたのか、進行役の老人も慌てて声をあげるが、先に落ち着くのはお前だ、と誰かの声が聞こえた気がするくらい、ひたすら『落ち着いてください』を連呼しているだけだった。


「まあ、なにが起きているのか不明な以上、とにかくああして声をあげるしかないのだろう。勝手に式典を中止になどできないからな」

〈しかし、どちらにせよ、これは続けられるのでしょうか?〉


 いきなり巨大なボール……甲殻玉と呼ぶが、これが落ちてきたのだから、まず原因と、その正体を確認して安全を確保しなければ、のんびり式典なんてやってられないだろう。

 正直、俺も誰がどうやって【察知】にも引っかからず、こんな物を放ったのかが理解できないので、さっさと会場を離れたいくらいだし。

 もし遠距離砲撃とかだったら厄介だ。


〈ひとまずゼノンを連れて、下がったほうがいいのでは?〉

「そうだな……警備も想定外の出来事で身動きが取れないようだ。勝手ながら一時中断として、私たちは避難しよう。ゼノン殿!」

「ふわ、ひゃい!?」


 突然の事態を前に、呆然としていたゼノンちゃんに声をかけて近寄ろうとしたフォルティナちゃんだったけど……それを遮る人影があった。

 厳つい顔をさらに厳つくしたギニオスだ。


「ご無事でしたか、ゼノン様!」

「あ、ギニオス……うん、わたしはだいじょうぶだけど」

「この場は危険です。こちらへお急ぎください!」

「どうした? なにを慌てている?」


 こちらを無視してゼノンちゃんだけ連れて行こうとする王家六勇者のギニオスだったが、それに待ったをかけるフォルティナちゃん。

 甲殻玉の件があるにしても、その急かすような様子が気になったようだ。


「フォルティナ殿下も、お連れの護衛と合流されたほうがよろしいかと」

「この落ちてきた物に心当たりでもあるのか?」

「いえ、そちらもですが……実は王都内の各所が盗賊と思しき集団に襲撃されておりまして、このタイミングから考えれば無関係ではないかと」

「なんだと?」


 王都中の人たちが会場に訪れているため、街中が空っぽの状態になっている。

 その隙を突いて、色々なところで大規模な強盗事件が起きたり、放火までされていて衛兵の手が足りていないほどだとか。


「この騒ぎから民衆の暴動に発展する恐れもあります。とにかくフォルティナ殿下も、すぐに会場から離れて――――」

「ならば私はゼノン殿に同行しよう。共に行動したほうが、そちらとしても護りやすく安心できるだろう?」


 さすがフォルティナちゃんだ。

 この状況でゼノンちゃんから離れたくないからね。

 そもそも同盟国の皇女様を放置して逃げるなんて、勇王国の首脳である王家六勇者にあるまじき行為だ。

 そうフォルティナちゃんは脅しめいた言葉を投げかける。


「それとも、私を連れて行けない理由でもあるのか?」

「ですが……フォルティナ殿下には、お連れの護衛がおりますので、連携の取れない者同士で固まるよりは動きやすいのでは?」

「無論こちらの護衛も連れて行くが、慣れない土地ではそちらの指示に従ったほうがいい。ゼノン殿もそれで構わないだろうか」

「ふぁ、ふぁい! だいじょうぶです!」


 状況に付いて行けてなさそうだったゼノンちゃんは、とりあえずフォルティナちゃんの意見に頷いているだけのようだ。

 それでも次期勇王の決定なので、よほどの理由でもなければ臣下であるギニオスは反対できないだろう。


「決まったようだがギニオス殿、まだなにか問題が?」

「それは……」

「そこで渋るのか。では少し聞き方を変えよう。そうだな――――」


 フォルティナちゃんは自然な動作でショール……というか俺で口元を隠すと、小声でひとつ指示を出してから、ギニオスに向かって疑惑を突きつけた。


「お前はなにを企んでいる?」

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