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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第1章「受け継がれちゃう伝説」
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あなたを護らせて貰いたいのですー

 急に姿が見えなくなったからと、心配したディアナが後を追うように店から出て来た。

 どうかしたのかと問われて、また顔を赤くしながらうろたえるミラちゃんがどうにか誤魔化していると、怪訝そうな顔をしたディアナの目にレイピアが留まった。

 どうやら勘違いしたらしく、剣を使うの!? と声を弾ませる。

 その後もなにが嬉しいのか、指導役は任せろーとか、手入れの仕方はねーとか、やたらハイテンションで色々と熱が入っていたけど、やがてヌッと現れたノットが「ミラが剣で戦うわけないだろ……」とツッコミを入れてくれてようやく暴走ディアナは停止した。



 レインと合流してから、四人は再び宿の一室に集まった。最早いつものだ。

 ミラちゃんからレイピアを購入した理由を説明をされてちょっと残念そうなディアナだったが、落ち着いて考えてみれば剣で戦うということはモンスターと近距離戦をすると気付くわけで、危険だからダメだよ! などと今度はあわあわしながら反対し始めた。

 またノットが面倒そうに溜息を吐いていたけど、もう無視して話を進めると決めたようだ。


 新しい装備について報告するため、ノットは数本のダガーを取り出す。

 とりあえず鑑定してみると。



【ブライトダガー】

 閃光魔法がかけられた短剣。魔力を流すと眩い光を放つ。


【ブラインドダガー】

 暗闇魔法が掛けられた短剣。魔力を流すと光を遮る黒い靄を放出する。


【ホーリィダガー】

 聖光魔法がかけられた短剣。悪魔族、不死族モンスターに高い効果を持つ。



 どれも魔法がかかっていた。マジックウェポンという奴だろうか。

 ノットの説明によると後から魔法が付与された物は『魔法具』と呼ぶみたいだ。逆に最初から魔法的な効果があると『魔剣』や『魔槍』などと区別して呼ばれ、その性能も魔道具とは格が違うらしい。

 よく聞くインテリジェンス・アイテムの『聖剣』さんも同様だとか。

 だったら俺は『魔装』とかどうかな。うーむ、また今度考えておこう。

 前のダガー2本は目眩し用だとわかるけど、最後の1本は効果からして……。


「あの悪魔型モンスターに備えておこうと思ってな」


 やはりそうか。


「アサライムが対処可能になった今、目立った障害はあいつだけだからな。これなら、いざという時にどうとでもなるはずだ」


 どうせならダガーじゃなくて、ちゃんとした剣にすれば良かったんじゃ?

 それとなくミラちゃんを通して聞いてみると。


「……重くて振れないんだよ」


 たしかにノットは身体が小さいし、筋力もそれほどあるとは思えないな。

 まったく振れないわけではないだろうが、中途半端な剣速と技術で戦闘できるかどうかは別の話なんだろう。

 彼女にはナイフやダガーが合っているというわけか。


「ディアナに持たせるという案もあったんだが……」

「師匠から教わったのはロングソードだけだからね!」


 普通の剣は上手く扱えないのかな?

 そしてロングソードで目的の魔法がかかった物がなかったと。

 まあノットと同じく、無理に慣れない武器を持たせても良くないだろう。

 と、ここで気付いたのだが。


「あれ、ディアナとレインの装備は?」


 ミラちゃんが言うように、二人は購入した物を持っていないようだった。

 ダガーのように小さい物なのかとも考えたけど。


「ああ、うん。私はなにも買ってないよ」

「私も。今のでいい」


 ディアナの目当てはミスリル装備一式だそうだ。

 そういえば前に聞いた気がするな。

 具体的に数えると、まずはミスリルの長剣。そしてミスリルの兜、鎧、手甲、足甲と、5点程になるか。

 さすがに長剣や防具となると、ミスリルナイフなどとは比べ物にならない値が付くようで、どれかひとつならばまだしも一式を揃えるには金貨30枚は下らないという。

 今回の総収入からすれば、そう遠くない額ではあるんだけど……。


 実際には、ダンジョンで得られた収穫物は全員に分配されている。

 そのまま金貨や銀貨を分けていては色々と面倒なので、個別に使用できる額を計算しておいて、管理している人物が目的毎に出すというのが一般的なのだとか。もちろん管理者の着服等の厄介事は付き物だが、このパーティではノットが担当しているし、そうでなくとも心配はいらないだろう。


 そして現在ディアナが使用できる金額なのだが。

 ……やはりというか、まったく足りなかった。

 これまでの貯蓄を合わせても金貨3枚に届かないくらいだ。

 元より、いずれ手にしたいという目標的な装備だったようなので気にしていないみたいだったのが幸いだろう。


 ではレインの方はどうなのかと彼女にも詳しく聞けば、本当に現状で満足しているため必要ないらしい。

 たしかに鑑定でも、悪くはない結果は出ていたけど……ひょっとしたら装備にすら【隠蔽】の効果が及んでいるんじゃないか?


 いんぺいは、そうびも、かくしちゃうよー。


 神様のお墨付きなので間違いない。

 だとするとレインはステータスどころか装備もかなり強い可能性が高いな。

 隠している理由は不明だけど、だからといって無理に知る必要はないだろう。

 どちらにしろ今の俺では知る手段がないんだけどね。


 最後にミラちゃんが改めてレイピアについて説明して、新装備お披露目会は終了した。

 たった二人だけの、だったけど。


「ねえノット、そろそろさっき言ってたの教えてよ」

「わかってるから落ち着け」

「たしか楽になるって話ですよね?」


 わざと金貨を見せつけていた件だな。俺も気になっていたんだ。


「話す前に……クロシュに聞きたいんだが」


 おや、なにかな?


「例えば、私がクロシュを装備することって、できないのか?」


 もちろん可能だけど、前に契約者がどうのって言っちゃったからなぁ。

 ここに来てカッコつけた弊害が出てしまうとは……。

 でもまあ基準とか細かい部分は曖昧にしたから、みんな僕と契約して魔法少女になって欲しいんだ、とか言えば平気かな?

 なんか詐欺っぽいけど実際やってることは詐欺だなこれ。

 っと、俺が少し悩んでいる間に、ディアナが先に口を開いていた。


「あれ、クロシュを装備できるのはミラだけでしょ? 違ったっけ?」

「私はそう聞いていますけど、どうしてそんな質問を?」

「理由はいくつかあるが、前にクロシュは資格があれば装備できると言っていたはずだ。もし私にその資格とやらがあって装備できるなら……話すのが楽だろ」


 あー、それは俺も感じてたんだよね。

 念話がミラちゃんにしか届かないから、どうしても通訳を通す形になってしまうんだ。

 仕方ないといえば仕方ないんだけど、それならノットが言うように話したい人に装備されれば、俺と直接会話できるわけだ。

 だったら、やっぱりみんなには契約して魔法少女になって貰おうかな。


 できるよー。


 ええ、装備できるって言いますよ。


 じゃなくて、ねんわ、できるよー。


 このパターンは……装備している人以外とも念話できる、そうでしょう?


 おおあたりー。


 でも【念話】は「装備者とのみ意思疎通を図れる」と表示されるんですが?


 それは、ねんわ、かい、だからねー。


 あ、そういえば【念話・下位】だったか。ということは……。


 あたらしく、しゅとく、できる、すきる、みてみよー。



【念話】(3)

 少し離れた相手との意思疎通を図れる。対象は自由に選択可能。


【防護結界・大盾】(4)

 指定した方面に結界の盾を展開する。使用中はMPを消費する。



 なんか追加されてる……。

 しかも、もう一個、見覚えのないのがあるんですが。


 すきるを、とると、あらたに、でてくるー。


 スキルツリーシステムかな? 


 とったら、とっただけ、つよくなるよー。


 うーむ、前にすぐ全スキルを取得できそうってのを否定したのはこれか。


 これだけ、じゃない、けどねー。


 な、なんだと……?

 どうやら、まだ俺の知らないシステムが秘められているようだ。

 ちなみに今すぐ教えて貰えたりは?


 あとの、おたのしみー。


 知ってたよ。

 この神様は俺をどうしたいのかさっぱりだ。

 とりあえず【念話】を取得しておこう。SPには余裕があるしな。



 【スキル、念話を取得しました。】



 これで現在のSPは9だな。

 どれどれ、早速試してみようじゃないの。


〈……私の声が聞こえますか?〉

「っ! 今のはなんだ……?」

「え、え? なんか聞こえたよ?」

「……男の声」

「クロシュさん……?」


 おっと、ミラちゃん以外は俺の声を知らないんだったか。

 唐突に念話を使ったせいで驚かせてしまったようだ。


〈えー、初めまして、私はクロシュです〉


 あれ、別に初対面ってわけじゃないよな?

 まあこうして話すのは初めてだからいいか。


〈今、この場にみんなに向かって話しかけています。聞こえますか?〉

「あ……ああ、聞こえている。そうか、頭の中に直接響くこの感じ……これが念話か……」


 どうやらノットは念話のことを知っていたようだな。

 あれだけ詳しいのだから当然と言えば当然か。


「へー、これがクロシュの声なんだ。よろしくね!」

〈はいディアナ。こちらこそ〉


 彼女も最初こそ戸惑っていたけど、すぐに慣れたようでいつものニコニコ笑顔で話しかけてくれる。


「……よ、ろしく」

〈ええ、それと昨日はお疲れさまでした。今後ともよろしく〉


 続いてレインから妙にぎこちなさを感じる挨拶を受け取ったので、とりあえず昨日の暗殺スライム狩りでの労をねぎらってみたが。


「……別に」


 どこか、よそよそしい気がする。

 普段は素っ気ないけど、もうちょっと素直に受け答えしてくれるんだけどな。

 ちゃんと会話するのは初めてだし、そういうこともあるか。

 あまり気にしないでおこう。


「クロシュさん、他の人とも喋れたんですか?」

〈これは、みなさんがモンスターを倒してくれたおかげですよ〉

「なるほど。つまりこれが『成長』したってことなのか……」

〈その通りです、ノット〉


 この子は話が早くて助かるな。


「他にも変化があるのか気になるところだが、こうして話しやすくなったのは丁度いい。なあクロシュ、さっきの質問だが答えてくれるか?」


 たしか、ミラちゃん以外も装備できるか、だったか。


〈この場にいる四人は全員、私を装備可能です〉

「え、そうなんですかっ!?」


 俺の言葉に一番驚いていたのはミラちゃんだった。

 あ、そうか。

 ノットと同じように、彼女も『自分だけが装備できる』と思っていたんだな。

 都合がいいからってそういう風に説明したのは俺なんだけど。

 だから、急に俺が真逆のことを言い出したかのように聞こえたんだろう。

 強力な専用装備を手に入れたと喜んでいたら、実は自分専用じゃないと判明したなんて……まるでネトラレみたいだ。大人になるって悲しいことなのか。

 これは俺でもショックを受けるだろうな。

 恐る恐る様子を見てみると。


「てっきり私だけなのかと……」


 ミラちゃんはホッとしたように表情を和らげていた。

 よ、よくわからないけど言い訳しておこう。


〈資格のある者だけが装備できるとは言いましたが、ノットたちに資格がないとは言ってませんからね〉

「その可能性を考えて私も装備できるかと聞いたんだが……まさか全員とは、予想外だったな」 

「私の勘違いだったみたいです。すみません」

〈い、いえ……こちらの説明不足でした〉

「しかし、そうでしたか……みなさんも装備できたんですね……」


 ああ、やはり傷付いただろうか。

 変な設定を作ったせいでミラちゃんを悲しませてしまったかと思うと、さすがに俺も胸が痛んだ。

 だが、続けられた言葉は。


「私だけしか装備できないのかと不安でしたが、安心しました」


 一瞬だけ、ミラちゃんがなにを言っているのか理解できなかった。

 でもすぐに思い出す。

 そうだったね……ミラちゃんは優しいんだよな。


「あー……ミラ、おまえは、その、構わないのか? クロシュを別の誰かが装備しても」

「え、どうしてですか?」


 まだ真意に思い至らないノットは不可解な顔をして、そんな彼女にミラちゃんも不思議そうな顔をする。

 見ればディアナも目を点にしていたけど、レインだけは静かに微笑んでいた。

 場も混沌としているし、俺から説明しておくか。


〈ノット、ミラは自分だけ装備できるよりも、みんなが装備できた方が嬉しいんですよ〉


 最初からミラちゃんはそうだったな。

 普通なら、高性能な装備を手にすれば喜んで使うだろうけど、ミラちゃんは自分にはもったいないと漏らしていたことがあるくらいだ。

 結果的には勘違いして……というか勘違いさせたから、使い続ける道を選んでくれたわけだけどね。

 じゃなきゃパーティの誰かに譲っていたはずだ。


〈ミラは他者を優先する心を持っています。ノットたちが私を装備できれば、それだけ危険性も減る、そう考えているのでしょう〉


 全員同時には装備できないですけどね、と付け足す。

 そうだったのかと俺の言葉に納得するノットとディアナ。

 レインも深く頷いていた。


〈ただしミラ、私から言わせて貰えれば、最も能力の低いあなたが装備するべきなんですけどね。……私自身もミラのその心には安らぎのようなものを覚えますし、あなたを護らせて貰いたいのです〉


 って俺はなにを言っているんだ?

 勢いに任せてしまったけど、なんだかむしょうに恥ずかしくなってきた。


「私……クロシュさんにそんな風に思って頂いていたなんて……」


 ミラちゃんは感動からか瞳を潤ませている。


 ひゅー、ひゅー、おんな、なかせー。


 あーやめて! 本当に恥ずかしいから!


 きし、みたいで、かっこ、よかったよー。


 俺が真に護るべきは幼女ですから! ミラちゃんはあくまで繋ぎですから!


 あなたを、まもらせて、もらいたいのですー。


 いひぃぃぃぃ!!


 こ、この幼女神……人の恥をなんだと思っているんだ。

 なんだか黒歴史として今後も弄られそうな予感がしてならない。

 とにかく、この話は終わりにしなければ!


〈で、ではノット、話の続きをお願いします〉

「……ん? あ、ああそうだったな」


 ちょっと唇を尖らせてすねたような顔をしていたノットは、俺の言葉にハッとして軽く咳払いをする。

 なんだろう。俺なにかしたっけ?

 気になるけど自分の恥をほじくり返しかねないのでやめておいた。

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