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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第4章「アーマード・布」
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でしょう!

「お待たせしましたクロシュ殿……クロシュ殿?」

「それほど待っていませんよ、ジル」


 城の一室に通されて僅か数分。

 広い城内を急いで来たのがわかるほど早く、第一皇子ジノグラフことジルが姿を見せ……そして固まった。

 俺も原因を理解しているので、ソファから立ってくるりと一回転する。


「どうです?」

「なんと言いますか……とてもお似合いで綺麗です」

「……でしょう!」


 さすがは皇子だ。本当の美というものを知っているな。

 そう、大天使ミラちゃんの着物姿……これを綺麗と言わず、なにを褒め称えると言うのか。俺も鏡で確認したけど、美の女神が降臨したのかと思ったぜ。


 生地の色は穢れのない純粋な白で、淡い水色の花模様があしらわれた着物は、聖女ミラちゃんのイメージを損なわないどころか清楚感を底上げしてくれている。

 本体である【魔導布】もアルメシアの助言に従い、洋風ローブから和服に合うよう白い羽織へと変えてみた。

 白に白を重ねるのはどうかと思ったけど、そのほうが黒髪が映えると強く言われたので押し切られてしまった感じだ。

 そんなわけで和風聖女ミラちゃんが誕生したのである。


「それにしても珍しい服装ですね。武王国に似たようなデザインがあったように思いますが……」

「これは友人から手作りでプレゼントされた物ですけどね」


 たしか武王国は、過去に召喚された勇者の影響が強いんだったか。

 前に上空を通り過ぎただけで、ほとんど滞在しなかったから気付くヒマもなかったけど、どこかで着物を売っていたのかも知れないな。


「あの……もしかして僕に見せるために着てくれたのでしょうか?」

「いいえ、少し用事が立て込んで着替える時間がなかっただけです」

「……そうですか」


 ギリギリまでアルメシアの着せ替え人形にされていたからね。

 本当は髪も結い上げようと弄られそうだったのだが、さすがに時間がかかりそうだったので遠慮して貰った。

 それで、まあせっかくだし今日はこの格好でいようかと開き直って、そのまま来てしまったわけである。


 ちなみにミリアちゃんと、できれば他にも何着か子供用の着物をアルメシアに頼んでみたところ、快く了承してくれた。

 特にミリアちゃんの黒髪はパレードの頃から目を付けていたそうだが、相手が貴族で接触が難しかったことと、まだ子供だったため興味の対象から少し外れていたようだ。

 つまり優先順位は、あくまで美しさで勝るミラちゃんだったわけか。

 俺だったら大天使ミラちゃんと天使ミリアちゃんのどちらかを選ぶなんて不可能だから、両方を選ぶけどね。


「ところで今日はたしか、遺跡旅行についての話でしたね」

「え、ええ、クロシュ殿から見た妹の……フォルティナの様子を聞きたかっただけでしたが、実はもうひとつお聞きしたい事が増えまして」

「とりあえずお聞きしましょう」


 ジルに呼び出される形で城に訪れているわけだが、その用件がこっそりフォルティナちゃんの様子を聞きたかったという辺り、しっかりお兄ちゃんしている。

 ジルは転生者だけど前世は前世、今世は今世で割り切っているみたいだ。

 ただ、他に同行していた護衛やメイドさんも大勢いたのに、なぜ俺から聞きたがるのかは謎だったが……まあ一番近くで観察していたとかだろう。


「実は昨日、妹が戻ってすぐに遺跡の正体について聞かされました」

「……魔王の軍勢ですね」

「はい。今はまだ大人しいそうですが、もし【怠惰】の魔王が復活すれば再び暴れだす恐れがあります。ただ僕と陛下は前にクロシュ殿から、復活の心配はいらないという言葉を聞いていますので……」


 要するに、なんか近場に魔王の軍勢が眠ってるし復活したらヤバそうだけど本当に復活しないの? 責任とか取れるの? ということだろう。

 さて……どう答えようか。

 いや、俺は大丈夫だと確信している。絶対に【怠惰】さんは復活しない。

 なにせソースは幼女神様のお言葉だからだ。

 しかし、それを説明するには幼女神様の信憑性がとても大事で、ぶっちゃけてしまうと信用してくれるか怪しい。


 となると、残された手は例によって聖女パワーによるごり押しだが……。

 いくら聖女パワーが万能でも、これほど大事な用件で、しかも転生者とは言え一国の皇子を相手に果たして通用するだろうか?

 たぶん皇帝にも報告が行くだろうし。


 いや、そもそも【怠惰】さんが復活しないことを証明する必要があるのか?

 どうせ復活しないのだから放っておいても……あ、ダメだ。下手をしたら遺跡が攻撃されてしまう。

 たぶんプラチナと、完全修復した遺跡ならビクともしないだろうけど、その戦力を重く見た帝国が本腰を入れてしまうと徹底抗戦になりかねない。

 その被害はどれほどのものとなるか……。


「そ、そうですね……説明が難しいのですが、そう、私の持つスキルによって知っていると言いますか」

「なるほど、クロシュ殿の……では安心ですね」

「ぇ……」


 どんなスキルなのかも説明していないのに、すでに納得しているだと!?


「陛下も僕も気がかりだったのですが、これで懸念がひとつ消えました。ありがとうございますクロシュ殿」

「えーと……はい、そうですね」


 まさか聖女パワーは、俺が思っている以上の威力を秘めていたのだろうか。

 もう催眠術か洗脳してるんじゃないかってレベルで信用されてるけど、俺にとっては都合がいいから黙ってよう。






 それから俺は本来の目的であった、旅行中の出来事をジルに教えた。 

 主にフォルティナちゃんを中心として、食事の席をミリアちゃんの隣にしようとラエちゃんと争ったり、ミリアちゃんと一緒の部屋で寝ようと事前の部屋割りを無視して抜け出したり、とりあえずミリアちゃんの近くに移動したり。

 俺はずっとミリアちゃんの傍にいたので問題なかったが、護衛の人が大変そうだったのは記憶に新しい。


「……もしかして、ご迷惑をかけましたか?」

「私はまったく平気でしたので、その気遣いは護衛騎士の方々にどうぞ」

「か、彼女らもそれが仕事ですから……」


 たしかに実際のところ苦労してはいたけど、嫌がってはいなかったな。

 単に俺の目に入る範囲では抑えてるのかも知れないが、フォルティナちゃんの護衛ってつまり皇女の側近で超エリートだし、むしろ喜んでいた可能性が?

 まあ部外者の俺が口出しすべきことじゃないな。


「私が大変だったのは、むしろ帰ってからですね」


 旅行から戻ってすぐにソフィーちゃんを筆頭に、アミスちゃん、ミルフィちゃんたちが揃って遊びに来たのだ。

 もちろん旅行の日程を知っていて、狙っての来訪である。

 実のところ、当初はソフィーちゃんも行きたがっていたけど、今回はフォルティナちゃんがミリアちゃんのために企画した旅行だと知って遠慮した経緯があったりする。とても良い子だ。

 

 とはいえ一緒に行きたかったことに変わりはないようで、その埋め合わせとでも言うかのように遊び倒した。楽しかった。

 そして今日のアルメシア来襲……からの現在だ。

 立て続けにイベントが押し寄せて休む間もなかったな。

 さすがに少し疲れてしまったが、しばらく急ぎの用事もないし、この後はミリアちゃんたちとのんびり過ごす予定だ。


「ところでクロシュ殿に依頼と言いますか、頼みがあるのですが……」

「……お聞きしましょう」


 とてつもなく嫌な予感がしたが、ここで話も聞かずに帰るワケにもいかない。

 もしや、これが狙いで俺を呼んだのか?


「すでにご存じでしょうが、フォルティナが皇女として勇王国へ向かうことになりました」

「それは旅行前に本人から聞きましたね。式典に参加するために使節団として派遣されるんでしたか?」

「はい、両国の友好を周辺国にアピールするという名目になっていますが……」

「実際は違うと?」


 急に不穏な話になって正直もう帰りたいが、フォルティナちゃんが関わっているとなると俺も無視はできない。


「まだ確証はありません。ただ調査員の報告によると、あまり穏便ではない噂がいくつかありまして」


 ジルの話では勇王国は恵まれた土地のようで、南北と東を海に囲まれているおかげで他国との争いも少なかったという。

 だが唯一、西側に地続きで繋がっている隣国とは関係が悪く、現在でも小競り合いが頻発しているそうだ。

 つまり勇王国が言う周辺国へのアピールとは、その国への牽制目的である可能性が非常に高い。


「調べたところ覇王国と呼ばれる侵略国家のようです。勇王国としては皇帝国との関係を強くしたいだけかも知れませんが、それを黙って見過ごすような国とも思えません」

「まさか式典を妨害すると?」

「妨害で済めばいいですが、皇帝国からやって来た皇女が何者かによって害されたとなれば、両国の関係は最悪になるでしょう」

「……そこまで理解して、なお参加するのですか?」

「あくまで可能性の段階ですからね。ただの杞憂に終わる可能性もあります」


 それなら、こうして俺に聞かせたりはしないだろう。

 本音では高確率で、なんらかの問題が起きると見ているワケで……。


「では簡潔に尋ねますが、私への頼みとはなんですか?」

「はい、これは皇帝国からクロシュ殿に正式な依頼です」


 長い前置きを終えて、ようやくジルは本題に入った。

 とは言っても、ここまで聞けば予想はできていたが……。


「フォルティナ皇女の使節団に同行し、式典に参加して頂けませんか?」

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