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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第4章「アーマード・布」
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何者かに攻撃を受けています

「直す? あなたが、ですか?」

「ええ、私になら恐らく直すことができますよ」


 いきなりだったからか、プラチナは意味を図りかねているようだった。


「あなたにメリットがないように思えます」

「いえ、実はひとつ頼みがありまして……問題なく直せたら、あのロボットを一体貰えませんか?」


 俺が考えているのは幼女神様の神託だった。

 この遺跡でなにかを目覚めさせ、それが後の世界平和に関わる戦いにおいて勝利のカギになり、しかし勝てるかどうかはミリアちゃん次第だという、あれだ。

 最初はプラチナだと思っていたけど、あのロボットの可能性も高い。

 できれば持ち帰ってミリアちゃんにプレゼントしたいところだ。


「それは……」

「このままだと、まともに管理することもできないのでは?」

「仰る通りですが……わたくしの一存で譲渡するのは……」


 この遺跡を管理するのが使命って感じだったし、勝手に判断できないのかな。


「あ、では借りるのはどうでしょう?」

「……返却されるのですか?」

「もちろんです」


 必要な時まで借りておいて、終わったら返せばいいだけだからね。

 そもそも保管状況を確認する人もいないんだから、ずっと借りっぱなしでも問題ない気もするけど。


「……あなたの提案を受け入れます。お願いできますか?」

「お任せください」


 こうして遺跡の修復作業が始まった。






 ひとまず入口になっている大穴を塞ぎに戻る。

 帰りについてプラチナに尋ねると、正面の大型ゲートが使えるらしいから問題ないだろう。

 今後、遺跡の調査ができなくなるけど、下手に踏み込んで防衛のためにプラチナが戦闘を始めたら大変だし、誰も入れないほうがいいはずだ。


「聖女殿、本当に直して大丈夫なのか? もし本来の力を取り戻して動き始めたら危険に思えるのだが……」

「本人が攻撃されなければ起動できないと言っていましたし、約束通りあれを貸してくれるなら信用してもいいと思いますよ」

「それならいいのだが……」


 皇女としてフォルティナちゃんは敵になり得るプラチナと、この遺跡に眠っているロボットの戦力を警戒しているようだ。

 俺は後ろから付いて来ているプラチナの様子、こっそり覗いてみた。

 ちゃんと直ったか確認してからロボットの貸与を判断したいそうだけど、俺の目には大事な物が直るところを見届けたいだけにも見える。

 俺が返すと言った時もまったく疑う素振りすらなかったし、正直というか純粋なんだろうな。

 たぶん問題ないだろうと、俺は判断して修復を始める。


「では、開始しますので下がっていてください」

「がんばってください、クロシュさん」


 ミリアちゃんの声援を受けて、俺のやる気がぐーんと上がった。

 よーし、いっちょやってみっか!

 世界中の幼女よ、俺に元気を分けてください!


「波ァッ!」


 俺が両手からスキル【修雷】による謎のエネルギーを放出すると、周囲に散乱してガレキがプラズマを纏ってふわりと浮き、パズルを組み合わせるように次々と結合していく。

 数十秒もすれば、ぽっかりと開いていた壁の大穴が完全に塞がっていた。


「どうでしょうか?」

「これは……完璧です。素晴らしい」


 壁に触れて確かめていたプラチナが、先ほどまでの無機質な瞳ではなく、僅かに熱の込められた視線を送って来る。

 そんなに見つめられちゃうと照れるね。


「他の破損しているところはどこでしょうか?」

「ご案内します。こちらです。足元にお気を付けください」


 床には段差もなければゴミひとつ落ちてない。

 元からお客様待遇で丁寧な対応だったけど、さらに恭しくなった気がする。


「ああ、そうでした。少し長くなりそうなのでミリアたちはどこかで休んでいても大丈夫ですよ」

「私はクロシュさんとご一緒したいですけど、フォルティナはどうしますか?」

「そうだな……どちらにせよ危険はなさそうだから、ここで護衛たちにも休憩を取らせたいところだな」

「では人間の休憩に適したレストアルームを提供します」


 レストアって機械を復元したりすることじゃなかったっけ?

 まあ休憩に適したって言ってるし、大丈夫だと思うけど。


「では私に同行する班と、休憩する班で分けましょう」

「聖女殿の近くにいれば安全だ。皆も遠慮せずに休んでくれ」


 フォルティナちゃんが指示を出すと、俺に同行する班はいつものメンバーになった。つまりミリアちゃん、フォルティナちゃん、ラエちゃん、ヴァイスだ。

 半分は俺に付いて来たんじゃなくて、ミリアちゃんが目的だけどね。


 他の護衛騎士や案内人はプラチナの案内で、広い部屋に通される。

 ぱっと見たところ真っ白な壁と床、白いソファやテーブル、白い照明と、清潔感はあるけど生活感が一切ないデザインだ。

 見た目に反して暖房が利いているのか、暖かい空気に包まれていたので休むだけなら十分だろう。

 どの辺りがレストアルームなのか不明だけど、たぶん隠れたギミックがあったりするんだと思う。


「では引き続き、破損個所にご案内します」

「お願いしますね」


 それから一時間ほど。

 俺たちはプラチナに先導されて遺跡内を歩き回り、様々な場所で崩れた壁や、落ちた天井、破裂したパイプなどなど、用途不明な物まで直しまくった、

 もう少しあっさり終わると思っていたけど、予想以上に破壊されている。すべて把握していたプラチナが俺の提案を受け入れたのも納得だ。

 これでは、とても管理しているとは言えないからね。


 ようやく九割ほどが修復できた。

 残るは遺跡の中央部に建つ、半ばからぽっきり折れた巨大な斜塔だけだ。

 大きさが大きさなので気合を入れて【修雷】を放ち、塔全体がプラズマに包まれて発光する。

 徐々にひしゃげた部分が本来の形へと……あれ?


「これで直った状態でしょうか……?」

「でもクロシュさん、先端の部分が大きく欠けていますよ」


 ミリアちゃんの言う通り、スキル【修雷】の効果は終わったのに、なぜか塔の先端が折れたように欠けているままだった。

 これはどうしたことだろう?


「師匠、先ほどから観察していましたが、師匠の修復する力はその場の残骸を利用しているようです。ですが残骸が存在しない場合……」

「欠けた状態で直るというワケですか」


 言われてみれば、今までは周囲のガレキが綺麗さっぱりなくなっていた。

 となると、この塔の失われた部分を探さないと直せないのだろうか?


「プラチナは欠けた部分がどこにあるか知りませんか?」

「……詳細は把握していません。ただ、当施設の周辺にはわたくしが管理していない施設が複数あります。それらはかつて攻撃を受けたことで破壊され、遺棄されたようですが、その際に共に吹き飛ばされた可能性があります」

「あの雪と氷に覆われたどこかに、ですか」


 マズいな。この展開は予想外だ。

 それを探して塔を直さないとプラチナも納得してくれないだろうし、ここまでやってロボットを諦めるのも悔しい。

 かといって広大な凍土から本当にあるかもわからない残骸を見つけ出すなんて、はっきり言って面倒臭い。

 どうしたものか……。


「とりあえず、どこか高い場所から見渡してみましょう」


 でかい塔の残骸なら、その大きさを保っているかも知れない。

 もし一目でわかる範囲にあれば【格納】で回収するだけだ。


「プラチナ、どこかいい場所はありませんか?」

「それは……認証――権限レベル五を確認――承認しました」


 誰かと会話している……というより通信している?

 ひとり言のように俯いて呟くプラチナだったけど、それも終わると不意に顔を上げて何事もなかったように話し始める。


「では管制室へご案内します」

「なんとなく重要な施設に思えるんですが、いいのでしょうか?」

「通常であれば許可しません。ですが、あなたは権限レベル五を有していますので特例として承認します。それに……管制室であれば発見できる可能性も飛躍的に上がると推測します」

「よくわかりませんが、それなら案内お願いしますね」


 楽に見つけられるなら、こっちとしても文句はない。

 ただ権限レベル五という今までの感じから上限に近そうなものを、なぜ俺が持っているのかが理解できないけど、おかげでプラチナも協力的だし積極的に利用させて貰うとしよう。


 そして数分後。

 これまでとは異なるゲートからエレベーターらしき装置に乗り込み、やがて到着したのは宇宙船のブリッジがイメージに近い、薄暗い部屋だった。

 まず正面の壁に大型モニタパネルと、それを囲むように複数のモニタパネルが配置されている。視線を下げれば周辺にはオペレーターが座るようなイスと、それぞれ専用のコンソールがいくつも確認できた。

 そんな部屋の中央には、艦長が座る立派な席がひとつ。

 やはり管制室とは、この遺跡の中枢部と言える場所のようだ。


「少々お待ちください。この部屋にある物には触れないようお願いします」


 見慣れない空間に戸惑っているミリアちゃんたちに釘を刺しつつ、プラチナは艦長の席ではなく、オペレーターの席へと座る。

 しばらく操作するように手を動かしていたら、正面のモニタパネルに光が灯って管制室内を照らす。

 モニタには真っ白な映像が映っているようだ。


「これは外の景色を映しているんですか?」

「その通りです……ご存じでしたか?」

「似たような物を知っています」


 まあ実際に見たことはないはずだから、ちょっと感動ものだ。

 しかし魔法の世界から、急にSFの世界に迷い込んだ気がするな。

 これらを所有していた【怠惰】の魔王って何者なんだ?


「現在、一定以上の質量を持つ人工物を検索しています。場所を割り出した後、マップに表示しますので、それまでお待ちください」

「凄い機能ですね。しかし、これなら初めからプラチナが操作して、結果だけ私に教えてくれれば良かったのでは?」

「わたくしだけでは、このシステムは扱えません。権限レベル五を有するあなたが同席するからこそ、一時的に操作可能になっています」

「管理者なのにプラチナは使えないんですか?」

「当施設を管理するだけなら不必要な機能です」


 本人が言うのなら確かなのだろう。

 今は問題なく塔の残骸を探せるんだし、細かいことはいいか。


「発見しました」

「おお、早いですね」

「攻撃を受けていたので目立ちました」

「……いまなんて言いました?」


 聞き間違いかな?

 そう思ってプラチナを見れば、彼女もこちらを振り向いてなにかを訴えかけるような声で繰り返した。


「塔のパーツが、何者かに攻撃を受けています」

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