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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第4章「アーマード・布」
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これは……巨大な、

 誰かに爆破でもされたのか不自然に空いた壁の大穴から、俺たちは遺跡へと入って行く。内部は通路のようになっていて、吹きさらしのせいか大穴に近い場所ほど雪が積もっている。

 奥のほうも壁が凍って薄白く染まり、天井からは小さな氷柱が生えていた。

 見通しは悪く、陽の光が届かない通路の先は真っ暗で明かりは必須だ。

 携帯型トーチという耀気機関で発光するライトを片手に、コツコツと硬い音を鳴らしながら進む。


 ちなみに、この場には俺とミリアちゃんたちの他、護衛として騎士が数名と、以前から遺跡を調査していた案内人が同行している。

 危険はまったくないそうだが複雑に入り組んでいる造りらしく、うっかり道に迷ってしまうと大変だ。

 吹雪が止んでいる時期とはいえ、夜になれば昼間以上に冷え込んで凍死する恐れすらあるというのだから、大人しく案内されたほうが賢明だろう。

 俺が近くにいれば問題ないけど、はぐれたら意味ないし。


 しかし……外観もそうだったが、内側も近未来的だ。

 鉄なのか、はたまた別の素材なのか、黒い金属の通路がまっすぐ伸び、ところどころで直角に曲がる。

 たまに開けっ放しの扉が確認できるが、覗いてみるとどれも四角い部屋があるだけで空っぽだ。

 中にあった物は調査中に持ち出されたのかと案内人に聞いてみれば、初めから部屋には、なにもなかったのだとか。


「この遺跡は、なんなのでしょうか?」


 つい口から出してしまうくらい、奇妙な場所だ。

 すると隣にいたミリアちゃんが答えてくれる。


「いつからあるのか、誰が建てたのか、それすらも伝わっていないんですよ。中を調べ終わっていないので今後は新しい発見があるかもしれませんけど、場所と時期の問題から長期的な調査ができなくて、なかなか難しいみたいです」

「詳しいですねミリア」

「はい、事前に調べておきました」


 修学旅行前に観光地についてネットで検索する感じだろうか。


「ミリアー、こっちは広いぞー!」

「今のはラエさんの声ですね……はーい、今から行きますよー」


 いつの間に先に行ったのかと周囲を見れば、むしろ俺たちが遅れているようだ。

 声がした通路の奥へぱたぱたと小走りで駆け出したミリアちゃんに、俺も急いで付いて行く。

 突き当りの扉を抜けると、ラエちゃんが言っていたように広い空間に出た。


「わはははー、こっちだぞミリアー!」

「おい、少しは落ち着かないかっ、まったく!」


 反響する声の出所を探れば、はしゃぐラエちゃんを追いかけて捕まえるフォルティナちゃんがいた。すっかり保護者のようになってしまったな。

 ふと気付けば隣にヴァイスがやって来た。


「師匠を置いて先行してしまい、すみません」

「気にしなくていいですよ。こっちが勝手に遅くなっただけですから」


 というよりフォルティナちゃんたちにヴァイス付いていてくれれば、俺は安心してミリアちゃんに付きっきりで護衛できる。

 こっちを気にせず、ぜひとも自由に動いて欲しい。


「それにしても、ここは他と違って本当に広いですね」


 改めて大広間とでも言うべき空間を眺める。

 床や壁の材質は相変わらずだが、少し雰囲気が違うようだ。どう違うのかと聞かれたら困るが、なんとなくデザインが違うのだ。床とか。

 あと壁だと思ったら横へうぃーんと開閉しそうな溝がある。巨大ゲートだ。

 ひょっとしたら、ここが出入り口なのか……そう思ったが他にも同じようなゲートが確認できる。なんなんだここ。


「ミリア、どうやらここで杖が発見されたそうだ」

「ここに螺旋刻印杖が……具体的には、どこにあったのでしょう?」

「案内人によると、あっちの台座に刺さっていたそうだが」


 そういえばミリアちゃんの杖は、この遺跡で見つかったアーティファクトって話だったな。

 だからこそ、こんな辺境までやって来たのだ。

 フォルティナちゃんと二人で杖が刺さっていたという台座を調べるミリアちゃんに、俺も声をかける。


「なにか、わかりそうですか?」

「えーと……まだ少し」


 台座に刻まれた文字にも見える溝を調べているミリアちゃん。まさか解読しようとしているのか。

 だが文字の他にも気になる部分がある。

 というのも台座の中央だけが四角く窪んでいて、周りとは違うつるつるした材質になっているからだ。

 そして杖が刺さっていたらしき穴が、上部にぽっかりと開いている。


「これは台座というより、なにかを操作する……」


 軽く触れてたり、トントンとタッチしてみても変化はない。

 単なる俺の思い過ごしか、あるいはスイッチ……電源が入っていないか。

 やはり気になるのは……。


「ミリア、杖を貸してくれませんか?」

「いいですけど、どうかしましたかクロシュさん?」

「ちょっと試してみたいことがありまして」


 言いながら受け取った杖を台座の穴に差し込む。

 これだけでは反応がない。まあ予想通りだ。

 持ち主の魔力を放つ杖の性質を考えれば、このまま魔力を流せば……。


 ――ヴゥンッ。


 前触れもなく台座の四角い窪み部分が唸りながら光を放った。

 とても久しぶりに目にする電子的な明かりだ。

 いや、動力は電気ではなく魔力の可能性もあるけど、この台座……コンソール的な物体から発せられる液晶パネルっぽい輝きは、実に電子的と言える。


「く、クロシュさん……台座が」

「この杖は鍵のようなもので、魔力を流すことで動くようですね」

「あ、だから杖に魔力を放出する機能が……えっと、でもそれだったら――」


 思い出すように考え事をするミリアちゃんだけど、今はこっちが優先だ。

 液晶パネルには見慣れない文字が表示されていたが、一緒に図形がいくつも並んでいる。一目で今いる大広間の簡易マップだとわかった。

 現在地が赤い点で点滅する親切仕様だ。

 そうなると壁際に表示されたアイコンは当然……タッチしてみる。


『格納ゲート開放にはレベル四以上の権限が必要です――認証中――権限レベル五を確認しました――承認――ゲート開放します』


 まったく読めないまま、目まぐるしく画面の表示が変化し、そして……。


 ――ビーッ! ビーッ! ビーッ!


 けたたましい警告音が大広間に響いた。

 何事かと驚いたみんなが周囲を見回している。ヴァイスは瞬時にレイピアを抜いて戦闘態勢に、遅れて護衛の騎士たちも武器を手にしていた。

 念のため俺もミリアちゃんの傍から離れないように注意していると、壁だった場所がゆっくりと動き始める。

 凍り付いていたのか、バリバリと破砕音を上げながら左右にスライドする二枚の巨大プレート。

 誰もが見つめる中で完全に開き切ると、そこには新たな道が出現していた。


「ひ、開いた……未探索エリアだ……」


 静まり返った中、誰かが呟いた。たぶん案内人だろう。

 この先になにがあるのか、気になるけど確認する前にみんなを集めて安全を確保しよう。






「まさか杖にこんな役割があったなんて思いもしませんでした」

「というより、これが杖の本来の姿なんだろう。杖ですらなかったわけだ」

「なんだー? ミリアー、行かないのかー?」

「もう少し待ってくださいねラエさん」


 ミリアちゃんたちがわいわい休憩している間に、俺とヴァイスは軽く周囲を見て回っていた。先ほどゲートが開いたことで遺跡に変化が起きてないかを調べていたのだ。とりあえず通って来た通路に異常はなかった。


「問題ない……となると、あのコンソールはやっぱり開閉しただけですね」

「師匠、どうしますか?」

「まあここで戻るワケにはいかないでしょう」


 どう見てもミリアちゃんたちは進む気満々だし。

 今までどうやっても開けられない、という認識だった扉が開いてしまったのだから、未探索エリアを冒険したい欲求は抑えられないだろう。


「安全を優先するのであれば我が先行しますが」

「……いえ、たぶん大丈夫ですよ」


 たしか幼女神様は、危険がないと言っていた。

 だからって完璧に安全というワケではない。あれはあくまで俺たちで対処できる程度の危険性しかない、とも取れるからだ。その辺の見極めが難しい。


 ただ少なくとも対処できない初見殺しのような罠はないだろう。

 そして幼女神様によると、この遺跡には重要な物が眠っているらしい。

 俺としては最低でも、それを見つけ出すまで戻ることはできない。


「ちょうどいい休憩になりましたし、そろそろ行ってみましょう」


 ここからは案内人も役に立たないので俺を先頭に、ヴァイスには最後尾に付いて貰ってゲートの先へと進む。

 トーチで照らし出された空間は、先ほどと同じくらいの広さがあった。

 小さなトーチでは壁際まで明かりが届かないため、歩いて隅から隅まで調べる必要がある。


 その途中、またしてもコンソールを発見した。

 おまけにひとつや二つではない。いくつものコンソールが一定間隔で規則的に並んでいるのだ。

 明らかに怪しいが、これが遺跡内のゲートや施設を操作する物だと判明した今、下手に操作するのは多少なりとも危険が伴う。

 そう説明した上で、俺はミリアちゃんに質問する。


「どうしますかミリア?」

「え、私ですか?」

「ここに来たのはミリアのためですからね。ミリアが試したいのであれば、危険があろうとも私が全力で護り切りますよ」


 答えは聞くまでもなかったけど、だからって勝手に動かすのは違うからね、


「クロシュさん、お願いしてもいいですか?」

「もちろんです」

「まあ、ここまで来て試さずには帰れないな」

「よくわからんが、やれやれー!」


 みんなも同意のようなので、遠慮なく杖を近くのコンソールにぶっ刺した。

 すかさず魔力を流して起動させ、そこに表示された内容を読み取る。

 謎言語の文字は読めないが、図形とアイコンの組み合わせから、ある程度の予想はできるとさっき理解したからね。


「やはりここのマップに……この並んでいるのはゲート?」


 どうやらゲートひとつに、コンソールが一台、割り当てられているらしい。

 つまり俺が操作するコンソールからは、ゲートをひとつ開閉することしかできない、なんとも効率の悪い仕組みになっていた。


 ともあれ暗くて見えないが、闇の先にはゲートがいくつもあったようだ。

 試しにアイコンをタッチしてゲートを開放する。


『六番ドック開放にはレベル四以上の権限が必要です――認証中――権限レベル五を確認しました――承認――六番ドック開放します』


 先ほどと同じように変化する画面……そしてゲートがゆっくりと開く。

 今度は左右ではなく上へとスライドするプレート。

 すると、これまでとは違う大きな変化があった。

 開いたゲートの先から、眩いほどの明かりが漏れているのだ。


「この光はいったい……」

「下がってくださいミリア」


 警戒しつつ、プレートが上がり切るの待っていると、徐々に別のものが見え始めた。光を遮るようにして、ゲートの奥になにかが立っている。

 やがて完全に開放されると、そこに屹立していたのは――――。


「これは……巨大な、ロボット?」

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