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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第1章「受け継がれちゃう伝説」
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もっと稼げー

「そっち行ったよ!」

「任せろ!」

「ミラ。ノットに援護」

「はい! アクアバレットっ!」


 息の合った連携で獣型のモンスターを撃破していく四人。

 現在いるのはダンジョンの3階層。

 まだまだ浅く、出現するモンスターも脅威にならない。

 彼女たちはすでに何度か潜っていることもあって、この辺りならかなりの余裕を持って対処できるようだ。

 ここまで来るのに、ほとんどダメージは受けていない。


 今回の目的は『安全』を確保しつつ『レベル上げ』をすることにある。

 通常なら数日かけて深層まで潜り、そこから引き返すため一度潜ればしばらく帰れないのがダンジョン攻略だったりするのだが、まだ情報が錯綜している現状での本格的な攻略は安全面に欠けてしまう。

 そこでノットが提案したのは最高でも5階層まで降り、ある程度のモンスターを狩ったら地上へ戻るという日帰りコースだ。

 本来であれば初心者の中の初心者、ラビット級の冒険者の取る選択であり、ある程度の腕になると効率を重視し始める冒険者たちには好まれない。

 だが裏を返せば、それだけ安全性が高い方法でもあるので今の俺たちにはちょうど良かった。


「これで……終わりだぁッ!」

「……よし、周囲に敵の気配はなくなった。お疲れさん」


 ディアナが最後に残ったモンスターを両断した。

 一瞬の間のあと、ノットの言葉にみんなが緊張を解いたところで……。 


 またレベルが上がったか。


 俺はすでにダンジョンに入って幾度目かのレベルアップを果たしていた。

 朝の時点ではレベル4だったのが、ここへ来てあっという間にレベル8へと到達した。じきに二桁に突入するだろう。

 ちなみにザコ相手なのによく上がるのは俺のレベルが低いせいである。


 順調、なんだよなぁ……。


 いいことだねー。


 うん、良いことだ……でも。


 でもー?


 ヒマだ。ヒマすぎる。ヒマヒマだ。


 ひまひまー?


 敵が弱過ぎて、俺が行動を起こすような出番がないのさ。

 もちろん安全を確保して戦うのが前提であるため、なにも間違っていないのだが、だとしてもみんなが戦っているのに傍観するしかないってのはヒマである以上に若干の心苦しさを感じてしまうものだ。

 以前の俺ならこうして気に病むこともなかっただろうけど、今の俺はミラちゃんたちに協力する仲間だからね。

 少なくとも、俺はそう認識している。


 でも、クロシュくんは、ぼうぐ、だからー。


 まあね。


 防具の役割は護ることにある。

 一方的に攻撃して殲滅できる相手では出番がないのも当然だ。

 最低でも彼女らが苦戦するような深層のモンスターか、暗殺スライムや例の悪魔型でなければ話にならないだろう。

 とはいえ俺の自己満足を満たすために危険は冒せない。

 結局のところ今の俺には、ただひたすら黙ってミラちゃんが大きく動く度に揺れるそれらを抑えるくらいの役割しかないのだった。


 まあ、なにはなくとも、ステータスくらいは小まめに確認しとくか。


 鑑定によって順番にみんなのステータスが表示される。

 すると、僅かな違和感があった。

 微妙にみんなの能力値が上がっている気がする。

 どうやらレベルが上がっていたようだけど、どこがどう変わったのやら。

 僅かにステータスが上昇したところで詳細に覚えているわけでもないし、レベルアップ前との比較なんてできる気がしない。

 みんなも順調に強くなっている、とだけ判断できたらいいか。


 強さといえば他の冒険者たちの強さも、ある程度は把握できたんだったな。

 昨日、店を巡っていた際にすれ違う冒険者たちをちょちょいと鑑定しておいたんだ。

 ただ野郎どものステータスなんざ見ていてもまったく楽しくないから、ほとんど事務的にやっていた気がする。おかげで細かい部分は覚えていない。

 その結果を述べるなら、能力値だけで評価すればミラちゃんたちは平均的な冒険者ランク『ウルフ』に相応しく、平均的な強さだった。

 でも、スキルを含めるならすでにワンランク上に近い実力を持っているだろう。

 これで装備をより良い物で整えられたら見違えるほどになりそうなんだが、パーティの経済状況からすると当分後の話かな。

 残念だが、しばらくはレベルを上げて凌いで貰う他にない。


 クロシュくんも、れべる、けっこう、あがったよねー。


 ねー。ぶっちゃけ剥奪の方が効率はいいけど。


 でも、れべるあっぷ、じゃないと、あれがねー。


 あれとはSPのことかな?

 4回のレベルアップを経て、現在はSP12まで貯まっている。

 ここで、よっしゃスキル取得だ! とならないのは単に悩んでいるからだ。

 すでに必要と思われる最低限のスキルは用意してあるから、今後のことを踏まえて慎重に選ぶだけなのだが、だからといって容易に捨取選択できるほどの度胸が俺にはないようだ。

 まだまだスキルは多いし、後になって別のスキルにしておけば……などと後悔したくないからな。

 臆病なくらいで丁度いいだろうという思惑もあったりして、最終的に俺は新スキルの取得を後回しにしていた。

 自分でも情けないなと思わなくもないけど、これは貯金でもある。

 いざという時には大放出するのだから構わないだろう。


 たしかにSPは貯まってるけど、スキルはもう少し様子見かな。


 なにー?


 いや、SPの話。レベルアップで……。


 違うよー。


 え?


 SPも、だけど、クロシュくんの、HPと、MPの、はなしー。


 そういえば【剥奪】でも、その二つは増えなかったな。


 クロシュくんの、のうりょくと、ぼうぐの、のうりょくは、べつだからねー。


 言われてみれば至極真っ当な理由ですな。


 スキル【剥奪】で奪った能力は、装備で得られる上昇値を強化できる。

 一方で俺自身のHPとMPはレベルアップでしか強化できないのだろう。

 HPは耐久力そのものだし、MPはスキルを使うのに必要不可欠。

 それに生命線であるスキルを取得するのに使うSPも貯められる。

 ……ふむ、そう考えると【剥奪】だけに頼ってはいられないな。

 別にレベル上げを疎かにするつもりもなかったが、これまで以上に力を入れる気構えでいようじゃあないか。


 なんて考えても、やることは一つもないんですけどね。


 たえるのも、また、たたかい、だよー。


 ほほう、至言ですな。眼からウロコが落ちますよ。


 てんりんが、いいなー。


 逆鱗です。


 お、おのれー。


「ここで5階目だな」


 などと戯れている間に5階層に到着したようだ。

 まったく代わり映えしないダンジョン内の風景に自分が何階層にいるのか混乱しそうになるけど、ノットは完全に把握していたらしい。

 予定では、ここで少しモンスターを狩ったら戻るんだったな。

 これまでの感じからすると特に問題はないだろう。

 そう思って、再び神様とイチャつこうとした……直前に。


 んんっ?


 妙な感じがした。

 例えるとすれば、視界の端に黒い物体が入り込んで、まさかと反射的に振り向いたら、さっと物影に隠れたソレを発見した時のような……。

 知ったからには落ち着けない。しかし正確な居場所がわからず迂闊に動けない。こちらから探すのも非常にイヤな感覚。

 要するに不快感でやばい。


 ねえ神様。なんなの、この、これ、なに?


 たぶん、さっち、かなー。


 スキルの【察知】か? これが?


 ということは近くに敵がいるはずだが、だとすると少しおかしい。

 ダンジョンに入ってからここまで何度もモンスターと戦っている。

 その際には何事もなく、敵の存在をなんとなくではあるが把握できていたから、それが【察知】の効果なんだと考えていた。

 間違っても、こんな二度と使いたくなくなるような感覚には陥らなかったのに。

 今回だけどうしてだ?


 しゅうちゅう、してみてー。


 もうちょっと具体的に。


 いやな、かんじは、どこから、するのかなー?


 この感覚の出所を探れってわけか。

 というか、それって気配や殺気を感じるって奴じゃないのか。

 やり方なんてまったくわからんけど神様のアドバイスだ、やらないわけにはいかないな。

 そうだ考えるな、感じるのだ。

 うむむむむむむむ……。


 少し進んだ先、かな? 頭の上がやけに気になる。

 もしかしたら……。


(ミラ、止まってください)

「え、あ、はい、どうかしたんですかクロシュさん」


 ミラちゃんが返事をして立ち止まったことで、他の三人も何事かと足を止めた。


(ここから少し先に進んだところの天井からイヤな気配がします)

「嫌な気配、ですか?」

(他のモンスターからは感じられないものです。恐らく例のスライムでしょう)


 俺の念話に驚いた様子のミラちゃんだったが、すぐに気を取り直して今の話をみんなに伝えてくれる。

 最初に反応したのは、やはりノットだ。


「私にはまったく感じられないな……半信半疑だったが、本当にあいつの気配がわかるのか……」


 気配を探ることに関しては、それなりに自信があったんだろう。ちょっと悔しげにしていたがやがて悟ったように微笑むと、流石だな、とだけ呟いた。


「それで、どうする?」


 珍しくレインから問いかけがあった。

 たしかに万全を期すならば、ここは他のルートを探すべきだが……。


「5階層にもアサライムがいるってことはさ、もしかしたらアイツもこの辺りに出てくるかもしれないよね」


 ディアナが懸念するように、そもそも暗殺スライムがここに出現すること自体が想定外だ。

 そして前回は、このスライムの襲撃があった階層よりも上層で悪魔型と出会ったことを踏まえると、同じ階層に奴が現れない保証はない。

 まあ実際に現れたら【察知】で不意打ちは防げるだろうけど、やっぱりあまり出会いたくない相手ではあるし、やはり引き返した方がいいだろうか。

 もう少しレベルを上げたかったけど、無理は禁物だな。


「あの、とりあえずアサライムだけでも倒しておきませんか? 前みたいにレインの魔法ならできると思うんですけど、どうでしょう?」

「場所がわかっていれば、できる」


 いつになく好戦的なミラちゃんに、心強い返事が後押しする。


「それでは、せっかくですし倒しちゃいましょうよ」

「この前の恨みもあるから私もさんせーい! ねえノット、いいでしょ?」

「別に反対したいわけじゃないんだがな。じゃあ手順を確認するぞ」


 そういえば俺もあいつには穴を開けられたからな。いい機会だ。

 同個体ではないけど、ただのやつ当たりだから問題ない。

 こうして憎きスライムとの思わぬリベンジが始まった。




 ゆっくりと、俺とミラちゃんは奴の下へと向かう。

 後ろからはレインが一定の間隔を保ちながら付いて来ていた。

 ディアナとノットは離れた場所で待機だ。今回は出番がないとの判断で、邪魔にならないよう退避して貰っている。

 ミラちゃんが一歩進むたびに、俺の中で鳴り響く警鐘が強くなる。

 すでに、目に見える範囲にまで接近していた。

 とはいえ天井に染み込んでいるせいか肉眼ではなにも発見できない。本当にいるのだろうかと不安すら覚える。きっとミラちゃんとレインも同じ気持ちだろう。

 しかし確実にいる。

 獲物を待ち構えるこの狩人は、攻撃を仕掛ける瞬間まで決して姿を見せないだろう。

 ここまで近付いて、ようやく理解した。

 先ほど感じていたイヤな感覚は、こいつが持つ殺気と、それを隠そうとすることで発せられる物だったのだと。

 武道の達人じゃないんだから俺には殺気なんてどんなものか知らないけど、ただ……隠された殺気とやらがこれほど気持ち悪いとは思わなかった。

 普通なら気が付かないから、これを感じられることはないんだろうけどね。

 俺からすれば迷惑でしかないので、さっさと終わらせよう。


(ミラ、あと5歩先です。いつでもどうぞ)

「わかりました。あと5歩先だそうです。レインさん、お願いしますね」

「私に任せる」


 すーっと息を吸い、ゆっくりと吐き出して心を落ち着けるミラちゃん。

 意を決したように一歩、また一歩と、足を進める。


 三歩。まだだ。


 四歩。まだ……。


 五歩。……来た!


「ウインドショット!」

 防護結界っ! おらぁぁぁぁッ!!


 レインの詠唱と、俺の心の叫びが同時に響いた。

 風の塊が頭上を吹き抜け、直後に降り注いだ液体がミラちゃんを覆う結界に弾かれ、バチバチッと音を鳴らして青白い火花を散らす。

 一瞬の沈黙のあと、状況を把握すべく風が吹いた先、壁を見てみると。


(上手くいきましたね)


 そこには、べっちゃりと貼り付いていた暗殺スライムが煙を吹きながら消滅する姿があった。


「やった! やりましたねクロシュさん」

(二人の協力のおかげです)

「私はなにも、それに実際に倒したのはレインの魔法ですし」

「タイミングがわかったから、楽だった」

(私もレインの狙いは正確なので安心して任せられましたよ)


 互いに褒め称え合っていると、ノットとディアナが駆け寄って来た。


「ミラ、ケガはない? 大丈夫だった?」

「クロシュさんのおかげで無事ですよ」

「思ったよりも簡単そうだったな……。使用したのはレインの風魔法が一発。これは低級のものだからMPにも余裕はあるか。クロシュの結界はどうだ?」


 今回は僅かな間だけの展開で、受けた攻撃の威力も大したことないからMPの消費は少なかったようだ。

 具体的には今ので消費MP2かな。


(問題ありません)

「ふむ、そうなると……いけそうか」

「じゃあアサライム狩り、やるの?」


 ディアナの言う暗殺スライム狩りとは、事前に打ち合わせをした際に、誰ともなくできるんじゃないかと考え付いたものだ。

 先ほど俺たちが行った作戦は非常にシンプルだった。

 パーティで最も弱いミラちゃんが囮となり、降りかかったところをレインが迎撃、飛び散る液体を俺が防ぐだけで消耗も少ない。

 しかも【察知】で居場所を特定できるため、レインは迎撃するタイミングが掴みやすくミスはないと考えていい。

 もはや必勝法と呼んでいい次元に達していた。


「こいつの魔石が多く手に入るのは珍しいからな。やる価値はあるだろう」


 前回の時、俺は見逃していたようだけど、暗殺スライムが消えた後には魔石が出るそうだ。

 というか魔石はモンスターを倒すと手に入る物だった。

 この魔石がなぜモンスターから採れるのかは未だに不明のようだけど、色々と利用価値があるそうで大きい物ほど高く売れるという。

 そして弱いモンスターからは小さな魔石が、強いモンスターなら大きい魔石が出るのだが、なんと暗殺スライムからは結構な大きさの魔石が出るのだ。

 さらに魔石には元となったモンスター毎に特色があるとかで、このスライムの魔石は希少価値が高いとノットは言う。

 簡潔にまとめれば、暗殺スライム狩りは儲かる。


「よーっし、このまま一気に狩り尽くしちゃおう!」

「油断はするなよ。あと、私たち二人は帰りのために体力を温存するぞ」

「行きましょうクロシュさん!」

「私も、頑張る」

(よろしくお願いします)


 それから、もはや脅威ではなくなった暗殺スライムもとい、お宝スライムを求めて小一時間ほど5階層をさ迷い続けた。

 悪魔型モンスターが現れる危険性についても検討されていたが、俺の【察知】があれば逃走するくらいは可能だろうと結論付けられている。

 安全が第一じゃないのかと理性が訴えるが、神様が、もっと、かせげー、と告げていたので仕方ない。

 アドバイス通りに狩り続け、この日はスライム6匹分の魔石を得られたので良しとしよう。

 おまけのようにレベルもいくつか上がったので文句なしの成果だろう。

 あのスライムって経験値も美味しいんだな。

 絶滅しないといいけど。

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