あらやだ
あけましておめでとうございます!
年始でも変わらず通常運転でやって行きます。
「クロシュおねーちゃんのキラキラ見せてー」
無邪気な声でおねだりされたら断れない。幼女の味方です。
サニアちゃんのリクエストなので、とびっきりのキラキラをお見せしたいところだけど、すでに俺よりサニアちゃんのほうが魔法が上手だ。
下手な魔法を披露しても幻滅されるだけだろう。
そもそも彼女の言っている俺のキラキラは魔法ではなく、転移陣を起動した際に発光する現象である。俺が使えるの水魔法だけだし。
じゃあ断るのかって?
無論、そんな選択肢は存在しない。
幼女の期待に応え、その笑顔を護るのも俺の役目というものだからね。
なので、ここは覚えたてのスキルを活用してみよう。
「いいですよ。では新しいキラキラですが試してみましょう」
俺が使うのは【聖域】という、結界系の複合スキルだ。
このスキルは常時発動しているタイプで、その名に相応しく邪悪な存在を寄せ付けない退魔の力と、内側にいる者を癒す力が備わっている。
それらの効果や範囲は、意識すれば思い通りに変更できるので、俺は範囲を数メートルに限定し、効果を最大限に引き上げた。すると……。
「うわー! キラキラだー!」
「上手くいきましたね」
サニアちゃんが喜んでいる通り、地面から謎の粒子っぽいキラキラが立ち上り始めたのだ。土そのものも仄かに明かりを放っている。
ちょうど範囲が円形なので、魔法陣に見えなくもない。
さらに【聖域】の効果で体が軽くなったように感じるし、ぽかぽかして非常に居心地がいい。このまま眠れそうなくらいだ。
「どうですかサニア?」
「うん! やっぱりクロシュおねーちゃんのキラキラが一番すごい!」
どうやら満足してもらえたらしい。
実は魔法じゃない、とは言い出しにくいけど……喜んでいるし、そんなのは些細な問題だろう。
でも俺も、もうちょっと魔法は練習しておいたほうがいいかな。
「ねえクロシュおねーちゃん……」
「どうかしましたか?」
元気いっぱいだったサニアちゃんが、ためらいがちに見上げていた。
急に何事かと心配になった俺は、屈んで視線を合わせる。
「あのね……今日はいっしょにあそべる?」
「ええ、そうですね。せっかく来たので少しだけ遊びましょうか」
「いいの!?」
「もちろんです」
本当は他に用事があったのだが、サニアちゃんが俺を気遣いながらも、こうして遊んで欲しいと訴えかけているのだ。無下にするなんて俺にはできない。
がんばってヴァイスが組んでくれた予定だが、少しくらい後回しでも構わないだろう。サニアちゃんと軽く遊ぶだけなら、そう時間もかからないだろうし――。
「やったぁ! みんなー! クロシュおねーちゃんあそべるってー!」
「ほんとー?」
「わーい!」
「あそぼー!」
まあ……そうなりますよね!
勢いよく友達のところへ駆けて行ってしまったサニアちゃんに、今さら訂正なんてできないし、仕方ない。
「えーヴァイス、すみませんが予定変更です」
「問題ありません師匠。滞在時間は長めに設定しておきましたので」
「なんと」
まさか、こうなると予期していたのだろうか?
ヴァイスだったらあり得るな。
ともあれ、それなら遠慮なく思いっ切り遊び倒してしまおう。
「では一緒に行きましょうか。ヴァイス」
「……我もですか?」
「見ているだけでは面白くないでしょう」
「しかし、求められているのは師匠です。我は邪魔になってしまいます」
「それを決めるのは……みなさーん、こっちのヴァイスお姉ちゃんも一緒に遊んでいいですかー?」
遠慮がちに辞退するヴァイスの背を押しつつ、子供たちに聞いてみる。
「だれー?」
「白いおねーちゃんだよ」
「あ、しってるー! きれーな人ー!」
「クロシュおねーちゃんのおともだちー?」
「うん、いいよー!」
「あそぼー!」
ちょっと人見知りをする子は戸惑っているけど、おおむね反応は良好だ。
「というワケですよヴァイス」
「り、了解しました」
珍しくヴァイスが困惑している様子を見せる。
あまり子供たちと関わったことがないから、どう接していいのかわからないのだろう。でも難しく考える必要はない。
「今日は布トランポリンをしましょう。ヴァイス、手伝ってください」
「はい」
説明しよう! 布トランポリンとは、その名の通り【変形】で魔導布を空中に張って、その上でぽいんぽいん飛び跳ねるのだ!
まず俺が纏っている白い布を大きく広く伸ばし、その先端を手頃な木に結んでしっかり固定する。仮にほどけても遠隔操作で結び直せるので安心だ。
これだけで、あっという間に布トランポリンの完成である。
「試しにヴァイス、乗ってみてください」
「わ、我が師匠の上に乗るのですか?」
「安全性の確認と、遊び方を子供たちに教えないといけませんからね」
「……了解しました。失礼します師匠」
おずおずと布トランポリンへ上り、俺の指示通りぽいんぽいんと飛び跳ねるヴァイス。そのジャンプは五メートルを超えている。
通常なら布を張っただけで、ここまでの反動は得られないだろうし、もちろんヴァイスの身体能力が特別だからというワケでもない。
これも【変形】スキルのちょっとした応用だ。
形状だけではなく、材質まで伸び縮みするゴムに似た性質を再現しており、布トランポリンと言いつつ本物と遜色ないクオリティなのだ。
兼ねてより使い続けた【変形】スキルは修練の果てに、ついにここまでの高みへと昇華されたのである。
「どうですかヴァイス?」
「これは、その……なんと言っていいのか」
「素直に思ったまま教えてください」
「……ただ跳ねているだけですが、不思議と気分が高揚します」
つまり心ぴょんぴょんカノンでテンション上がるほど楽しいと。
さっきから一度もやめようとしないから知っていたけどね。
心なしかヴァイスの白い頬にも赤みが差しており、無表情ながらもご満悦な表情に見える。
できれば続けさせてあげたいところだが……。
ただ一点、ヴァイスの【人化】形態は胸の発育が妙に良いので、あまり激しく上下に動かれると違うところもぽいんぽいんして目に毒だ。
気付けばルーゲインは露骨に目を逸らし、ゲンブはスーちゃんに両手で視界を塞がれていた。騎士たちは……何人か欲望に素直なやつがいるな。
遠くから視線を感じてそちらへ向けば、元襲撃者の異世界人たちが覗き見しているのが確認できた。
よし、止めよう。
「ヴァイス、その辺で十分ですよ」
「……そうですか」
しょんぼりした風に布トランポリンから降りるヴァイス。
心が痛むが次は子供たちの番でもあるし、ずっと跳ねさせてあげるワケにもいかないのだ。
俺は小さな子でも上りやすいように足場を【変形】で用意しつつ、ヴァイスに声をかける。
「今日は子供たちがメインですので、また次の機会に乗せてあげますよ」
「っ……ありがとうございます、師匠」
ヴァイスはものすごい勢いでこちらに振り返ったが、すぐになんでもないような澄ました顔で取り繕っていた。
あらやだ。ちょっとうちの子、かわいすぎません?




