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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第4章「アーマード・布」
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おっとっと

 屋敷でのんびりくつろいでいると、メイドさんがやって来た。

 どうやらノブナーガが俺を呼んでいるらしい。

 用件は予想できたので礼を言いつつ、いつものリビングへ向かう。


「やあクロシュちゃん。急に呼び出してすまないね」

「構いませんよノブナーガ。例の件でしょう?」

「ああ、すぐに動いたつもりだが思いの外……」

「なにか問題でも?」

「簡潔に言ってしまうと、どうやら夜逃げしたようなんだ」

「夜逃げですか……」


 誰がと言ったら、どこぞの商会長だ。

 スイレン商会に対して買収を持ちかけ、失敗したと見るや詐欺行為に走った愚かなやつである。

 この件をノブナーガに教えたところ、勝手に貴族の名を使うのは重罪だったらしく、即座に商会長を捕縛するよう騎士たちに指示を出していた。

 少なくとも投獄は確実なほど重いという。

 ついでに聖女の名も利用していたと言ってみたら、死刑確実になった。騎士たちの士気も高まり、大罪人を討ち取りに行く勢いで出撃したのは記憶に新しい。

 やはり帝国にとって聖女の存在は大きいようだ。


 だが、そんなノブナーガと騎士たちの奮闘も空しく、商会長は夜間のうちに帝都から抜け出していたようだ。

 出入りの際に記録が残るそうだから判明したらしい。


「クロシュちゃん本人と出会った時点で露見すると予想し、封鎖される前に脱出したようだ。記録ではこちらが動いた頃には、すでにいなくなっていたよ」

「ずいぶんと判断が速いですね」

「それだけ恐れていたか、予め用意をしていたか……どちらにせよ皇帝国中に指名手配されている。捕まるのは時間の問題だ」


 フラグかな?

 まあ帝都には間違いなく近付けないようだから、ひとまずは安心か。


「しかし商会長という座をあっさり捨てるとは思い切りがいいですね」

「商会は引き継がれて別人の名義となっていたよ。周囲は影響が少なくて助かるだろうが、その分ダメージを受けていない商会が、なんらかの支援をしたり、舞い戻って再び商会長の地位に収まる可能性もある。引き続き警戒はするつもりだよ」


 ただの衝動的な逃避ではなく、なにか思惑あっての夜逃げということか。

 まあ俺にできることはなさそうなので、あとはノブナーガに任せよう。


「では私は部屋に戻りますね」

「おっと、もう少し待ってくれるかなクロシュちゃん」

「まだなにか?」

「ミリアが冒険者ギルドに登録されていたんだが……」


 おっとっと、急に眩暈が。


「逃げなくても大丈夫だから、怒らないから戻りなさい」

「本当ですね?」

「理由次第ではあるけど、手間が省けたからね」


 以前、ミリアちゃんにせがまれて冒険者として登録したから、てっきりお叱りを受けるかと思っていたが、どうやら話は少し違うようだ。


「クロシュちゃんも聞いている通り、ミリアが旅行に出かけるだろう?」

「ええ、たしかフォルティナからの提案でしたか」

「それ自体は前からよくあることなんだが、今回は行き先がちょっと厄介でね」

「遺跡と聞いていますが」

「ああ、帝都よりも北に『永年凍土の大地』と呼ばれる土地がある。常に吹雪で閉ざされた名前通りの場所でね。そこにある遺跡だ。ちょうど今の季節になると寒気も弱まるが……危険がないわけじゃないんだ」


 ノブナーガによると観光に行くような場所ではないらしく、向かうには国に申請をして許可を取る必要があるという。

 もちろん普通なら観光目的なんて通らない。

 ここで冒険者の身分が役に立つ。


 帝国における冒険者は身分こそ高くないが、登録時に命の保証についてあれこれ記された宣誓書にサインをしている。

 つまりケガをしたり、死んだとしても、誰にも文句は言いません。という公式な誓約をするのだ。

 これにより冒険者は自己責任の下、あらゆる危険地帯への侵入が許される。

 つまり冒険者として申請すれば、魔の森だろうと、永年凍土の遺跡だろうとフリーパス状態というワケだ。

 ちなみにフォルティナちゃんだけだったら皇女特権で問題ないのだとか。あくまでミリアちゃんが行くのに必要らしい。


「それほど危険なところへ旅行なんて、少し心配ですね」

「危険と言っても、きちんと準備をすれば問題ないさ」


 皇女と侯爵令嬢の旅行だから、相応の備えがされるようだ。

 まあ、じゃあなかったらノブナーガどころか、ネイリィが許可しないか。


「そうよクロシュちゃん、私たちは心配なんてしていないわ」


 ウワサをすれば影……いや、していないけど出た。

 銀色の髪を片側でまとめ上げ、アイスブルーの瞳をした妖艶な美女。ノブナーガの妻にして、ミリアちゃんの母であるネイリィだ。


「だって、クロシュちゃんも一緒なんでしょう?」

「それはそうですけど……」


 あまり期待されてもプレッシャーだな。

 無論、命に代えてもミリアちゃんと護るつもりだが……。

 だけどそうだな、せっかくだしヴァイスも連れて行こうか。

 いざという時に、フォルティナちゃんを任せられる仲間がいると助かるし、そうしよう。ミリアちゃんたちなら同行も快諾してくれるはずだ。


 あとは返事が予想できるけど、こっちも話を通しておかないとな。

 早速、俺はメイドさんに頼んでヴァイスを呼んでもらいつつ、保護者側であるノブナーガとネイリィに説明して許可を得る。


「ふむ、彼女も同行するならより安心できるな」

「ヴァイスちゃんも一緒だったら怖いものなしね。悪い虫が付くような心配もないし、もちろんOKよ」


 二つ返事でOKが出た。

 なんというか最近になって気付いたが、実はこの二人、ヴァイスも娘のように扱っている。要するに甘い。激甘だ。

 例え護衛にならなくとも許可していただろう。

 その辺は俺に対しても同様なのが、ちょっとむず痒いところだ。


 少ししてやって来たヴァイスに事情を説明すると、こちらも即座に了承してくれたので遺跡旅行のメンバーは俺とヴァイス、ミリアちゃんとフォルティナちゃんの四人となりそうだ。

 いや厳密に言えば、護衛騎士や身の回りの世話をするメイドさんも同行するようだけど、あくまでメインは四人というワケだ。


 俺とヴァイスも護衛に含まれそうだが、ミリアちゃんが俺を誘ってくれたのは純粋に一緒に行きたいからなので、ちゃんと楽しまないとその気持ちを台無しにしてしまう。

 だから同時にヴァイスも単なる護衛ではなく、旅仲間と一員として楽しんで欲しいなと、俺は思うのだった。




 その後、夕食に食べたい物はあるか伺いにフォル爺が来たので、ここぞとばかりに俺は天ぷらをリクエストしておいた。

 きっとフォル爺なら、店よりも美味しいものを用意してくれるはずだ。

 そこでふと思い出したので、ついでに部下の軽薄男がヴァイスを口説こうとしていたと告げ口しておく。

 悪い虫は、早めに駆除しておかないと。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 作者さん、更新はお疲れ様です! えぇ、あの商会長、あんなにアホらしいやらかす方なのに、まさかこんな賢いかつ速いとは意外です!? ヴァイスさんにもっと親切しても良いですよ〜 ミリアさん両親か…
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