表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第3章「スーパー幼女大戦」
145/209

どうしてそうなったん?

 皇帝との会談から数日後。

 ようやく一連の騒動における慌ただしい事後処理がひと段落し、俺の周囲……主にノブナーガは落ち着きを取り戻した。

 そして最新の報告として、こんなことをノブナーガは言い出した。


「商家連合国の長である八の院が全滅したそうだ」


 先日、報復で城を吹っ飛ばした際に腰を抜かしていた老人たちのことだ。

 あいつらは商家連合を取り仕切る『八の院』なる組織であり、それが全員揃って暗殺されたのだとか。

 よっぽど恨みを買っていたのかな?


「クロシュちゃん……正直に話してごらん?」


 影が差す笑顔で追及されても、俺は本当に知らない。無実だ。

 たしかに処分しておこうか迷ったけど、あの時すでに【極光】の射線上から外れていたし、国の上層部がいなくなると下っ端が暴走するかも知れない。

 なにより放っておいても、もう召喚に関しては幼女神様から問題ないとの太鼓判を押して貰っていた。もはや脅威とは考えていなかったのである。

 加えて商家連合への対応は皇帝に任せるつもりでもあったし、殺人によって俺自身の魔王化が進行するというデメリットもあった。そっちは幼女神様が対処してくれるけど、だからって頼り切りっていうのは俺の信条に反する。

 ……あと、まあ他にも色々と思うところがあって、傲慢ジジイたちの処分は思い留まったワケだ。なので俺は潔白である。


「疑われるのは心外ですよ?」

「黙って首都ひとつ陥落させるお転婆さんには、当然の評価だろう?」


 それをお転婆で済ますノブナーガも、内心あまり気にしていなさそうだ。

 というか、これって俺の仕業なのか確認したかっただけかな?

 実際、そう疑われるだけのことをしたので仕方ないけど。


「しかしクロシュちゃんじゃなければ、誰がこのタイミングで動いたのか……」


 あんな奴らの末路なんて俺は興味ないので、カノンが淹れてくれたお茶を楽しむことにする。

 懸念があるとすれば、あの【傲慢】が未だに健在ということか。

 跡形もなく吹っ飛ばしたように見えたが、幼女神様によると本体は地下深くまで埋もれていたため、表面部を吹っ飛ばして大穴を開けても、やはり残骸から復活することに変わりはないらしい。

 まあ、その頃には【傲慢】を知る者もいないとの話なので、少なくとも数年や数十年での復活ではないのだろう。

 もし仮に、遠い未来で同じことが繰り返されようとしたら……。

 その時こそは、俺の手で愚か者どもを処分する。

 必要なら躊躇うつもりはないのだから。


 ……いや、だから、このすぐ処分したがる思考がよくないんだよ。


 そう思うようになったのは、ルーゲインが引き受けた異世界人の捕虜たちの様子を確認しに村へ行った時のことだ。

 順番としては、商家連合へ報復に向かうより以前の話である。

 あの村では現在、捕虜となった異世界人たち二十人が、貴重な労働力として活用されていた。

 仕事内容としては、それまで騎士が補っていた雑用が大半であり、具体的には炊事、洗濯、掃除といった家事全般だ。


 裏切りを心配する声もあったが、ルーゲインに抜かりはない。

 あいつの魔法には『テスタメント』なる誓約魔法があったそうで、これによって異世界人たちは、いくつかの行動を制限されている。

 この誓約を破れば、事前に取り決めた通りのペナルティが課されるワケだ。

 ちなみに内容は誓約書という文書にまとめられているが、穴がないようにルーゲインが定めたそうなので非常に細かく、俺も全容を把握していない。

 たぶん同意を得るために読まされた異世界人たちも、覚えられなかっただろう。

 まあ、裏切らなければ問題ないので、大して不満は出なかった。


 むしろルーゲインがひとりひとりに事情聴取したところ、それぞれ反省の色を見せているそうだ。

 元々、この異世界に召喚されたのも、子供たちと同じように元の世界で居場所がなかったのが理由である。

 そんな彼らが急にスキルを与えられ、身の安全も保障されず、まったく知識もない中で手を差し伸べられた。それが悪事とわかっていても、手を伸ばすのは仕方ない側面もあったとルーゲインは述べている。

 とはいえ罪は罪なので、それに対してルーゲインに甘い考えはない。

 ただ自身が犯した過ちを振り返ってなのか、罪を償う機会が与えられてもいいのではないか……というのがルーゲインの意思であり、それは俺や騎士たちにも頭を下げて頼み込むほどだった。

 異世界人たちの反省は、その熱い思いに応えようとした面も大きいようだ。


 するとマジメに励む姿を目にした騎士たちからは、相手が襲撃者であったにも関わらず不評は出なかった。

 これは村に被害がなかったことや、騎士たちに至っては戦闘に発展しなかったのも理由のひとつだろう。

 なお子供たちからすると、魔法から逃げ惑う面白おかしい姿を披露しただけなので、ちょっとした芸人扱いである。


 そんなこんなで意外なことに、あの村では良好な関係が築かれていた。

 異世界人たちは積極的に雑事に取り組み、騎士たちは他の仕事に集中できるようになって助かると感謝をする。

 そして騎士が仕事をすればするほど、ルーゲインの負担が減った。

 ひょっとして真の狙いはそこにあったのか?

 そう疑いつつも、結果として全体的に上手く回っているのだ。


 これで俺がルーゲインの立場だったら、さっさと異世界人たちを処分して、まるで以前と変わらなかっただろう。

 敵ですら取り込んでしまう手腕が、ちょっとだけ悔しい。

 ぐぬぬと思って、俺もすぐに処分するのは踏みとどまるようにしたのだが、あの老人たちに関しては結局、暗殺されてしまったので意味がなかった。

 付け焼刃でマネをしようと考えたのが悪かったのか。

 そう上手くはいかないらしい。


 一方で、処分しなければならない奴もいる。

 それは例のポーションと、遊戯盤の魔道具の出所である商人だ。

 しっかりした身分でなければ、直接フォルティナちゃんと面会できるワケがないため、フォルティナちゃんが指示すればすぐに捕縛されたらしい。

 やはり、その商人は黒だった。


 話によると以前から懇意にされていた御用達だったが、フォルティナちゃんから難しい品物を用意するよう指示されて困り果てたという。

 もし満足させなければ、今の地位を失ってしまうと考えたそうだ。

 そこで危険を承知でポーションと遊戯盤の魔道具を渡すと同時に、隠し持っていた別の魔道具からフォルティナちゃんに『狂化』を施したらしい。

 本来なら躊躇うような効果を持つポーションと魔道具だが、これにより正気を失ったフォルティナちゃんは満足して受け取った。

 商人の考えでは数日で『狂化』は解除され、残るのは商品を満足して受け取ったという事実だけである。

 問題は起きないと軽く見ていたらしいが……その後は、俺とミリアちゃんも知っての通りだ。


 以上のことから商人は、危険性のある品物を販売したことに加え、皇女に対して危害のある魔道具を使用した罪を問われた。

 あまり大事になると、そもそもの発端であるフォルティナちゃんにも責が及ぶと思われたが、彼女は被害を受けた側として処理されるようだ。

 これには被害者であるミリアちゃんの要望から、取り計らわれた処置らしい。

 俺も二人が悲しむ姿は見たくないので、なんら不満はない結果となった。


 ……しかし、そうなると疑問が残る。


 偶然にもフォルティナちゃんは嫉妬から危険なアイテムを望んだ。

 偶然にも商人は危険すぎる商品を用意して、『狂化』を施して売った。

 偶然にもポーションの危険性がラエちゃんによって判明。

 偶然にも俺はミリアちゃんの決闘に同席する。

 偶然にも同時刻に村が襲撃を受けて、俺は連絡が取れなかった。


 このことから村襲撃と、フォルティナちゃんとの一連のできごとは繋がっているように思えたが、すべて偶然が重なっただけだった。

 でも本当に偶然なのか?

 そうとしか考えられないけど、どこか薄気味悪さを感じる。


 しかし実際のところ、俺を音信不通の状態に陥らせただけで、村にはルーゲインとゲンブがいたおかげで心配はいらなかった。

 もっと言えば、それからすぐに俺は転移して駆け付けることもできたので、誰かの陰謀だったとしても、まったく意味のない作戦になっただろう。


 ……少し考え方を変えてみる。

 あの一連のできごとで誰が得をして、誰が損をしたのか。

 一見すると、村やミリアちゃん、つまり俺たちに被害が出そうになった。

 でも現実に損害をもっとも被ったのは……商家連合だろう。

 自業自得とはいえ、それは間違いない。


 結果として偶然そうなったワケだが……それも含めての偶然だった?


 ぐぬぬ、なんだか頭が混乱しそうだ。

 なんにせよ平穏無事に終わったことなので良しとしよう。

 こうして屋敷のリビングでのんびり、お茶を楽しめているのが証拠だ。


「うむ、ワタシも覚えたぞ! さあ決闘(デュエル)開始(スタート)だ!」

「ふっいいだろう……返り討ちにしてやる!」


 そんな声にテラスへ目を向ければ、そこでは無邪気に笑うラエちゃんと、不敵な笑みを浮かべるフォルティナちゃんがいた。

 テーブルの上には広げているのはティーセットとお菓子、そしてカードだ。

 その周囲では、すでにミリアちゃんがソフィーちゃんと、アミスちゃんがミルフィちゃんと決闘を始めている。

 さっきまでテラスでお茶会やってたはずなのに、どうしてそうなったん?


 いつもならフォルティナちゃんの部屋で行われるお茶会だけど、今回の騒動により皇帝から、発端であるお茶会謹慎の罰が言い渡されていた。

 さすがに皇女と言えど、お咎めなしとはいかなかったワケだ。

 とはいっても、こうしてミリアちゃんの屋敷で、ミリアちゃん主催のお茶会となれば、それに参加するのは問題ない。

 二人の仲も以前と同じか、それ以上に良くなっているため、また波風を立たせるのも良くないという皇帝の慈悲だろう。単なる親バカとも言える。


 そのお茶会が、気付けば決闘のバトルフィールドへと様変わりしていた。

 どこもかしこも激しい火花を散らせて、さながらスーパー幼女大戦だ。


「ワタシが勝ったらミリアと遊ぶのはワタシだからな!」

「約束は守るさ。だが、私が勝ったならお前には引いて貰うぞ!」


「こっちも、いいですわねミリア? 勝者がお姉さまを一日占有ですわ!」

「クロシュさんは誰のものでもありませんが……勝つのは私です!」


「私たちは、特にありませんね」

「……負けるつもりはない」

「ミ、ミルフィ? 今日はいつになく、やる気ですね……」


 みんな思い思いに楽しんでいる様子を見て、ふと思う。

 ……俺も参加したい。

 誰か……ノブナーガは却下として、ヴァイス……ヴァイスはどこへ? 俺だけ仲間外れは嫌だよ?


 ヴァイスがコワタと決闘しているのに気付くのは、その数秒後だった。










 とある庭園に似た、白い花園にて。

 奇妙な四人が顔を合わせていた。

 中央に設置された円卓に座る、その四人は『黒の虹』という。

 ひとつの目的の下に集まった秘密組織である。


「んーで? あの糞ジジイどもは消してよかったんだよな?」


 そう嘲るのは、獰猛な笑みを浮かべた赤髪の少女。

 名前を『プレイス・T‐44』と自称する彼女は、四角や丸、三角などの記号がデザインされたバトルスーツに身を包んでいる。ちょっと世界観がSF系で浮いているが、本人は気にしていない。


「もちろんよぉプレイスちゃん。初めから予定通りだもの」


 やたらと美声で答えたのは、金色の鉄仮面から瞳を覗かせる偉丈夫。

 彼は自身の名を『プリンプリン・サトウ』としているが、白いスーツを着こなしている姿からは想像もできない名前と口調だった。


「くふふ! 憎立(にくだ)たしい老人は欠けたティーカップと似ているよ!」


 続けて甲高い声で『ヘイヤ』が、周囲が理解できない言葉をまくし立てる。

 前の二人より常識的な名前の彼女だが、道化師の衣装とお面に、兎耳の飾りが付いたシルクハットを被った格好、そして頭の中身は、負けないくらい混然である。


「……これで、ひとつの『絶望』が成就した。オレたちの目的に近付いた」


 最後に小さく平坦に告げたのは、とても長い黒髪の少女だった。

 決意の表れである深紅の軍服に身に纏い、鋭い目つきからは言外に含まれる強い意思を感じさせた。

 彼女は名を『グラムリエル』という。

 三人のリーダーであり、この『黒の虹』を率いる者だ。


 彼女たちこそが『八の院』の老人たちを暗殺した犯人であり、また一連の事件において画策していた真の黒幕と言えるだろう。

 とはいえ、すべてが計画されていたわけではない。

 なにせ大部分はリーダーのグラムリエルですら把握していないのだから。


「しかしよぉ、ホントに上手く行くとは思わなかったぜ! うちの大将のスキルに勝てるやつなんているのか?」

「あまり期待し過ぎるのもダメよ。扱いが難しいんだから」

「運命を捕らまえる! それはボクらの手の平と甲に! くふー!」


 暗殺を実行に移したのはプレイスだったが、彼女は以前から狙っていた。

 しかし八の院は、常に結界により守られた区画から出ようとせず、臆病なまでに警戒していたことで未遂に終わっていた。それまでは。

 ある日、その結界ごと施設としての八の院は消滅した。

 残された老人たちを守るのは僅かな魔道具と護衛であり、それらはプレイスにとって存在しないも同義である。

 こうして暗殺を遂行したプレイスだが、これにはグラムリエルの力が大きく関わっていた。


「その通りだ。オレの【絶望】は対象を選べるが、制御が効かない。一歩間違えれば災いは自らに降りかかる」


 Sランクスキル【絶望】は、対象にあらゆる災禍を呼び寄せる。

 グラムリエルは以前から、このスキルを商家連合国という国家そのものに対して使用していた。

 その結果がどうなるのかは、使用者本人でもわからない。

 しかし数年もの月日を経ることで得られたのは、国家の滅亡である。

 具体的に、どうしてそうなったのかグラムリエルも知りえない。

 ただ、とても不幸な偶然が重なって、そうした結果を手繰り寄せたのだ。

 制御はできなくとも、その効果には絶対の自信を持つグラムリエル。

 だからこそ、それに巻き込まれることだけは避けるべきだと注意を促した。


「だけど……アレはマズいんじゃないかしら?」


 プリンプリンの懸念は、商家連合の首都を壊滅させた一撃だ。


「あ、うん、あれか……ええと、あれはダメだな」

「おお……わたしも、なんつーか、勝てる気がしねぇ……」

「うんうん! 君子はおウチで虎児を得られる! くふふ!」


 思わずグラムリエルは素直に頷き、プレイスも弱腰になり、ヘイヤは引きこもろうとした。


「それじゃあ、あの怖いのには手出し無用ということで」

「異議なしよ」

「ないぜ」

「くふー!」

「こほん、では次の目標だが……」


 こうして黒の虹の暗躍は続く。

 なぜなら彼女たちの最終目標は、この世界の破壊なのだから。

 その日が実現するまで、あるいは……止められるまで、黒の虹は終わらない。

という感じで三章も終了です。


ようやく本作のラスボスも登場しましたが

あまり敵っぽくならないかもですね。(曖昧)


とりあえず次話は三章に登場したキャラの紹介となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ