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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第3章「スーパー幼女大戦」
143/209

――これは天罰である!

 ――皇帝国にて会談が行われた時より、数日ほど遡る。


 自由商家連合国ヤッサム。

 その首都にある行政施設『八の院』の最奥部に八つの人影が浮かんだ。

 陰謀が渦巻く、その薄暗い広間に訪れることを許されたのはごく僅かな者のみ。

 すなわち、商家連合を統べる狡猾な老人たちだけだ。


「リヴァイアめが失敗したようだな」

「多少、目をかけてやったが、所詮はその程度だったということか」

「あれはあれで便利であったろうに」

「なに、最早あれに使い道はなくなっていた。今や我らの船に勝るものはない。なにより向上心はあったが、あまり増長されても困るからのう」

「左様。抜けた穴は、また増やして埋めればいい。その力が我らにはある」

「うむ……『傲慢』は不滅だ」


 皇帝国に送り込んだ強襲部隊が全滅した報せを受け取った八の院だが、それに対してこれといった感情を見せない。

 元より、それほど関心がなかったのだ。

 この老人たちに共通するのは利益の追及であり、それに伴う多少の損害は必要経費として割り切っている。

 だからこそ一度や二度の失敗では揺るがず、むしろ失敗したからこそ次の成功への布石とするべく謀略を巡らせる。

 それが利益にならない、あるいは百害あって一利なしと判断すれば、感情を抜きにして即座に手を引くほど徹底するからこそ、これまでの成功があったのだ。

 故に問題はなかった。


「しかし『傲慢』は破損したままだ。あまり悠長に構えてもいられんぞ」

「なに、次はもうない。なにも焦ることはなかろう」


 異世界より勇者を召喚する『傲慢』と呼ばれるモノ。

 ほんの数週間前。何者かが重要区画にまで侵入し、これを破壊するべく襲撃を仕掛けた結果、その機能を停止させられてしまった。

 この影響で異世界召喚は滞り、警備担当だった者たちが大量に処分されるほどの失態である。


 しかし、それも過去の話だ。

 今では八の院を守護する彫像型の魔道具『聖域の守護天使』の効果範囲を拡大することで、誰も手出しできない状況に置かれた。

 破損していた箇所についても『傲慢』は自動修復機能を有している。例えバラバラの欠片にされようとも、時間はかかるだろうが、やがては元通りとなる。

 今回の場合、一月もすれば機能は回復するという見込みだ。

 やはり問題はなかった。


「それよりも、皇帝国の動きはどうなっているのだ?」

「捕虜となっているかは情報が掴めんが、これも捨て置いていいだろう。例えなにを吐こうとも、我らはそのような者たちを知らぬのだからな」


 召喚者たちは後ろ盾もなく、元々この世界に存在しない者たちだ。

 リヴァイアに至っては、航海士として一時的に雇っていただけであり、書類上では何年も前に辞めたことになっているので今では無関係。

 そして後始末として随行させた正規兵だが、それぞれの顔や名前を知っているのは商家連合国の上層部だけであり、外部から調べるのは不可能だった。

 なによりも情報の重要性を理解しているからこその対応だ。

 仮に誰かが口を滑らせても、その者はスパイである。そう処理されるだけだ。

 商家連合が差し向けた刺客だとする証拠は、どこにもない。

 それでも通常ならば言い逃れは難しい状況なのだが、貿易を一手に引き受けている優位性から、決して関係が悪化するような追及はされないと踏んでいる。

 これも問題はなかった。


「となれば、あとは件の村とやらの扱いか……」

「あまり放置もできんが、こうなると厄介なこと極まりない」

「なに、次は戦闘に特化した者を召喚すれば良い」

「いよいよ次の段階に進める時ということか」

「左様。これまで戦力の確保は二の次であったが、すでに地盤固めは盤石となった今だからこそ……そうは思わんか?」

「賛成する」

「同じく賛成しよう」

「良いだろう、賛成だ」

「では『傲慢』の機能が回復次第、始めるとしよう」


 魔王の名を冠するそれは、異世界より勇者を召喚するとされている。

 召喚された者は次元の狭間を渡る際にスキルを獲得し、強制的に世界の法則に染め上げられることで、通常よりも強い能力を宿す傾向があった。


 役に立つのなら勇者だろうと、ただの人間であろうと使う。

 そうでなければ不要と売り払い、使い終われば用済みとして処分する。

 人を道具のように扱う、犬畜生にも劣る愚劣な行為……。

 それは、まさしく『傲慢』の所業であった。


 なぜ、そんなモノを老人たちが所有しているのか。

 それは、かつて自由商家連合国が、国という形を成すより遥か昔のことだ。


 この地には魔導国と呼ばれる、魔法大国があった。

 世界には危険な魔物が蔓延っており、いくつものダンジョンが発見されていく中で求められたのは異端とも取れる戦力……異世界の戦士である。

 誰が発端となったのかはさておき、魔導国は異世界より召喚した戦士たちを勇者と称して祭り上げ、魔物による災害を食い止めることに成功した。

 勇者召喚の国として魔導国には世界中から惜しみない称賛が送られ、永きに渡る栄光が約束されたはずだった……。

 それから百年後。

 突如として現れた【怠惰】の魔王によって滅ぼされるまでは――。


 さらに百年もの時が流れる。

 忌み嫌われた亡国の地も忘れ去られ、新たな国が興るまでに至った。

 それこそが打ち捨てられた異世界召喚の『傲慢』を発掘し、その存在を秘匿し続けてきた自由商家連合国である。

 ただ八の院の老人たちも、それが『傲慢』と呼ばれている由来を知らない。

 もし理解していれば、二度と使おうとは思いもしなかっただろう。

 どちらにせよ、扱いを改める機会は訪れない。


「次に勇王国へ要求する優遇措置の具体案だが……っ!?」

「な、なんだ、この揺れは……!」


 前触れもなく八の院は、その建物ごと地面が激しく揺れた。

 僅かに灯っていた照明が消え、飾られていた絵画や彫像といった美術品が次々に投げ出され、テーブル上の書類に混ざって床に散らばる。

 どれも高価であったり、あるいが重要なものばかりだ。

 しかし、それを気にする者はいない。そんな余裕はない。

 足下が失われたかと思うほどの振動に老人たちは恐怖に見舞われ、何人かは腰を抜かしていたのだ。そうでない者も身動きが取れずにいる。

 まるで大地震にも似た揺れだが、この地域では弱い地震すら滅多に起きない。

 故に、これは問題だ。


 ようやく揺れが収まる頃には、誰もが動揺から時間の感覚をマヒさせていた。

 ほんの数秒だったか、数十秒は続いたのかも定かではないだろう。


「い、いったい、なにが起きた……?」


 商家連合の頂点に座する老人たちは、多くの人材を動かす立場の者として相応の胆力、強靭な精神力を持っていたが、所詮は温室育ちの商人である。

 身の危険を感じた途端、最初に心へ浮かぶのは保身だ。

 だが安全な場所はどこかと考えれば、それは信頼できる魔道具によって強固に守られた『八の院』であり、だからこそ他に逃げ場など考えられない。

 しかし、その安全性が否定されれば、あとに残るのは不安だけである。


「落ち着かんか! この八の院の守りは鉄壁だ!」

「さ、左様、たしかに『聖域の守護天使』が健在である以上……なっ!?」


 自分に言い聞かせるような言葉と共に、外の様子を窺った老人は絶句した。


「どうした? なにを呆けて……待て、ど、どこだ?」

「ば、馬鹿なっ……『聖域の守護天使』はどこへ消えたのだっ!?」


 本来であれば八の院を囲むようにして四方に建てられた美しい天使の像が、その広間からも望めるはずだった。

 それこそが老人たちが最も頼りとする魔道具であり、あらゆる攻撃を弾き、侵入者すら防ぐ、大型結界の要である。

 加えて今は、前回の侵入者があってから投入する魔力量を増やすことで効果範囲を引き上げており、より広範囲を覆う結界となっていた。


 だというのに、商家連合の象徴でもあった彫像がどこにも見当たらない。

 それはつまり……八の院を守護する者がいなくなったことを意味する。

 故に、これは大問題だ。


 だが……そんなものは序章に過ぎない。

 これは傲慢なる者たちにとって、悪夢のような極大問題の始まりなのだから。

 やがて、ひとつの宣言が商家連合国に暮らす者たちの脳内に直接響いた。



『――これは天罰である!』

この後なにが起きたのかをクロシュ視点から始める予定でしたが

上手くまとめ切れなかったので、短いですがここで一度切ることに。

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