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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第3章「スーパー幼女大戦」
142/209

本日の目玉商品は

 フォルティナちゃんとの決闘(デュエル)騒動からの、商家連合による村襲撃のあれこれ発生より、早くも一週間が経っていた。

 その間、色々あって忙しかったな……。

 まあ大半の面倒事はルーゲインとノブナーガに放り投げて、俺はサニアちゃんや他の子供たちの心のケアに努めていたけどね。

 絶対安全だったとはいえ初めての戦闘だったのだ。なにかしら過去の恐怖や、トラウマ的なのを呼び起こしてしまったとしても不思議はない。


 そこで俺はアニマルセラピーを期待して、コワタを連れて行ってみた。

 うん、ちょっとした騒ぎになったね。

 コワタがあまりに、もふもふだったのが悪い。

 あまりの人気っぷりに心なしかコワタが痩せた気がする。

 さすがに少しかわいそうだけど、番犬代わりのはずが最近すっかりペット扱いだった。屋敷でおやつを食べて寝てを繰り返す怠惰な生活を送っていたので、ちょうどいいダイエットになったことだろう。


 というか、思ったより子供たちが元気だった。

 もっと襲撃された恐怖だとか、戦いの後遺症とか懸念していたけど、そもそも本人たちは率先して村を護ろうとしたみたいだし……そんなものだろうか?

 あるいは攻撃を受けていたら違ったのかも。

 でも実際は、ずっと遠距離からの魔法ばかりだったし、ゲンブのスキルで護られていたおかげで危険は一切感じなかったらしい。

 むしろサニアちゃんに聞いたら、次はルーゲインぐらいキラキラした魔法を使えるようになると、そのキラキラを瞳に溢れさせていたほどである。

 いったいどこまで強くなるつもりなのか、将来が楽しみだ。


 他にもちょっと遠出をしたり、なんやかんやあったけど……。

 まあ、概ね解決したことなので、俺の心も実に晴れやかで気分爽快だった。




 そうして楽しい日々を過ごしていた俺は現在、帝都の城にある一室で、皇帝ウォルドレイクと対面していた。

 ふかふかソファに座る皇帝の隣には、第一皇子ジノグラフも同席している。

 公式な会談の場ではないため緊張した雰囲気はないが、さすがに父である皇帝の目があるためか、真面目な顔を保ちながら皇子はこちらに視線を送っていた。


 一方、俺の隣にはノブナーガと……反対側に恐縮し切ったリヴァイアだ。

 なぜこいつがいるのかと言えば、このリヴァイアこそが本日の主役になるからである。当人も了承済みのはずなのだが、なにやら緊張しているらしく背筋がピンと伸びていた。権力に弱いタイプか。


 すでに皇帝には、ノブナーガを通して一連の事態を報告してある。

 ただ商家連合の船を襲って子供たちを救出した件は、説明すると面倒だったのでノブナーガと相談した結果、都合良くばっさりと割愛した。

 なので報告内容は以下のようになっている。


 商家連合は密かに異世界人を召喚していた。

 その中から幼い子供を、奴隷として他国へ輸出しようとしていた。

 だが子供たちが逃亡したところを、偶然にも聖女(俺)が保護する。

 事実が明らかとなり、商家連合はすべての証拠隠滅を図るも失敗。

 襲撃の実行犯であるリヴァイアを捕虜として、今に至る。


「なお、自由商家連合国が子供たちを追跡できたのは、保護した子のひとりが身に着けていた髪飾り型の魔道具が原因でした」


 改めての報告に、ノブナーガが情報を追加して補足した。

 これは後日になってから判明したことだ。

 なぜ商家連合が村の場所を特定できたのかはリヴァイアすら知らず、なにか仕掛けがあるのではと綿密に調べたのである。

 すると、サニアちゃんと特に仲の良かった幼女が身に着けていた髪飾りから、定期的に微弱な魔力波が出るのを発見した。

 周期はおよそ六時間おきという、注意深く観察していないと俺もルーゲインもゲンブも、誰もが見逃してしまうほどの隠密性能だ。

 細かく【鑑定】していたら偶然にも見つけられて良かったよ。



『放たれる悪意の華』(Cランク)

 空へ向けて装備者の魔力を打ち上げる花型の髪飾り。

 対となる『呼応する悪意の手』は、この魔力の位置を特定できる。



 その幼女……エミュちゃんは船に乗せられる前に、この髪飾りを誰かから貰ったことだけ覚えていた。

 彼女はサニアちゃんと同じく、俺が救助した十人のひとりである。

 以上のことから恐らく一回目の時……つまりゲンブが子供たちを救助したことで警戒した商家連合が、罠を仕掛けていたのだと推測できた。

 魔道具を使い捨てにするなんて贅沢な使い方だと思うが、商家連合というだけあって、この手の魔道具は数多く保有しているらしい。

 加えてリヴァイアすら知らされていなかった辺り、あの『八の院』とかいうジジイたちは裏切りも想定していたのか。よっぽど用心深かったようだ。

 まあ、もう魔道具は破壊したことだし、それは終わった話である。

 それより今は戦後処理の話だ。


「うむ……事態は把握しておる。皇帝国としても軍の不法入国、戦闘行為、さらには奴隷売買の件についても厳しく問い質さねばなるまい」


 だが、と皇帝は続ける。


「口惜しいが、決定的な証拠は残っておらんのだな?」

「仰る通りです陛下。捕虜に関しても、知らぬと言われて終わりでしょう」

「となれば……迂闊に動くべきではないか」


 下手をすれば帝国内が荒らされ、侵略されかねない行為にも関わらず弱腰な発言をする皇帝。

 皇子がなにか言いたげだが、黙って成り行きを見守っていた。

 密かに視線を向けて来るので、ここからの展開を予想しているのだろう。

 なぜかリヴァイアにも、ちらちらと視線が向いているのは謎だ。


「陛下、ここからが本題になります」

「ノブナーガよ、それがお主が同席している理由か?」

「これは彼女からの提案であり、私はあくまで仲介役に過ぎません」

「ふむ……」


 こうして場を設けた意図を知らされていない皇帝は露骨に訝しむ。

 国のトップに対し、打ち合わせもなしに提案なんて普通はあり得ないそうだ。

 会談するなら、その用件などは事前に伝えられておくべきで、それへの返答を検討した上で形式的に行われるのが本来の在り方らしい。

 しかし、そこは聖女パワーによって内密の話があると伝えたら、あっさり通ってしまったのである。

 あまり情報が漏れないようにしたかったとはいえ、よく受け入れてくれたと思っていたが……。


『クロシュちゃんからの言葉なら、皇帝陛下も無下にできないからな』


 などとノブナーガは悪い笑みを浮かべていた。

 どうやら俺は、まだまだ聖女パワーの威力を軽く見ていたらしい。

 悪用すれば大変なことになりそうだが、ノブナーガはあくまで俺のために動いてくれているワケだし、いざとなったら俺にそんな座を明け渡した皇帝の自業自得だとして、徹底的にシラを切る所存である。


 ともあれそんな感じで、この会談は聖女により要望された場となっている。

 そして皇帝はこちらの要望に応じてくれたが、フタを開けてみればノブナーガが同席しているどころか、変な青髪男まで付いている状況だ。

 何事かと警戒するのも当然だろう。

 それを言ったら皇子がいるのも、俺には理解できないのでお互い様だけどね。

 今のところ口を挟んで来る様子はないが、どちらにしろ俺もノブナーガにお任せしている状態なので支障はなさそうだ。

 できれば最後まで任せてしまいたい……。


「まず私から聖女クロシュに代わり彼女の意思を申し上げますと、自由商家連合国との関係は今後一切すべてを断ち切り、国交を断絶すべきとのことです」

「……正気で言っているのか?」


 はっきりと断言したノブナーガに、皇帝はさらに怪訝な目を向ける。

 耳を疑うのはわかるが、あの国はダメだ。

 国民は別としても上層部が腐っていたから、将来にも期待できない。なにより異世界誘拐ありきで成り上がった国だから、それに依存している。さっさと縁を切ったほうが身のためってやつだろう。

 もちろん、そう簡単にはいかないのも理解している。


「無理は承知ですが、皇帝国の未来を考えれば私も彼女に同意です」

「……続けよ」

「今はまだ発展途上である商家連合国は資金稼ぎに注力していますが、物流を抑えられている関係上、いずれは政治にも介入して来るでしょう。いえ、すでに水面下では動いていると考えていいでしょうが……それが表でも無視できない影響力を持つまで、そう時間はかからないかと」

「それは言われずとも理解しておる。だからこそ別ルートから勇王国と取引ができないか模索しておったのだ。知らんとは言わせんぞ?」


 問題となっているのは、皇帝国は海の向こうにある商家連合を挟み、遠方にある勇王国との貿易に依存していることだ。

 そして、この貿易を成せる国家が商家連合の他に存在しない。

 これだけで、どちらが有利なのか子供でもわかるだろう。


 現に当初は適正だった輸入品の価格も、あれこれ理由を付けて徐々に釣り上げられているそうだ。

 もしこれで貿易を止められでもしたら、帝国内はパニックに陥ってしまう。

 とはいえ、そこまで行くと商家連合としても取引相手がいなくなってしまうだけなので、いきなり全面停止とはならない。

 ただ段階的に規制され、ゆっくり締め上げられるとノブナーガは予想していた。

 勇王国も似たような状況だとも言っていたかな?

 もちろん、それらの危険性を予見していた皇帝は、かねてから独自の貿易ルートを開拓しようと尽力していたが……現在まで成果は出せていなかった。


 具体的には、航海術が全面的に劣っているのが課題だという。

 元より海路を使っての貿易など考慮していなかった過去の帝国は、商家連合が台頭してからは自国の技術向上に着手するも、やはり一歩も二歩も遅れていた。

 これが、もっと小さい船であったり、あるいは勇王国へ向かうだけならば及第点を得られたが、大型船となると未だに安全面が保証できていない。

 そして万が一にでも貿易船が沈めば、それまでの計画がすべて頓挫するほどの大損害を被る。今後は数十年に渡り、帝国製の船で貿易を試みることはできなくなってしまうだろう。

 つまりは失敗を恐れて慎重になりすぎていたようだ。


「陛下。我々が訪れたのは、まさにその点です」

「ほう?」


 さて、そろそろか。

 ノブナーガの目配せから、俺は自分の出番が来たことを察して口を開く。

 あまり得意じゃない場面だが、これも巡り巡ってミリアちゃんたちのためになると思えばこそ……精一杯の虚勢を張るとしよう。


「陸路では魔の森に阻まれ、迂回すれば武王国から続くいくつもの国が壁となってしまい、頼りの海路は商家連合国でなければ渡れない……でしたね?」


 ここからは商品のアピールタイムである。

 本日の目玉商品は、こちらのリヴァイアさんです。


「ではもし、その海路を使えるとなれば、どうでしょう?」

「まさか……クロシュ殿には可能なのだろうか!?」

「それを解決できるのが、ここにいるリヴァイアです」


 紹介されて、さらに背筋を伸ばすリヴァイアに皇子が苦笑していた。

 ……あ、そういえば船でリヴァイアと敵対したんだっけ?

 どうりでさっきから気にしているワケだ。

 まあ、それをこの場で指摘すれば、皇帝にも黙って潜入していたのを自供するようなものなので、少なくとも会談中は大人しくしているだろう。

 ひとまず皇子は無視して続ける。


 そこから俺はリヴァイアの経歴と、その有用性について語った。

 元々は商家連合で船乗りとして働いていたリヴァイアは、スキルの関係から船のサイズに関係なく、荒波でも問題なく航行できる能力を持っている。

 加えて帝国から商家連合、そして勇王国までの海図がリヴァイアの頭に入っているのだ。少し手を加えれば現実的な貿易ルートを開拓できるだろう。


 とはいえ信用がなければ、それらの情報は無価値となってしまう。

 なにせ一度も失敗は許されないのだから、信用は大事だろう。

 なので聖女の推薦として太鼓判を押し、おまけに正体がインテリジェンス・アイテムと明かせば、リヴァイアの評価はさらに上がった。

 普通なら人間ではないモノなんて信用されにくいだろうけど、この帝国に限って言えば伝説の【魔導布】さんが幅を利かせているので反転しているそうだ。

 むしろ人間より信頼できる相手という認識らしい。

 まあ、中には悪者もいると釘は刺しておくけど、今回はそれがプラスに働いた。


「まずはリヴァイアと使節団の方々で勇王国を視察とでも称して訪れ、そこから取引について申し出てはいかがでしょう? あちらも商家連合を通さなくて済むのであれば、喜んで受けてくれるはずです」

「ふむ……とはいえ、急には難しいだろうな」

「もちろん、初めからなにもかも変える必要はありません。最初の一回が成功してから検討して貰っても遅くありませんし、動かせる船の数から計算しても、しばらくは商家連合との取引も必要でしょうからね」


 最初は一隻しか動かせないから、取引回数が少ないだろう。

 だがリヴァイアが他の船員に技術と知識を教えれば、どんどん数を増やし、最終的には今までの貿易を遥かに越える船の往来が可能となるはずだ。

 商家連合との関係を絶つのは、それからでも遅くない。


 それならば、と皇帝は納得したように理解の色を示した。

 俺は俺でノブナーガ考案の計画が上手く進みそうなことに一安心する。

 実のところ、なんとかリヴァイアを船で使えないかとノブナーガに相談を持ちかけたら、あれこれ質問を重ねて有用性を見出し、最終的に商家連合との関係を絶ち切るまでには至らなくとも、力関係を変えられる構想を練ってくれたのだ。

 ノブナーガとしても、あの国については憂慮していたのだろう。

 ただ皇帝を説得するには俺の聖女パワーが必要だったとかで逆に頼まれてしまったワケだが、俺としては大歓迎な計画だった。

 リヴァイアの雇用先が見つかり、皇帝には恩も売れて、さらに商家連合へ経済的な仕返しができるのだから文句はない。


「ですが陛下、それを商家連合国が黙って見過ごすとも思えません」

「解っておる」


 ここで皇子も会談に参加して来た。

 見方によっては商家連合に与しているとも取れる発言だが、前に本心やら内情を吐露されてからは、この皇子が味方であることを疑っていない。

 それに事実として、いずれ商家連合もこちらの動きに気付き、なんらかの妨害工作に打って出る可能性は高いだろう。

 いずれは冷戦になってしまいかねない。


 ノブナーガは折衷案として、独自の貿易を続けながら商家連合からの輸入を今までの半分に抑え、誠実な取引を求めるよう牽制するのが無難だと教えてくれた。

 手間を考えると、完全な国交断絶というのは不可能に近いワケだ。

 だから実のところ、俺はそこまでの措置は、初めから皇帝に対して期待していなかった。本気でやるなら自分の手でやるつもりだし。

 しかし……。


「ちょうど良い機会だ。信用できる者が集まっている今、この場で話すとしよう」


 そう切り出した皇帝は、重々しい声で語り始める。


「我が皇帝国には、代々の皇帝にのみ語り継がれるひとつの言い伝えがある。それは、あの魔王に関するものだ」

「魔王ですか?」


 まさかの言葉にドキッとするが、たぶん俺は関係ないだろう。


「およそ二百年前、突如として現れた魔王については誰もが知っていると――」

「すみません。私は歴史に疎いものですので、詳しく願いできますか?」

「む、言われてみればクロシュ殿は目覚めたばかりであったか。ふむ……」

「陛下、僕から話しましょう」

「そうだな、頼む」


 説明役を買って出た皇子による、おとぎ話が始まった。

 曰く、二百年ほど前のことだ。

 帝国の東にあったという魔導国が、突如として現れた魔王軍により滅ぼされてしまった。

 それを皮切りに当時の勇王国までもが侵攻され、他国も必死に抵抗したものの歯が立たず、やがて世界を巻き込むほどの戦乱に発展したという。

 結果として、なんとか討伐された【怠惰の魔王】だが、いずれ復活するという予言が広く知られているらしい。

 誰が倒したのか、誰が予言したのかは不明で、しかし内容だけは失われないように伝えられたことから、意図的なものだと考えられているようだ。


 それを聞いていて、ふと思い出した。

 【怠惰】さんの名はミリアちゃんの屋敷で呼んだ歴史書と、幼女神様から聞いた話でも登場していたはずだ。

 あまり深く気にしていなかったが、だんだん身近になってしまったな。魔王。

 こっちは【強欲】さんなので、【怠惰】さんとは関係ないと思いたい。


「それで、その魔王についての言い伝えとは?」

「うむ……復活の前兆を伝えるものと言っていいだろう」

「ち、父上、もしかしてそれは……!?」

「……魔王が復活するのは近いやも知れぬ」


 皇子が思わずといった感じで普段と同じ口調で問いかけたが、それを些細なことのように敢えて咎めず、皇帝は神妙な顔付きで結論を明かした。

 隣を見ればノブナーガも言葉を失っているし、リヴァイアは……事態をよくわかっていない様子だ。

 正直、俺も魔王と言われてもピンと来ていないが、あのチートスキル【強欲】と同等のスキルを持ったやつが暴れるなら、それは大災害に違いないだろう。

 たぶん魔獣事変の、さらに酷いものだと認識すれば合っているはずだ。


 ……しかし待てよ?

 【怠惰】さんについては幼女神様が前に教えてくれた。

 あれは城塞都市で再会し、魔王についてネタばれしていた時だ。

 覚えている範囲だと、俺の【強欲】を含めて四つの魔王は大丈夫という話で、そして【怠惰】は百年後だと言っていたはずでは……。


 そうだよー。


 じゃあ【怠惰】さんが復活する予兆は気のせいだった?

 念のため確認してみよう。


「ちなみに、その言い伝えにある前兆とはどのようなものなのですか?」

「うむ、具体的には詩のようなものだが、その一節に記されておるのが『異界より喚び出されし者、傲慢なる愚者たちに反旗を翻し、怠惰なる目覚めを得る』という内容であったのだ」

「なるほど……商家連合国の異世界人召喚に符合しているわけですか」


 そう言ってノブナーガは顎に手を当てながら考え込んでいたが、すぐに顔を上げて皇帝へ向き直る。


「もしや陛下は、以前から商家連合国が召喚を行っていたことをご存知で、魔王の復活を危惧されていたのでは?」

「……もはや隠す必要もないだろうな。その通りだ」

「父上!?」


 どういうことだ?

 前に皇子から聞いた限りでは、皇帝は異世界人の奴隷売買は知らないし、仮に知っていても動けない。だから独断で動いていたはずだ。

 まあ皇子の驚きようからすると俺を騙したワケではなく、本当に皇帝は知らないと思い込んでいたってところだろうか。


「ジルよ。お前が裏で動いていたのも余は知っておったぞ」

「い、いつからですか、父上……?」

「お前に関しては初めからという他ないが、商家連合国の動きであれば、恐らく同じ時期から把握していたぞ。余の手駒にも優秀な者がいるのでな」


 唖然とする皇子を置いて、さらに続ける皇帝。

 要約すれば以前から商家連合の異世界召喚を察知しており、しかし物的証拠も得られずに非難することもできず、魔王が復活するのではと警戒していたそうだ。


 ちなみに、どうやって情報を掴んだのかと言えば、先ほど皇帝が手駒と言っていた通り、スパイを送り込んでいたらしい。

 工作員を送り込むのは基本だとかなんとか。

 さっきは商家連合が軍を潜入させたことに憤慨していたが、こっちはこっちで似たようなことをしているので、実際のところお互い様だな。


「話を戻すが、そういった理由から商家連合国に対して圧力をかけるには、クロシュ殿の提案はありがたい。貿易ルートを確保さえすれば勇王国と連携し、異世界からの召喚を食い止めることも不可能ではないだろう。それでもなお応じる姿勢を見せなければ……聖女殿が提案された通りに動くとしよう」

「なるほど」


 いざとなったら本気で国交断絶……いや、この分だと異世界召喚を止めるために武力行使も辞さない気迫を感じた。

 すでに、そこまでの覚悟ができている皇帝に俺は敬意を表する。

 黙っていても良かったが、少しは心労を取り除いてあげてもいいだろう。


「では私のほうからも、二つ良いことを教えましょう。まず【怠惰の魔王】とやらについてですが、これが復活するにしても、あと百年は安全です」

「……聖女殿、それは、いったいどういう?」


 面食らったようで言葉に詰まる皇帝は無視して、俺は続ける。


「それと商家連合は、しばらくまともに機能しないでしょう。今のうちに勢力を削ぐなり、なんなり……動き出したほうが良いかと」

「クロシュちゃん、私も理解できないのだが詳しく説明してくれないか?」


 いきなり事前の打ち合わせになかったことを言い出したので、ノブナーガも戸惑いながら追及してきた。俺を素で呼んでいるから、内心かなり焦っていそうだ。


「いえ、魔王については証拠もないので、信じなくとも構いません。ただ商家連合に関してはじきにわかると思うので安心してください」


 よく考えたら幼女神様の存在を証明できないし、証拠もなしに百年後に復活するから放っておいていいよと言われて、はいわかりました、とはならんだろう。

 考えなしに発言するんじゃなかったと軽く後悔しながら、俺はこの会談でするべきことを終えたので、そろそろお暇することに決めた。

 これ以上は長居すると、どんどんボロを出して台無しにしかねない。


 そして話にまったく付いて来れていなかったリヴァイアは、このまま残して行くことになった。

 きっとすぐにでも出番があるのだろう。

 ぜひ、こき使ってやって欲しいね。




 商家連合の首都が、天から降り注いだ天罰によって壊滅状態に陥った、という報せが皇帝に届いたのは、この翌日のことだったという。

誤字報告機能の便利さを知って驚きました。

途中まで使い方を勘違いしていましたが。

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