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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第3章「スーパー幼女大戦」
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しるぶぷれー

 俺たちの前に、二十人にも及ぶ襲撃者たちの首が並べられていた。

 ……いや、まだギロチンで処刑したワケじゃないよ。

 単に逃げられないよう首から下を地面に埋めただけだ。ゲンブに頼めば、それくらいは一瞬である。


 本当は全員を生け捕りにするつもりはなかったんだけど、ラエちゃんやゲンブたちが律儀に手加減していたし、なによりミリアちゃんと【融合】中であることを思い出した。

 あんなやつらの血でミリアちゃんの手を汚すなんてあり得ない。

 まあ、その代わり逃げる気力がなくなるまで痛めつけてやったけどね。


 そうして子供たちの魔法を受けたり、捕縛する際のごたごたによって負傷していた生首たちだが、命に別条はないので死にはしないだろう。

 中には髪の毛が燃えてちりちりになってしまった者もいたが、命に関わらないのであれば治療はしない。

 どうせ、そう長くはない命だ。

 それを悟ってか、口を塞いでもいないのに誰もが黙り込んでいた。

 静かなのはいいことである。


 ちなみに生首たちを埋めている場所は、村の外側に位置している。

 これを子供たちに見られると、さすがに教育に悪そうだったからね。

 ついでに騎士たちにも指示を出して、魔力を消耗して疲れていた子供たちを宿舎に戻し、寝かしつけて貰っている。

 本当ならとっくにオヤスミの時間だよ。


 その際サニアちゃんのところで、なにやら一悶着あった。

 俺が【融合】を解除してから様子を見に行くと、どうやら俺に会いに行こうとして騎士たちに止められていたようだ。

 そこで俺は後日、時間を取って会うと約束して撫でてあげたら、サニアちゃんも眠そうな目をしながら納得してくれた。

 幼女との大切な約束だ。決して忘れないようにしよう。


 そんなワケで、この場にいるのは【融合】を解除した俺とミリアちゃん。

 相変わらず黄色い全身鎧のゲンブと、鎧を脱いだいつものスーちゃん。

 ミリアちゃんの隣を陣取って楽しそうなラエちゃん。

 そしてルーゲインと……。


「まだ生きていたのですね」

「…………」


 嵐の竜ごと消し飛んだと思っていた、ぬるりひょんである。

 ルーゲインが魔法で簀巻きにして連れて来ただけで、まだ詳しい事情は聞いていないが、ゲンブはなにか知っているのか、これといって口出しする様子はない。


「それでルーゲイン、それをどうするつもりなのですか?」


 改めて俺はルーゲインに尋ねる。

 わざわざ連行したのだから、なにかしら意図があるのだろう。

 ぬるりひょんを倒した当事者であり、村長という面倒事を押しつけているルーゲインだ。なにか提案があるなら断るのは忍びない。

 ただ俺としては、ぬるりひょんを生かしておく理由がない。

 あるとすれば【簒奪】の糧にするか、あるいは埋めているやつらと一緒に情報をすべて吐かせるくらいで、さっさと処分したい所存である。


「クロシュさんのお怒りはごもっともです。僕も理解しています。彼らが行ったことは到底、許されない行為でしょう」

「そうですね。しかし貴方には、なにか考えがあるのでしょう?」

「冷静な判断ありがとうございます」


 恐る恐る、探り探りといった様子でルーゲインは言葉を重ねる。

 面倒なのでさっさと話して欲しい。


「まずは彼……リヴァイアについてですが、彼の精神状態が以前の僕と似たような状況にあったことを報告します」

「戦闘中に話していましたね」

「聞こえていたのでしたら、すでに察しているかと思いますが、リヴァイアは目的と手段を見誤り、暴走していたと言っていいでしょう」


 それは以前のルーゲインが、転生したインテリジェンス・アイテムを救うことばかりに目が向いてしまい、他者の犠牲を厭わないようになったのと同じか。


「先ほど二人で話をしましたが、ようやく彼も冷静に自分を見つめられるようになったようです。やはり心の底から敗北を認めさせたのが良かったのでしょう」

「それで、結局どうしたいのですか?」


 前置きが長いので、急かすように問いかける。

 するとルーゲインは、意を決したように口を開いた。


「彼を許さなくても構いません。ただ、僕と同じようにやり直す機会を、彼に与えて欲しいのです」


 いやまあ、なんとなく予想はしていたけどね。

 だからこそ、さっさと話せと思っていたワケで。


「一応、確認しますが、なぜ私に聞くのでしょうか?」

「それはもちろん、この場において彼の処遇を決められる権限を持っているのがクロシュさんだからです」


 村長という肩書のルーゲインだが、あくまで村の管理をしているだけで、あの土地そのものについては俺がノブナーガから任されている。

 わかりやすく言えばオーナーと、雇われ店長みたいなものだ。

 なので村を襲って来た犯罪者をどうするかは、俺の意思ひとつで決められるワケなのだが……。

 ちらりと周囲を見回す。


「私はクロシュさんの判断に委ねます」

「よくわからんが、ワタシもミリアに賛成だ!」

「あー、俺とスーは、こういうの決められる立場じゃないっていうか……」

「う、うん、そうだね」


 俺に任せてくれるミリアちゃんと、とりあえず同意するラエちゃん。

 ゲンブとスーちゃんは、こっちに振らないで欲しいと言わんばかりにルーゲインに同意するようなことを言い出した。

 どうやら反対する者はいないようだ。

 本当に俺が決めていいみたいだけど、改まって選択を迫られると、つい色々と悩んでしまう。

 みんな拷問して情報を吐かせたら処分します!

 ……安易にそう言ってもいいのかな?

 ミリアちゃんたちに考えなしだと思われるのは嫌なので、少し考えてみる。


 選択肢のひとつとしては、こいつらを今回の実行犯として帝国に突き出し、その流れで黒幕の商家連合に対して圧力を加えられたら、とは思う。

 だが、それだけでは弱い。

 トカゲの尻尾を切るように、そんな奴らは知らん、などと言い逃れされたら終わりだ。決定的な証拠がなければ帝国側も強くは責められないだろう。

 なにより俺はもう、その程度では済ませられない。

 済まさないと決めていた。

 そうなると捕虜なんて意味はないし、だからこそ処分するのが手っ取り早く終わっていいとすら考えてしまう。


 ……いや、それ以前の問題として、俺自身がこいつらを許せない。

 ルーゲインの時は、インテリジェンス・アイテムに転生した幼女をも救おうとしていたと判明し、思い留まった俺である。

 もし、それがなければルーゲインはとっくに次の転生を果たしていただろう。

 つまり……こいつらを生かしておく理由が見当たらない。


「お待ちを」


 俺が裁定を下そうとしたところで、ルーゲインが口を挟んだ。

 見計らったようなタイミングだな。


「言い忘れていましたが、実はこのリヴァイアは召喚された子供たちを、守っていた側面もあるのです」

「……どういう意味ですか?」

「これは子供たちからも証言を得ており、本人にも確認しましたが、彼は奴隷として運ばれる最中の子供たちのために、色々と手を尽くしていたそうです」


 詳しく聞くと、元々は奴隷売買に反対していたこと。

 子供への暴力を防ぐため見張りを徹底させたこと。

 牢という劣悪な環境を改善していたこと。

 そんな都合の良い話ばかりが次々に飛び出して来る。


 だが子供たちからの証言もあるのなら、きっと真実なのだろう。

 そして、その情報は俺に効く。


「では……こう言いたいのですか? その男は本心から加担していたワケではないため情状酌量の余地があると」

「クロシュさんのお気持ちが許すのであれば、お願いしたいですね」


 こ、こいつ、涼しい顔で言いやがる……。

 さては初めから、こうなるのを予想していたな?

 これでもなお、強情に許さないなどと突っぱねたら、心の狭いやつだとミリアちゃんやスーちゃんに思われてしまうかも知れない。


 なによりも……ちょっとリヴァイアとやらを見直している俺がいる。

 あまりに単純すぎて自分を殴りたい。

 でもミラちゃんの顔を殴るなんてとんでもない!


「あ、ひとつ確認ですが、その男が裏切らない保証はあるのですか?」


 ルーゲインの時は勢いも手伝って、なんだかんだで大丈夫だったが、毎回そんないい加減な判断では、さすがにマズいだろう。

 油断したところで寝返ったりしたら、ちょっと大変なことになってしまう。


「その点でしたらご安心ください。僕のスキルをお忘れでしょうか?」

「……ルーゲインのスキルと言えば、まさか『白』ですか?」

「付け加えるなら、彼は初めから『白』でしたよ。少しやり方を間違えてしまっただけなんです」


 たしか【浄眼】だったか。

 このスキルを通して見ると、相手が善人か悪人かを色によって識別できる。

 もし本当にリヴァイアが『白』だというのなら、たしかに裏切る可能性は低いだろう。後々に事情が変わったりしたら、どうなるかは読めないが。

 どうりで正義マンのルーゲインがやたら肩を持つワケだ。


「それでも不安でしたら、他にも手段は用意していますので、どうか寛大な処置をお願いします」

「……わかりましたよ」

「では?」

「そこまで言われては私もダメとは言えません。ただし……いくつか本人に尋ねてからです」


 なんかもうリヴァイアに対する怒りは、ほとんど失せちゃったし、ルーゲインが責任を持つみたいだから、俺の中でリヴァイアはどうでもよくなりつつある。

 それでも、確認だけはしておきたい。


「貴方はルーゲインの言葉通り、反省して罪を償う意思があるのですか?」


 問われたリヴァイアは、それまで伏せていた顔を上げて、しっかりと俺の目を見てから答えた。


「ああ、もちろんだ。私も今でこそ、こうして落ち着いているが、なぜあれほどまで高い地位を欲していたのか、出世することに執着していたのかが、急に分からなくなってしまった……。それでも迷惑をかけてしまったことは理解している。その償いができるのなら、どうか使ってやってくれないだろうか?」


 そう語るリヴァイアは、先ほどまで喚いていた者とは別人に思えた。

 本人も自覚したいるようだが、なにかに取り憑かれていたとしか考えられない変わりようである。

 狂気に満ちた瞳も、今では理性に溢れており、とてもさっぱりとした表情だ。

 むぅ……これは本格的に処分するとは言えない雰囲気になってしまった。


「しかし、貴方はなにが得意なのでしょうか? ルーゲインの補佐として置いておくのもいいですけど、たしか海に関連するスキルが多かったはずですが」

「な、なぜそれを?」

「リヴァイア、クロシュさんは【鑑定】のスキル持ちです」

「そうなのか……ああ、たしかに海、というより航海術だ。商家連合国でも主に船乗りとして働いていた」

「なるほど」


 だとすると、内陸にある村に置いといても役に立ちそうにない。

 まあ自分で水を出して、それを操るという方法はあるみたいだけど、それくらいだったら俺の【水魔法・中級】でも充分だ。

 あ、そういえば、これってリヴァイアから奪ったんだっけ?

 ちょっと気まずいから黙っていよう。


「商家連合国から皇帝国、それと勇王国の間を行き来する貿易船を任されていたこともあったから、その、そういった技術であれば役に立てると思う」


 俺の反応が悪かったせいか、リヴァイアは続けて自己アピールをする。

 いや船がなければ、どちらにせよ意味がないワケで……。


 のせようかー。


 ライドオン?


 らいどんー。


 ワイバーンにでも乗せましょうか。


 すらいむが、いいなー。


 名前がピエールになりそうですね。


 ぎゅーっと、だきしめてー。


 なんだか危なそうなので、やっぱり船に乗せましょうか。


 しるぶぷれー。


 なんて?


 こまんたれぶー。


 コ、コマンドー?


 でーん。


 ドンパチ派手にやれと。

 それは、まあ予定していたので言われるまでもないのですが。

 ひとまず今はリヴァイアの処遇についてだな。


「わかりました。少しアテがあるので、後日お話しましょう」

「い、いいのか?」

「どうなるかは私にもわかりませんが、真面目に働く意思があるのなら、恐らく帝国での出世も可能ですよ」

「あ、ああ、いや、それはもう懲りている。勘弁してくれ……」


 ここで乗って来るようだったら考えものだが、本当に大丈夫そうだな。

 なら、俺もひとつ真面目に打診してみよう。皇帝に。


「残る問題は、この者たちですね」


 振り返ると、静かに成り行きを見ていた生首たちが、目に見えて動揺した。

 さすがに、こいつらまで事情があって判定が『白』ということもなく、むしろ全員が『黒』寄りであるというルーゲインのお墨付きだ。

 このまま斬首刑も辞さない。


「待ってくれ! オレたちも仕方なくやってたんだ!」

「い、命だけは助けてください!」

「もう二度とこんなことしませんから!」

「お願いします! お願いします!」


 黙っているだけでは立場が悪くなる一方だと感じたらしく、途端に命乞いを始める生首たち。やかましいな。

 何人かは沈黙したままだった。よっぽど辛い目に遭ったのか。知らんけど。


「クロシュさん。彼らに関しても任せて貰えませんか?」

「いい案でも?」

「少し人手不足だったので、ちょうど良い機会かと思いまして」


 つまり労働力としてリサイクルするつもりのようだ。

 エコ精神に溢れているな。とりあえず処分したがる俺とは大違いだよ。


「ですが、彼らは『黒』なのでは?」

「そこは問題ありません。ちゃんと考えていますので」


 数が数だけに暴動でも起きたら大変だが、さっき言っていた他にも手段があるというやつか。 

 それなら、すべてルーゲインの責任でやらせてもいいかも知れない。


「わかりました。ただし――」

「子供たちの安全を第一に、ですよね?」

「……まあ、そうですけど」


 得意げな顔で人のセリフを奪うルーゲイン。

 釈然としないが、言っていることは正しいので良しとしよう。


「ところでクロシュ。森に逃げ込んだやつらは放っておいていいのか?」

「ええ、そちらも、そろそろ終わっている頃でしょう」

「終わる?」


 ゲンブの疑問はもっともだが、あちらはあちらに任せてある。

 それと比べれば、こうして五体満足でいられる生首たちは幸運だろう。

 そう考えるとバランスが取れている気がするな。なんのバランスかと言えば、きっと俺の怒りだとか、鬱憤である。

 ストレス解消は大事だからね。

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