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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第3章「スーパー幼女大戦」
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クロシュおねーちゃーん!

 襲撃者の中で最も格上と思われるやつをルーゲインが討ち取った。

 これで後は雑兵ばかりだ。

 まあ、それでも無傷で傍観しているやつらが三十人も残っているのだが、今さら参戦したところで消化試合の色が濃厚だろう。

 だというのに、このタイミングで動く気配を見せ始めた。

 ……ただし、明後日の方角へ向けてだが。

 要するに足並みを揃えて撤退した、ということらしい。


「ルーゲインの魔法を見て、戦意を失ったようですね」

『このまま逃がしたら厄介だ……ここは俺に任せてくれ。ルーゲインにだけ、良い格好はさせられないよ』


 変な対抗心を燃やしているゲンブだったが、それに待ったをかける。


「いえ、待ってください。どうやら東の森へ逃げ込むようです」

『少しでも隠れながら逃げるつもりか。その前に……』

「ですから、待ってください。あちらは放っておきましょう」

『え、いいのか?』

「見たところ大して強くもありませんし、わざわざ捕えに行くのも面倒です」


 それに東の森には、あいつらがいる。

 俺は簡単に【念話】で連絡を済ますと、あとは任せることにした。


「それより、こちらの者たちをどうにかしましょう」


 子供たちの魔法の的になっていた、二十人ほどの襲撃者たちのことだ。

 すでに半数は諦めているのか、生きてはいるが地面に倒れ伏せたまま呆然自失としているらしい。

 その服装は乱れに乱れ、中には真っ裸でうつ伏せになっている者もいた。

 あれは逃げないというより、羞恥心から動けなくなった感じか。


 だが残りの半分に関しては、元気に四方八方へと散っていた。

 こちらもルーゲインの魔法を目の当たりにして、同じように心が折れてしまったのだろう。

 問題は統率されていない動きでバラバラに逃げるため、人数の少ないこちら側からすると追うのが厄介なことか。

 子供たちも、ほとんど魔力を使い切っているみたいだし、このままだと数人くらいには逃げられてしまいそうだ。


『こっちは逃がさないのか?』

「最初から誰ひとりとして逃がすつもりはありませんよ?」


 もちろん生死は問わない。

 何人かは尋問用と証拠用として生け捕りにしたいが、それも絶対ではない。

 後ろにいるのが商家連合だという見当は付いているのだから。


『だったら、今度こそ俺に任せてくれ』

『手伝いましょうかゲンブさん?』

『いや、俺たちだけで十分だ。やるよスー!』


 あれだけの魔法を行使しても余裕がありそうなルーゲインだったが、その提案を断ったゲンブにも、なにか秘策がある様子だった。

 遠目に見た限りでは、スーちゃんもやる気みたいだ。

 ここは、お手並み拝見といこう。


 まず鎧姿のスーちゃんは、片手で長大な三日月斧を天に掲げた。

 できる限り高く伸ばすよう背伸びして、柄の先端を握っている。

 すると斧の刃に、魔力が集まっているのがわかった。それは魔法ではなく、恐らくスキルによるものだ。

 スーちゃんの体を通して、鎧であるゲンブの魔力が、柄から刃へと流れ込んで行く様子を見て、俺は次になにをするつもりなのか予想できた。

 そして予想していた動きをなぞるように……。


「えーい!」


 スーちゃんは三日月斧を、思いっきり大地へ叩き付ける。


「【ガイアフォース】!」


 微かにゲンブがスキルを発動する宣言も聞こえた気がするが、スーちゃんのかけ声がかわいいので聞き流す。

 大地を砕かんばかりにめり込んだ三日月斧。その地点を中心として四方へ衝撃波が伝わり、まるで地割れのような形で周囲に広がった。

 そして地を這う蛇の如く、亀裂は逃亡する者たちへ追いすがり、目標の足下へ到着した瞬間、その場にいた人間もろとも土砂が吹き飛んだ。


「うわあああぁぁぁぁぁっ!!」


 あちこちで似たような悲鳴が上がったものの、それ自体は足止め程度の役割しかないようで、見た目ほどダメージはなさそうだ。

 それも当然で、その続きこそが本命だった。

 地面を揺らしながら灰色の壁がずずずっと迫り上がり……気付けば、およそ一キロ以上にも及ぶ円形の城壁が完成していたのである。

 内側に囚われた者からすれば、誰ひとりとして逃がさないという意思を体現するような絶望の監獄だ。


「これ、後で戻せますよね?」


 こんなの村の周囲に建てられても邪魔だ。


『クロシュさん。せっかくですから、あの壁までを敷地とするのはどうです?』

「現状でも村は広すぎる気がしますが……」

『いえ、これから少し人数が増えると思いますので』


 なにやら思案しているルーゲインだが、俺には見当も付かない。


『それに広い畑を作りたいと思っていたところなので』

「ああ、そういうことでしたらルーゲインの裁量に任せますよ」


 なにせ村長だからね。

 ルーゲインなら、いい感じにやってくれることだろう。

 俺はあとでノブナーガに言っておけばいいだけだ。たぶん。


『あー、ごめんクロシュ』

「どうかしましたか、ゲンブ?」

『逃げられないとわかったら、あいつらヤケになったみたいだ』


 どういう意味かと見れば、壁に阻まれた襲撃者たちが引き返して来た。

 それもゲンブの言う通り自暴自棄なのか、あるいは錯乱しているのか、やたらめったらスキルを連発している。

 放っておいても魔力切れで勝手に自滅しそうだが、このまま村になだれ込んで来ても困ってしまう。


「まあ、せっかくです。私も少し働くとしましょう。構いませんかミリア?」

(……え、あ、はい)

「ミリア?」

(すみません。ちょっと驚いてしまいました……)


 どうやらミリアちゃんはルーゲインやゲンブのスキルを目にして放心し、ようやく我に返ったところのようだ。

 思えば、かつてのルーゲインとの戦闘では気を失っていたし、ここまで大規模な戦闘を見たのは初めてだったのかも知れない。


 ……いやいや、たしかにルーゲインの魔法の威力は凄かったし、ゲンブのスキルも派手だったけど、俺のスキルもなかなかのモノだよ? 今なら【極光】だって使えるし。あ、そうだ【極光】であいつらを薙ぎ払えばミリアちゃんも見直してくれるよね? よしそうしよう――。


(あ、クロシュさん!)

「どうしました……むっ」


 考え事をしていたら飛来する石礫(いしつぶて)に反応が遅れた。

 スキルによるものなのか、狙いは正確に頭を直撃するコースである。

 その寸前に【防護結界】を発動して防いだし、仮に当たっていてもダメージなんて受けなかっただろう。

 だが……ミリアちゃんの顔に向かって石を投げただと?


「どうやら、少しでは足りないようですね……」


 これは残党狩りではない。

 まして、襲撃者の撃退なんかでもない。

 これは聖戦である。神罰である。天誅である。

 我は幼女神様の代行者。我が使命は、我が幼女に仇成す愚者を、その血肉の一片までも絶滅すること。

 すなわち見敵(サーチアンド)必誅(パニッシュメント)


『く、クロシュさん!? 落ち着いてください! 子供たちが見ています!』

「……それもそうですね」


 昂る魔力からなにかを感じ取ったらしいルーゲインから【念話】を送られて、少しだけ冷静になる。あいつは俺のお目付け役かなにかなの?

 だがたしかに、せっかく楽しく防衛戦を繰り広げていた子供たちに、血生臭い戦場を見せる必要なんてない。

 そもそもミリアちゃんの体で、そんなことはしたくもなかった。


「しょうがないですね。てきとうに捕縛しましょう」


 そして、あとで心の底から後悔させればいいだけのことだ。


「なんだミリア? アイツらを捕まえるのか?」

「……え、ラエですか?」

(え、ラエさん?)


 俺とミリアちゃんの言葉が被った。

 というのも、俺の背中におぶさるようにして、肩越しにひょこっと顔を覗かせたのは、明るい桜色の髪をした幼女ことラエちゃんだったからだ。

 まったく敵意がないせいで【察知】が反応せず、接近に気付けなかった。

 息がかかるほどの近距離にラエちゃんの小さな顔があって、ちょっとドキドキしてしまう……いやいや、それよりも。


「どうしてここに?」

「ミリアの気配が移動したのを感じてな! 面白そうだから来たぞ!」

「帝都からだと、かなり距離があったと思うのですが……」

「この辺りは前に来たことがある! だから魔道具で一瞬だ!」


 また魔道具か。

 どれだけの便利アイテムを、ヘルから奪ったのだろう。

 そして、どうやら【融合】中である俺のことを、ミリアちゃんと勘違いしているようである。

 肉体だけなら間違ってはいないけど、ここはしっかり説明をして……。


「では、ワタシは先に行くぞ! とぉ!」

「……は? え、どちらへ!?」

「どちらが多く捕えられるか競争だー!」


 もしかして参戦するつもりなのだろうか?

 どちらかというと、遊びに参加するつもりっぽいけど。

 いや実際、ラエちゃんにとって遊びにしかならない相手なんだけども。


(クロシュさん、私が言って止めましょうか?)

「いえ、捕まえると言っていましたので命までは奪わないでしょうし、手間が省けて良かったと前向きに考えましょう」


 残り僅かとはいえ、でたらめにスキルをぶっ放している連中だ。さっさと鎮圧できるなら、それに越したことはないだろう。

 改めて見れば、召喚系スキルの持ち主が残っていたようで、遠目にもわかるほど無理をして魔力を振り絞り、カラスに似た魔獣を多数呼び出していた。

 ざっと数えて、三十羽くらいか。

 それらは個体として一羽一羽は大した脅威にならなかったが、これだけ大群だとさすがにウザい。

 ダメージはないだろうけど、きっと纏わりつかれたりしたら非常にウザい。

 夏頃に発生する小さな羽虫の大群……蚊柱に顔から突っ込む気分だ。

 火炎放射器で焼き払いたい。

 あるいはリモコン爆弾で消し飛ばしたい。


『それなら俺たちも責任を取って、ひとりでも多く捕縛しようか、スー』

『僕は少し用事があるので、すみませんがお任せします』


 ゲンブとルーゲインが続けて、そんな【念話】を送ってくる。

 正直ラエちゃんだけでも過剰戦力だから、もう見ているだけでいいような気がしないでもないけど、せっかく競争のお誘いを受けたのだから参加しよう。


「私たちも行きましょうか、ミリア」

(はい! 競争ですからね! 急ぎましょう!)


 やる気十分だったらしいミリアちゃんは、とても良い返事をしてくれた。

 これは……本気で勝ちに行くしかないな!

 俺はローブ形態になっている【魔導布】の内側に手を突っ込んで、あたかも刀を抜くように螺旋刻印杖を引っ張り出す。

 その長さの杖がどこに収まっていたのかと思うが、これはスキル【格納】によって異空間とやらに入っているため、質量や重量は気にせず持ち歩けるのだ。

 本当はフォルティナちゃんを訪ねる前に、争いになるかもと念のために用意しておいたのだが、これはこれで正解だった。


「まずは障害となる魔獣の排除から……おや?」


 黒い群れに向かって螺旋刻印杖を構えたら、俺が発射するより先に流星にも似た一撃が放たれていた。

 見下ろせば、そこには手をブンブン振るサニアちゃんの姿が確認できる。


「クロシュおねーちゃーん!」


 まさか【融合】してミリアちゃんの姿になっている俺を見抜いたのか?

 ……あるいは遠いから、長い黒髪からそう判断したのかも知れない。

 どちらにせよ俺が俺であることに間違いはないので軽く手を振って返すと、サニアちゃんはぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいた。

 それに気付いた他の子供たちも、みんなで手を振ってくれる。

 さながらアイドルと、そのファンみたいだ。


(……クロシュさん、とても人気みたいですねー)

「そ、そうですね。ええ、ありがたいことに」


 なんだかミリアちゃんの声色が少し低かった気がした。え、なんで?


「では急ぎましょうか! 競争なので!」


 落ち着かない空気を誤魔化すように、俺は慌てて空を駆ける。

 幸いカラスの魔獣はサニアちゃんが援護射撃をして撃ち落としてくれるので、こっちは直接、術者のところまでひとっ飛びだ。


 それから、すべての襲撃者が沈黙するまで十分もかからなかった。

 戦場を飛び交う上級悪魔のラエちゃん、鎧姿のスーちゃん、遠方から狙撃するサニアちゃん、そしてミリアちゃんの姿をした俺。

 事情を知らない襲撃者からすれば、なぜ幼女たちがこんなに強いのか、自分たちは幼女に負けるのかと嘆いたことだろう。

 だが、それも仕方ないことだ。

 ここにいるのは普通の幼女ではなく、スーパー幼女なのだから。


 ちなみに捕獲数はそれぞれスーちゃんたちが二人、俺とミリアちゃんが三人、ラエちゃんが五人という結果となった。

 優勝はラエちゃんである。

 さすがは上級悪魔と言ったところか。

 でも手持ちの魔道具をフル活用していたのは、ちょっとずるい。

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