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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第3章「スーパー幼女大戦」
137/209

きらきら、いっけー!

珍しく二日連続の投稿です。

「わーい!」

「あははは!」

「それー!」


 思い思いに放たれた下級魔法は、意図せずショーのような有様だった。

 七色の光が尾を引いて闇を切り裂き、それぞれが狙った場所へ着弾すると、今度は笑いを誘う光景が作り出される。

 というのも、最初に魔法を受けた襲撃者の四人組だ。

 髪の毛がちりちりになったり、顔が泥だらけになったり、髪と服が強風に吹かれた状態で見事に凍っていたり、半裸で鞭に叩かれて転げ回ったりと……まるでコントでも行っているかのようである。

 戦いの悲壮感などなく、子供たちは遊んでいる感覚で更なる魔法を放つ。


 現に、ひとつひとつの魔法は大した威力もなく、ステータスの差もあって致命傷を与えることは到底できなかった。

 恐らく下級魔法の一斉掃射を浴びたところで、実力を持つ者であれば十分に耐えられる程度の威力だっただろう。

 しかし現に、数名の襲撃者たちは瞬時に倒されており、残りの者たちも下級魔法から必死に逃げ惑っている。

 それは威力の低さが、この場においては逆に脅威となっていたからだ。


 この状況は襲撃者の大半が、異世界の若者であったことに起因する。

 彼らは一様にプライドが高く、恥を晒すことに強い忌避感を抱えていた。

 そのため髪が焼け焦げたりといった、みっともない姿……より噛み砕いて言ってしまえば『笑われること』を怖れる傾向にあったのだ。

 つまり彼らは魔法そのものより、子供たちの笑い声により精神をごりごりと削られて、呆気なく心が折れたのである。

 もはや立ち上がる気力すら残されていないだろう。


 そして悪者が相手だからと、一切の手加減をしない容赦のなさも、無邪気な子供たちの恐ろしいところだ。

 近くで観察していたゲンブは、そんなことを思いながら苦笑した。


「なんだか相手が可哀相になるな」

「あっちから襲って来たんだから、じごーじとく? だよ」


 つい同情してしまうゲンブに、スーは厳しく反対する。

 もっともゲンブとて、本気で相手を擁護するつもりはない。

 なにせ、今も襲撃者たちは反撃の機会を窺っているのだから。


「お、向こうも色々なスキルを持ってるみたいだな」


 それまで一方的にやられていた者たちが、次々にスキルを発動させていた。

 ゲンブが確認できた範囲では身体強化スキル、投擲スキル、魔獣召喚スキル、ゴーレム生成スキルが目立っていたが、それらは特に脅威ではないと判断し、すぐに意識をスーへと移してしまう。

 召喚されたばかりの彼らと、百年以上前から苦労していたゲンブとでは、圧倒的なまでに格差があった。


「どうするの?」

「ここからは、俺たちの出番ってことさ。準備はいいか?」

「うん、いつでもいいよ!」


 子供たちが集まっているヤグラには屋根があった。

 その上に立つ全身鎧(ゲンブ)は、虫のように集る襲撃者を見下ろしながら両腕を広げた姿勢を取り、そのスキルの名を宣言する。


「やるぞっ……【人具一体】!」


 全身鎧が、ほんの一瞬だけ宙に浮かぶ光球に負けない輝きを放った。

 これはクロシュやルーゲインが持つスキル【合体】に近いスキルであり、それとは少し異なっている。

 真に心が通った人と道具は一体となり、巧みな連携を生み出す。

 その時、このスキルは単なる【合体】とは比べ物にならない真価を発揮する。

 あるいは【融合】に限りなく近い……無類の絆が生み出す煌めきであった。


 全長二メートルほどの全身鎧が、内側へと折り畳まれて収縮し始める。

 まるで装備者のために、余計な部分を削ぎ落とすかのようだ。

 やがて重厚な鎧は、いったいどこがどうなったのか疑問な変形により、小柄な少女に似つかわしい鎧へと生まれ変わる。

 そして金糸雀色のプレートメイルを身に纏ったスーが、ここに誕生した。


「初めてにしては上々だな」

「なんかケント君、前と少し変わったね」


 事前にスキルについて聞かされていたスーだったが、以前と大きく変化した様相に目を丸くしながらも、くるくると回って自分の姿を確認する。

 それまで無骨だった全身鎧も、今やまったくの別物だ。

 例えるとすれば、物語に登場する少女騎士だろう。

 鎧というよりドレスにも似た意匠であり、細い腰からは長いスカートすら広がって足下まで覆っている。頭にすっぽりと被った兜もバイザーを上げれば、スーの顔がはっきりと覗けた。


「これはスーに合わせているからだよ。あくまで俺は鎧だから、鎧であれば大体の形にはなれるんだ。ただ、実際にどんな形になるかは【人具一体】を使ってみるまでわからないんだけど……スーが気に入ってくれたなら良かった」


 少女の身に合うように縮小、変形しているとゲンブは言うが、それでもまだスーの体躯からすれば大きく、鎧に着せられている感は否めない。

 しかし自分専用というのが、スーにとっては嬉しかった。


「動きのほうは大丈夫か?」

「うん! 平気!」


 見た目とは異なり、鎧の重さはスキル【重量操作】によってないに等しい。

 スーからすれば羽毛の衣服を纏っているも同然であるが、そもそもステータスはゲンブを装備した時点で大幅に上昇しているのだから、足下に気を配る必要がない点こそが、慣れていないスーには重要だろう。


「あとは俺がサポートするよ」

「思いっきりやっていいんだよね?」

「ああ、手加減はこっちでやるから遠慮しないでやっちまえ」

「それじゃあ……行くよー!」


 軽いかけ声と共に、スーは大きく跳躍した。

 するとスカートの内側から炎が噴き出す。足甲に内蔵されていたらしいバーニアが点火し、ロケットが飛距離を伸ばすように滑空し始めたのだ。

 やがて粉塵を巻き上げながら大地へ降り立つと、その場所は村の外側。

 今まさに、襲撃者と交戦している真っただ中である。

 いきなり現れたロボと勘違いしそうな鎧の少女に、襲撃者たちは呆気に取られてしまったが、すぐに気を取り直して攻撃を再開する。

 その目標には当然、村から飛んで来たスーも含まれていた。


「食らえ!」

「やだよ」


 近くにいた者が、果敢にも鎧姿のスーへ向かって近接戦を仕掛けた。

 恐らく強化されていたであろう鋭い回し蹴りは、しかしスーが残像を残しながら半歩下がるだけで、虚しく空を切ってしまう。

 そして、そんな隙を見逃すほど、この少女は優しくはない。


「えっと……えい!」

「おぶふゥっ!」


 それはそれは見事な腹パンだった。

 かけ声は相変わらず可愛らしいものだが、その動きはまったく可愛くない。

 再びバーニアの点火により瞬時に移動したスーは、熟練のボクサーすら見切れない速度でブローを繰り出し、的確に鳩尾へクリーンヒットさせていたのだ。

 これには身体強化していた襲撃者も、たまったものではないだろう。

 地に膝を突き、泡を吹きながら崩れ落ちる様を見届けると、スーは次の目標を見定める。周囲にはビクッと肩を揺らす者たちだけだ。


「スー。ザコは放っておいていいから、面倒なのを叩こう」

「わかった!」


 ゲンブの助言に従い、距離が離れた場所にいる敵に目を向ける。

 そこでは地面から次々に泥人形(クレイゴーレム)が生えるようにして出現していた。

 このまま放置すれば、数に任せて村へ押し入られるかも知れないと予想したスーは即座に駆け始める。

 無論バーニアの点火により尋常ではない速度が出ていたが、一級品の鎧を纏うスーの研ぎ澄まされた感覚からすると、まだ遅いくらいだ。

 そしてなにより、鎧は鎧であり、攻撃する手段に乏しい。


「ケント君、なにか武器はないの?」

「どんなのが欲しい?」

「え? えっと……なんかすっごい大きいの!」

「了解!」


 どういう意味かとスーが問う前に、大地が脈動する。

 次の瞬間、前方に地面から茶褐色の柱が伸びていた。そしてスーではなくゲンブは駆け抜ける速度のままで柱を掴むと、その形を粘土細工のようにぐにぐにと変えてしまう。


「とりあえず、斧でどうかな?」

「素敵だね」


 スーが欲しいとイメージしていた通りの、ピッタリな武器だ。

 なによりスーが気に入ったのは、その大きさか。

 彼女の身長を優に越えており、およそ三倍ほどはある。形状は長い柄の先端の片側にだけ刃を取り付けた、バルディッシュと呼ばれるタイプだ。

 ちなみに重さは【重量操作】を使えば小枝ほどにしか感じられないが、軽すぎると威力が落ちてしまうため、敢えて元のままである。

 そんな戦斧を、スーはブンブンと振り回しながら泥人形の群れへと突撃した。


「てやあああぁぁぁぁぁっ!」

 

 まさしく無双と表現するに相応しい光景が繰り広げられる。

 バルディッシュを豪快に一振りするだけで泥人形が数体まとめて吹き飛び、その体を破壊されたゴーレムは機能を失って動かなくなる。

 加えてスーは立ち止まらずに突き進むため、泥人形たちは次々に空を舞っては地面に激突し、破片が辺りに散らばって行った。

 その余波だけで大地を揺らし、地面は隆起するほどである。

 百体近くいた泥人形たちも、ほんの数十秒で残り僅かとなっていた。


「くっ、こうなったら……とっておきだ!」


 泥人形を量産していた術者も、黙って見ているだけではない。

 量産型では止められないと判断したのか、それまでと異なる泥人形が地面の下から這い出していた。大型(ラージ・)泥人形(クレイゴーレム)だ。

 それは通常よりもサイズが倍以上あり、スーは見上げるようにして相対する。


「援護するぞ!」


 さらに、後方から別の襲撃者が声をあげる。

 ちらりとスーが目を向ければ、そちらからはカラスに似た魔獣が数羽ほど飛んで来るのが見えた。血のように赤い瞳と、クチバシから覗かせる牙が、魔獣としての凶悪性を思わせる。


「ちょっと数が多いな。飛んでいる相手は分が悪いし、交代するか?」

「待ってケント君……あれ」

「ああ、そういうことか」


 戦闘慣れしたゲンブの提案は、用意したバルディッシュでは空を飛び回る魔獣には届かず、機動性の観点から相性が悪いと考えてのものだった。

 だがスーは村の方向へ指を差し、続けてゲンブもその先にいる少女に気付いて意図を理解する。


「なんだ、諦めたのか?」

「よくわからないが、今のうちだ! やれお前たち!」


 急に動かなくなったスーに殺到する大型泥人形と、カラスの魔獣たち。

 大型泥人形は圧倒的な体格差から両手を伸ばして押し潰そうと動き、魔獣たちは少女の血肉を貪ろうと牙を光らせて急降下する。

 前後からの同時攻撃は、成功したかに見えた。

 しかし――。


『きらきら、いっけー!』


 遥か遠く、村の方角から一筋の流星が届いた。

 空を飛ぶ魔獣たちを貫き、焼き尽くし、そのまま大型泥人形の頭部に突き刺さると、内部から爆裂させて完全破壊する。

 着弾時には眩い閃光が散らばり、バリバリッとプラズマが空気中に拡がった。

 その間、僅か三秒。


「……え? は?」


 崩れ落ちる大型泥人形に、目を見開く泥人形(クレイゴーレム)の術者。

 目の当たりにした現実を受け入れられずにいたが、すぐにスーが腹パンをお見舞いしたので、奇しくも意識を現実から解き放った。

 ふと見れば遠くで召喚されていた他の魔獣も、続投される流星によって駆逐されていた。


「んー、やっぱりサニアちゃんすごいなぁ……」

「いやいや、スーだって最初からこれだけ戦えてるんだから十分だよ?」


 たしかに杖のインテリジェンス・アイテムの補助があるとはいえ、サニアという少女の魔法はゲンブの想像を越えていた。

 しかしスーはスーで、凡人とは一線を画す才覚を持っているだろう。

 どちらも非常に末恐ろしい少女たちであることに変わりはなかった。

 ただ、それをそのまま口にすれば、そこは頼もしいでしょ? などとスーの機嫌を損ねるのは分かり切ったゲンブである。なので――。


「俺はスーのこと頼りにしてるよ」

「ほんと!?」

「ああ、もちろんだよ」


 一番欲しい言葉を、言って欲しい人から貰えたことで、ひとまずスーは満足気に頷くと、にやける表情を隠すように体をゆらゆらと左右に揺らした。

 その様子から、ゲンブは正解を引き当てたことに安堵する。

 もしも、物語のように何人もの女の子を侍らせる者がいるとすれば、その人は詐欺師のように口が上手いか、あるいは天然の人たらしだろうと、ゲンブは身をもって実感するのだった。


 そんなゲンブに天然の人たらしことクロシュから【念話】が届くのは、この数秒後のことである。

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