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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第3章「スーパー幼女大戦」
136/209

なんと言ったらいいのでしょうか

 ゲンブからの【念話】を受け、急いで村へと転移した俺とミリアちゃん。

 移動した先は、村で最も大きな屋敷の一角だ。

 普段は子供たちの学校……といっても教室が一部屋あるだけだが、そういった用途で使われている他、緊急時には避難所に指定されている。


 あのゲンブの様子だと、なにかが起きたのは間違いない。

 それを裏付けるように複数の悪意が【察知】により感じ取れた。

 距離は村の外に位置しており、ひとまず侵入されてないことにほっとする。


 いつの間にか陽が落ちていたようで、明かりのない室内は暗い。

 スキルで暗闇も見通せる俺は気にせず廊下を進み、避難しているはずの子供たちがいる教室へ一直線に向かうが……そこには静寂だけが広がっていた。

 ガラス窓からは月明かりが差し込んでいるとはいえ、明かりを必要とするほど暗いというのに、室内に備え付けられていた照明器具は沈黙している。

 まるで誰もいないことを証明するかのように……。

 心臓の辺りがざわつくが、まだ子供たちの身になにかがあったと決まったワケじゃない。いったん落ち着こう。


「クロシュさん、ここはどこなんですか?」


 急ぎであると理解してか、ここまで黙って同行してくれていたミリアちゃんに今さらながら気付いた。

 自覚している以上に焦っていたらしい。


「すみませんミリア。実は……」


 俺は謝罪と感謝を伝えながら村について現状を説明する。

 インテリジェンス・アイテムの保護地であることはミリアちゃんも知っていたけど、そこに異世界から誘拐された子供たちを保護している件までは、まだ教えていなかったからね。


「事情はわかりました。ですが、何者かに襲撃されているんですよね?」

「そのはずですが……」


 言われてみれば静かだ。

 子供たちの避難もそうだが、敵と交戦している雰囲気でもなかった。

 いや、村の外のほうでは戦闘が始まっているのかも知れない。

 とりあえず奇襲を警戒した俺は【人化】を解き、ミリアちゃんに装備されると了承を得てから【融合】を使う。


 瞬時に黒い瞳は金眼へ、全ステータスは飛躍的に上昇し、俺とミリアちゃんはひとつの存在へと昇華していた。

 この状態であれば、もはや怖い物なしだ。

 ミリアちゃんの体の主導権を譲って貰い、いざとなったら即座に戦闘できるように準備を整える。

 それから屋外へと出て……そこで、微かだが耳に届く音があった。

 俺の足は自然と止まってしまう。


 ズドォンッ……! ドバババッ……! バリバリバリッ……!


(なんと言ったらいいのでしょうか……)

「……気持ちはわかります、ミリア」


 心の内側から伝わる困惑の声に、俺は脱力しながら同意する。

 遠くから風に乗って聞こえたのは戦闘音なのだろう。

 それは理解できるし、予想していた通りだ。

 だが……。


 わーい……! あははは……! それー……!


 子供たちの楽しげな笑い声まで含まれると、ちょっと緊張感がない。

 夜闇に笑い声が響くと言えば軽いホラーだけど、そういうのとも違う。なんというか、むしろ陰気さを吹き飛ばす明るい笑い声だった。

 そんなのが四方八方から聞こえるのだから、さてどうしたものか。


(えっと、クロシュさんどうしますか?)


 正直、俺も戸惑っているけど、とにかく状況確認が優先だ。

 そもそもゲンブがしっかり説明していれば、こんなに狼狽えることもなかったというのに、あいつはなにをしているんだ?。

 近くにいるはずだから、こちらから【念話】で連絡してもいいけど、もし敵と交戦中だったら集中を乱してしてしまう。

 どうやら緊急という感じでもなさそうだし、今はまだ控えておこう。


「ひとまず飛んでみますので、驚かないでくださいね」


 上からなら状況を一望できると思い付いた俺は【黒翼】を展開し、一息で村の上空まで移動する。

 途中、空が暗雲で埋め尽くされているのが見えて、次にさっきまで月明かりだと思っていた光源の正体を知った。


 端的に言い表すとすれば、黄金の光球か。

 太陽にも似た光球が、村の周囲にいくつも宙に浮かんでいる。

 ひとつひとつが付近を明るく照らし出せるほどの光量を持ち、その直下ともなれば昼間かと勘違いするほどに夜闇を取り払っていた。

 おかげで、容易に一際目立つ者たちを発見できてしまう。

 それは三人から四人ほどの小隊を組み、全方位から村を囲むように動いていた黒ずくめの集団だった。

 ひとり残さず悪意を放っていることから、これが襲撃者なのは間違いない。

 それと同時に、そんな怪しい集団と相対するかのように物見ヤグラに立っている子供たちの姿も発見し……。

 七色の魔力が迸るのを、俺は目の当たりにした。






 クロシュが村へ転移する、その少し前のこと。

 商家連合から差し向けられた異世界人たちは、リヴァイアの指示によって静かに動き始めていた。

 姿を隠す暗闇に加え、音を掻き消す雨音。

 これなら簡単に村へ入り込み、目的を達成できると確信する。

 その自信の裏には、彼らが元の世界から召喚され、この異世界へと渡る際に得られた『スキル』という異能力の存在があった。

 まだまだレベルも低く、経験不足ではあるが、誰もが己の『スキル』こそ最も強力であり、いずれ異世界で最強になれると自負しているのだ。

 しかし過ぎた自惚れは、高く付くことになる。


「な、なんだ、あれ……?」

「照明弾か!?」


 突如として夜空に打ち上げられたように見えた光源に、襲撃者たちは慌てた。

 その実態はルーゲインがリヴァイアを痛めつけている合間に放った、一時的に雨を止ませる効果を持つ金陽属性の魔法のひとつだ。

 本人からすれば雨を嫌がってのものだったが、知らない彼らからすれば、もう発見されてしまったと冷や汗を流すのは無理もないだろう。

 事実、その明かりによって身を隠すこともままならず、もはや丸見えである。


「今さら引き返せるかよ! 行くぞ!」

「で、でも、これじゃ……!」


 直前の指示では、リヴァイアが敵の主力を引き付けてくれるため、その間に事を済ませなければならなかった。ここで足踏みしていたら、いつ主力とやらが駆け付けるかわからない。

 かといって進めば、遮蔽物のない平地を行くことになる。もはや黄金の光球を前にして、隠れ忍ぶこともできないだろう。こうなったら戦闘は避けられない。

 普段は無意味に自信過剰な彼らも、いざ戦うとなると腰が引けていた。


「大丈夫だって。これだけいれば、他のグループが狙われる」

「そ、そうか。その間に忍び込めばいいんだな?」

「ああ、それまで目立たないよう伏せておけ」


 中にはずる賢く、身内すら出し抜こうとする者もいた。

 その浅はかな行動は、すぐに意味を成さなくなる。

 言われた通りに彼らは姿勢を低くし、うつ伏せで周囲に目を配っていた。

 すると、そこにはサーチライトを照射された盗人のように、慌てて逃げようとする仲間の姿が確認できる。

 ひとりが伏せている彼らに気付き、なにかを伝えようと手を伸ばし……。


「えっ?」


 伏せていた者の顔のすぐ真横に、白い矢がトスッと突き立つ。

 ふと顔を上げれば……赤い炎弾が、緑の風刃が、紫の氷霧が、茶の泥塊が、蒼の水鞭が、援護射撃とでも言うかのように、村のほうから無数に飛来していた。

 すべてが、あっという間にできごとだ。


「に、逃げろぉぉぉおおっ!!」

「ひっ、ぎゃああああああッ!」

「ごぶぅっ!」

「た、たすけ……いてぇッ!」


 大地と空気が激しく揺らされ、爆音に吸い込まれる悲痛な叫びを耳にし、近くで目撃してしまった者たちは身を竦ませた。

 ある者は泥に塗れて前面部だけが茶色に染まり、ある者は頭部に炎が直撃して髪の毛がちりちりに、ある者は風の刃で衣服が切り刻まれてから水の鞭に打たれ、ある者は吹雪を浴びて髪も服もパリッパリになった。

 誰もが見ていることしかできない魔法の掃射は、しかし唐突にピタリと止む。

 そして巻き上げられた謎の土埃が一陣の風に流されると、そこに残されていたのは無惨にも横たわる哀れな者たちの姿だけだった。

 どうにか原型を保っているものの、全身と精神をぼろぼろにされて動く気配はなく、心が生きているのかも定かではない。 


 ――あははは……!


 どこからか笑い声が響いた。

 まるで、今のワンシーンを見て楽しんでいるかのような底抜けの笑い。

 例えるなら、落下するタライが脳天に直撃して沸き起こる……あれだ。


 誰もが心にひとつの光景を思い浮かべる。

 そして今さらながら能天気な襲撃者たちは、この状況を正しく理解した。

 一方的に獲物を獲って笑う狩人の気分であったが、この場においては自分たちも狩られる対象……すなわち芸人なのだと、ようやく悟った。

 油断すれば、彼らと同じように情けない姿にされてしまうのだと……。


「う、うわあぁぁーーーーッ!?」


 誰かが声に出して叫んだ。

 それは味方の惨状への嘆きか、恐怖に駆られてか。

 どちらにしても、開戦の幕開けとしては相応しい響きである。


「と、止まるな! 狙い撃ちにされるぞ!」

「ちくしょう! なんでこんなことに……ぎゃあっ!」

「今度は電気ショックだと!? なんで骨が透けて見えるんだよ!」

「誰か反撃しろ! 撃ち返せっ!」

「うおおぉぉぉお! やってやる! やられるもんかぁ!」


 先ほどまでの動揺は一転し、襲撃者たちは血気盛んに吠える。

 あんな醜態を晒すくらいならと、戦うことを選んだのだ。

 もっとも、それは彼らが選べる手の中では悪手のひとつなのだが……そのことに気付けるのは、なにもかもが終わってからになるだろう。

自分でも書いていても、なんだかよくわからない展開に。

とりあえずシリアスでは無い事だけは確かです。

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