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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第3章「スーパー幼女大戦」
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ぐえー

 危険なポーションをミリアちゃんに渡したというフォルティナちゃん。

 その真意を問うべく、俺とミリアちゃんは護衛騎士が運転する耀気動車へ乗り込んでいた。

 もしかしたら裏で糸を引く者がいて、フォルティナちゃんは利用されている恐れもあったため、できる限り早めに会っておきたい。

 ただ、忘れそうになるけどフォルティナちゃんは皇女様なので、通常なら事前の連絡もなしに会えるものではない。というか連絡しても普通は会えない。

 親友と称されるミリアちゃんだからこそ、なんとかなるらしいけどね。


 それでも断られたら、それはフォルティナちゃん自身が拒否したという意味であり、そこになんらかの事情があると考えて間違いないだろう。

 その場合、俺がこっそり城内に侵入するなど非合法な手段に打って出ると、あらかじめミリアちゃんに伝えておく。

 友人に危機が迫っているかも知れないからか、反対はされなかった。


「ところで、やはりこのポーションは飲むつもりだったのですか?」


 城へ向かう道中、車内でミリアちゃんに何気なく質問してみた。

 大した意図はない。

 ただミリアちゃんが、友人から渡された物とはいえポーションに頼るほど思い詰めていたのかと、心配になっただけだ。

 ついでに移動中はすることもなかったので、ちょっとした雑談のつもりだったのだが、思いがけない答えが返された。


「いえ、初めから使うつもりはありませんでしたよ」

「え、そうなのですか?」

「せっかく用意してくれた物ですし、その場で返すのは失礼ですから。ひとまず受け取ってから、あとで理由を添えて返そうと思っていました」

「使おうとは考えなかったのですか?」

「……実は少しだけ迷いました。でも私はクロシュさんに相談して、クロシュさんが用意してくれるのを待つつもりでしたから……用意してくれたフォルティナには悪いですけど、私には無用な物です」


 てっきりミリアちゃんは飲むつもりで受け取ったのかと思っていた。

 だけど、ちょっと誤解していた気がする。

 ミリアちゃんはポーションの危険性を知る以前から、使わないと決めている。

 先に俺へ相談していたとはいえ、別にポーションも併用して強くなるという方法だってあった……にも関わらず使うという選択肢をあっさり除外した。

 要するに、ミリアちゃんは『力』そのものには固執していないのだろうか。


 引っ掛かるのは、そもそもミリアちゃんが求めているのは何かだ。

 俺に相談を持ちかけた時、【魔導布】という装備に相応しい自分になりたいからと、アミスちゃんが努力する姿に触発されたように語っていた。

 それこそが強くなりたいという動機だったはずだが……その前提が違った?


 例えば……逆から考えてみよう。

 ミリアちゃんの最終目標はなんだっけ?

 それは俺の役に立ちたい、相応しい自分になりたい。

 つまり、今はそうではない。

 役に立てていないし、相応しくないと思っているワケで……なぜ、そう感じているかが問題なんじゃないだろうか。

 でもこれは、相談された際にも俺はミリアちゃんに伝えたはずだ。


『私はすでにあなたを最高のパートナーとして認めています。だから相応しくないなんて、ミリアが思い込んでしまっているだけですよ』


 それに対してミリアちゃんは……。


『私の力不足は私が一番わかっているんです。クロシュさんは優しいからなにも言いませんけど――』


 ルーゲインとの戦いで、ミリアちゃんは意識を失ってしまったことを不甲斐ないと感じて、だから自分は力不足で相応しくないと思い込んでいた……。

 以前の俺は、そう解釈した。

 だが今回のことで、ちょっと見方が変わる。

 恐らく、もっと別の部分に問題があるように思えた。

 どうしても自分を信じられないような何かが……。


 おのれを、しんじよー。


 神が俺にもっと信じろと囁いている。


 あいてを、しんじよー。


 信頼関係は大事だと思います。


 しんじるものは、すくわれる、かもー。


 ついでに猫と和解しましょうか。


 とまとを、たべよー。


 好きとか嫌いとかどうでもいいと。


 にんじんは、いらないよー。


 そういえばミリアちゃんは好き嫌いないそうですよ。幼女神様は?


 ぐえー。


 悪の軍団に捕まった正義の味方みたいですね。


 たすけが、くると、しんじてー。


 おかめの仮面の人を?


 しんじてー。


 また捕まる展開になりそうですけどね。


 しんじないと、しんじて、くれないよー。


 これが今回の幼女神様的『あどばいす』なのか。

 ずいぶん遠回りしたのは置いといて……つまり信じてないから信じろと?

 誰がって言えば、俺だろう。

 なら、俺はいったい誰を信じてないというのか。


 ……ミリアちゃんを信じてない?

 そんなバカな。俺はミリアちゃんを信頼しているし、ミリアちゃんも同じはず。

 だけど、幼女神様の言葉はすべて真実である。


 俺はミリアちゃんを信じていないのでしょうか?


 たぶん、ねー。


 具体的には?


 うたがって、いるよー。


 ミリアちゃんを疑っている?

 まさか裏切るだとか、実は男の娘だなんて思ったこともありませんよ?


 ほんとう、かなー。


 本当……のはずだ。

 それとも、気付かないうちに俺はミリアちゃんを信じていなかったのか?

 そんなはずはないと思いたいが……。


 いや違う。

 そうだ。そうだった。


 ひとつだけ心当たりがあった。

 以前、俺は異世界の子供たちを商家連合の船から救出する作戦を、ミリアちゃんに隠していたことだ。

 あれはミリアちゃんに装備されていれば、もっと簡単に成功していただろう。

 そうしなかった理由は、ひとつ。

 ミリアちゃんを厄介事に巻き込みたくなかったからだ。

 巻き込めば辛い思いをさせると心配したから……つまり、ミリアちゃんを護るためだった。


 裏を返せば、護らないといけないほどミリアちゃんは弱いという意味だ。

 それを俺は認めている。

 ミリアちゃんなら大丈夫、とは考えなかった。

 彼女を護るのは俺の望みでもあったから、そこに他意はない。

 純粋たる事実……と俺は思っていた。


 でもこれが幼女神様の言うように、俺がミリアちゃんの強さを疑い、信じていなかったからだとすれば、その事実に気付いたミリアちゃんは俺に頼られるほど強くなりたいという考えに至った……ということでは?


 俺が信じて頼らないから、ミリアちゃんも自分を信じられないし、どうフォローしたところで信じてもくれない。


 『信じないと、信じてくれない』


 幼女神様の『あどばいす』は、まさにこれのことだったのだろう。

 ……この推測で正解なのは、黙っている幼女神様が証明していた。

 ということは、きっと救出作戦を隠していたことにもミリアちゃんは勘付いていたのだろう。

 いや、そうかなぁとは思っていたけど、まさかマジだったとは。

 あの頃は準備でよく屋敷を空けていたし、その後も村のことでバタバタしていたから察しが付いてもおかしくはないか。

 なによりミラちゃんと同じ【直感】スキルの持ち主だからね。


 肝心なのは、これからだ。

 俺はミリアちゃんを護りたい。ミリアちゃんは俺に頼られたい。

 一見すると相反しているが……理解してしまえば、なんのことはない。

 ややこしいように見えても根っこは単純な話だ。

 つまり俺は、どんな敵や脅威が相手だろうと、ミリアちゃんを頼りつつ彼女を護り切ればいいだけなのだから。


 それくらいできなくて、なにが【魔導布】……なにが【聖女】だというのか。

 まだまだ俺には覚悟が足りていなかったらしい。

 身の安全だけではなく、心も護ると、前に決めたはずだ。

 ならば、あとは行動するだけだろう。 


 俺が決意を新たしていると、耀気動車の動きが止まった。

 ようやく目的地へ到着したらしい。

 ここから先、どうなるかは未知数だったが、今しがた心に灯した火だけは絶やさないように、俺は精神を研ぎ澄ませる。






 クロシュとミリアが、フォルティナを訪ねている頃。

 帝都の遥か南東、城塞都市からは東に位置する通称『聖女の村』では、いつも通りの平穏な時間が流れていた。

 表向きはオーガの動向を調査する村のはずだが、しかしその実態はインテリジェンス・アイテムと異世界の子供たちを保護地であり、警護に僅かな騎士が駐留している他は子供たちばかりの村である。


 この日も例によって授業を終えた子供たちは、魔法の練習に励んでいた。

 ただし、それも一定の時間になればさっさと切り上げる。

 あまりに魔法の練習に打ち込み過ぎた一部の子供たちが、夜間にまで練習を続けて日常生活に影響が出てしまったため、練習時間が定められたからだ。

 具体的には、授業が終わってから二時間だけ。

 これは現状の子供たちが保有する魔力だと、普段の授業にも影響が出ず、最も効率よく訓練できる、という判断からである。

 これを破った場合、罰として一週間は魔法を使ってはいけないので、今のところ子供たちは素直に言うことを聞いているようだった。


 もっとも、魔力は減っても体力はあり余っている。

 練習を終えた子供たちは、今度は元気に村内を駆け回る追いかけっこや、あるいは都市部では定番のカードなどなど、思い思いに遊び始める。

 大人の騎士からしても、どこから湧き出るのかと感心する無尽蔵っぷりだ。

 まだ村へ移住してから一カ月と少しほどだが、今ではそんな子供たちの笑顔と明るい声が、あちこちに溢れている。

 子供たちの誰もが笑って過ごせる。それが当たり前の場所となっていた。


 そんな村の一室では、金髪の少年ことルーゲインが書類を睨んでいた。

 クロシュに村長という名誉かつ面倒な役職を押し付けられた彼は、日々の書類仕事に悪戦苦闘しながらも、騎士の助けも借りてどうにか処理している。

 まだ仕事量が少ないから、なんとかなっているとも言えた。


「えーと、次は子供たちのお小遣いの調整と、購入できる品の目録……」


 こんな物まで作成しなければならないのかと思うが、それもそのはずで、この村には彼以外に文官がいなかった。

 教養のある騎士が手伝っていることから彼らでも代理は可能だが、騎士はあくまで警護が仕事であり、やはりルーゲイン頼りとなっている。

 明らかな人手不足と言えるだろう。

 ちなみに村に滞在している、もうひとりの実力者ゲンブだが――。


『悪い、俺はそういうの苦手で……』


 という一言から免除された。

 誰しも向き不向きはある、というのはルーゲインも承知している。

 だからこそ代わりにゲンブは、労働班として村のあちこちで動き回っているのだが、インテリジェンス・アイテムの高い能力からしたら大した苦労もなく、僅かながら不満が残るルーゲインであった。


「ふう、ひとまず今日はこのくらいにしよう」


 気付けば外が薄暗い。

 まだ日暮れ前のはずだと窓を覗けば、灰色の雨雲が空を埋め尽くしていた。

 どうやら大雨になりそうだ。

 屋外で遊び回っている子供たちを家に入れなければと、ルーゲインは近くの騎士に声をかけようとして……不意に【察知】が反応した。


「これは、まさか襲撃者?」


 何者かは不明だったが、敵意を持つ者たちが村へ接近しているのは間違いない。

 すぐに騎士たちへ子供たちの避難を頼み、外出させないよう伝える。

 続けて厳戒態勢を取るように指示を出していると、そこへ全身鎧のゲンブがガチャガチャと慌ただしくやって来た。


「ルーゲイン、気付いているか?」

「ええ、どこの誰かは知りませんが、数だけは多いようですね」

「盗賊にしても妙だ……俺は先に行って様子を見てるぞ!」

「頼みます」


 ゲンブを見送ったルーゲインは、この緊急事態に際してクロシュへ連絡を取るべきか逡巡する。

 仮に何事もなく済んだとして、子供たちの危機を報せないというのは後が怖いと考え、やはり一報だけはしておくべきだと判断した。

 まだ敵の目的や、その規模の詳細はわからずとも、伝えるだけ伝えるべきだと。

 だが……。


「おかしい。クロシュさんに繋がらない……」


 この時ルーゲインが使用したスキルは【光念話】という、最近になって取得した新たなスキルである。

 これまでの【呼び鈴】で呼び出して庭園で連絡する、というまどろっこしい方法は、以前からヴァイスに強く要請されていたこともあって変えたのだ。

 その効果は、世界中のどこにいても知り合いと連絡が取れる、という【念話】の上位互換とも言えるものだった。

 似たようなものでクロシュは【宣託】を持っているが、こちらは一方的に遠方へ伝えるだけなので、こちらのほうが明らかに使い勝手はいいだろう。

 しかしルーゲインの【光念話】は、クロシュへ繋がらなかった。


「まさかクロシュさんの身になにかが?」


 スキルが妨害される場合、なんらかのスキルの影響下にあると考えられる。

 特に結界系スキルに囚われている状況が、可能性としては高かった。

 となれば、このタイミングでの敵襲も偶然なのかを疑ってかかるべきだとルーゲインは思い至る。

 計画的な犯行であれば、こちらの戦力も把握されていると考えられ、相応の戦力を整えているとすれば決して油断はできない。


「とはいえ僕とゲンブさんが揃っているのに襲撃とは、侮られたものですね。クロシュさんにも任されていることですし……久しぶりに全力を出してみましょうか」


 そう呟くとルーゲインは己の腕、黄金のガントレットに魔力を漲らせる。

 決して溜まった鬱憤を晴らす好機だ、なんて考えていないと言い訳しながら。

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