なんとしてでも買い占めなければ
カードの宣伝をするため、それぞれの教室へと戻ったミリアちゃんたち。
その後を追うように俺は移動する。
単純に、みんながどのように宣伝してくれるかに興味もあったけど、それ以上にちゃんと重要な部分を伝えてくれるかが心配というのもある。
特にミリアちゃんは最近までクラスに馴染めていなかったから、友達も少ないみたいだし……少ないというか、いない?
やっぱり心配だ。
そんなワケで、こっそり様子を覗くことにしたのである。
教室が近い順に見て行こうと決めて、最初の教室へ近寄る。
ここは五学年の教室Aか。
最近になって知ったのだが、学士院では学年によって教室数が変わるようだ。
例えば五学年は教室数がAからCまでの三つあるのに対し、四学年はAのひとつだけになっている。
それだけ毎年、入学希望者の数に偏りがあるという意味だ。
通えるのは貴族や金持ちだけだから、きっと仕方ないことなのだろう。
その五学年だが、Aにソフィーちゃん、Cにミルフィちゃんがいるはずだな。
ここは教室Aだから、最初はソフィーちゃんだ。
こっそり中を覗く……のは扉の位置的に、そして俺の学士院における認知度的にも難しいので【迷彩】を使うとしよう。
どこかの誰かが遠吠えでもしなければ、解除される恐れもないからね。
周囲を警戒しつつ透明化した俺は、他の生徒に便乗して教室内へ潜入する。
さて、ソフィーちゃんはどこに――。
「皆さんご覧なさい! このような素晴らしいカードは他にありませんわ!」
「わぁ、キラキラしてる! こんなの見たことない!」
「すごく綺麗……!」
「わたしにも見せて―!」
ものすっごい自慢しているソフィーちゃんがいた。
あれ……宣伝してくれるんだよね?
自信満々に片手を腰に当てて、威風堂々ともう片方の手を掲げている。その小さな手には、光輝く一枚のカードがあった。
……気のせいかソフィーちゃんにぺかーっと後光が差しているな。
やっていることは単なる自慢なのだが、眩しいくらいの見せつけっぷりのおかげか嫌味ったらしい感じはせず、いっそ清々しいほどだ。
しかもよく見ると、あのカードは『聖女クロシュ』じゃないか。
自分がモチーフのカードじゃない辺りがソフィーちゃんらしい。
それにカードをもっと近くで見ようと、クラスメイトたちが集まっているみたいだし、注目を集めるという点では成功しているな。
「あら、この騒ぎはどうしたの?」
「ソフィーリアさんが綺麗なカードを見せてくださるようよ」
「それで浮かれているのね。まったく野蛮だわ」
「まったくです」
「ただソフィーリアさんがあそこまで言うカードには興味がありますね」
「でしたら注意をするついでに、わたくしたちも参りましょうか」
「賛成です」
そんな会話に振り向くと、集まっているクラスメイトとは纏う雰囲気が違う、どこか気品の漂う少女たちがいた。
特に先頭を歩く子は気が強そうで、実にお嬢様といった印象である。
なんとなくだけど、こちらは貴族のご令嬢で、一足先にソフィーちゃんの近くに集まって騒いでいたのが一般のお金持ちなのかな?
ちょっと雲行きが怪しくなって来たぞ。
とりあえず今は成り行きを見守ることにしよう。
「ごきげんようソフィーリアさん。なにか騒がしいようですけど、もう少し淑女として慎みを持って――」
「あらエレノア、ちょうどよかったですわ!」
「え……あっ、ちょっと、そ、ソフィーリアさん!?」
気が強そうな子はエレノアちゃんというらしい。
この騒ぎの発端であるソフィーちゃんをたしなめようと近付いたところ、エレノアちゃんはソフィーちゃんに手を取られて慌てふためいている。
「ぜひ貴女にも、このカードを見て欲しいと思っていましたのよ」
「わ、わたくしに……?」
「もちろんですわ! さあご覧なさい! この神々しいまでのカードを!」
「これは……たしかに素晴らしい美しさですね」
あっさりソフィーちゃんのペースに飲み込まれるエレノアちゃん。
これは心配いらなかったかな?
「ソフィーリアさん、このカードはいったいなんなのでしょう?」
「よくぞ聞きましたわ! 実は他にもありましてよ!」
サッと残りのレアカードを取り出して同じように掲げれば、いまや陰口を言っていた子たちさえもカードに興味を抱いて注目している。
まさか、ここまで計算していたというのか?
なにも考えていないと思いきや、恐るべしソフィーちゃん。
感心していると、エレノアちゃんが一枚のカードを指差した。
「そ、ソフィーリアさん! そのカードは……!?」
「はて……このカードがどうかしまして?」
もったいつけるような動きでソフィーちゃんはカードをひらひらさせると、やがてエレノアちゃんは焦れたように、もっとよく見せて欲しいと懇願する。
そのカードとは……。
「ど、どうしてソフィーリアさんのカードがあるのですか!?」
「どうと言われましても、私は譲って貰っただけですわ」
大したことないようにソフィーちゃんは言う。
一方でエレノアちゃんは物欲しそうな目をして、ソフィーちゃんのカードに視線が釘付けだった。
「それはその……いったいどなたに?」
「残念ながら制作者に関しては明かせませんわよ。ですが、これはカードゲームとして近いうちに販売される予定だとお聞きしましたわね」
「く、詳しく教えて貰えますか!?」
「ええ、もちろんですわ……」
あ、にやりとソフィーちゃんが笑ったぞ。
どうやら初めから目的は、あのエレノアちゃんを釣ることだったみたいだ。
本人は隠しているみたいだけど、内心ではソフィーちゃんを慕っているのは間違いないだろう。ツンデレ的な感じで。
そこで自分のカードの存在を教えれば自ずと食いつくし、自然な流れで説明することで他のクラスメイトにもカードを宣伝できる。
……正直、想像以上にやり手だ。
普段の『お姉さま! お姉さま!』とべったりな姿からは想像もできないよ。
俺の脳内でソフィーちゃんの評価がうなぎ登りになった瞬間である。
あと、エレノアちゃんとの関係も、いずれ聞いてみたい所存です。
ソフィーちゃんはまったく問題なかったため、次の教室へと向かう。
今度は五学年の教室C……ミルフィちゃんのクラスだ。
本人のやる気は凄まじいけど、ソフィーちゃん同様に普段のだらけた姿を目にしているせいか、どうしても不安は拭えない。
とはいえ四人の中で、最も公私を分けるのに長けているのもミルフィちゃんだ。
きっと大丈夫だと自分に言い聞かせながら、さっきと同じように【迷彩】で教室内へと潜入した。
教室内は静かで、先ほどのような騒ぎは起きていない。
あんな方法は、きっとソフィーちゃんくらいにしかできないだろう。
ミルフィちゃんの席はカード製作の相談に訪れた際に確認済みだ。そちらへ目を向けると、何人かの生徒たちが集まって談笑している。
その中心いるのは、ミルフィちゃんだ。
「私は実技に不安がありまして……」
「その気持ち、わかりますわ」
「ミルフレンスさんはどうですか?」
「そうですね……私は、私に出来ることを精一杯、努力するだけですから」
「さすがミルフレンスさんですね! そのひたむきな姿勢だからこそ学問が優秀のみならず、不得手な実技でも結果を残せるのですね!」
「大したことはしていませんよ。そんなにおだてないでください」
見事に猫を被っている!
一瞬、あそこで話しているのは誰なのかわからなかったよ。
相変わらず見た目は完璧な深窓の令嬢を演じているけど、きっと内心では一刻も早く家に帰って、だらだらしたいと思っているに違いない。
しかし肝心の会話内容が、本当になんの変哲もない雑談だ。
カードの宣伝はしないのかな?
俺がそわそわしながら気にしていると、ミルフィちゃんはおもむろにカードを取り出した。
「ところでみなさんは、このようなカードをご存知ですか?」
唐突に切り出して来た!?
話の流れの中で見せる予定だったみたいだけど、少し強引な気もするな。
そんな俺の心配をよそに、談笑中だったはずの少女たちの関心は、即座にカードへと向けられた。
まるでミルフィちゃんの一挙一動を観察していたかのような鋭さだ。
……ひょっとしたら、この子たちは取り巻きかなにかなのか?
どうも、そんな気がしてきた。
「ミルフレンスさん、そのカードはなんでしょう?」
「手に触れずに、そのままご覧ください」
言いながら机の上に一枚一枚カードを並べ始める。
これが宣伝のためとはいえ、手に触れずに、という辺りにミルフィちゃんの本音が窺えるな。
「こ、これはミルフレンスさんがカードに……!?」
「なんと美しい絵でしょう」
「本当に、きらきらと輝いているのもそうですが、この見慣れない画法も一般的な絵画と違って魅力的ですね」
「まあ、こちらはソフィーリアさんと、アミステーゼさん、それにミーヤリアさんのカードまで……」
「ミルフレンスさん、これらはなんなのでしょう?」
「近く販売されるカードゲームの見本です」
淡々と質問に応えるミルフィちゃんだけど、その顔には成功を確信する頬笑みが浮かんでいた。
それからミルフィちゃんは質問に答える形で、カードが発売される時期、販売される店の場所を宣伝してくれる。
あくまで聞かれたから答えただけで、宣伝したいという意図を悟らせないのがソフィーちゃんと同様で上手い。
ただ……。
「このようなカードが大量に購入できるなんて……」
「わたし、お父様にお願いして買ってみます!」
「ですけど、必ず欲しいカードが手に入るとは限らないのですね」
「それなら手に入るまで買えばいいでしょう」
「あら、わたしたちの分も残してくださいね?」
この反応からすると、普通に宣伝しても喜んでいたような気もするな。
「もし目当てのカードではなくとも、いずれ交換に使えますから大事に取っておくといいですよ」
「交換ですか?」
「はい。みなさんが察している通り、必ず欲しいカードが手に入るわけではありません。ですが他の誰かが目当てのカードを引けば……」
「ああ、たしかにそうですね! それがその方が欲しかったカードでなければ、交換して貰えるかも知れません!」
「ですから、もし目当てのカードではなくとも、大事にしたほうがいいですよ」
これは助言と言うより、きっとミルフィちゃんからのお願いだろう。
せっかく作ったカードを粗末に扱って欲しくないというね。
俺だって売上のためとはいえ、みんなのカードを大事にしない輩なんかに売りたくないから気持ちは十分に理解できた。
そういえばカードスリーブって存在するのかな?
素材的に難しいからなさそうだけど、いずれ販売したら売れそうだ。
その時はカード用のコレクションファイルなんかも作れたら面白いな。
ともあれ、ミルフィちゃんも問題なさそうだ。
俺の心配が杞憂だったとわかったので、次の教室へ向かう。
次は五学年の教室Bで、ここにはアミスちゃんがいる。
彼女は四人の中でも年上で、しっかりした性格だから心配はしていない。
それでも気になるから、様子だけは見ておこう。
もはや慣れた動きで教室内へ潜入する。
ここに来るの初めてだが、アミスちゃんの席はどこかな。
軽く探していると、やはり生徒たちが集まっている一角がある。
よくよく考えてみれば彼女たち四人は、パレードで大々的に表彰された英雄なんだから、その発言力や影響力はとても強いだろう。
まったく意図していなかったとは言えないけど、今回の宣伝が失敗する要素なんて微塵もないんじゃないか?
自分が見当違いな心配をしていると気付いてしまったが、ここまで来たのだから最後まで見守らせて貰おう。
「つまり、追加で欲しいカードはその追加パックを購入するのですね」
「その通りですね。中には基本のセットに入っていない先ほどのようなカードが手に入ることもあるそうですよ」
「クジ引きのようなものですか。面白そうですね!」
アミスちゃんはすでにカードの説明を粗方終えていたようだ。
先に二人の様子を見てから来たのだから仕方ないけど、どうやってカードについて切り出したのか気になる。
実直なアミスちゃんのことだから、変に演技しないで正面突破かな。
「ですけど、どうしてアミステーゼさんたちがカード描かれているのですか?」
「あら、つい最近のパレードを忘れましたの? あれを見ていればアミステーゼさんたちを題材にしようと考える者は多いと思いますわ」
「アミステーゼさん、そうなんですか?」
「えっと、それはですね……」
俺が製作者だと明かさないよう頼んでおいたからか、アミスちゃんは少しだけ困ったように口ごもると、すぐに元の凛とした表情に戻る。
「詳しくは言えませんが……このカードを作った方は、私たちとはまったく縁もゆかりもない人です!」
いやいやいや、なに言ってるのアミスさん?
誤魔化すにしても、もうちょっと色々あるでしょう?
これじゃ、本当は知人だけど知られたくないって言ってるようなものだ。
「ええと……ではアミステーゼさんは、このカードの見本を見知らぬ何者かから受け取られたのでしょうか?」
「……そうです!」
そこは否定しないと残念な子みたいになっちゃうよアミスちゃん。
あれ……おかしいな。
優秀なアミスちゃんなら、このくらい切り抜けられると思ったのだが、もしかしたらウソが下手だったりするのだろうか?
まさか本当に正面突破だったとは……さすがに予想外だ。
どうする、俺のほうからフォローすべきか?
「そ、そうですね、アミステーゼさんが言うのですから」
「このカードを作った方は、アミステーゼさんとは関わりのない人なのですね」
「よくわかりましたわ。みなさんも、そうですね?」
ここで、さらに予想外のことが起き始めた。
なんと周りの子たちは目配せをして、アミスちゃんの意図を汲み取ったかのようなことを口々に言い始める。
「ですが、そのどこかの誰かは、よくアミステーゼさんをご存知なのですね。そうでなければ、ここまで精密に人物が描かれたカードは作れませんもの」
「そのようですね。私はまったく知りませんが」
「ええ、もちろんです。一方的に向こうが知っている、つまりカードは献上品だった……ということですね」
「その通りです。理解してくれて助かります」
さらには、どこまで情報を伏せればいいのかを探りつつ、アミスちゃんへ遠回しに助言しているではないか。
これってアミスちゃんは気付いて……いないな。
うーむ、こういうのを人徳のなせる業と呼ぶのだろうか。
腹芸ができないとアミスちゃんの貴族としての将来が不安だったけど、今後も彼女の周囲にいる者たちがよく補佐してくれそうだ。
そんな未来が、この場面から垣間見えてしまった。
まだちょっと心配だけど、いい友人に恵まれているようなので、あとは彼女たちに任せても良さそうだ。
いずれ俺からも挨拶に行って、いい関係を築いておこう。
最後になってしまったが、四学年の教室Aへと到着する。
ここは見慣れた教室だ。だってミリアちゃんと何度も訪れているからね。
ソフィーちゃんとミルフィちゃんは予想以上の成果を上げて、アミスちゃんは予想外の結果を出している。
果たしてミリアちゃんはどうだろうか……。
教室内へ入ると、すぐにミリアちゃんの姿を確認できた。
その隣にいるのは……あれはフォルティナちゃんか?
どうやら、またお茶会へのお誘いらしい。
「それでだなミリア……ん? なんだそれは?」
「あ、これはですね」
ミリアちゃんが隠し持っていたカードに気付いたようだ。
フォルティナちゃんに宣伝するつもりはなかったのか、ミリアちゃんはカードを隠そうと動かしたのが裏目に出てしまった。
俺の目にも、ポケットからカードがこんにちはしているのが確認できた。
観念したミリアちゃんは、机の上にそっとカードを置く。
「これは、カード?」
「カードゲームだそうです。もうすぐ販売される物を譲って貰いました」
「ミリアはカードゲームが好きだったのか?」
「そういうのは私よりもミルフィのほうが好んでいますけど、このカードは特別なんです」
「ほぅ……ちょっと手に取ってみてもいいか?」
「いいですけど、丁寧に扱ってくださいね」
「もちろんだとも」
許可を受けてフォルティナちゃんはカードのイラストに目を通す。
俺も斜め後ろから覗くと、低レアの英雄や魔物、武具のカードばかりだ。
あれ、最高レアのカードはどこだ?
「ふむ、これといって特別なところはなさそうだな……まあカードの絵は独特なタッチで興味深いが」
「本当に特別なのは、こっちですから」
つまらなさそうに言うフォルティナちゃんに対し、ミリアちゃんはさらに数枚のカードを取り出した。
なるほど、どうやら最高レアは別に保管していたようだ。それほど大事にしてくれているなら、やっぱりスリーブやファイルの開発を急ぐべきかも知れない。
プラスチックの作り方なんて知らないけど、ルーゲイン辺りに丸投げしたらやってくれそうな気もする。
「そっちは見せてくれないのか?」
「いいですけど、本当の本当に特別なので、見るだけですよ」
素直なミリアちゃんにしては珍しくワガママというか、僅かな抵抗感がある。
本心では誰にも見せたくないけど、友人の頼みだから少しなら構わない。
そんな意思を感じた。
よっぽどカードが嬉しかったのか。
だとしたら作った甲斐があるというものだ。
一方で、それほど大事なカードを見せてくれることに、ちょっとだけ喜んでいた様子のフォルティナちゃんだったが……。
その笑顔は、すぐに曇ってしまった。
「ミリア……そのカードはまさか」
「もちろん、クロシュさんのカードです!」
おお、あのミリアちゃんがドヤ顔している……!
日常ではあまり見られないミリアちゃんの秘められた一面に眼福だったが、あまり喜んでもいられない。
対照的にフォルティナちゃんの顔に、どんどん影が差しているのだから。
お茶会にお邪魔した時も、以前から親友だったはずのミリアちゃんが俺に構ってばかりだったから、フォルティナちゃんから敵意を向けられてしまったのに、これは火に油どころかガソリンを注ぐ行為では?
お、俺としてはフォルティナちゃんとも仲良くしたいんだけど……。
そんな気も知らないミリアちゃんは、カードを見つめてニマニマと嬉しさが隠せないような笑みを浮かべている。
これが普段ならば俺も喜んでいたのに、今は……今だけはマズい!
というかミリアちゃんも鈍いよね?
もうちょっとお友達に意識を向けても、いいと俺は思うな。
「あ、そうでした。まだ他にもカードがあるんですよ」
「そうか……それはよかっ……た、なぁ!?」
残りの最高レアカードを取り出したミリアちゃんに、打ちひしがれたようなフォルティナちゃんだったが、急に身を乗り出して一枚のカードに注目する。
ああ、それはミリアちゃんのカードか。
この流れはひょっとすると、ソフィーちゃんの時と同じ……。
「み、ミリア、そのカードに描かれているのはミリアじゃないか!?」
「はい、そうですよ。それとアミスやソフィー、ミルフィのカードもあります」
「どうして……いや問題は、そうだっ、誰が作ったんだっ?」
興奮気味に尋ねるフォルティナちゃんだが、その視線だけはずっとカードへ向いている。
他のクラスでも何人かいたけど、やっぱり同じだったか。
製作者にあって、自分にも譲って欲しいと頼むつもりだろう。
「残念ですけど、それは教えられない約束でして」
「そんな……」
「私から言えるのは、このカードゲームのルールについてと、あとは販売される時期と場所くらいです」
「……そうか、販売されるんだったな! ということは、そのミリアのカードも売られるということか?」
「そのことですけど……」
熱心に聞きたがるフォルティナちゃんに、ミリアちゃんは思い出したかのようにカードの宣伝を始めた。
まあ今さら必要ないと思うけど。めちゃくちゃ食い付いてるし。
そして、やっぱりミリアちゃんのカードを手に入れるつもりのようなので、こうなると確実に購入するために動くだろうけど、フォルティナちゃんは皇女様なワケだから、えっと……財源ってどうなっているんだろう?
さすがに国庫でガチャを回させるのは心苦しい。
毎月貰っているお小遣いから出すなら、使い道は自由だから止めないけど。
「私が知っているのは、これぐらいです」
「そうか、感謝するぞミリア。……最高レアのミリア、なんとしてでも買い占めなければ」
なにか恐ろしい発言があった。
後半は呟くような声だったので、背後にいた俺以外、恐らくミリアちゃんにも聴こえなかったはずだけど……やっぱり止めるべきか?
そもそも最高レアは試作品を除くと、一般に出回るのは各種三枚くらいだ。
少なすぎるように感じるが、これは初期印刷の数が少ないので仕方ない。
まだまだ売れるかどうかもわからないのだから、あまり印刷して失敗したら大損になるワケだし、すると必然的に最高レアの枚数も減ってしまう。
だけど、この分だと今からでも追加印刷を頼んでおいたほうが無難だな。
帰ったらグラスに相談してみよう。
これでみんなの教室を見て回ったワケだけど、結果的には十分な宣伝だった。
ミリアちゃんの成果はフォルティナちゃんだけになってしまったけど、皇女である身分を考えれば宣伝効果は絶大だろう。
あまりやり過ぎても反感を買いそうだし、こういうのは今回だけにするけどね。
さて、そろそろ戻っておくとしよう。
覗き見がバレたら、みんなを信頼していないと誤解されちゃうからな。




