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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第3章「スーパー幼女大戦」
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家宝にしますわ!

 一通りテストプレイした結果、ルールに手を加えることにした。

 細かい部分はそのままだが、そっちは発売後もルール改訂として変更できる。

 そうやって、これからも修正を重ねて形を変えて行くかも知れない。

 新たに登場するカードとの兼ね合いもあるし、バランスを維持しないとゲームにならないからな。

 プレイヤーからしたら、ころころルールを変えられても困惑するだろうから、いずれは以前から考えていたように初心者用のシンプルなルールと、上級者向けのテクニカルなルールで分けたいところだ。


 具体的な変更点だが、大きく二つある。

 ひとつは『魔石カード』について。

 ユニットカードを場に出す際に消費するコストであり、レア度の高さによって必要な魔石も多くなる。

 このカードは当初、他のユニットカードと一緒に山札に混ぜておくつもりだったのだが、なかなか引けない場合は一方的に攻撃される結果となった。

 そこで魔石カードだけの山札を作ってみた。

 枚数は固定として、通常の山札と一緒に引くことができる。最悪でも場に戦えるユニットがいない、という状況は減るだろう。

 これだけだと、わざわざ山札から引く意味が薄れてしまいそうだが、そこで次の変更点が生きてくる。


 もうひとつの変更点は『魔法カード』と『魔道具カード』の追加だ。

 現状だとユニットカードを場に出して戦うだけなので、ここに特殊カードを加えることにしたのである。

 使い方によっては戦況をひっくり返せるほど強力な手札となる予定だ。

 例えば相手ユニットを撃破したり、逆に攻撃を防いだり、あるいは魔石を多く獲得できるなど強力なカードが揃っている。

 重要なのは魔法カードは効果が強力な反面、場に条件が揃ったユニットがいないと使用できないなど、細かい条件が設定されていることか。

 一方、魔道具カードは魔石を消費することで、いつでも使える。

 しかし魔石はユニットを出すのにも必要なため、下手に消費せず使いどころを見極めなければならないだろう。

 これらを上手く使いこなすことが勝利への近道となる。


 ……とまあ、色々とアイデアを出し合ってそうなったワケだけど。

 ちょっと内容が難し過ぎるかな?

 ある程度カードゲームに慣れているならともかく、この世界でいきなり小難しいルールを押し付けても、定着するかが不安だった。

 まあ、そのために見栄えするイラストがあるんだけどね。

 最悪でもカードが欲しいという理由だけで購入は期待できるだろう。


 カードの出来栄えは、改めて見ても感心するほどよく出来ている。

 まだ種類が少ないから物足りないけど、これも売れ始めたら順次、第二弾第三弾と打ち出すつもりだから、最初だけの我慢だ。

 そう考えると、カードの種類が少ないうちは難しく作戦を考えなくてもいいのだから、思ったより複雑にはならないかも知れないな。

 なんにせよ、宣伝活動が重要になるだろう。

 その辺りはアテがあるけどね。


 こうしてトレカ作りは一応の完成を見たので、俺はミルフィちゃんの許諾を得ると、グラスに伝えて量産体制に入って貰った。

 その印刷費用だが、現状では俺に資金などない。

 エルドハート家から借りれば済む話だけど、ここまで来てそれは情けない。

 せっかくだから自分で稼ぎ、そのお金で払いたかったからね。

 だからグラスに支払いは待って欲しいと頼んでみたら、なんと販売した売り上げから引くという、ありがたい申し出を受けた。

 たぶん恩を売られているのだろうけど、この計画が成功すればグラスたちの儲けも大きいから、それでお相子になるだろう。

 成功させるためにも、宣伝には力を入れなければならない。

 まだ発売前だけど、事前に宣伝するなんて地球では当たり前だったし、こちらでも特に規制するような法律がないみたいなので問題ない。

 いよいよ俺の秘策を使う時だ!




 俺のっていうか、実際にやってくれるのはミルフィちゃんだけどね。

 トレカ計画のターゲットは貴族……より厳密に言えば、貴族の子女がメインだ。

 つまり学士院にいる生徒たちこそが、俺の狙いだった。

 ここでトレカの魅力を伝えれば、自然とそれぞれの人脈を伝って帝国中の貴族に広まり、いずれ国外にも届くことになる。

 そうなればヒマを持て余した金持ちの大人が興味を持つだろう。

 ひとりひとりはどれだけ食い付くか不明だが、そこまで宣伝すれば儲けは膨大なものになるはずだ。

 これは、その足掛かりとなるワケだな。

 そう考えていたのだが――。


「クロシュさん、このカードの束はなんでしょうか?」

「あー、ええとですね……」


 後日、俺は複数のカードセットをグラスに用意させ、それを直接ミリアちゃんの屋敷へ届けて貰ったら……うっかりミリアちゃんに見つかってしまった。

 完成しているから別に教えてもいいんだけど、本当なら人気が出てから、実はあのカードは私の発案なんですよ、と明かすつもりだったのに……。

 まあ、バレちゃったなら仕方ないか。

 ここは気持ちを切り替えて、初めからプレゼント用だったことにしよう。


「カードを手に取ってみてください」

「はい……え、これってアミスに、ソフィー、それにミルフィも?」

「ミリアのカードもありますよ」

「あ、本当です! クロシュさんのカードもありました!」


 最高レアのキラキラに、ミリアちゃんも魅了されているようだ。

 同じくらい瞳を煌めかせて、うっとりと見つめている。


「こ、このカードはどうしたんですか!?」

「個人的に作ってみたものですが、どうで――」

「作った!? ですか!?」


 おお、予想以上のリアクションだ。

 目をぱちくりさせて驚くミリアちゃんも可愛くて、つい笑顔になってしまう。


「えっと、でも、どうして私たちのカードを作ったんですか?」

「実はですね……」


 俺はミリアちゃんにトレカ計画について教える。

 あくまで目的は単なるお金儲けではなく、その先にあるミリアちゃんや幼女たちを救うための、資金稼ぎであることを強調しておく。

 そして、せっかくなのでミリアちゃんにも協力して貰うことに決めた。


「なるほど……そういうことでしたか」

「すでにミルフィからは協力してくれる手筈になっています。ただ、ひとりよりも二人のほうがずっと効果的ですからね」

「あ、だからアミスとソフィーの分もあるんですね」

「……そ、そうですね。こちらは二人の分として用意しました」


 用意したセットはすべて予備のつもりだったんだけど、たしかにこうなったらみんなを巻き込んでしまったほうが手っ取り早いか。

 少なくともノブナーガの手を借りなければ、俺としても自力でやり遂げたと納得できる範囲だ。

 ちなみにミリアちゃんたちは自分がカード化されて販売されることには、特に抵抗感はない。

 これはカード化する際にソフィーちゃんから確認したけど、元々この世界では英雄的な偉業を成した人物の写し絵や絵画が、そこかしこで販売されるらしい。

 思えばパレードのあと、俺やミリアちゃんの写し絵が売られていたな。

 そんな理由から、むしろ名誉なことだと好意的に受け取るようだ。


 肖像権が気になるけど、その辺の法律はまだ定められていないようだから、これだけで罪に問われることはないだろう。

 一方で写し絵と絵画そのものには、撮影者や画家に所有する権利があるから、他人が無断で複製すれば窃盗の罪になるそうだ。このカードはペンコが描いたものだから俺には関係ないな。

 ただし貴族が被写体だと、場合によっては不敬だとかで画家や販売者が捕えられる事例もあるようだ。

 あくまで不敬を理由にするから明らかに讃える物であったり、露骨な嫌がらせでもしない限り、やっぱり罪にはならないようだけどね。

 どちらにせよ、ここでミリアちゃんに確認すればいい話だ。


「今さらですがミリアは自分がこういったカードになって販売されるのを、どう思いますか? イヤだったりしませんか?」

「どうしてですか? たしかに変なカードだったら困りますけど、クロシュさんのカードはキラキラして綺麗です! 私は気に入っていますよ!」


 当のミリアちゃんが、こうして喜んでいるなら問題ない。

 もしこれでダメだと言われたら、残念だけど除外して販売することになっていたから、そうならないで良かった。

 

「ではクロシュさん。早速ですけど、きちんと宣伝できるようになるためにも詳しく教えてください」

「ええ、もちろんです」


 ずいぶんと乗り気だ。

 なにがミリアちゃんのやる気スイッチを入れたのかは定かじゃないけど、それはそれでありがたい。

 俺はミリアちゃんにカードのルールから、レア度、実際に販売されるガチャの仕組みに、これから展開される第二弾のカード等を説明する。

 すると、さすがはミリアちゃん。すぐに理解してしまった。

 これなら宣伝も上手くいくだろう。




 それから翌日。

 本来の予定とは少し異なるけど、学士院でのトレカ宣伝が始まろうとしていた。

 この学士院、勉強に必要ない物を持ち込んで没収されないか不安だったが、よくよく観察すると手鏡や読書用の本、さらにはアクセサリーなどが散見された。

 どうやら個人の持ち物の範疇であれば自由にしていいらしい。

 安心してアミスちゃんとソフィーちゃんを人気のない場所へ呼び、カードをプレゼントする。

 ついでにミルフィちゃんにも協力者が増えたことを説明するべく同席して貰ったので、ミリアちゃんも含めて四人が揃った。

 このメンバーが集まるのを目にしたのは、なんだか久しぶりな気がするな。


「こ、ここ、これはお姉さまのカード……!?」

「私だけではなく、みんなのカードもありますよ」

「家宝にしますわ!」


 予想はしていたけど、ソフィーちゃんは俺のカードを食い入るように見つめて興奮気味だ。ちゃんと聞こえているのかも怪しい。


「この精霊剣とはヴァイスさんですか? た、たしかに私を継承者だとする噂は耳にしましたけど、実際には過去に紛失してしまっていますし、ご本人から認められたわけでもないので、なんというか申し訳ないです……」


 アミスちゃんは自分のカードに付けられた二つ名『精霊剣の継承者』が気になるようだ。

 あの二つ名は誰が考えたのかは知らないけど、由来はかつて彼女の家でヴァイスが保管されていたところから来ているらしいな。

 その頃のヴァイスは精霊剣と呼ばれ、本来なら今頃はアミスちゃんが受け継いでいるはずだったのだが、あいつが【人化】して黙って抜け出したから、紛失という扱いになってしまったのだ。

 だいぶ昔の話だし、アミスちゃんには真実を教えてあげたけど、だからって今さら継承者として名乗りを挙げる気にはならないようだ。


「アミス、これはあくまでカードゲームですから深く考えないでください。どうしても気になるようでしたら、そのカードは修正しますけど」

「……いえ、このカードの絵は私も気に入っています。こんな風になれたらと、目標にしたいほどです」


 そのカードには白いレイピアを構えた、凛々しい表情をした蒼髪の姫騎士が描かれている。もちろんアミスちゃんである。

 俺がペンコにイメージを伝えて描いて貰ったものだけど、目標にしたいほど気に入ってくれたなら俺も嬉しいね。


 なお、ミリアちゃんのカードには【魔導布】を身に着け、螺旋刻印杖を掲げる荘厳な雰囲気に包まれた黒髪の少女が描かれている。

 ソフィーちゃんのカードは燃え盛る炎鳥を片手に乗せ、不敵に微笑んでいる金髪碧眼の少女。

 そしてミルフィちゃんのカードは他の勇ましいシーンを切り取ったカードと異なり、気怠げな瞳をした少女がベッドの上に寝転び、ふんわりロングの紫髪を広げている。

 どうしても活発的な印象が湧かなかったから、これだけ戦いとは無縁な一枚になってしまったのだ。本人からは一発OKが出たけど。


 とりあえずアミスちゃんとソフィーちゃんもカードを販売することに反対しなかったので、ミリアちゃんと同じように協力してくれるよう頼み込む。

 二人とも、当たり前のように快諾してくれたのは言うまでもない。

 これでミルフィちゃんも含めて、四人とも宣伝活動に力を貸してくれるワケだけど、ここで俺は一度みんなから距離を取ることになる。

 ミリアちゃんにはバレてしまったけど、このカードを製作したのが俺だということは、まだ世間に伏せておきたかったからだ。

 俺が近くにいると聖女パワーのせいで目立ってしまい、すぐに関係者であるとバレてしまうからな。

 そのためにも、あくまで四人には制作者から近日発売するカードを優先して譲って貰った、という形で宣伝して貰う。

 すべて事実だけどね。


「それでは頼みましたよ」

「任せてくださいクロシュさん」

「こちらも、確認しましたから問題ありません」

「お姉さまの頼みですから頑張りますわ!」

「始める……!」


 シュバッと、それぞれのクラスへ戻って行く四人。

 あのミルフィちゃんですら機敏な動きを見せる。これは本気だな。

 それもそうか。あれだけ積極的に関わっていたのだから。

 ……さて、そろそろ俺も様子を覗きに行くとしよう。

 離れるとは言ったけど、大人しく待っているとは言っていないよ。

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