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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第3章「スーパー幼女大戦」
122/209

すごく綺麗

ここからクロシュ視点に戻ります。

 ノブナーガに異世界の子供たちを匿っている件を打ち明けた俺は、視察も兼ねたノブナーガと共に、その足で転移の魔法陣を使って村へと向かった。

 転移は便利すぎて困るというノブナーガだったが、使える物は使わないと宝の持ち腐れだからね。

 俺なんて、使いどころがわからず出番のないスキルがいくつあることか。

 到着すると、俺はそそくさと子供たちの元へ向かい、ノブナーガの相手は村長たるルーゲインやゲンブ、護衛騎士団の団長に押し付ける。

 村の近況やら警備体制の報告なんかは、村に滞在している当事者のほうが詳しいからだ。だから決して面倒で逃げたワケじゃないよ。

 ただノブナーガは、俺から細かい説明が聞けると期待していなかったようで、なにも言わずに見送られた。

 それはそれで心外である。


「ならクロシュちゃんが説明してくれるのかな?」


 軽く文句を言ったら、そう言い返された。

 後に、大人しく魔法の授業に取り組む俺の姿があった。




 そうこうして子供たちに魔法を教え始めて、もう二週間が経っていた。

 当初は手間取り、なかなか上手く魔力を掴み取れなかった子供たちも、この頃には半数以上が【魔力感知】か、それに類似するスキルを獲得していた。

 特に目覚ましい成長を見せたのはゲンブのパートナー、スーちゃんだ。

 本人もやる気に満ちているせいか、ついに【魔力放出】の獲得にも成功する。これには保護者のゲンブも喜んでいた。

 どうやらスーちゃんには、魔法の才能がありそうだ。

 もはや魔法系スキルに至るまで、時間の問題である。


 ……でも、とある事情から一足先に魔法を習得する子がいた。

 誰よりも先に魔力を視認するスキル【幻視】を手に入れたし、その後もトントン拍子でスキルを身に着け、その扱いも上達していた。

 名前はサニアちゃん。

 俺が船から救出した女の子だと記憶している。

 でも、スキルに【神託】と、称号に【神の加護】があるのは知らなかった。


 【神託】と【神の加護】は、かつて俺が持っていたスキルと称号でもある。

 これらは幼女神様との交信を可能とし、様々な恩恵を得られるという詳細不明なものだけど、とんでもなく強力なのは身を持って実感していた。

 残念ながら三百年前にミラちゃんを救うのに、【神衣】なるスキルを一時的に使った代償として消えてしまったのだが。

 それらがサニアちゃんに付与されていたのだから、さすがに驚いた。


 というかこれ、幼女神様の仕業でしょう?

 幼女神様は普通に村に居て、普通に子供たちに混ざって、普通に最初から居ましたよ? というような素知らぬ顔で友達をやっていた。

 おかげと言うべきか、そのせいでと言うべきなのか。

 本人の強いあこがれも相まって、ついにサニアちゃんは【雷魔法・序】を扱えるようになったのだから、まあ結果オーライなのか……。


 ともあれ、この時点で当初の目的は達成できた。

 この方法なら魔法スキルを獲得できると、確証が得られたのだ。

 ただ、髪の色から雷属性であるとは予想していたが『序』となっている。

 これは初歩中の初歩で下位系の魔法よりも低レベルの魔法らしい。

 その効力は、およそ戦闘に向かない。

 まあ戦闘用の魔法なんて、使い道が今のところないけど。

 でも使っていればスキルもランクアップしたりするのかな?

 これも、いずれ検証してみたいところだ。


 それから数日ほど遅れて、スーちゃんも【月魔法・序】を獲得した。

 こちらは幼女神様の助力もない。完全な素で、この速さ……やはり天才か。

 あっけなく魔法が使えるようになってしまったから、もう用意しておいた保険も必要ないだろう。

 もしこの方法がダメだった場合、俺はインテリジェンス・アイテムに魔法スキルを取得させて、それを子供たちに装備させることで間接的に魔法を使えるようになる、という手段を考えていたのだ。

 根本的な解決にはならないけど、魔法を教えると豪語しておいて誰もできなかったら子供たちが悲しむからね。

 まあ無用になったのなら、それが一番だ。


 肝心の月魔法の効果については正直なところ、よくわからなかった。

 スーちゃんが試しても黒いモヤを出したり、銀色の丸い鏡が出現したりと、まるで意味が不明だ。

 黒いモヤは目眩しになり、鏡は身だしなみを整えるのに便利なくらいか。

 そもそも他の属性と比べて【銀月】の特性を誰も知らなかった。

 ルーゲインは庭園の創造者である【真月鏡】なら、本人が【月魔法・上位】を取得しているそうなので詳しいはずだと言う。

 もっとも、教えてくれるかは別だとも続ける。アテにできないようだ。

 結局、月魔法の実態はわからず仕舞いだったが、今後も練習を重ねて解明してみせるとスーちゃんは意気込みを語ってくれた。

 きっと、その日は近いだろう。




 村での魔法実習は成功した。

 実戦形式に近い手段とはいえ、実際に魔法が習得できたのだから、例の打診を本格的に検討してみてもいいかも知れないな。

 学士院で、生徒たちに魔法の講義を行って欲しいという、あれだ。

 ミリアちゃんも期待しているから、前向きに考えたい。

 まあミリアちゃんには個人的に魔法を教えるから、授業で教えられることはなさそうだけど、俺が学士院に通う大義名分が得られるだけでもありがたい。

 そして幼女たちから先生と慕われ、手取り足取り素敵な授業を繰り広げるのだ。

 ……いいね!


 懸念としては、大の大人まで混ざって教えてくれと言い出さないかだ。

 実はすでに村の騎士から、ぜひ魔法を教わりたい、という嘆願書が届いている。

 忘れがちだけど、魔法は彼らにとっては伝説上の存在だ。

 例えば地球で魔法教室を開いたとする。でも子供にだけ教えますなどと言って金持ちや権力者を門前払いしたら、果たして納得するだろうか。

 恐らくだが、なにかしら仕掛けて来るに違いない。

 騎士たちに限って言えば大丈夫だと思うので、そちらはルーゲインの裁量に任せたが、学士院に在籍する生徒の大半は貴族だからな。

 その親が……権力を持っただけの大きな子供だったら色々と面倒くさい。

 いっそ幼女だけの秘密の園を築いて、こっそり教えたいね。

 名前は白百合の園とかかな?


 さて、楽しい楽しい未来へ思いを馳せるのはこれくらいにしよう。

 俺にはまだまだ、やらなければならないことが多いのだ。

 具体的にはトレカ作りとかね。


 トレカ作りの工程は、いよいよ印刷を依頼するところまで来ていた。

 その依頼先も、知り合いである片眼鏡のグラスに決めている。

 問題は高品質に仕上げるとコストが膨らみ、価格も上がるという点だ。

 どこからか……具体的にはギルドから、印刷に必要な『刻印珠』を拝借できたら、あとはグラスのほうで引き受けてくれるそうだけど、残念ながら刻印珠は簡単に手に入る物ではないらしい。

 だから、ここから先は難航すると思われたのだが……。


 なぜかギルドはあっさり刻印珠を譲渡してくれた。

 貸すのではなく、譲ってくれたのだ。

 むしろギルドマスターが頭を下げて受け取ってくれと懇願していた。解せぬ。

 おかげで今はもう、グラスからの連絡待ちの段階となったけど……。

 とりあえず、ヴァイスのドラゴン級冒険者としての威光が、ちょっと強めに効いたのだろうと納得しておいた。

 乱用してヴァイスの名声に傷が付いても困るから、今後は控えるけどね。


「我が身が師匠の役に立つ、それこそ至上の喜びです」


 当のヴァイスは、そう話していた。どこか嬉しそうに。

 そんなことを言われたら、今後もついつい甘えてしまいそうになるけど、俺はぐっと堪える。

 魔物図鑑の件に続き、刻印珠で二回も世話になってしまったのだ。

 これらは借りとして、いずれ返そうとすら思っている。

 本人は断るだろうけど……俺は仮にも師匠と呼ばれているワケで、師匠が弟子に頼りっ放しなのもかっこ悪いからね。

 たまには、いいところを見せたいんだよ。


 話をカードに戻そう。

 すでにグラスには依頼したので、試作品の完成を待つだけとなっている。

 ここまで事がスムーズに進んだのには、ペンコをお持ち帰りしたミルフィちゃんが、二人揃ってイラストを書き溜めてくれたおかげでもあった。

 結果として、トレカ作りはルールからイラストまで、ミルフィちゃんが主導となりつつあると言っても過言ではない。

 いったい、なにが彼女の情熱に火を付けたのか。

 元からおもちゃコレクターだったから、興味はあったんだろうけどね。


 そして本日ついに、待ちに待った試作品を受け取った。

 もちろん俺はひとりで開封したりしないで、まっすぐミルフィちゃんの屋敷へ赴くと、布に包まれたそれを丁重に手渡す。

 これを開封するのは俺より、彼女のほうが相応しいと思ったからだ。


「ついにミルフィのおかげで完成しましたよ」

「これが、そう……」


 いつもマイペースなミルフィちゃんだけど、僅かに声を震わせていた。

 心なしか、常に眠たげだった瞳も少しだけ見開いている。

 自分が制作に関わっているカードゲームの完成品が目の前にあるのだから、さすがのミルフィちゃんも感慨深いのだろう。


「眺めていても変わらないっすよミルフィさん! 早く開けて欲しいっす!」

「……わかった」


 ペンコに急かされて、いよいよ包みを解くミルフィちゃん。

 イラスト担当のペンコも、どんな仕上がりになっているか気になるのだろう。

 包みの中からは小さな木箱が出て来た。ミルフィちゃんは上部のフタをぱかりと外すと、その中に収められていたカードの束を取り出す。


「これが……」

「おぉ、なかなか良さそうっすね」

「私も見るのは初めてですけど、かなり良くできているのではないですか?」


 ミルフィちゃんは見やすいよう、テーブルの上に一枚一枚カードを並べる。

 どうなることかと不安はあったが……これは、まさしくトレカだ。

 実際に手に取って触れると表面はツルツルとした感触で、厚紙のような硬度があるから折り目が付き難い。

 裏面はすべて揃いの模様が入り、表面にはイラストと文字が印刷されている。

 日本のショップで見かけても、特に不思議には思わないほどのクオリティだ。


「このカードは、すごく綺麗」


 一枚のカードを手にして、ミルフィちゃんは食い入るように見つめている。今にも溜息が漏れそうな表情だ。

 あれは……最高レアのカードかな?

 グラスに依頼する際、ギルドの刻印珠ならオプションで加工方法を選べると言われたから色々と試してみたのだが、本当に背景をキラキラさせたり、イラストの一部分だけ光沢を持たせたりなど、レアの特別感を演出できることが判明した。

 ならばと、俺はあれこれ細かく指定させて貰ったのだが、ミルフィちゃんの心を射止めるほどの完成度になったらしい。


「おや、そのカードはクロシュさんっすか?」

「……そういえば、私もカードにされたんでしたね」


 一応、【魔導布】やら【聖女】やら、名前だけは有名だからミルフィちゃんが提案してくれたのだ。

 思えば写し絵も売れていたからな。

 それも大天使ミラちゃんの美貌があってこそだが、そう考えると俺もミラちゃんのカードが欲しくなるな……というワケで、実はみんなのカードを作ってある。


 『魔導布の主、ミーヤリア』

 『精霊剣の継承者、アミステーゼ』

 『炎鳥を従える姫君、ソフィーリア』

 『眠れる英雄姫、ミルフレンス』などなど。


 二つ名っぽいのは、帝都で流行っていた彼女たちを褒め称えたものだ。

 こういうのは派手なほうがいいだろうと、勝手に採用させて貰った。

 もちろん、みんな最高レアである。

 他にも『水の聖女、ミラ』を作ってあるが、あまり最初から最高レアが多くても希少性がなくなるとミルフィちゃんに注意されてしまい、ディアナ、ノット、レインたちは第二弾に回されることになった。残念だ。


 ちなみに……こっそり特別製のカードを俺専用に作って貰っていたりする。

 いわゆる非売品で、今後も世界に一枚しかないだろう。

 理由は単純に俺が欲しかったのと、その効果がバランスブレイカーだから。

 どうせ使わないからって、やりすぎた感はある。

 俺の宝物として、スキルの【収納】に仕舞っておこう。


「見ているだけではなく、実際にプレイしてみましょうか」

「わかった……」


 木箱には二セットが用意されている。

 これは実際に対戦してみたいから、そう頼んでおいたのだ。

 試作品なのも、これで問題点が発覚すれば修正して貰うためである。

 最終的に問題なしと判断されれば、大量生産の指示を出す手筈だった。

 トレカ計画の本格始動も、もう間近だろう。

明けまして、おめでとうございます。

と言うには遅いかも知れませんね。(1月13日)

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