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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第3章「スーパー幼女大戦」
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きらきらした!

 音叉みたいに枝分かれたした金属杖のインテリジェンス・アイテム。

 長さはたぶん大人の身長ほど。柄は鈍色で、先端部は黄土色に染まっている。

 大昔からあるという遺跡、フォルン城跡から発掘された。

 だから通称はフォルンの杖。

 偶然にも杖を見つけ出した薄汚い男は大金持ちに売り渡し、その大金持ちは美術品として広間に飾り、来客に自慢をする。

 由緒ある古代王の杖だとか、大金を叩いて購入した等々。

 嘘八百を並べて大袈裟に語っているのを、杖はただ黙って見下ろす。

 今もまたお馴染みの顔ぶれが揃うと、仰々しい飾り言葉で互いにお世辞を述べあっている光景を、興味はなくとも他にすることもないので無感情に眺めている。

 ――と、それが現在の私だ。


 あれから十年は経ったかな?

 転生……なんて信じていなかったし、信じられなかったけど、実際に身に起きた今となっては疑いようもないね。

 だけど疑問としては、なぜ杖なのかという点だ。

 元の私がどんな人間だったかは、もう記憶も薄れてしまったけど、少なくとも普通の女の子だった気がするのに……。

 それと気になるのは死んでしまった原因だ。

 事故か、事件か、病気か、それとも自殺か。

 とりあえず痛みも苦しみも憶えてないのは幸いだけど、ふと気付いたら杖だったんだから、もう笑うしかないよね。おほほ。


 あ、あともうひとつ。

 ここは地球じゃないらしい。

 らしい、というのは聞いただけで実際に確かめたわけじゃないから。でも、これもまた信じるしかない事実なんだよね。

 繰り広げられるお世辞合戦の合間に、僅かに交わされるまともな会話から薄々とは気付いていたんだけど、決定的なのは私の同類と出会えたことだ。

 たしか七星幽界(アストレイラム)だったかな?

 杖となってしばらくしたら、唐突に行けるようになった幻想的な庭園だ。

 行けるといっても実際に移動するわけじゃなくて、例えるなら夢の中で自由に行動できるみたいな?

 そこでは私と同じように剣や盾といった、物に生まれ変わった人たちが世界中から集まって情報交換をしたり、ただ雑談して過ごしていた。

 色々と知ったのも、この頃だったかな。

 この世界の知識、転生者の存在、魔物との戦い、スキルの覚え方、そしてインテリジェンス・アイテムのこと……。

 もう、これすらも懐かしい記憶となりつつあるよ。


 なんせ十年だもん。

 当初は人間の体じゃなくなったから、体調が悪くなったり病気やケガの心配もないのは素晴らしいと思ってたね。いつも悩まされるあれからも解放されたし。

 だけど……自分の意志で動けないのは酷い!

 そもそも【念話】スキルがないと会話もできないし、本当に見ていることしかできない退屈な時間が続いちゃって、精神が病みそうだったよ。

 いや、あの庭園へ行けなかったら間違いなく病んでいたね。

 そう断言できるほどに、今の私は退屈していた。

 あそこにいる人たちの大半も、気晴らしに訪れているって聞いたから、きっと誰もが同じような悩みを抱えているんだね。


 なんて思ってたけど……ところがどっこいしょ。

 聞くところによれば、誰かに装備されて一緒に魔物を倒すと、レベルアップして人間の姿になれる【人化】スキルを獲得できるらしい。

 あまりにゲームっぽいから内心で身構えたけど、幸か不幸かガチャ要素はないみたいで安心した。

 【人化】スキルは最高レアです。なんて言われたら挫折していたかも。


 実際に、【人化】している人を庭園で見かけたこともある。

 真っ赤な髪と、真っ白な髪をした二人組で、どちらも超が付く美少女だった。

 あれ、もしかして容姿は自由に変えられるの? 

 なんて期待したけど、勝手に固定されるみたいだ。

 ……転生前はどんな姿だったのかが気になるところ。


 まあ、どちらにしても私には縁のない話だったけどね。

 だって飾られてるもの。お飾りですもの。戦いとは無縁ですもの。

 しょせん私は広間を彩る壁の花……もとい杖なのです。

 きっと私はこのまま、おっさん共のおべっかを眺めながら、ひとり寂しく過ごすんだろうな……。


 などと燻っていたのが、今までの私。

 そんな鬱屈した過去とは、さよならばいばいするのが、これからの私だ!

 というのも、つい先日のことだよ。

 庭園の管理者のひとりっていう金髪美少年。彼も【人化】したインテリジェンス・アイテムで、その名もルーゲイン君から、ある発表があったからだ。

 驚いたことに、まだ装備者(パートナー)を見つけていない人や、不遇な扱いを受けている人たちをひとつの村に保護して、精神的に安らげる環境を整えると共に装備者(パートナー)を手配、あるいは見つける手助けを開始するというのだ。

 つまり、私はおっさんを眺める日々から解放される!


 この言葉にすぐさま飛び付いた私は、一番最初の保護が決まった。

 あとはもうトントン拍子だったね。

 曖昧な私の居場所を伝えただけで数日後には迎えの人が訪れて、正当な手段で買い上げられたら、あっという間に村へ移送されたよ。

 でも迎えの人……なんだったっけ?

 たしかエルなんとかっていうヒゲのおじさまで、姪っ子さんのお願いがどうとか呟いていたのが印象的だったかな。

 その辺は私には関係ないから、聞き流してたけどね。


 そうして村へやって来た私は、まず警護をする騎士の人から説明を受けた。

 まだ【念話】を使えないから一方的に聞くだけだったけど、この村は聖女なる人の善意によって作られたことや、その聖女さまは帝国を救ったとか、しかも正体は私と同じインテリジェンス・アイテムで【魔導布】と呼ばれる三百年前の伝説に語られる防具だとかなんとか。

 とにかく色々と設定が盛られ過ぎな人が、村のトップだと理解しておいた。

 でもねえ……聖女っていかにもって感じで、ちょっと胡散臭いよね。

 こうして保護されている身としては文句は言えないけどさ。

 まあ、いずれ会えるって言ってたから、てきとうに期待しておこうかな。




 ごめんなさい。聖女さま舐めてました。

 いや、たしかに最初は色々と疑ってたよ?

 とんでもなく美人だし、物腰は丁寧で柔らかくて、雰囲気も高貴なオーラを纏ってて聖女パワーが溢れてたけど、お腹の中は真っ黒なんじゃないの? 設定だけじゃなくて胸まで盛ってるのか! みたいな。

 そこまで疑り深くなっていたのは聖女さまの表情が、まったく笑わないからって理由もあったんだけどね。

 あと、あまり私に興味がないような目をしてた気がするっていうか……まあこれは私の気のせいだったと思うけど。

 そんな私が『あ、この人ホンモノだ』と感じて考えを改めたのは、保護されて少し経った頃だったかな。


 いつものように小屋に安置されていた私は、ぼんやり外を眺めていた。

 警護してくれている騎士の人と、あとから保護されたインテリジェンス・アイテムの人がお喋りをしていたけど、未だに【念話】が使えない私は参加できなかったのは仕方ない。

 それでも、背景テーマおっさんに比べたら、外の風景を見ていられるのは一兆倍ほどマシというわけで、充分に楽しんでいたんだけどね。

 ある日、聖女さまが子供たちと追いかけっこをしているのが目に入った。

 ……子供なんていたっけ?

 私の疑問は、他のインテリジェンス・アイテムの人が、騎士に質問してくれたおかげで判明した。


 異世界から召喚された人たち。

 奴隷として売られた子供たち。

 事態を知って救出し、村へ匿うと決めた聖女さま……。

 その聖女さまが、子供たちと楽しそうに遊んでいる。

 初めて目にする眩しい笑顔を浮かべて。


 だから私は気付いた。

 きっと聖女さまは、子供たちが心配で表情が硬くなっていたんだってね!

 今の子供たちに向けて微笑んでいる姿が、あまりに自然だったから、なんの違和感もなく納得できる推理だったよ。

 それを裏付けるように、以降は聖女さまが微笑んでいる場面を度々、目撃するようになった。

 これは別の理由……子供たちとインテリジェンス・アイテムとの交流が始まったからっていうのも、関係していると思うけどね。


 元々、私たちの装備者(パートナー)を探すつもりだったし、子供たちの身の安全を護るにしても、強力な装備になるインテリジェンス・アイテムが各自に付くのは一石二鳥というわけだね。

 こう言ってはなんだけど、子供たちはタイミングが良かった。

 不幸中の幸いってことにしよう。


 私たちと、子供たちの交流会は段階を踏まえて行われている。

 最初は互いの事情を知ることから始めて、徐々に仲良くなったら性格やスキルの相性が良さそうな相手を選んで、仮のパートナーとして組む。そのまま上手くやっていけそうなら、正式に生涯を共にする。

 要するに、お見合いだね!

 まあ相手は十歳前後だし、そういう趣味なんてないけど。

 逆に、そういう趣味があったら困るから、インテリジェンス・アイテム側は事前に調査して危ない人を弾いているらしい。

 もし発覚したら、おっさんがパートナーになるんだろう。なむなむ。


 一方で私は可愛い女の子と仲良くなったね。人生の勝利者だ。

 やっぱり【念話】がない私はずっと黙っていたけど、なぜか女の子のほうが好感触で、見初められちゃったらしい。

 名前はサニアちゃん。元気いっぱいで素直な女の子だ。

 でも、なんで私なの? と気になっていたら友達とのお喋りで判明した。


「ねえサニアちゃん、どうして杖なの?」

「だって魔法が上手になりたいもん!」


 魔法=杖ってわけだね。

 単純明快でよろしい。

 でも残念ながら、私は魔法とかよくわからないのだった。

 スキルだって一度も取得してないし、というか取得するのに必要なSPとやらが微塵も溜まらない。だって戦ってないから。

 むしろ戦ってもないのに【念話】スキルを取得できる人たちがおかしい。

 あれってチートなんじゃない? いわゆるズルじゃない?

 ズルでもなんでも、やった者の勝ちだとも思うけど。


 さて、問題は不甲斐ない魔法の杖、フォルンこと私だ。

 このままだとサニアちゃんを悲しませてしまうからね。

 せめて魔物だか魔獣だかと戦って、レベルが上がればいいんだけど、この村はとっても平和だからなにかに襲われる心配はなくて、戦う機会もない。

 もちろんサニアちゃんは、私の個人的な事情なんて知らないわけで、何度目かの交流会でも嬉しそうに私に話しかけてくれる。

 話せないのは知っていても、寂しくならないようにって、言いながら。

 なんて良い子なんだろう。


 そんな最中にサニアちゃんが元の世界で、どういう境遇で育ち、どういう経緯で聖女さまに助けられたかを少しずつ教えてくれた。

 とても信じられない、信じがたい話だったけどね。

 だけど、おかげでサニアちゃんが魔法に拘る理由もわかったよ。

 そんなことがあれば魔法に……聖女さまに憧れるのも納得できる。

 だから私は、余計にサニアちゃんを応援したい気持ちが大きくなった。

 魔法を扱う補助をしてあげたいと、心から強く願い……欲した。



 【スキル、魔導支援を取得しました。】



 ……え、なんで?

 いきなりメッセージみたいなのが響いて、確認すると本当にスキル欄には【魔導支援】なるスキルが表示されていた。

 まさかの初スキルゲットだけど……そこは【念話】じゃないの?

 いやまあ、いいんだけどさ。

 見た感じ【魔導支援】はサニアちゃんの役に立ちそうだしね。




 しばらくして、ついにサニアちゃんが魔法を習得した。

 まだまだ素人目に見ても弱い魔法だったけど、他の子供たちや騎士たちも、みんなで喜んだり驚いたりでお祝いしていたね。

 それなのにサニアちゃんは、まだまだ初級だからと目標を見誤らないで、もっともっと凄い魔法が使えるよう努力するつもりらしい。

 なんという向上心だろう。

 千里の道も一歩からだというように、地道に堅実に、サニアちゃんは時間を見つけては練習に励むつもりだ。

 だからこそ私も応援し甲斐があるってものだね!

 そしてようやく本日の交流会で、魔法の杖たる私を装備しての魔法を試すことになった。

 私としても【魔導支援】を試す初めての機会なので、張り切って臨むよ!

 これが無駄になったら本気で落ち込むけどね。


「じゃあ行くね! せーのっ『すぱーくうぇーぶ』!」


 サニアちゃんの掛け声に合わせるように、私は【魔導支援】を発動させる。

 すると、私の視界にこれまで映らなかった幻想的な光帯が飛び込んで来た。

 光帯はサニアちゃんから立ち昇っているようで、たぶん魔力が見えているんじゃないかなと私は漠然と理解する。

 その魔力が空中の一か所に凝縮されていくと、白色に輝く光球を形成する。

 だけど、幾条かの光帯はあらぬ方向へ飛び散って霧散していた。


 ああ、もったいない!


 それらがサニアちゃんの魔力であると考えた私は、光帯をかき集めようと意識してみたら、まさにイメージした通りの動きを見せる。

 まるで一筋の無駄なく、そして効率的に光球を織りなすエネルギーへと変換されるようだった。


 ちなみに魔法『スパークウェーブ』は周囲に雷属性の魔力波を拡散して、浴びた者を痺れさせる効果があるらしい。

 ただし使用者の能力と、対象者の能力によって効力が増減するそうだね。

 つまりサニアちゃんの魔法力では、この魔法を使っても敵を痺れさせるには届かず、静電気を起こす程度になってしまうのだとか。

 だからこそ危険性がないから、志願してくれた騎士の人を実験台に試しているんだけど……果たして【魔導支援】の効果はどう影響するんだ?


 やがて膨れ上がった光球は弾けるように破裂し、蓄えた魔力を解放する。

 それは雷波となり、術者であるサニアちゃんを中心として波紋のように広がっていき、鎧を身に着けた騎士を飲み込む。


「ぐぉ、こ、れは……なかなか効くな」


 ほんの一秒ほどだけど、たしかに騎士の人を痺れさせることに成功したようだ。

 良し! これにはサニアちゃんも喜んで……。


「やった! きらきらした!」


 ……きらきら?

 たしかに威力が上がった魔法は、静電気を起こす程度の時とは違い、はっきりと視認できるほどの輝きを伴って放たれてはいたけれど。

 え、そっちに喜ぶの?


「よかったねサニアちゃん!」

「うん、ありがとうエミュちゃん!」


 ……まあいっか!

 思ったのと違ったけど、友達と一緒に喜んでいるサニアちゃんを見ていたらどうでもよくなったね。

 実験は大成功だ。やったね!




 その後、私とサニアちゃんは正式にパートナーとして認められて、交流会とは関係なく一緒にいられるようになった。

 まだ会話もできないのに、最近はサニアちゃんと私は心が通わせられているような気がしているほどだ。

 村で保護された子供と、インテリジェンス・アイテムが良い関係を築ける好例にもなって、まだパートナーがいない誰もが、積極的になる切っ掛けにもなった。

 だからなのか、聖女さまからの【念話】で褒められた時は少し緊張したけど嬉しくて、サニアちゃんと一緒に喜びあったよ。


 これからも私は、夢見る魔法少女サニアちゃんを応援するつもりだ。

 そしてゆくゆくは【人化】スキルを獲得してみたい。

 ああでも、先に【念話】でサニアちゃんと話したいかな?

 それがいつになるのか、そのあと私がどうするのかは、わからないし考えてもいない。なぜなら今の私にとって、そんなのは些細なことだからね。

 もう私は、寂しくおっさんを眺めて退屈しているだけの私じゃない。

 サニアちゃんを応援するという、なんとも楽しそうな目標ができたから。


 転生する以前の名や、家族のことも、もうほとんど思い出せない。

 だけど、ここにいる私はフォルンだ。

 杖のインテリジェンス・アイテムで、サニアちゃんのパートナーだ。

 新しい人生をスタートするには、それだけで充分じゃないかな。

 少なくとも私は、今の自分に満足しているよ。

 だから心配しないで……って、私は誰に言ってるんだろう?

 ちょっと浮かれ過ぎて、テンションがおかしくなってるのかな。

 そういえば、さっきもサニアちゃんの友達の髪飾りから変な魔力が漏れてるように見えたし、やっぱり少し落ち着こうか。

 まだ幼いサニアちゃんのためにも、私がしっかりしないといけないからね!

子供たち優先で軽く放置されていましたが

村で保護しているインテリジェンス・アイテムのひとりの視点です。

当初は男でしたが、どうもキャラがイメージできなかったので女性になりました。


ちなみにサニアは、少し前に登場したクロシュが船で救出した幼女です。

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