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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第1章「受け継がれちゃう伝説」
12/209

すべて奪えー

 はっきりとした時間はわからないが、たぶん正午ぐらいだ。

 話し合いは午前中に終えて、四人は昼食のために食堂へと向かう運びとなった。

 俺はなにかを食べる必要がないから一人で部屋に残ると伝え、なにやら申し訳なさそうにするミラちゃんをなだめて見送る。

 一緒に行ってもよかったんだけど、ちょっと確認したいことがあったからね。


 えーでは第一回『なぜなに? 教えて幼女神様!!』を開きたいと思います。会場のみなさまはご着席ください。


 わーわー、どんどん、ぱふぱふ、かえれー。


 野次が飛んでくるとは。


 もりあげようと、おもってー。


 枯れ木も山のなんとかって言うもんね。


 それで、クロシュくんは、なにが、しりたいのかなー?


 お、さっそくその名前で呼んでくれるんですね。


 せっかくの、なまえ、だからねー。


 俺はクロークのままでもよかったんですけどね。


 なまえは、だいじ、だよー。


 ごもっともです。じゃあミラちゃんたちが戻る前に済ませようかな。


 ひみつの、おはなしー?


 うーん、別に秘密でもないし、そもそも神様の声はみんなに聞こえないでしょ。


 そうだねー。


 だから単純にゆっくり話したいってだけだよ。


 よーし、どんとこいー、ちょうじょうげんしょうー。


 じゃあお聞きしますけど、神様の名前ってなんです?


 いって、なかったっけー?


 とんと。


 まだ、ひみつ、なんだけどねー。


 ふーむ、いつかは教えてくれるんです?


 ときが、きたらねー。


 カッコいいー。


 てれてれー。


 しかし名前が大事だと言う割には教えてくれないのか。

 なにか教えられない理由があるんだろうけど、名前を明かさない高位の存在って大抵は悪役な気がするのは俺だけかなぁ。

 別に邪神だろうが祟り神だろうが俺は一向に構わんが。

 大切なのは幼女であることと、俺にとって敵か味方か、それくらいかな。


 では次の議題に移ります。


 つづけたまえー。


 さっき宝箱について聞いた時『担当が違う』って言ってたけど、あれは?


 たからばこの、はいちは、べつだからねー。


 まるでダンジョンを複数人で運営しているかのような発言ですな。


 というより、せかい、かなー?


 ……今さらな質問ですが、神様ってなんの神様なんです?


 なにって、いわれてもなー。


 もっと単純に『万能な全知全能の神』だと思ってたんですけど、どうも事情が違うようなので。


 そーだねー、いろいろ、かなー。


 例えば……俺を転生させたのは幼女神様ですよね?


 いえす、あいあむ。


 ということは異世界の人間を連れて来て別の存在に作りかえる……いや、魂だけを引っ張って来たとか? で、転生に近いことが行える神様だと。

 他にもスキルやら称号をくれたり……。


 あー、まあ別にいいか。


 いいのー?


 俺を『おうえん』してくれる神様ですからね。細けぇことはいいんだよ。


 おとこらしいー。


 あっ、でも知ってたら、最後にひとつだけ教えてくれませんか?


 なにかねー?


 生前の、生前? とにかく向こうでの最後……あの子はどうなったのかなって。


 きみが、はらわたを、ぶちまけて、たすけた、こどもー?


 撒きたくて撒いたワケじゃないんですが、そうだよ。


 きみの、おかげで、ぶじに、いきてるよー。


 そうか。ああ――安心した。


 いっぺんの、くいなしー、みたいになってるけど、だいじょうぶー?


 俺はね、幼女の味方になりたかったんだ。


 しってるー。


 でもまあ現実は残酷だったから、最後の最後まで難しくてね。


 よろこべー、きみの、のぞみは、ようやく、かなったー。


 うん、神様のおかげで、こうして異世界に生まれ変わったからね。


 ここからが、ほんとうの、いせかい、せいかつだー。


 すんません、やっぱもう一個だけ質問いいですか?


 いって、みたまえー。


 なんでネタに詳しいんです?


 ひま、だったからー。


 ヒマなら仕方ないな。




 幼女神様といちゃいちゃしていたら意外と時間が経っていたようだ。そろそろミラちゃんたちも帰って来るかな。


 そうだー。


 どうしました?


 こっちも、しつもん、いいかなー?


 答えられる内容であれば結構ですとも。


 えーっと、これから、どうするのかなーって、おもってー。


 ミラちゃんたちと一緒にダンジョンでレベル上げする予定ですね。


 うん、そのあとは、どうするー?


 あー、あまり先のことまでは考えてなかったなぁ

 でもいい機会だし、ちょっと想像してみよう。


 まず俺の目的は幼女に装備して貰って、脅威から護れる防具になることだ。

 そのためには、もっと強くならないといけない。

 強くなるには、今のところミラちゃんたちに協力するのが近道だ。

 じゃあ、どこまで協力しようか?

 ……そもそも、どの程度の強さになれば護れると言えるんだろう。

 この世界の人間や魔物の平均的な強さがわからないと判断が……。


 あっ、そうだった、鑑定するの忘れてた!


 ダンジョンから出たら他の冒険者を鑑定して、ミラちゃんたちの能力と比較するつもりだったんだ。色々あって意識から抜け落ちてしまっていたのか。

 でもまあ今からでも遅くはないよね。

 これから俺の鑑定無双が始まるのだ!


 というわけで神様、ひとまずは鑑定を使って情報収集に努めようかと思います。

 あと、どちらにせよミラちゃんに協力するって決めていたから、最低でもダンジョン攻略までは続けようかな?

 護るべき幼女を探す方法は、また追々考えてみよう。


 なるほどー、じゃあ、これあげるねー。



 【スキル、剥奪を取得しました。】


【剥奪】

 能力を奪い自分の物とする。効果は互いのレベルによって変化する、

 奪える対象【武器】【防具】



 いや、あげるって、今までで一番チートっぽいんですけど。


 つよくなるの、まつのが、めんどー。


 そっちの都合なの? 世界のバランスとか大丈夫? あとで怒られない?


 へいき、へいきー。


 じゃあ貰えるなら貰うけど、もうSPとか払うのバカらしくなるな。


 あくまでも、これは、おうえん、だからねー。


 うーん、実際に強くなるには俺自身の努力次第と?


 がんばれー。


 どうも納得いかないけど神様からの贈り物だし、素直に受け取っておこう。




 昼食から戻ったミラちゃんに頼んで、俺は店で販売されている武器と防具の見学に連れて行って貰う。

 なんだかんだ言ったけど、せっかく手に入れたスキルを使わないのはもったいないからな。

 剣と盾のイラストが描かれた木片を吊るしている小さな建物に入ると、俯いていたカウンターのおっさんがチラリとこちらを一瞥し、すぐに視線を戻した。

 無愛想だけど別におっさんに愛想笑いなど見ても嬉しくないから放っておく。


「それでクロシュさん、どれを見たいんですか?」


 小声で話しかけてくれるミラちゃん。

 俺の念話が届くのは装備者だけだから、話し声が聞こえると独り言だと捉えられて変に思われるからね。


(とりあえず端から順に、見て行ってください)


「わかりました」


 俺の指示通りに店内の隅へと移動する。

 ついでに不審に思われないよう、てきとうに手に取って品定めしている風を装うように付け足しておいた。

 これから俺がやることを考えると、あまり目立ちたくない。

 とはいえ、見境なく剥奪のスキルを使えば店の商品がガラクタになりかねないと予想している。

 すでに人ではなく布となった身でも、さすがに俺が原因で店が潰れたりしたら罪悪感を抱く程度には人の心が残っているよ。

 そこで、潰れなきゃいいんだ! と逆転の発想で悟った俺は、能力が高い物から少しずつ拝借すればいいんじゃないかと思いついたので、片っぱしから鑑定することにしたのだ。

 ここの店主も俺とミラちゃんの役に立つなら、このくらい喜んで受け入れてくれるだろう。

 問題があるとすれば個別に鑑定しなきゃいけないので時間がかかるくらいか。ミラちゃんには少しばかり苦労をかけてしまうが、これもダンジョン攻略のためだ。頑張って貰おう。


 ちなみに、この場に来ているのはミラちゃんだけで、他の三人はそれぞれ別行動を取っている。

 たしかノットとディアナは明日のダンジョン攻略に向けて装備の点検や、消耗品の補充しているはずだ。その辺は俺には一切わからないので、すべて任せておく。

 残ったレインはというと、なにやらブツブツと呟きながらどこかへ行ってしまった。彼女が一人で行動するのはよくあるから心配はいらないそうだ。

 それに全身を覆うローブと、深めのフードで顔を隠しているから、女性が一人でうろついても、そうそう危険な目には遭わないのだとか。

 俺としてはむしろ、そんな対策をしないといけないほど治安が悪いのかと驚いたのだが、異世界と日本を比較するのが間違いか。


 気を取り直して、始めてみよう。

 まずは乱雑に木箱に放り込まれている剣を鑑定する。



【鉄の剣】

レベル:2

クラス:粗雑な剣

レア度:1


○上昇値

 HP:0

 MP:0

攻撃力:23

防御力:0

魔法力:0

魔防力:0

思考力:0

加速力:-4

運命力:0



 なんか攻撃力、高くない? 高いよね?

 ええっと、俺の能力ってどのくらいだったっけ?



【クロシュ】

レベル:4

クラス:上質な布

レア度:2


○上昇値

 HP:3

 MP:3

攻撃力:0

防御力:5

魔法力:2

魔防力:5

思考力:0

加速力:0

運命力:4



 俺をただの防具として見た場合、この粗雑と評される武器の攻撃力に劣るような防御力しかないのかよ。上質な燃えるゴミか。

 気になって反対側の棚に飾られている鎧と、その隣のローブを鑑定してみる。



【鉄の鎧】

レベル:3

クラス:上質な鎧

レア度:2


○上昇値

 HP:0

 MP:0

攻撃力:0

防御力:27

魔法力:0

魔防力:5

思考力:0

加速力:-10

運命力:0



【厚手のローブ】

レベル:3

クラス:普通の布

レア度:2


○上昇値

 HP:0

 MP:0

攻撃力:0

防御力:10

魔法力:0

魔防力:10

思考力:0

加速力:0

運命力:0



 やはり、ちゃんとした鎧なら防御力が高いようだ。

 よくよく考えたら布の防具が、鋭い刃物の攻撃に耐えられるワケがないよな。

 となると当然の結果なのか?

 だけどレベルやクラスから俺より格下だと思われる【厚手のローブ】君の方が防御力が高いのはどういうことなんだろ。


 考えがまとまらないので、とりあえず他の武器と防具を鑑定し続ける。

 ある程度まで終えたところで、ちょっとした推測が成り立った。


 たぶん鎧なんかは物理防御が高くて、魔法には弱いんだろう。

 それとは逆にローブ系は物理防御が低く、魔法に強い……とも言えないか。

 どうも『厚手のローブ』君は中途半端な性能をしているからな。

 代わりに『鉄の鎧』さんは重量によるものなのか加速力が落ちてしまうデメリットがあるようだが、ローブ系には特に見当たらない。強いていえば中途半端な性能そのものか。

 動きが鈍くなっても防御力の高い鎧を取るか、良くいえばバランスが取れているローブを取るか、といった感じになるようだな。


 じゃあローブ系より弱い俺はどういう防具なのかって話だが、そこから考えるに、ちょっと特殊な扱いになるんじゃないかな。

 まず、この店に置かれている防具でHPやMPなどが上がる防具は存在しなかった。

 より厳密に言えば防御力と魔防力が上がるのと、加速力が下がる他にステータスが増減する装備はないようだ。

 もう一度、俺のステータスを見てみよう。



○上昇値

 HP:3

 MP:3

攻撃力:0

防御力:5

魔法力:2

魔防力:5

思考力:0

加速力:0

運命力:4



 数値的にはショボイものだけど、ここで重要なのは複数のステータスが上昇するという点と、成長するという点だ。

 このまま順調に行けば軽いのに鎧より防御力が高くて打たれ強い、さらに魔法に対して強く、魔法を使う分にも有用で、かつ運命力が上がる……などという破格の性能となってしまう。

 加えて、俺は自分の意思でスキルを使える。

 なるほど。これがインテリジェンス・アイテムの力なら、たしかにヤバい。

 俺の売却価格で城が建つというのも脚色ではなく事実のようだ。


 だが奇妙な部分もある。

 鎧より防御力が高くなると、布としての俺はどうなるんだ?

 ただ硬くなる、なんてことはないはずだ。それじゃ鎧だもんな。

 着心地も悪くなるだろうから、やはり柔らかいままでありたい。

 でも柔らかい布が打撃を受けたとして、その衝撃から装備者を護れるだろうか。

 たぶん無理だ。

 斬っても切れ難い繊維ってのは地球でもあったし、なんとなく想像できる。でも衝撃を緩和する繊維はちょっと思いつかない。綿を詰めるわけでもないし。

 ただ、これが鎧だったら斬撃も打撃も等しく防いでくれるわけで……。

 結局のところ、鎧より高い防御力を持つ布ってなんだ?


 むむ、ちょっと混乱してるかもしれん。

 その辺はみんな異世界だからってことでいいのかな。

 元々、防御力なんて数値も異世界ならではの概念だし。

 魔法があるんだから不思議なことはみんな魔法で説明できるだろう。


 ……もしかして本当に魔法なのか?


 そうだな、もっと単純に考えてみよう。

 この世界には、あらゆる物に魔法がかかっていて、それが数値化できる。

 剣の攻撃力が上回っていれば、どんなに硬く大きく分厚い鎧でもスパスパと切り刻めるし、防御力が上回っていれば伝説の剣だろうと弾き返せる。

 つまり数値がすべての世界なんじゃないかな。

 だとすれば俺の防御力が『鉄の鎧』さんを上回った時、この『鉄の鎧』さんが防げる攻撃は俺にも防げるはずだ。それが斬撃だろうと打撃だろうと構わずにな。


 なんて推理してみたけど確証はないし……ま、いずれ検証してみよう。



 【称号、思索者を取得しました。】



 また唐突な。

 詳細が気になるけど残念ながら今は相手をしているヒマがない。

 というのも、そろそろミラちゃんが店内を一週してしまうからだ。

 幼女神様とのいちゃいちゃタイムは後の楽しみに取っておこう。


「クロシュさん、これで終わりですけど、どうしましょうか?」


 うーむ……こっちも一通りは鑑定したんだけど、ぶっちゃけ大した物がなくてなぁ。これで剥奪スキルを使うのはどうも気が引ける。

 仕方ない、この店では諦めるとしよう。


(他の店も見て回りたいのですがいいでしょうか)


「私は構いませんよ。では行きましょうか」


 笑顔で答えてくれるミラちゃんに感謝しつつ軽く返事を返すと、ふと床に転がっている棒が視界に入った。

 あんなの、あったっけ?

 売り物ではないのか、あるいは売れるとは考えていないのか。埃を被って薄汚れた鉄製の棒が妙に気になったので急いで鑑定してみる。



【魔人の槍】

レベル:3

クラス:封印中

レア度:5


○上昇値

 HP:0

 MP:100

攻撃力:30

防御力:0

魔法力:50

魔防力:0

思考力:0

加速力:0

運命力:0


○封印

 魔人を封印中。

 封印により各ステータス低下。



 こういう掘り出し物がないかと期待して来たのは確かだけど、実際に見つけると喜びや驚きよりも、なんというか、呆れが勝ってしまうな。

 なんで、こんな物騒な代物が床に放置されているのかと。

 まあいいや。扱いが雑ってことは店主もこいつの価値を理解していないはずだ。だったら気兼ねなく頂いてしまおう。


 通り過ぎてしまったのでミラちゃんに戻るよう伝え、俺を棒のような槍に触れさせて貰う。

 封印のせいでレベルが低いからか、あっさりと剥奪スキルが発動したので根こそぎ奪っておく。

 その結果……。



【魔人の槍】

レベル:3

クラス:封印中

レア度:5


○上昇値

 HP:0

 MP:0

攻撃力:0

防御力:0

魔法力:0

魔防力:0

思考力:0

加速力:0

運命力:0



【クロシュ】

レベル:4

クラス:上質な布

レア度:2


○上昇値

 HP:3

 MP:103

攻撃力:30

防御力:5

魔法力:52

魔防力:5

思考力:0

加速力:0

運命力:4



 これは酷い。

 攻撃力は必要なのか疑問だったけど、うばえる、ものは、すべて、うばえー、と神様が囁いた。やっぱ邪神かなー。

 封印についても、特別な方法でない限り解けないそうなので放っておいて問題はないらしい。このまま転がしておくか。


 それにしてもレベルを上げるよりも楽だし効率も良いなこれ。

 よーし、次の店でもバリバリ奪っちゃうぞー!

分かり辛い部分とかあったら教えて貰えるとありがたいです。

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