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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第3章「スーパー幼女大戦」
115/209

いいよー

いつもより短いです。

 某日。村で一番大きな建物の広間に、子供たちが集まっていた

 誰もが並べられた椅子に座り、机に広げられたノートへ視線を向けている。

 そんな子供たちの前に立つのは、少し年上の子供にしか見えない金髪の美少年(ルーゲイン)だ。

 彼の容姿を除けば、この世界においても割と一般的な授業の風景である。


「じゃあ今日の授業はこれまでにしようか」

「はーい!」

「サニアちゃん! 今日も外であれの練習するんだって! 一緒に行こ!」

「うん、エミュちゃん、すぐ行く!」


 サニアと呼ばれた幼い少女は、友人である少し歳上の少女エミュに向かって嬉しそうに笑顔で答えると、慌てて勉強道具を片付ける。

 最近この村では授業が終わると広場に集まり、ある練習をするのが子供たちの流行となっていた。

 だからこそサニアとエミュだけではなく、他の子供たちも一様に退屈な授業の終わりを見計らい、一斉に外へと飛び出して行ってしまう。

 あとに残されたルーゲインはちょっとだけ寂しく思いながらも、これは仕方ないと感じながら、子供たちが仲良くやれている現状に一安心していた。


 村の子供たちは、誰もが異世界から強制的に連れて来られた召喚者である。

 本来であれば突如として入れ換わる現実に戸惑い、未知の体験に恐怖し、やがて世界を憎みながら絶望の徒へと成長していただろう。

 しかし、今回の子供たちに限っては幸運の女神がほほ笑んだ。

 大きく二つの要素によって、復讐の種は未然に摘まれたのである。


 二つの要素とはゲンブとクロシュ。この両名の転生者だ。

 村にいる子供たちは二人のどちらかに救われており、それぞれに感謝や尊敬、あるいは憧れといった感情を抱くに至っている。

 そしてサニアの場合、クロシュがそれに当たった。




 サニアはクロシュが扉のカギを壊して現れた時の記憶を鮮明に覚えていた。

 記憶は、訳もわからないまま暗くて嫌な匂いがする部屋に放り込まれたところから始まる。

 それが船の中で、遠いどこかへ連れて行かれると知った周りの子供たちは怯えていた。泣いたり逃げようとすると怖い大人たちに酷く怒られるのを見ていたサニアは、騒ぎ出しそうになる感情を必死に押し殺す。

 静かに大人しくしていれば叩かれないはず。そう過去の経験からサニアは学んでいたため、同じように自分に言い聞かせたのだ。


 ――なにも考えなければ、なにも感じない、と。


 幼い少女が、その弱い心を護るために見出した、心を殺すという悲しい手段。

 そうしなければ辛い現実に対し、自分という存在を保てなかったのだろう。

 いつからかは、はっきり覚えていない。

 だが少しずつ、そして着実に、サニアの心は失われ始めていた。

 ……それが原因だったのか。

 やがて暗闇の中にサニアはひとつの幻覚を視る。

 黒髪の少女が、すぐ隣に座っていたのだ。

 その場に似つかわしくない明るい笑顔で、黒髪の少女は口を開く。


 もうすこしで、くるよー。


 なにが、とサニアが問うよりも前に……扉が開いた。

 また怖い大人が誰かを叩きに来たのかも。

 そうサニアは怯え、隠れるように身を小さく丸めた。他の子供たちも同じように動くのが音で伝わる。


 だいじょうぶ、だよー。


 あまり声を出したくなくて、すぐ隣から話しかける悠然とした誰かにサニアは心の中で問いかける。


 なにが大丈夫なの?


 たすけが、きた、からねー。


 助け? 怖い人じゃないの?


 こわく、ないよー。


 同時に、部屋に入って来た何者かの声も聞こえた。

 女性の優しい声色に、もしかして本当に? とサニアは思い直す。

 やがて恐る恐る顔を上げ、その人物と対面し――。

 それがサニアの、クロシュとの出会いの記憶となった。




 今では同じ部屋にいた子供たちは友達となり、さらに別のところから来たというエミュを含む子供たちも加わると、一気に友達が増えてサニアは大喜びした。

 以前の生活ではひとりも友達がいなかったし、むしろ辛い目に遭っていたのを思い出せば、元の世界に帰りたいなんて一度も考えられない。

 それは友達も同じだったようで、サニアはまた嬉しくなってしまう。

 おまけに村を護っている大人の騎士たちも親切で、怒ったり叩いたりしない。

 まるで、理想に思い描いていた父親のようでもあり、時にはナイショと言っておかしをくれる若い騎士などは、兄のようにまで感じられた。


 いつしか、サニアは名前を呼ばれても笑顔で返事をしている自分に気付く。

 もう心を殺す必要はなくなり、ただ感じたままに感情を出せるからだ。

 嬉しければ笑い、ちょっと悲しいと泣いて、たまにケンカをしたら怒る。

 そんな当たり前を、ようやくサニアは手にしたのだ。


 なにより最近は、助けてくれた優しいクロシュおねえちゃんが毎日のように村へ通い、あの時に見せてくれた『魔法』を教えてくれるのだ。

 それこそが授業のあとで子供たちが熱中している練習であり、今日もまた欠席者など出るはずもなく全員が広場へと集まった。

 大好きな友達と一緒に、大好きな騎士の家族がいる村で、大好きなクロシュお姉ちゃんから憧れの魔法を学ぶ生活……。

 幼いサニアの物語が、ようやく始まりを告げる。




「あなたも一緒に行こ!」


 いいよー。


 その友達の答えに、サニアは笑顔を向けてからエミュと共に教室を出る。

 しかし隣を歩くエミュは不思議そうな顔をしていた。


「誰と話してたの?」

「え、うーんと……あれ?」


 なぜか思い出せなくなり、ふと背後に振り返りかけたサニアだったが……。


「急がないと遅れちゃうよ!」

「あ、待ってー! ほら行こうサニアちゃん!」

「……うん!」


 他の友達から急かされ、後ろを確認することなくサニアは駆け出す。

 誰だったかなんて関係ない。なぜなら彼女は友達のひとりなのだから。

夜頃にもう1話投稿します。

元々は同じ話数でまとめるつもりでしたが

視点が変わるので続けて読むと妙な感覚になってしまいました。


それと総合評価が3000ptを超えました。ありがとうございます。

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