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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第3章「スーパー幼女大戦」
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ゆるすー

 皇子の部屋を出た俺は、もう城に用はないと足早に帰ろうとする。

 だがミリアちゃんとフォルティナちゃんのお茶会が終わっていないそうだったので、送迎係の者に伝言を頼んでから転移の魔法陣で先に屋敷へ戻った。

 今から参加するのもなんだし、なにより前回は飛び入りでフォルティナちゃんの恨みを買ってしまった気がするからな。

 今回は仲良しの二人でゆっくり楽しんで貰おう。


 屋敷に設置した魔法陣は俺が借りている部屋にあるのだが、廊下へ出て近くを通りがかったメイドさんたちに声をかけるのを忘れない。

 前に直帰したまま自室に籠っていたら、帰宅したことに警備の騎士たちが気付かないから報せて欲しいと注意されたからだ。

 ちょっと面倒でも挨拶をしなければならない。

 せっかくだから反省の意を込めて、今日は門のほうまで出向くとしよう。

 と、ちょうど玄関から入って来る小さな影が……ミリアちゃんかな?


「あれ、ミルフィじゃないですか」

「こんにちは、クロシュさん」


 猫かぶり状態のミルフィちゃんは、華やかな微笑みを浮かべて挨拶をする。

 制服ではないため、一度帰って着替えてから来たのだろう。


「ミリアならまだ帰っていませんが……」

「今日はクロシュさんに用件があって伺いました」

「私に?」

「例の……カードについてです」


 いきなりミルフィちゃんに、すっと顔を近付けて囁かれたのでドキッとする。

 笑みも消えており、いつもの整った無表情を至近距離で見つめ続けるには、なかなかの度胸が必要だった。

 おまけに仄かな甘い香りを髪から漂わせて、このまま抱きしめたい衝動に駆られたのだが、そこは理性さんがグググッと力を発揮して堪えてくれる。

 ヒューッ、危ない危ない……。

 せっかく仲良くなれたのに、一気に信頼を失うところだ。

 村で幼女と遊び過ぎて、タガが外れやすくなっているのかな?

 今後は気をつけたいけど、急に近寄るミルフィちゃんも悪い子だと思います。

 などと一秒の間に思考を巡らせていた俺だが、すぐに周囲の騎士やメイドさんたちに聞かれないよう配慮してくれたのだと察する。

 カードの件は、まだミリアちゃんにも内緒だと言ったのを覚えていたのか。

 なんて気の利く良い子だろう。


「わかりました。では部屋に案内しましょう」


 部屋とは、もちろんペンコが安置されている部屋のことだ。

 あそこなら誰の耳にも入る心配はいらないし、トレカについての話ならあいつが同席してくれると助かるからな。

 付き添おうとするメイドさんにはお茶の用意を頼み、俺とミルフィちゃんはそそくさと移動した。


 まだ初対面だったペンのインテリジェンス・アイテムことペンコと、ミルフィちゃんを互いに紹介したら、すぐに話は本題へと入る。

 それほどミルフィちゃんは、この計画に乗り気らしい。

 家でだらだらしているだろう時間帯に、わざわざ訪問するほどだからな。


「あの本のおかげで、めちゃくちゃ捗ったっすよ!」

「そう……」

「特に勇者『腰痛』と、その仲間『姫王子』との関係がもう最高っす!」

「そう……」

「ひょっとして他に似たようなのってあったり?」

「ある……」

「マジすか!? ちょ、それも貸して貰えないっすかね?」

「わかった……」


 やたらテンションの高いペンコに、淡々と答えるミルフィちゃん。

 本というのは、前にミルフィちゃんが貸してくれた英雄大全だろう。

 ペンコに渡しておいたのだが、かなり気に入ったらしい。


「つ、次はぜひもっと男同士の熱い友情が描かれた……!」

「そこまでです。英雄のイラストなら、もう揃っているでしょう。魔物のほうはどうなっているんですか?」


 漏れ出す瘴気を感じ取ったので、ミルフィちゃんが腐食する前に話題を切り替えると、渋々とペンコは進捗状況を説明した。

 すでにテーブル上には、英雄大全に記載されていた英雄たちのイラストが何十枚も重なって散乱しているように、十分な数が用意できているのだから、これ以上増やされても困る。

 ちなみに英雄大全は文字だけで挿絵が一切ないため、すべてペンコが想像したデザインとなっている。


「まー、描くだけなら【描写】のおかげで楽っすからね、でも、やっぱりこっちも図鑑みたいなのが欲しいっすよ。聞いてイメージするのも限界っす」


 こっちとは英雄ではなく、魔物のイラストだ。

 前にミルフィちゃんから指摘されたように、この世界に実在する魔物でなければ人気は得られない。

 そこで俺やヴァイスが知っているダンジョンの魔物を、どうにかペンコに伝えているのだが……やはり口頭だけでは難しい。

 なんとか魔族のヘルを描いて貰っても、ただの黒い四本腕スケルトンになった。迫力がまったく足りていないのは、俺のイメージを伝え切れていないせいだ。

 おまけに、俺とヴァイスには絵心がないのも判明した。

 試しに描いた猫はすべて変な顔になったからな。

 あれは……猫なのか? ねこか。


「ちなみにミルフィ、魔物大全なる図鑑はないのでしょうか?」

「大全というほどじゃない……けど、冒険者ギルドにある。あと個人の蔵書」

「そんなに希少なのでしょうか?」

「冒険者なら誰でも閲覧できる。持ち出しはできない。個人で所有するには寄付が必要だから、持っているのは有名な芸術家と、物好きな貴族だけ」


 これほど魔物図鑑の扱いが重たいのは、冒険者たちの財産だからのようだ。

 例えば冒険者が知らない魔物を発見して調べる時には、最初にギルドの図鑑を引っ張り出して特徴が合致する魔物を見つけ出すという。

 それが新種であれば新たなページが増えて、また次の閲覧者が役立てる。

 長年に渡って蓄積された知識は冒険者にとって生命線であり、強力な武器と言えるだろう。

 そんな図鑑なので持ち出しも禁止され、常にギルドで管理しているらしい。

 寄付により図鑑を渡すのは、それだけの財産を持つ者なら身分もしっかりしているから、という理由があるようだ。

 恐らく寄付金が目当てなのもあるだろうけど。

 とにかくギルドに行けば図鑑が読めるワケだな。登録しておいてよかった。

 ただ図鑑をペンコに見せるにしても、覚え切れないんじゃないか?

 持ち出しできないのであれば、その場でイラストを描かせるしかない。

 というよりも……。


「その図鑑を元にして魔物の絵を描き、販売するのは大丈夫なのでしょうか?」

「まったく同じじゃなければ、たぶんわからない。魔物の特徴だけ捉えれば、自分の眼で見たと言い張れる。それに見た目だけなら図鑑とは違う」


 まあ見た目だけわかっても対策できないからな。

 ひとまず大丈夫として、なんとか図鑑を借りられないだろうか。

 いっそ聖女パワーで……いや、ヴァイスに頼んでみるとか?

 あれだけ優遇されているヴァイスなら、図鑑のひとつや二つくらい、呆気なく借りられる気がする。

 あとで連絡してみよう。


「図鑑に関しては、私のほうでなんとかしてみます」

「なんとか、できるの?」

「知り合いを頼ればなんとかなるでしょう。任せてください」


 それまでペンコを待たせることなってしまうが。


「自分は問題ないっすよ。資料さえあれば、すぐに描けるんで!」

「そういえばそうでしたね」


 じゃあイラストに関しては問題ないな。よかったよかった。

 これで一段落、と勝手に気を抜いていた俺だったが、ミルフィちゃんはイラストの描かれた紙束をまとめて端に寄せる。

 続けて懐から一枚の用紙を取り出した。


「次、本題に入る」

「ええっと……今のが本題では?」

「違う。今のは確認」


 なんと、俺はてっきりミルフィちゃんは、ペンコがしっかりイラストを描いているのか監督し、描いていないなら存在しない締め切りを打ち出して急かすために訪れたのだと思っていた。


「では本題というのは?」

「カードゲームのルールを決める」


 それは棚上げしていた部分だな。

 一応デュエルするモンスターなカードゲームを基本にしようかなとは考えていたけど、なかなか案が思い浮かばずにそのままだった。

 この場で、ルールをある程度まとめられるなら願ってもない話だ。

 ミルフィちゃんは取り出した紙をテーブルにそっと伏せる。


「私も考えてみた」

「……え、ま、まさかミルフィがルールを作ってくれたのですか?」

「必要なかったら、忘れていい」

「いえいえ、草案としても使えるので無駄にはしませんよ」


 差し出された紙にはミルフィちゃんが考案したルールが記されているようだ。

 とりあえず拝見させて貰う。


 ふむふむ、ざっと要約すると、こんな感じだ。

 三種類のユニットカード『人間』『魔物』『武具』を場に召喚して戦い、相手の『城壁』に規定回数のダメージを与えたら勝利できる。

 ユニットの戦闘は『三すくみ』による相性が設定され、基本的に勝敗はこの相性で決まるようだ。

 人間は魔物に弱く、魔物は武具に弱く、武具は人間に弱い、というアレだな。

 同種同士の場合は個別に定められたレベルが高いほうの勝利で、これも同じであれば基本的には攻撃側の勝利となる。


 肝となるのはユニットのレベルと、レベルアップで使える『スキル』だろう。


 人間は初期レベル一だが、相手ユニットを倒すか、なんらかの要因によってレベルアップすると特殊能力『スキル』が使用可能になる。

 最初は弱いユニットでも、成長すれば英雄になれるというワケだな。


 魔物は初期レベルで固定され、レベルアップもしないが最初からスキルを使用できる。弱い魔物は弱いままだが、強い魔物は初めから強い。

 ただしコスト面でのデメリットもあるようで、魔物ユニットの多用は難しい。


 武具は少し特殊で、初期レベル一のまま固定されてレベルアップしない。

 だが『スキル』は使用可能で、さらに場に出した次のターンに人間ユニットへ装備させることができる。

 武具は人間ユニットのレベルと同じになり、レベル二以上でないと使用できない『スキル』が使えるのと、装備した人間ユニットのレベルがひとつ上がる。

 つまり確実にレベル二の状態になれる寸法だ。

 ただし、ひとつのユニットとして数えるため戦闘で負ければ一緒に退場する。


 他にもユニット召喚に必要なカード『魔石』の存在や、ユニットを戦わせるフィールドである『戦場』の他に、『城内』という敵に狙われないが城壁を防衛できないフィールド、そして初めからレベル三のユニット『英雄』といった設定が盛り込まれていた。


「タイトルは……レジェンド・オブ・ヒーローズ?」

「それは、仮で」


 題名はわかりやすくてシンプルだし、悪くないと思うな。

 肝心のルールに関しては、正直なところ俺にこれだけで判断はできそうにない。

 ただ気になるのが……。


「人間と魔物は納得できますし、三つの種族で相性を設けるのもルールとして理解できますが、なぜ武具なのですか?」

「……独自性を追求した結果、というのは建前」


 いきなり、ぶっちゃけたな。


「本当は、あなたがいるから」

「武具というのはインテリジェンス・アイテム、ということですか」


 こくりと頷くミルフィちゃん。

 人間と魔物がいるのに、俺が含まれていないのを気にしてくれたのだろうか。

 でも、これでようやくイメージできた。

 ただ武具と聞いたら剣や盾が戦場を飛び交うのかと思うが、あくまで【人化】した俺たちをイメージしてのものなのだろう。

 まあ大半のインテリジェンス・アイテムは【人化】できないのだが、細かいことはいいんだよ。

 その心遣いが俺には嬉しい。


「ではこれを採用ということで」

「いいの?」

「よいのです。私が最高責任者ですので」

「わー、職権乱用みたいっすね」


 そうだな。で、それがなにか問題でも?

 俺は嬉しい、ミルフィちゃんも嬉しい、みんなハッピーだ。

 とはいえカードゲームのルールとして破綻していないか、チェックする必要はあるだろう。

 あとで簡単なテスト用のカードを揃えて試してみるか。

 この場でプレイできるのは俺とミルフィちゃんだけだが、できれば多くの人に試して貰い、感想を聞きたいところだな。

 秘密にしているから、屋敷内の者たちには頼めないし……。

 村の子供たちなら引き受けてくれるかな?

 試作品ができたら何セットか預けてみよう。


 いよいよトレカ作りも少しは形になって来たワケだが。

 実は重要な部分が、手つかずのままになっていた。

 せっかくの機会なので、俺はミルフィちゃんの見識を頼る。


「ミルフィ、もうひとつ相談したいのですが」

「なに?」

「カードを作るにあたって、製造をどうすればいいのかと」


 地球の現代であれば高い技術力のおかげで、トレカぐらい個人でも作れるほどになっていたが、この世界だとどうなのか。

 一応ペンコのイラストや、ミルフィちゃんがルールを書き記した紙はそれなりに上質なものだから、製紙技術は悪くない。

 トランプだってあるくらいだからな。

 懸念しているのは、それが個人で注文可能なのかどうか。

 できなくはないと思うが、そういった細かい顧客の注文に合わせて臨機応変に対応するほどの応用性があるかは疑わしい。

 もし金で解決できる話だとしても、額によっては厳しいだろう。


 かといって手作りでは品質を維持できない。

 想定している客は金を持っている貴族や商人と、その子女なのだから、みすぼらしいカードでは見向きもされないのは容易に想像できる。

 贅沢を言えば、こうキラキラとした加工とかもしたいなーなんて思ってる。

 レアカードの特別感は必須だからな。


「私も詳しくない。直接聞いてみないと、わからない」

「そうですか……ちなみに、どのような店で受けてくれるかはご存知ですか?」

「こういうのは、たぶん印刷商に注文する」


 どうやら印刷会社に相当する店はあるようだ。

 もし大商店が職人を抱えて、独自に作っているとかだったら面倒だが、そういう仕事を専門にやっているなら交渉次第でどうにかなるだろう。

 帝都にも印刷商とやらがいくつか存在するようなので調べておこう。


 イラスト、ルール、製造まで目処が立った。と思う。

 あとは販売と宣伝だな。

 売るだけなら、まあなんとでもなる。

 宣伝に関しても、ひとつ案があるので心配はしていない。

 なんにせよ、これは物が完成してからだけどね。


 正直……これらはノブナーガを頼れば、すべてあっさり解決するだろう。

 大貴族エルドハート家が持つ財力と権力は、よく理解しているからな。

 しかし、それで本当に自分で稼いだと言い切れるのか。

 別に頼るのが悪いワケじゃない。現にペンコとミルフィちゃんがいなければ、俺には不可能だった。

 だから結局のところ、俺のワガママじゃないかと自覚している。

 自分自身で納得できるやり方で、できる限りやってみたいだけだ。

 とんでもなく非効率的で、面倒臭いやつだと自分でも呆れるな。

 でも、はっきり言ってしまうと、それが楽しくもあった。

 あまり幼女神様を頼らなくなった理由も、俺が楽しみたいから、っていうのが大きいのかも知れない。

 退屈している幼女神様には申し訳ないけど、俺に楽しんで欲しいと言ったのは幼女神様なのだから、これぐらいは許して欲しいね。


 ゆるすー。


 あっさり許されたので、俺のやりたいようにやってみようか。


「私からも、お願いがある」

「なんでしょう。私にできることであれば協力しますよ」


 視界の端で幼女神様が戯れているのを捉えながら、ミルフィちゃんのお願いに耳を傾ける。


「しばらくペンコを貸して欲しい」

「え、自分っすか?」

「それは……」


 なんか悪影響がありそうで、あまり推奨できないな。

 とはいってもミルフィちゃんが言い出したのには理由がありそうだ。


「カードの絵は、だいぶいい。でも細かい部分は、もう少し相談したい」


 なるほど。ミルフィちゃん的にはイラストに拘りたいワケだ。

 そのためにもペンコを連れて帰って詳細を詰めたいと。

 たしかに現状だと、メイドさんの協力によって装備して貰い、イラストを描いて貰っている。

 それをミルフィちゃんが装備すれば、もっと効率的に作業を進められるだろうし、なによりペンコは暫定的なパートナーを得られる。

 本人も悪い気はしていないみたいで、双方がハッピーとすれば……。


「私が決めることではありません。ペンコ自身の問題ですから」

「えーっと、自分はいいっすよ。ミルフィさんとは仲良くなれそうっすから!」

「……よろしく」


 あんまり騒がしいのは苦手な印象があったけど、意外と馬が合うのかな?

 ただ釘は刺しておこう。


「ペンコ、ミルフィに妙なことは吹き込まないように……いいですね?」

「え、あ……も、もちろんっすよ!」


 妙な間が気になるけど、まあいい。

 信用がないワケじゃないからな。

 こうしてペンコはミルフィちゃんに引き取られて行った。部屋がひとつ空室になったが、特に寂しさを感じたりもせず、いつも通りの生活を送る俺だった。

実はカードゲームに詳しい訳でもないので

似たような作品があったら申し訳ないです。

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