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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第1章「受け継がれちゃう伝説」
11/209

出番まだー?

 ――――ノット――――


 それを発見した時は、本当に残念だった。


 事前に位置を教えておいたはずの罠をミラがこれ以上ないってくらい見事に引っ掛かってから、私とディアナとレインだけで転移陣を探していたんだが、やはりそう簡単に見つけられるものじゃなかった。

 一定階層毎に設置されている転移陣だが、より厳密に言えば階層と階層の間に存在している。

 例えば15階層の転移陣なら、16階層へ続く階段の途中にあるんだ。そして階下へ向かう階段は突発的に移動してしまうから、前情報を仕入れていても役に立たないことがままある。

 そんなわけで情報通りの場所で16階層への階段を見つけられなかった私たちは諦めて、歩きで地上へ帰還することを選んだわけだ。引き際が肝心なんだよ。


 ミラが待つ場所までの帰り道で、来た時には存在しなかった箱を発見した。

 最初は怪しんだが、いきなり宝箱が出現することは、このダンジョンではあり得ることだ。

 事実、これまでにもいくつかの宝箱から下級の魔法がかけられた槍や斧などを入手している。もっとも私たちでは使い道がなく、地上へ戻る度にギルドでさっさと売ってしまったが。

 ディアナはどうせなら剣を出してくれと不満を口にしていた。

 だからだろう、私が最低限の罠を確認したところで勝手に開けてしまったのは。


 まったく、油断も隙もない奴だ。

 罠がないことを確かめたとはいえ、いきなり宝箱を開けるか?

 これまで私が開けて、私が最初に中身を確認していたというのに。

 しかもこの時に限って、こんな時に限って!

 あんなレア物が出るだなんて!

 私が最初に見つけたかったのにっ!

 なんでだよ! なんなんだよ! まったくもうっ!


 その時はレインの仲裁もあって大人しく引いたが、もし知っていたら私の怒りは収まらなかっただろう。

 どちらにせよ、すぐにはそれの真価を見抜けず、ちょっと良い防具程度の認識だったわけだが。

 とにかく私にとって、一生の不覚となる残念なできごとだった。


 まあ、なんだかんだでレア物が手に入った喜びというのは思った以上に大きいようだ。思わず素の感情が表に出てしまうほどに

 それはギルドでフィルに鑑定して貰ってからは顕著だったようで、まさかディアナから指摘を受けると予想だにしなかった。

 ミラが売りたくないという意思を示したことには少し驚いたが、考えてみれば納得できる話だったな。そもそも私は売る気などなかったわけだが。

 特に、あの商人はどうも嫌な感じがする。

 いつものことだが、警戒だけは怠らないよう肝に銘じた。


 宿に戻ってから、それとの対話が始まった。

 といっても間接的なもので、直接それと話したのはミラだけだ。

 できるのであれば私も装備して話してみたい。意思を持つ防具など歴史上にも数種類しか確認されてないほどのレアだ。どうして私が装備しなかったんだ。

 などと言っても仕方ない。それが言うには装備できるのは選ばれた者だけで、装備者は契約を結ぶことになるようだからな。


 契約……嫌な言葉だ。


 念のために詳しく聞いたところ、想像したようなものではなくて安心した。

 ひょっとしたらミラが苦しませてしまうのではと危惧していたんだ。

 いくらレア物でも、仲間を危険に晒すのであれば容赦はしない。


 今のパーティを私は気に入っている……と思う。

 はっきりとはわからない。でも、そうなんだろう。

 ダンジョンを攻略するためだけに組んだような間柄だったはずなんだが、不思議と気が合うようだ。

 ミラはお人好しで損な性格だが、そういう人間がいてもいいと思える。

 ディアナは考えが足りないところがイラつかせるけど根は良い奴だ。

 レインは無口で考えが読みにくいが、いつも私たちのことを考えてくれている。

 どいつもこいつも個性が強くて、一緒にいて飽きさせない。

 本当に、私にはもったいない仲間たちだよ。

 こんなこと面と向かっては絶対に言えないけどな。


 それにしても、さすがは意思持ちといったところか。

 少々頼りないところはあったが、どうやら装備者と共に成長するという異質な性能を持っているようだ。

 今はまだ大した力はないが、再びダンジョンに潜ってモンスターと戦っていれば、いずれは過去のインテリジェンス・アイテムと同じように最上級の性能を発揮するのだろう。


 同時にそれの価値を知って狙う者も増えるわけだ。

 だが、そうはさせない。

 私は二度と奪わせない。奪う者を許さない。


 今度こそ、護ってやる。



 ――――ディアナ――――


 ダンジョンを出た辺りから、ノットがいつもより嬉しそうにしていた。

 珍しいアイテムが好きなのは知ってたけど、そんなに凄い防具なのかな?

 たぶんミラの話から、なにかわかったんだと思うけど、聞いてももったいぶって教えてくれなかった。ケチぃ。


 結局ギルドの鑑定で私にもようやくそれが凄い物だってわかったよ。

 ノットが言うには、売ればお城が買えちゃうみたいだね。

 それだけのお金があれば、みんなの装備を最高品質で整えられるかな。

 私は鎧と剣をミスリルで揃えられるし、ノットは前から欲しがってた魔法の短剣と外套、ミラはより強い魔力が宿った杖とローブに、レインは……元々良い装備だから変わらないかな?

 とにかく装備を整えるのは、命の安全性を高めるのと一緒だから疎かにしちゃいけないんだよ。って師匠も言ってた。


 私はダンジョンで悪魔みたいなモンスターに襲われた時、初めて戦っちゃいけないと直感したんだ。今まではそんなことなかったのに。

 もし私一人だけだったら、無謀だろうと挑んでいたかも。

 でもみんなも危ない目に遭うと気付いたら、逃げることしかできなかった。

 もっと強力な装備があればって思うと悔しかったし、次に遭遇した時を考えると少し不安でもあった。

 だから高く売れるって聞いた時は、チャンスが訪れたんだって、これで安心できるって、ちょびっとだけ舞い上がってたのかも。


 レインに言われて、そこで初めて視野が狭くなっていたことを自覚できた。

 常に視野を広くして全体を見通せば自ずと正しい道が見えてくる、って師匠にも散々叩き込まれていたのに、その教えを忘れていたみたいだ。まだまだ未熟だなぁ。たしか明鏡止水が大事なんだよね。

 うん。あれはミラにあげた物だから、どうするかはミラが決めるべきなんだ。

 だからミラが売らないって言うんだったら、私はなにも文句はないよ。

 そもそも装備に頼っている内は二流だって師匠が言ってたもんね。

 ……でも師匠の武器って名刀だとか自慢してたような?

 まあいっか。


 宿に戻ってから色々と話してみたけど、想像していたより良い人っぽかった。

 ……人? いや防具なんだよね? とにかく良い布だったね。

 こっちの質問にもちゃんと答えてくれたし、お世辞なんかも言えるみたい。

 私が純粋な心の持ち主だってさ。えへへ。

 本気じゃないと思うけど、やっぱり褒められると嬉しいよね。

 あとミラは優しいところで、レインはお淑やかだったかな。

 ノットは小さくてかわいいって言われたのが気に入らなかったみたいだけど、なにが不満だったのかな。

 私は体が大きいから、ちょっとだけノットが羨ましいんだよね。

 実際に口にしていたのはミラだから、すぐに謝ってたよ。


 ともかく、そんな感じで仲良くなれたんだけど、またダンジョンに潜って魔物と戦うことになったんだ。

 今はまだあまり強くないけど、これから人間と同じように成長するんだって。

 そうなると装備しているミラが凄く強くなれるみたい。

 私は自分自身の力で強くなるしー、装備に頼らないのが一流だしー、だから気にしてないんだけどねー。

 ……でも、たまには私にも装備させてくれないかなぁ。



 ――――レイン――――


 爆風に包まれたミラを目にした私は、心臓が止まる思いをした。

 ほんの僅かに後退したとはいえ、ほとんど直撃に近いダメージを受けたはず。

 加えてミラの能力は私たちの中でも低く、高レベルのモンスターの攻撃など受けては到底耐えられない。

 それらの事実がもたらすのは非情な現実……のはずだった。


 結果としてミラは無傷で平然としていた。どころか、少し離れていた私やノットの方がダメージを受けているありさまだ。

 あれだけの熱波を完全に防ぐなんて、ゴーレム級魔術士の領域ではないだろうか。それがミラに可能かと問えば、現時点では不可能だと断言できる。

 では、原因はなんだろうか?

 詳しく調べている状況でもなかったため追究は後回しとなったけど、ミラの話からノットは答えを導き出せていたようだ。

 いつもより落ち着かない様子だから、きっと珍しいアイテム関連なのだろうと私は予想して、すぐに見当が付く。

 きっとミラに渡した防具に秘密があるに違いないと。


 ギルドでの鑑定で、その秘密も明らかとなった。

 インテリジェンス・アイテム。意思を持った道具。

 世間では所有者に力を与えるアイテムとして知られている。

 最も有名なのは南の王国が保有している『聖剣』だ。かつて魔王の一人を討ち、国を成して王となった勇者の剣だ。

 この伝説から意思を持ったアイテムを手にした者は王になれるとまで言われている。

 それほどに貴重で、得られる恩恵も大きいのだろう。

 しかし同時に抱え込むことになる厄介事の大きさは想像に難くない。


 ところで、意思があるということは意志があり、そこには感情が宿るものだ。

 かの聖剣は善の思考をしていたのだと推測できる。

 もしも悪の思考の持ち主であれば邪剣と呼ばれ、封印されていたはずだ。


 さて、ではミラが所有することになったあれは、実際のところどうなのか。

 ミラを通してではあるけど、一通りの会話からすると悪意を持っているようには感じられない口振りだ。

 それどころか人間とまったく同じような感覚を持っているようで、私たちに対して友好的に接している。

 ただ内容からすると、なかなか冗談を好むように感じられた。

 ディアナへ送られた純粋な心の持ち主とは、裏を返せばなにも考えてないと言っているようなものではないか。当人はまったく気付かず照れ隠しに笑っている辺り、まったく見当外れではないところがちょっと面白い。

 私はお淑やかと評された。影が薄いという意味だろうか。言葉数が少ないことは認めよう。本当は人間の言葉になかなか慣れず、流暢に話せないだけなのだが。

 ミラへの優しい心の持ち主とは、まったくもって的を得ている。人を見る目はあるようだ。

 最後にノットへ送られた言葉は本気なのか冗談だったのか。判断に悩む。


 いずれにせよ、彼は私たちに協力的であることはわかった。

 邪な波動は感じられないし、ひとまずは信頼できると判断する。

 新たな仲間として今後とも仲良くできれば、私としても嬉しい。

 ……そういえば、当然のように彼と言っているけど男性という認識でいいのだろうか?

 なんとなく雰囲気から、そんな気がしていた。

 別に男性と接した経験が皆無なんて言わないが、里でも今までの旅でも、ちょっと会話したことがあるくらいだったし、このパーティは女性だけだったから……。

 といっても彼は防具だ。人間じゃない。あまり気にしなくていいはず。


 気にしない、ように、彼は、彼を……。



 ――――ミラ――――


 私は一度、すでにダンジョンで死んでしまった、はずでした。

 こうして生きながらえているのは彼――クロシュさんのおかげなんです。


 クロシュさんに名前を聞いて、無いと打ち明けられた時は鑑定にも表示されたクロークでいいと言われたのですが、クロークというのは服の種類です。

 これは人間で例えるなら王国民や帝国民、剣士や魔術士といった個人ではなく身分のような名前になってしまいます。それでは紛らわしくてよくないでしょう。

 それなら私たちに決めて欲しいと頼まれてしまい、これにはノットが喜んでいました。

 たぶん珍しいアイテムの名付け親になれるから、でしょうか?

 本人は感情を隠しているつもりみたいですが、目がキラキラと輝くのでわかりやすいです。

 とても微笑ましい彼女ですが、このことを教えたら恥ずかしがって拗ねてしまうでしょう。そこで、だったら気付かないフリをしてあげよう、とディアナさんから提案されました。

 騙すようでちょっと心苦しいですが、ディアナさんの優しさに私もレインも賛同しました。なぜか二人とも面白そうに笑っていましたが。

 話を戻しますね。

 それから私たちでいくつかの案を出し合いましたが、最終的にノットの『クロシュ』という名前で決定となりました。


 クロシュさんは生まれたてで知らないことが多いようですね。

 わかっているのは自分自身についてのみだとか。

 あのダンジョンの情報すら持っていないのはよくないと言ってノットが常識的な話から、国や地名などちょっと細かいところまで様々な知識を披露しました。

 口頭で伝えていたので私だったら覚え切れる自信がありませんが、クロシュさんはまったく気にしていないようで凄いです。

 インテリジェンス・アイテムは記憶力も高いのでしょうか。


 凄いと言えば、彼が持つ能力も驚くほどの力を持っていました。

 成長するというのもビックリしましたが、結界による防御など魔術士が使うスキルまで扱えるのです。

 あの炎から私を護ってくれたのはこの結界だったんだと、すぐに気付きました。

 確認を交えてお礼をすると、なぜか謝られてしまいます。

 クロシュさんからすれば、あのモンスターの存在には早い段階で気付いていたのに私へ伝えられず、ギリギリのところで攻撃を防ぐことしかできなかったと反省点が多かったようです。

 それでも私からすれば命の恩人で充分に感謝したいできごとなのですが、どうやらクロシュさんは高い理想を持っており、それを目指しているそうです。

 努力家の上に謙虚なんですね。


 他にもクロシュさんは女神様の話を聞かせてくれました。

 姿は見えずとも声だけは届き、暗く狭い宝箱の中にいた頃は孤独を癒すように何度もはげましてくれたそうです。

 そんなことがあったからでしょうか、名前も知らないという女神様ですが、クロシュさんはとても信頼しているみたいでした。


 ちなみに私が知る神様の名前は八つになります。

 その中で女神であるのは三人。


 紅炎の主『プロミネス』

 白雷の主『ライン・ニグ』

 銀月の主『ルーナ』


 クロシュさんが話した女神様が誰なのか気になりますが、幼い口調だったと言います。しかし記憶が正しければ女神様はいずれも成人女性の姿をしていたはずです。

 幼いという方向で考え直すと黄地の主『ククエイ』と緑風の主『テト』でしょうか。

 ククエイは幻獣の姿で子供のような性格をしているそうです。

 テトは姿も性格も子供ですが、こちらは男の子だったと思います。

 これは幼い声から女の子だと勘違いしている、ということでしょうか?

 疑問は尽きませんが、嬉しそうに女神様の話をするクロシュさんに確認するのは、なんとなく躊躇われました。


 そうして会話を続けている内に、いつの間にか私はクロシュさんに親近感を抱いていることに気付きました。

 見かけは布製の防具ですが、まるで誇り高い騎士のように高い理想を掲げて切磋琢磨しようとする言葉に共感を覚えていたのです。

 私も目的があってダンジョンへ挑む身です。

 目指している道は違いますが、そんな彼と共に精進できることが、なんだか嬉しくなりました。

 まだまだ未熟ですが、お互い理想へと近付くためにも頑張りましょうね!

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