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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第3章「スーパー幼女大戦」
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えいえんは、あるよー

予定より一日遅れました

 さて、およそ三十分ほど鬼ごっこを続けた結果を発表しよう。


 ぱちぱちー。


 どうもどうも。

 まず俺が鬼になった場合だけど、五人の幼女をみんな捕まえるのに成功した。

 体格の差もあるけど、やはりステータスの影響で本気を出せばあっという間に追い付けてしまう。

 もちろん手加減はしたけどね。

 あんまり幼女ばかり狙ったら可哀相なので、フェイントで少年たちを鬼にしてやったりと、みんな順番に鬼役をやって楽しい鬼ごっこになっていたと思うよ。


 たのしい、まつり、だったねー。


 ここが理想郷でした。

 逆に幼女が鬼となった場合、要所要所でわざと、しかしそうと気付かれない絶妙な加減で俺は捕まってあげましたよ。

 そうでもしないと永久に鬼のままだったし、なにより嬉しそうに手を伸ばして駆け寄る幼女から逃げられるだろうか? いいや逃げられない。


 ようじょからは、にげられないー。


 その通り。

 でも少年たちが鬼になった場合は決して捕まらなかった。その時ばかりは本気で逃げに徹したからな。

 男なら、そのくらい気合で頑張るのだ。


 すぱるたー。


 幼女のように護る必要がありませんからな。

 彼らには自分の身は自分で護って貰う方針だ。

 必要なことは教えるけどね。


 そんな鬼ごっこも最後は俺が鬼になったのを機に、帯を伸ばして一斉に捕獲した時点で終了とした。

 元気な子はもっと高く、と要求するので危なくない範囲で十メートルくらい持ち上げたら喜んでいたし、満足して貰えたみたいでなによりだ。

 本当ならもっと遊んであげたかったけど、キリがないし、この後の予定もあったので永遠に遊んでいるワケにもいかない。


 えいえんは、あるよー。


 いつになく幼女神様が茶々を入れてくる。

 最近ずっと出番が少なかったから構って欲しいのだろう。


 それは、どうかなー?


 どの部分に対して言っているのか判断が難しいな。

 とりあえずお仕事をするので待っててください。


 いくじ、ほうきー。


 むしろ俺が幼女神様の保護下にある気がしますぞ。


 まだまだ、しんぱい、だからねー。


 おお、慈悲深い御心に感謝します。

 そんなワケで早く一人前になるためにも努力したいです。


 ぐたいてき、にー?


 ひとまず名簿を作らないとイカンのですよ。

 ゲンブが匿っている子供たちも加えたら二十人になりますからね。ちょっとした学校のクラスひとつ分です。

 ちゃんと健康管理するためにも、名簿を作っておいたほうが便利でしょう。

 他にも食堂や、お風呂場の使い方も教えないといけないし……あと落ち着いたら勉強を教えられる教師役を用意したいですね。


 いろいろ、かんがえて、いるねー。


 それだけ子供を保護するのは大変というワケですな。

 数人ならともかく、この場だけで十人もいるのだから当然だろうし、覚悟していたことだ。

 それでも今後どこかで問題が露出するだろうし、これが完璧な策だとは考えていない。俺はそこまで自分を優秀だと評価していないからね。

 少しずつ、軌道修正しながら理想に近付ければいい。


 がんばれー。


 幼女神様の、おうえん!

 俺のやる気が、ぐーんと、あがった!


 気合も入ったところで、鈴の音がどこからともなく鳴ったのを耳にする。

 これはルーゲインの呼び出しか。

 ということはゲンブと話がついたようだ。

 広場で思い思い休憩している子供たちを騎士に任せ、村に用意してある管理者用の家屋に入ると、すぐに庭園へと意識を飛ばす。






 転移の魔法陣をゲンブに見せて、その図形を現実に戻ってから描かせる。

 完成したら俺のほうからゲンブの隠れ家へ転移して安全性を確認し、次に子供たちを村へと転移させて……というのが当初の方針だが、これが難儀した。

 たしかに魔法陣は複雑だけど、それ以上にゲンブが不器用だったのもあり、完成するのに半日もかかってしまったのだ。

 これなら俺が飛んで行ったほうが早く済んだ気もするけど、今回はゲンブだけなにもしていなかったのだから、これくらいの苦労は甘受して貰おう。


「よ、ようやく終わった……」

「お疲れ様ですゲンブさん。よく頑張りましたね」


 鎧姿でよくわからんが、かなり疲労した様子のゲンブを、優しい表情のルーゲインが労っている。ずっと付き添って取り組んでいたから、なにか連帯感のようなものが芽生えたのだろう。


「ゲンブ、早速ですがそちらに転移してもいいですか?」

「あ、ああ、そうだな。予定より遅れたし、みんなも待ち飽きてるからな」

「それほど移住は子供たちに期待されているのでしょうか?」

「どちらかと言えば、クロシュに会える方が……かな」


 いったいどういう意味だ?

 そう聞いてみたが、こっちに来てからのお楽しみ、としか答えなかった。

 悪い意味ではなさそうだし、とにかく行けばわかるだろう。




 現実に戻ってから、騎士に次の子供たちを迎えに行くと伝える。

 受け入れの準備はずっと前から整えているから、いつでも問題ないはずだ。

 再び広い部屋に設置したままの転移の魔法陣へ乗り、魔力を流す。

 上手くゲンブが魔法陣を描いていれば、転移先に俺が設置した覚えのない箇所がひとつ増えているはずだが……。

 よし、問題なさそうだな。

 感覚でしか認識できないけど、たしかに存在を掴み取った。

 これを強くイメージしたまま一気に魔力を流し込めば……転移は完了している。


「ようこそクロシュ、俺たちの隠れ家へ」

「どうやら無事に到着したようですね」


 わかってはいたけど、ちゃんと転移できたのを確認して少し安心したよ。

 どこか記述が間違っていて、壁の中にワープしなくて良かった。

 辺りを見渡してみると、ここは森の中らしい。

 目の前に黄色のでかい鎧ことゲンブが立っていて邪魔だが、その奥に小屋が見えた。それから、子供たちがこちらを覗き込む様子も。


「あの子たちですか?」

「そうだけど、ちょっとフードを外して顔を見せてやってくれないか?」

「構いませんが……」


 念のために顔を隠していたのだが、もう必要ないだろう。

 むしろフードを深く被った怪しいやつが、いきなり現れたら子供たちだって警戒するのも当然だと納得したのでさっさと外す。

 すると森の澄んだ空気を直に感じられて、清々しい気分にさせられる。

 なかなか良いところに隠れ家を作れたものだな。


「あ、せーじょさまだ!」

「……はい? あ、えっと……え?」


 いきなり小屋から、たどたどしい声で呼ばれたかと思えば、子供たちがわぁっと押し寄せて、あっという間に囲まれてしまうではないか。

 瞬時に見破ったところ女子が五人、男子が四人で、その誰もが瞳を輝かせて俺を見つめている。

 あまりの歓迎ムードに狼狽えてしまったが、すぐに気を取り直した俺はとりあえず頭を撫でたり、片手で抱き上げたりして歓迎に応える。幼女だけ。


「それで、これはいったい?」

「俺も最近知ったけど、クロシュって有名人だったんだな」


 楽しそうに言いながらゲンブが甲冑の手で摘んで見せたのは写し絵だった。

 あれはパレードの時に売られていたやつじゃないか?

 おかげで本物の聖女だと追い掛けられそうになって焦ったが……。

 ああ、これもそれなのか。


「つまり、この子たちも私のことを知っていて、ここへ来るのを待っていたと」

「おかげで移住に反対する子はひとりもいなかったよ」


 なんと聖女パワーがこんなところで役に立つとは。

 いやまあ、有名人だったら別に聖女でなくとも良かった気もするけど、ともあれ結果オーライってやつだ。


「しかし、その写し絵だけでこれほど慕われるとは思いませんでしたよ」

「これだけじゃないぞ? 他にも色々あって……」


 実際に見たほうが早いと、ゲンブが子供に頼んで小屋から持ち出させたのは、まるで新聞紙のような紙束だった。


「近くの街で物資を調達する時に買ってるんだ。情報を仕入れるためにな。それで最近はそこに書かれている通り、聖女のニュースが続いていてな」

「それを読んで、いつの間にか子供たちにも浸透したというワケですか」


 受け取って文面に目を走らせると、ほぼ新たな聖女の出現を祝う言葉や、その功績を称賛する言葉に終始している。

 知らない間に、こんな記事が出回っていたとは……。ミリアちゃんたちについての記述が少ないのが不満だな。

 よく見たら端に帝国の印字がされている。これは帝国領内で配布されている情報紙らしい。


「ここは帝国内なのですか?」

「いや、ここは勇王国だよ。皇帝国より南東へ海を越えた先にある」


 たしか帝国の南には、魔の森があったはずだ。

 そして東の海を越えた先には商家連合国があるから、魔の森を越えるルートがない限りは海に出て、南へ針路を向ければ勇王国に到着するようだ。

 西側から回り込もうとすると、あの武王国が立ち塞がっているし、その先も途中にいくつもの国があるため海路がもっとも近いだろう。


「さて、そろそろ頼んでもいいか?」

「そうでしたね。みなさん、準備はいいですか?」


 ゲンブではなく子供たちに尋ねると一斉に、はーい! と大きな声が返った。

 それぞれ着替えやらの私物が入っている袋を手にし、準備万端である。

 ただ、少し違和感があった。

 この場に子供たちは九人いるのだが、たしか前に聞いたのは……。


「子供たちは十人いるはずでは?」

「ああ、もうひとりなら、さっきからここにいるよ」


 そう言ってゲンブが首だけを後ろの、やや下側へ向けると、大きな鎧に隠れるように幼女が立っているのが見えた。


「この子はスー。一応俺を装備してくれるパートナーってやつだよ」


 などと紹介されてもスーちゃんは隠れたままだったが、僅かに窺えたのは褐色の肌に赤い瞳、そして暗い銀色のショートヘアをしたかわいらしい姿である。

 うむ、さすがは同士ゲンブ。心得ておるわ。

 こんなに小さな幼女が、身の丈に合わない大きな鎧に入っているところを想像すると魔力が迸るね。


「見ての通り、ちょっと人見知りするんだ」

「無理させても嫌われるだけでしょう。またいずれ紹介してください」


 ゲンブという頼りになる守護者がいるなら俺も安心だ。

 他の子の面倒を看るとして、スーちゃんのことは任せよう。


 無事に子供たちの確認も済んだので、いよいよ転移を開始する。

 先にゲンブが布に描いた転移陣を回収しておき、魔導布の裾を地面に伸ばす。こっちなら隠れ家に陣を残す心配がないからな。

 でかいゲンブまで収めるのに、いつもより大きく広げ、最後の確認をしてから魔力を流した。


 転移が完了したら、あとは船から救出した子供たちと大して変わらない。

 さすがに鬼ごっこまではしなかったが、ひとしきり切り変わった光景に驚き、歓迎の果実水を配って落ち着いたら、騎士に頼んで名簿を作り始める。

 とっくに先の子供たちの分は終わり、今は各自の部屋で休ませているという。

 ここからは騎士に頼んでよさそうだな。


 予定していた通りゲンブはこのまま村に滞在し、子供たちの生活を支援するそうだ。騎士たちと面通ししたら、ゲンブはすぐにあれこれ質問していた。

 主に警備状況や、食料事情といった生活環境に関することで、どれだけ子供たちを大切に考えているかが伝わる。

 その結果、二組の子供たちをいきなり一緒にするのは不安なので、まずは別々の建物で寝泊りをさせて、少しずつ慣らさせようというゲンブの提案が通った。

 どちらのグループも仲間意識が芽生えているが、あくまで同時期に召喚されたグループ内で完結しているから、今は一緒にすると軋轢が生じかねないのだとか。

 正直、俺には理解できない範囲だったが、騎士も同意していたので口を挟まないことにする。

 今まで保護していたゲンブの言葉だ、そう間違いもないだろう。


 ともあれ、これで本当に一段落だな。

 あとはゲンブに管理人を押し付けて、細かい取り決めを任せるだけだ。


 クロシュくんの、しごとはー?


 俺の仕事は……子供たちの心のケアかな。


 あそぶのー?


 ただ遊ぶだけではありませんぞ。心の傷を癒すのです。


 いくさが、はじまるー。


 癒すと言っているでしょう。


 いきるのは、たたかいだからねー。


 深いですね。


 ゆかい、だよー。


 いえ不快ではなく。


 ふかくないー?


 怒られそうなので、そろそろやめましょうか。


 はーい。

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