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1:そして天使は召喚されるⅣ

「おけ、いつでも行ける。なんなら今からでも」


 と、相変わらず早い返信だ。有難い迅速さではあるが、いつも一番乗りなので、現実でのミルキがどういう人物なのか少し気になる。大抵どんな時間でも返してくるのだが、こんな真昼間からということは、俺と同じように学生なのか。それとも世間で言うところのニートなのだろうか。


 まぁ気になるのはミルキに限った話ではない。そんな相手とゲームを通じてやり取りするのは楽しい。現実での自分を忘れることが出来るからだ。


 俺はすぐさまミルキに返信する。残り二人のメンバーが揃ってからにしようと提案する。そのほうが面白い。即座に返ってきたミルキの返事は了解したというものだった。


 残りのメンバー、バズとミルキからも放課後には連絡が入る。今日の夜中なら全員潜れるということだ。




 時刻は深夜一時過ぎ。オンラインで時間通りに集まった俺たちは、新ダンジョンであるバラスト山の火口にて、モンスターを討伐していた。


「ふぅ。この辺はもうあらかた片付けたな」


 この辺に生息する小型の恐竜のようなモンスター、ヴァキドラ。その最後の一匹を仕留めたバズが一息つく。

 噛みつき攻撃の威力が高く、かなり素早いヴァキドラは中々に手強かった。それがうじゃうじゃと出てきたのだからたまったものではない。


 バズはダメージを最小限に抑えたものの、僅かに傷を受けてしまったようだ。その様子を、召喚士である彼が呼び出したキマイラが心配そうに近くに身を寄せていた。


「大丈夫だこんなもん」


 蛇の尾を持つキマイラ。名はパックン。可愛らしい名前だが、そんな図体ではない。敵のヴァキドラを何体も喰い殺したキマイラである。むしろ恐ろしい存在であるが、バズにはよく懐いている様子だ。心配ないとバズが教えると、パックンは安心したように小さく一声上げた。

 見れば時間ギリギリに返事をしてきたテレサも、まだまだ余裕であると取れる。護りをしっかり固めつつ、毒や硬直だったりと、敵を状態異常にする黒魔法が得意な彼女には心配などいらぬ世話だろう。数に圧されて受けた傷も、自分で回復魔法を唱えてしまっているくらいだ。

 二人はいつも通りだが、問題はこっちだ。俺も含めて軽傷で済ませているなか、一人瀕死寸前のミルキである。


「雑魚のくせに数だけは多かったな」


 おいおい……。口だけは一丁前だが、高額の秘薬を早速使っているあたり締まらない。というか、単純にカッコ悪い奴だ。


「その雑魚にやられすぎだろ」


 俺の指摘に不服を覚えたのか。ミルキはすかさず言い返してきた。


「相変わらずエヴァルは細かいなぁ。死んでないんだからいいだろ」

「誰のおかげで死ななかったと思ってんだ。ヴァキドラに取り囲まれて、SOS出してただろ」

「何だよ。助け合うのがチームだろ。それが当然だろ」


 チームとしての在り方は間違ってはいないと思う。だが助け合ってるというか、ミルキの場合はただ助けられてるだけじゃないのか。

 いや、別にそれでもいいんだ。俺だって無敵じゃない。ゲームの中でもそうだし、何より現実での俺は酷く弱いから。ただ、いくら何でもミルキの態度が気に掛かる。もしかしたら俺よりずっと年下がプレイしているのかもしれない。でも、相手のことが分からないこそ、さすがに、それなりの態度ってものがあると思う。


「そりゃそうだが。ミルキの場合、助けてもらってその態度はさすがにどうなんだ?」

「まぁまぁ」


 売り言葉に買い言葉。抑制が効かなくなってきたところで、テレサが落ち着くようにと仲介に入る。俺がテレサに止められているのと同様に、ミルキにはバズが説得し始めたようだ。

 テレサはウィスパー機能を使ったらしく、普通は共通して会話出来るのだが、今だけは俺とテレサだけにしか会話は表示されない。バズもそうしたようで、向こうの会話は俺には分からなかった。


「エヴァル。少し落ち着きなよ」

「いや、けど……」

「本当にミルキのことが嫌ならばパーティから外せばいい。違うかな?」

「そうかもしれないけど、それはさすがに酷くないか?」


 今まで結構長いこと一緒にプレイしてきたんだ。仲間外れみたいなことはしたくない。


「なら大人になることを覚えないと。もちろんエヴァルが一方的に悪いなんて思っちゃいない。でも、君が実際何歳なんて知らないけど、ネットとかこういうゲームでは、年齢なんか関係なく大人にならないといけないと思うよ?」


 まぁ現実でもマナーは大事だけど。とテレサはすかさず打つ。まごう事なき正論に、俺はすぐさま返信出来ずにいた。絶対俺より年上だと思われるテレサが続ける。


「それとも、世界ランカのトッププレイヤーであるエヴァル君には難しいかな?」

「……分かったよ。気を付けるよ」

「うん。折角のゲームなんだし楽しまなきゃ。それに……」

「何?」

「ミルキはああいう態度だけど、エヴァルのこと頼りにしてるよ」

「何の確証があるんだ?」


 俺を説得させる上での口上としか思えない。疑いの意味を込めて俺は尋ねた。


「やっぱり知らないんだねぇ。ミルキはこのパーティ以外とはダンジョンに潜らないし。依頼もこなさないみたいだよ」

「……。……嘘付け」

「ちなみに私が誘った時はエヴァルも誘う?っていつも聞いてくる」

「……。分かったって」


 逆に何か恥ずかしい。いや、本当に頼りにされてるなら、ゲームの中でとはいえ嬉しい。けどこれは、小っ恥ずかしい気持ちのほうが強い。


 どうやら向こう二人も話は終わったらしく、ウィスパー機能を終えたようだ。とりあえず謝るか。そんなことを思ってたらミルキのほうが早くに文字を表示された。


「……これあげる」


 アイテムの譲渡は元々備わっている機能だ。何を渡してきたのかと思えば、『ゼルビスの首飾り』だ。装備アイテムで、魔法攻撃を二割増しにしてくれるまぁまぁレアなアイテムだ。ミルキのことだから攻撃系のアイテムは沢山持っているだろうけど。


「いいのか?」

「ダブってるから大丈夫」

 

 バズとどういう話をしたのか知らないが、ミルキなりの気持ちだろう。有難く受け取っとくことにした。


「サンキュ」


 お返しに俺も『キュラソーの蘇生薬』を三個渡してやった。


「ったく。手間がかかる二人だな」


 バズの指摘に悪いと返す。改めて、ダンジョンの最奥を目指すことにした。

モンスター紹介

ヴァキドラ

火属性。

強靭な脚と強力な顎を有する。

二足歩行で走る。前足は退化しているようで、戦闘に使うことはあまりない。

ダンジョンではちょくちょく出現するモンスターだが、何より厄介なのは集団で襲ってくることにある。


キマイラ

本来は敵モンスターとして出現する個体。大きな獅子に羽が生えており、尻尾は蛇の頭となっている。尾にも意思があるため、尾が単独で攻撃することも可能。

闇属性。

口から吐く火球は強力。

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