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2.電脳世界の反逆

 とんでもない夢を見た。炎を纏う犬に襲われる。それでも十分に非現実的だが、そこにゲームの好きなキャラが現実に現れた。

 可憐な美少女だ。そして、襲われている自分が、その娘に助けられてファンタジーばりの戦いを繰り広げてしまう。何と自己嫌悪しそうな妄想だろうか。


「っ……」


 ジリリリリ……と目覚まし時計が鳴り響く。僅かに覚醒し始めたが、眠気に勝てるまでには至らない。寝返りを打って、もう少し待てと安眠を妨害する元凶を止めにかかる。手探りでも容易い。静まった空間を確認すると、改めて布団のなかへと潜り込む。

 その時だ。妙な感触を感じた。


 布団の中で何かに当たっている。何だこれ。視覚には頼らず、それが何なのかを確かめる。眠気に完敗しているなかでの精一杯の努力である。


 妙な気配はやがて確信へ至る。


「え、……なっ……」


 柔らかい。何だか分からないが、すごく柔らかいものに触れてしまった。ようやく事態を把握するために飛び起きる。何とか上半身だけ。

 眠気を吹き飛ぶ衝撃を目にした。俺のベッドの隣には何と女の子がいたのだ。自分の手が何を触ってしまったのか。あまり考えないようにするが、つい考えてしまって顔が熱くなってしまう。何て柔らかいんだ。いや、そうじゃない。


「こ、この娘……確か……」


昨日の夜、この娘の屈託のない笑顔を思い出す。普段からめり込んでいる「MythicalミスィカルAgeエッジ Onlineオンライン」。ゲーム画面と同じ可愛らしい笑顔だった。そんな娘が何と同じベットで隣に寝ていた。昨日の夜、あれから何があったのか記憶があやふやだ。


「ゲームの世界から来ました」


 そうだ。確かそう言っていた。いやでも、あれは夢じゃなかったのか。

 ゲームのなかに出てくる獣に襲われる。ゲームの中に出てくる女の子に助けられる。どちらも現実的じゃない。認めたくはない。そうは思っても、自分の記憶に刻まれた映像と、目の前にいる紛れもない女の子を見れば、認めざるを得ないだろう。


「んっ……」


 可愛らしい寝顔で寝返りを打つセレナちゃん。薄い紫色の髪色と白い肌。睫毛も長い。ぷっくりとした柔らかそうな唇は思わず触れてみたくなる。危うく誘惑に負けそうになるところだが、非現実的な出来事が起こっていることにまず目を向けなくてはいけない。


「えっと……」


 セレナちゃんは昨日戦っていた恰好とは違い、シンプルにカジュアルなシャツを着ているだけだった。布団に包まれているので、下は分からない。確認したいけど、確認できるわけもない。

 学校の屋上で戦っていたのは記憶にあるけど、そこからどうなって、今こういう状況になっているのか全く分からない。

 聞きしかないと思い、眠りこけているところ悪いが起きてもらおう。

 俺はゆっくりと近づき、セレナちゃんの布団からはみ出る肩をゆさゆさと揺すってみた。


「な、なぁ……起きてくれ」

「んんっ、……ふにゃっ……」


 気の抜けたような猫撫で声とともに、セレナちゃんが起きてくれた。


「あ……え、エヴァルさま。す、すいません。つい寝てしまってました。わ、私としたことが……」


 しばしの沈黙の後に、セレナちゃんは何やら大慌てで飛び起きる。何をそんなに慌てているのか分からない俺は、ただ茫然とセレナちゃんを見つめることしかできないでいた。


「あ、あの……そんなに見つめられてしまうと……恥ずかしいのですが……」

「え……、あ、あぁ……ご、ごめんっ……」


 女の子を困らせてしまうとは、何て不覚を取ってしまったんだ。ぷいっと見てませんとアピールするべく、首を回して視線を外した。


「あ、あの……、いろいろ聞きたいんだけど、本当にセレナちゃんなの?」

「あ、は、はい。間違いないです。セレナ・ミルウッド・エンジェルリンク。天の使いのセレナです」


 ゲームでも聞き覚えのある口上だった。ゲーム画面を見ているような、現実をみているはずなのに、やはり現実的じゃないと妙な気分にさせられる。


「いろいろききたいことがあるんだけど」

「はい」


 ベッドの上でセレナちゃんはちょこんと行儀よく座った状態で真っ直ぐに俺を見つめる。い、いやただ質問されることを待っているだけだ。しかし本当によく似ている。昨日の戦いが本当であったなら信じるしかないんだけど。よくよく考えるまでもなく、ゲームのしすぎで自分の頭が本当におかしくなったんじゃないかと疑ったほうが早い気もする。目の前にいるのも、めちゃくちゃレベルの高いコスプレイヤーであるほうが信憑性もある。


「何か俺の俺の記憶だと、君が空を飛んでヘルバウンドと光る弓矢で戦ってたんだけど……」

「……」


 表情を変えることなく、きょとんと見つめるセレナちゃん。今自分がどれだけやばいことを口にしているか客観的に感じてしまい、慌てて撤回する。


「あ、いや違うんだ。俺何を言ってんだろ。人間が空を飛ぶとか、光る弓矢とか現実にそんなことがあるわけ……」

「もしかしてこれですか?」

「えぇえ……!?」


 目の前でセレナちゃんの背中から、白い翼が横いっぱいに広がる。バサッと白い羽が部屋の中で飛び散る。いきなりのことに固まるしかできない。何度もセレナちゃんと翼と、部屋に舞い落ちた羽を見比べるけど夢だったと目が覚めるわけもない。


「え……っと、まさか本当にセレナちゃん? M.A.Oに出てくる?」

「はい。正真正銘本物です。昨日も言いましたけど、ゲームの世界からきました」


 どうやらゲームのしすぎで頭がおかしくなったわけではなさそうだ。

 とりあえず整理しよう。昨日ことも含めて。話は、それからだと思う。


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