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16.入学式

 入学式には母がこっちに来てくれた。母は私の部屋ではなくて葵君の実家にお泊りした。お客様用の布団がないのをいい口実に泊まりに行ったみたい。母にとっては娘の入学式がメインではなく久しぶりの旧友との再会がメイン? な感じなんだけど。お母さんらしくないお母さんだよね。まったく。城太郎君のお父さんは出張中で来れなかった。いつものことだよと城太郎君は諦めた顔をしていた。



 ウキウキとまるで自分達が入学するかのような母達にうんざりしながら入学式は始まりなんだか話を聴いてばかりで終わった。

 終わって外に出た途端に母が私に駆け寄って来た。母はまるで少女のようなんだけど。


「遥! 入学おめでとう! じゃあ、お母さんは志乃と用事があるからここでね!」

「え!? もう行くの?」


 母は本当に入学式がメインではなかったようだ。もうソワソワと浮かれている気持ちが顔に出ている。


「何言ってるの! これからは子供じゃないのよ! 何でも自分でしなさいよ」

「あー、はいはい。わかりました」


 自分が子供みたいなくせに。


「学費と家賃と生活費は出してあげるんだからお小遣いくらいは自分で稼ぎなさいよ!」


 まさか……今まで言わないなんて卑怯だよ。そういうことは早く言ってよ。バイト早く始めないと生活できないじゃない。


「お母さんそういうことは……ああ! もう!」


 母は言いたいことを言ってとっとと志乃さんの方へ行ってしまった。ああ、もう! 勝手なんだから。城太郎君のバイト頑張ってるのも生活の為なのかな?

 志乃さんはなんか葵君に言って、こちらも言いたいことだけ言ったんだろう、母と志乃さんは楽しげに二人で消えてしまった。残された葵君はなんかものすごく何かをいいたそうな顔してる。何言われたんだろう?

 私は葵君に近づいて行って聞いてみた。


「葵君。何言われたの?」

「え!? いや、ううん。何も。うん。なにも……」


 全く何もない感じじゃないいんだけど……。なんだろう顔が赤いような……。


「遥は何か言われたの?」

「え? ああ、バイトしなさいだって。最初から言ってくれたら春休みの間の暇な時間に探せたのに。今からが一番忙しいのに! ねえ?」


 そうこれからは家でダラダラとした時間を過ごしていられなくなる。講義も選ばないといけないし、まだ大学生活に慣れないうちは忙しいだろうに……母は全く意地悪なんだから。


「あー、そう。うん。そうだよね」


 なんか葵君動揺してる? 本当に志乃さんに何も言われてないのかな?


「よう! もう保護者さんは帰ったの?」


 保護者のいない気ままな城太郎君がやって来た。


「うん。ソソクサと二人で消えて行ったよ。それよりバイト! 私もバイトしないといけなくなったの。城太郎君のお店は募集してない?」

「あー、今は募集してないな。近くのファミレスとかにしたら?」

「そうだよね。ファミレスかあ。時間の融通ききそうだしね」

「そうそう。はじめはそこらへんから攻めるべきだね」

「城太郎君も初めてじゃないのよ!」


 高校生のころはバイト禁止だったって言ってたじゃない。


「バイト禁止だったけどやってないとは言ってないよ」

「えー! 隠れてバイトしてたの? そこまでして何費稼いでるの?」


 城太郎君はあんなに物が少ない。きっと服も同じくらいで普通かそれ以下だろう。物にはならずに消えるお金ってこと?


「旅費」

「旅費?」

「そう海外にいろいろ行ってみたいんだ。それで高校生の頃からちょこちょこ親父にばれない程度にバイトしてたの。大学生って夏休みとか休みが長いだろう? 海外に行けるチャンスはこれからの数年だからな」


 それであんなに働いてたのね。目的があるからそこに向かっていけたんだね。私は目先のお小遣い欲しさだけだし。


「へー! なんか意外だな」

「そうか?」

「だってあの趣味じゃあ......ふふがふふぁ」


 葵君から城太郎君の肩を組みにいったのに、そのまま城太郎君に口を塞がれてる。仲良しだね。二人。


 ………ん? 趣味? 城太郎君なんかあるんだ。海外旅行とは無縁な趣味が……? わからない。し、聞いても答えてはくれないだろうな。この様子じゃ。じゃれ合う子犬のような二人と並んで大学の門を出る。


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