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10.すれ違いの恋心

 次の日の見送りも尚也が来ると言ったら母は


「じゃあ、尚ちゃんお願いね! 遥、いってらっしゃい」


 の一言。軽いなあ。一応夏休みまでは帰って来ない予定なのに。父も今朝の出勤前に一言


「気をつけてな。夜遊びするなよ! 」


 で終わり。軽いよね。本当に。

 というわけで尚也だけの見送りとなった。




 昨日のように話が弾むと思って軽い気分でいた私を尚也の重い沈黙で、やっぱり気にしてないことないよねという気分に変えられた。


「尚也? 」


 やっぱりこの沈黙がしんどくなって声をかけた。


「ん? 」

「どうしたの? 」


 まあ、聞くまでもないし、自ら地雷を踏んでる私。


「いや、遥、今から同居なんだなって考えてたら……」


 あ、そっちか。ある意味そっちもあたりなんだけど。


「そーだね。結局風邪で寝込んでて家事あんまりお母さんに教えてもらえなかった。心配だよ」

「そっか。一人暮らしじゃなくて共同生活だもんな」

「そうだよ。三人で家事を分担するんだけど、もう一人がどこまで出来るかわからないんだよねえ。まあ、私もそんなに出来るわけじゃないんだけどね」


 尚也は同居するのが男だという話題を避けてるのに気づいただろうか。気づいたならば私の心の変化にも気づいたかもしれない。


「ふーん。今日会うの? 」

「うん。今日来るみたいだよ。しばらくは荷物と格闘だから家事どころじゃないかもね」


 自分の時を思い出して言う。


「そんなに荷物、大変? 」

「私はねー。忘れっぽいから、あ! 」


 思い出した尚也の写真。危ない。危ない。行ってすぐに送り返す荷物に混ぜとかなきゃ。


「ん? 」

「ああ、いや、まだ終わってないダンボールがあったなーと」

「そんなに? 俺のは俺と一緒に到着予定なんだけど……」

「まずは寝る場所確保だよ」


 葵君も別の部屋で寝てたしね。


「ふーん。大変だな」


 そんな一人暮らしをする、あ、私は違うけれど、家を離れて暮らす話をして駅へと向かう。




 あっという間に駅に着いてしまった。尚也と二人で切符を買いあの日のように電車を待つ。違っているのは尚也と私の気持ち。すれ違いなんてドラマや漫画の中だけだと思ってた。尚也の気持ちが私に向いていたのに気づいた途端なんて皮肉な話。しかもそれを確信して言えない私。なんて恋に不器用なんだろう。

 尚也、彼女とはどうしたんだろう? なんで付き合ったのかな? 今さらによぎる疑問。私のこといつから?



 それを聞けないまま電車が来た。電車に乗り込む私。きっと先に尚也が行ってたら間違いなく私は駅のホームだろうと告白してたなあ。本当にすれ違いだらけの恋だな。




「じゃあ……あの連絡するね」


 気持ちに確信が持てたら。


「ああ。待ってる」


 尚也は少しだけ悲しそうな顔でそう言った。別れを悲むんじゃなく、答えを予期して悲しんでいたのかもしれない。

 電車の扉が閉まり。私と尚也の間に電車の扉が挟まった。ずっと私達はこんな状態だったのかも。もう声も聞こえない。尚也が何か叫んでいる。慌てて窓を開ける。


「遥。好きだよ。返事待ってるから。ずっと……」

「うん。返事するね」


 電車が動き出した。尚也は二、三歩後ろに下がる。大きく尚也が手を振る。私も振り返す。どんどん尚也が小さくなり見えなくなった。駅もあっという間に見えなくなる。尚也……。

 窓を閉めずにずっと外を見ていた。私の住んでいた街ももう通り過ぎてしまった。

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