ぐだぐだ映画鑑賞。
今日も今日とてお家でデート。
彼が借りてきたDVDを彼の部屋で鑑賞中。
そのDVDのジャンルがホラーだったのには、何らかの意図を感じる。
内容を端的に言えばバイ○ハザード系の映画。
とにかく怖い化け物が出て、
とにかくたくさん人が死ぬ系の映画。
ここまで来ると逆にギャグなんじゃないかと思う。
ラストはどうなるのかなぁ、くらいの感慨しかない。
いっそ全人類滅亡とかだったらいいなぁ。
と、考えている私のそばにはいつも通り彼がいる。
今日はなんとなく距離が置かれている。
とはいえ、ささやき声が十分に聞こえる距離だけれど。
いつもがくっつき過ぎているのだろう。
まさに零距離。
お互いの手に持っているのが銃火器だったら死んでいた。
幸いなことに持っているのは温かい飲み物。
私がココア、彼がコーヒー。
ほんわか甘い香りが部屋に広がっている。
しかしコーヒーはそれを妨害はしない。
「・・・・・」
ふと、感じる視線。
自分の視線なんて感じるわけないから、必然的に彼のだ。
『なんで抱き付いてこないの?』的な視線が少し痛い。
こんな映画程度で泣く訳ないのに。
ましてはビビったりなんて、あるわけない。
「・・・・ねー」
「どうしたの?」
「怖くないの?」
「うん、別に」
淡々と答える私が嘘をついていないことに気付いたらしい。
目を真ん丸になるくらい大きく開いて驚いていた。
むしろ彼が怖かったのかもしれない。
だから手を握ったり、頭なでたりした方がよかったのかもしれない。
それが出来なかった代わりに和ませるように別のことに興味を向けさせよう。
おもむろにテレビ画面に人差し指を向ける。
丁度リアルな怪我メイクされている人がアップになっていた。
「このメイクすごくない?」
「・・・・え」
「いやだって、これ絶対本物の怪我じゃないでしょ?」
「これ全部本物だよ。メイクじゃないのが売りなんだって」
「でも、痛そうだよ」
「それが、売りだから。知らなかったの?」
マジか、としか口は動かない。
目の上にできている大きな痣も、骨が飛び出ているような右腕も、
あの唇が裂けきっているのも全部、本物だったのか。
えぐい。ぐろい。
なんてものを見せてくれるんだこの映画監督。
そしてそDVDを借りてきた彼。
双方にいらだちを募らせる。
そんなの聞いたら、眠れなくなっちゃうじゃないか。
私の心中を知ってか知らずか、彼が「飲み物取ってくる」と席を立つ。
『ぎゃあああああああ!!』
DVDの再生を止めずに。
彼が離れてからも野太い悲鳴と断末魔が流れ込んでくる。
恐ろしい展開が繰り広げられていく。
顔面も体全体にも傷が増えていく。
しかしこれらはすべて本物。
よく見直してみれば、俳優全員が真剣すぎる表情だ。
『やらなきゃやられる』みたいな顔だ。
やばい、これは。ホラーじゃない、アクションだ。
「ひぃぃ」
気づいてしまえば、ひたすら恐ろしい。
なにこれ、さっきまではただの人間ドラマだったじゃん。
ゾンビと戦うのなんだの、そんなぐだぐだしてたじゃん!
なのになんで急にリアリティを出したの。
そんな必死に殺しにかからないでよー。
「おまたせー」
「ばかあああああああ!!!」
「へぶっ」
飲み物を持ってきた様子の彼に飛びついた。
怖い部分になったから逃げたんでしょ!そうでしょ!?
一人にしないでよ!彼女のピンチだったのに!
驚いた様子だった彼は、飲み物を机に置いて私を抱きしめた。
久しぶりに感じてしまう、彼のハグ。
たった数時間抱き合わなかっただけなのに。
こんなにも嬉しく思ってしまう。
「どうしたのー?よしよし」
突然の奇行に走った私を子供扱いをする彼。
飛びつかれても怒らないところに愛を感じる。
しかし、それはそれ。
私は大変お冠である!自分で言うと恥ずかしいけど。
誠に遺憾、略してまこいか!
「なんでこんなもん借りてくんのーーーー!!」
「あ、」
「ばか、ばーか、ばーーーーーか!!!」
ぽかぽかと拳で叩く。彼は痛そうな素振りすら見せない。
こんなにもひどいことってそんなにない。
眠れない私を横目で熟睡するんだよ、こいつ!
眠れるまで傍に居てもらおうか、そうしよう。
こいつの責任だ。
ちゃんと最後まで責任を取ってもらおう。
あぁ、でもそれは思春期な彼には酷なのか?
だったらどうやって私は今夜の安眠を得ればいいのだ?
必死に考え込んでいる私を見て嬉しそうに顔を綻ばせる彼。
ついに笑い声に変わった。
「えへー」
「なにー?!」
「夢が叶ったから嬉しくって」
「それなに?」
「こうやって絡まれるの、夢だったんだ」
こいつ、ぬけぬけと・・・。
なんてことを言うんだ。いや考えるんだ。
今日から夜起きてトイレとか行けないじゃないか。
いや行かないけど。
夜中一回でもトイレに起きたら頻尿らしいね、そういえば。
「そりゃーよかったねー」
「でもねー、こんなに怒られるとは思わなかったなー」
「へー、そうだねー」
彼の服を力いっぱい握る。
服破けちゃえでもなく、服を脱げでもない。
傍に居てよ。
「う~~」
「よしよし」
『があぁああああぁぁああぁ』
「ひっぃ」
「大丈夫、大丈夫ー俺がいるよー」
べったべったに甘えてその日は解散になった。
「・・・・」
「大丈夫だよ、あんなのは町中にいないから」
「・・・・ぅー」
「何かあったら連絡してよ。すぐ行くから」
「ほんと?」
「俺今まで君にだけは、嘘ついたことないよ」
だから信じて、と目で訴えてくる彼。
しぶしぶそれを信じる。
何かあってからじゃ遅いんじゃないか、も言えなかった。
心的に疲れてしまった。
「大好きな君の元に、迷わず駆けつけるから」
そんなセリフに泣いたなんて、誰にも言えない。