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いなみな道場。

なんだこれ。

吉嬉清津(きちききよつ)高校に通う3年生の僕、酸ヶ湯(すかゆ)鷲爪(わしづめ)は、4人兄妹の長兄だ。

ただちょっと人数が多いだけで、僕の家族はいたって普通、シンプルでノーマルかつオーソドックス、ベーシックでスタンダードな一般的な家族である。

そしてこの僕、鷲爪も、親友・百裂(ひゃくれつ)(かい)と仲が良いだけのただの高校生だ。

しかしそんな平凡な日々も、今日、あの女(・・・)との出会いによって終わりを告げるのであった……


今朝、僕はただ廊下を歩いていただけなのに、あの女は。

がんっ!!

「!!」

蹴った。

僕を。

ただ、歩いているだけの僕を。

躊躇もせず。

手加減――否、足加減もせず。

「……ってぇなぁ!なにすんだよっ!!」

「何すんだよって……おめーがそんな暗い顔して不機嫌そうに歩いてっから蹴られんだよ」

「………」

確かに不機嫌だ。

いつも毎回見ている、僕が塾に行っている時間にやっているアニメ。

昨日録画し忘れました。

でも顔には出していないつもりなのに……

「別に顔に出してなくたって、考えてることくらい概ね分かるだろ。

アニメぐらいで男が落ち込んでんじゃねぇ、くだらねぇ」

その女は金髪のショートで、身長は170cmジャストくらいか。

165の僕よりも高いか……かなりの美貌なのに、口調が荒々しい所為で台無しな気がする。

ていうか今アニメを馬鹿にしなかったか!?ふざけるな!アニメは日本の宝だ!!

って、心読まれてるならあまりモノローグしないほうが……

「とにかくあたしは急いでるから……じゃあな、弱気な少年」

「待てッ!せめて謝れよ!!」


…………少しの静寂の後に。


「……嫌だッ」

やっと開かれたその口からは、そう言い放たれた。

そして彼女は踵を返し、行ってしまった。

かなり足が速い。

ムカツク……

とにかく僕は、教室へ急ぐ。

もうすぐSHRが始まってしまう。


―3年5組教室―

SHRが終わり、1時間目が始まるまでの休み時間。

僕は今朝の出来事を、親友の会に話した。

「……というわけなんだ。信じてくれる?会くん」

「だから、友達なんだから『くん』はやめろって。……別に、信じない理由もないしなぁ……

170の金髪ショートで男口調……ね。

それってたぶん、3組の稲築(いなつき)いなみのことだぜ」

「稲築いなみ?」

「ああ。ダンス部の部長で、運動神経がチート級らしいんだけどさ。

お前、この高校に3年間通って、あんな有名人知らねーのかよ。

あと、この学校の美人ランキング2位に入っている人物でもある」

「あぁ、1位は2組の北条(ほうじょう)南部(なんべ)さんだろうね……

で、なんで稲築(そんなヒト)がダンス部部長なの?そしてなんで僕は蹴られたんだろう?」

「さぁな。そこまでは知らねェよ。なんならそこにいる城陽(じょうよう)さんにでも訊けば」

城陽(きずき)

先述の2人が美人ランキング1・2位なら彼女は3位である。身長が少し低いのが残念だが。

まぁそれより低い僕が言えたことではない。

身長166cm、黒髪ロングの素直クール系女子。ダンス部副部長で、稲築と仲が良いらしい。

前に一度席を隣にしたことがあるが、女付き合いが苦手な僕は、結局一度もこちらから声をかけることが出来ずに今の席になってしまった。

「ん、酸ヶ湯くん。きみのほうから声をかけてくるのは初めてだな。

きみの顔は結構いいほうなのだし、性格も優しいのだから、女子には積極的に声をかけないと、もったいないぞ?」

ほ、ほめられた!?

「まぁ、学力に関しては少しアレ(・・)だがな……」

う゛っ。

確かに、僕の国語と理科以外の点数は微妙。ていうかやばい。

まぁそんなことはどうでもいい。

「で?いなみのことを知りたいのか?ってことは……

好  k「違 い ま す 。」」

言われる前に言ってやった。

だって、違うんだもの。

僕が本当に好きなのは、1組にいる2歳からの幼馴染、浪岡(なみおか)りぎりだけだ。

この3人が美じ(ryなら、あいつは可愛いランキング1位なのだ。

可愛いと美人は違うよね。

あいつには悪いが、驚は2位。

我が妹ながら、あいつも結構可愛かったりする。聞いた話だと、わりとモテるらしいし。

と、いろいろ何かに浸っているうちに、再度城陽さんが口を開いた。

「じゃあ気になr」

「それも違う」

「ふむ……まぁそれはいいとして、さっさと話を戻そうか」

逸らしたのはいったい誰なんでしょうかね。

「昔、なにかもめごとがあったと聞いたな……

小学生のころと言っていたかな?同級生の男子に『お前女なのに男みたいにしてんじゃねーよ』と言われたのが気に食わなかったらしく、『はぁ?てめーみてぇな女々しい男に言われたくねーな』と言い返したらしいな。そのあとは殴り合いの喧嘩に発展したらしい。どちらが勝った、というのはあの子自身が伏せているらしいが……まぁ、そっとしておくのがいいだろう」

いや待て。なんでそれが僕が蹴られるという結果に最終的に結び付くんだよおかしいだろ。

「まぁ、とにかく、教えてくれてありがとね城陽さん」

「うむ、あの子について他に知りたいことがあればいくらでも教えてやろう。恋の悩み・恋愛の相談も任せたまえ」

「う、うん……機会があったらね」


 *     *


春の夕暮れの空に、五時を告げる鐘が鳴り響く。

今日はもう下校時刻になったので、教室を出ようとした。

扉に手をかけ、開けると。

稲築が――いた。

「あ、お前朝の」

「稲築!!」

またなにかされるのではないかと、僕は少し戦慄したが(格好悪くいうとビビったが)、いったいどういうつもりなのか稲築は僕に対し頭を下げてきた。

「お、おい……」

「その、えっと……今朝はごめん!!」

「は、はぁ……?」

「あたし、自分の感情に任せて、時々なんも悪くない人を蹴っちまうんだ……

悪かった!」

お、おう。

「ま……まぁ、そこまで言うなら――」

許してやっても、と言おうとした。

しかし次の瞬間、その気持ちは削がれる。

「謝ったくらいで許そうとするなんて、やっぱりお前は甘い――

これ以上の甘さ及び女々しさ&気弱さは、敵対行為と見なす」

「えぇっ!?」

じゃらぁっと。

稲築の制服からカッターナイフ、彫刻刀、小刀、鋏、木刀、竹刀、螺子、画鋲、釘、安全ピン、縫い針など、刃状もしくは針状のものが飛び出す。

「切る。

斬る。

伐る。

――kill。」

「い゛やあ゛あ゛ああ゛っ!!」


 *     *


――僕は、目を開けた。

5時半。あれから30分か。

……!?

よく見たら、僕は教室の床に、仰向けにして縫い付けられていた。

あの無数の刃物で。

「目が覚めたか」

「!」

扉を開け、教室に稲築が入ってきた。

「お前は弱いな。弱い弱い。本当に弱い。

戦闘に入ってすぐに逃げ回るんだもんなー……

男のクセして逃げてばっかいんじゃねーよ格好悪ぃ……」

「僕は無駄な争いは嫌いなんだ。ていうか僕はなんで今お前に襲われたのかすらわかってないぞ!?」

「」

「お前さ……ちょっとあたしを殴ってみ?」

そう言い――稲築は僕の拘束を解く。

「…………。」

「どうした?本気で来いよ」

「……本当にいいんだな?後悔してもしらないぜ――えいっ!!」

ずんっ。鈍い音がする。

これは鳩尾入ったな……だから後悔しても、と言ったのに。

手には、あまり気持ちいいとは言えない感触が残っている――

「あははは!お前本当に弱いなー!!」

ごめんなさい全部嘘ですほんとすいませんでした。あまりにも結果が情けないものだったのでつい。

正しくはぽすっ、が正解。

勿論のこと、稲築は無傷だ。

ていうかむしろ僕のほうが痛い。ほんのちょっとだけ。

「う……うるさいな!弱くて何が悪い!」

「おいおい……男なら、強く生きるべきだぜ?

お前はせめてもうちょい強くなろうぜ。なんならあたしが鍛えてやろうか?」

「お前にだけは絶対嫌d」

どすぅっ!!

稲築の激しい蹴りが僕の腹に突き刺さった。

ぐふぅ。

いや確かに今のは僕が悪いけどさ!

それにしても突っ込みにしては鬼畜すぎる!

いや……でも。

考えてもみろ。自分の女すら護れない男に、男を名乗る資格はあるのだろうか――

「もしなんかあった時に、りぎりを護るのは僕なんだろうな――」

「ん?なんか言ったか?」

「いや、なんでもない。

……稲築」

「お?」

僕は決意を固めた。

「お前がもし――本当に僕を鍛えてくれるっていうなら、お願いする。

男が女子にこういうことを頼むなんて、少し恥ずかしい気もするけれどね――」

「……おおお」

「……ど、どうした?」

稲築の目が異様に煌いていた。

「惚れたぁっ!!あたしはあんたに惚れたぜ、酸ヶ湯っ!!

あたしは、何か目標を持って頑張ろうとしてる奴が大好きなんだ!!」

稲築が、急に抱きついてきた。

「え、ちょ……いたいいたいいたい!!締めてる締めてる!!」

「よーし酸ヶ湯!いや鷲爪!!あんた、あたしと付き合え!!その傍らで修業を見てやる!!」

「なんでそーなるんだよ!!」

「言っただろ、あたしはあんたに惚れたんだ!!」

「だからそれがなんでそーなるんだよ!?

それにりぎりを僕が護りたいからだっつったろ!?」

「んな事聞いてねーよ!もしかしてさっき小声でブツブツ言ってたのはそれだったのか?

手前の女を手前で護りたいだなんて……今のあんたは、最ッ高に輝いてるぜ!!

あんたと付き合うのはあたしだけどな!!ははははっ!!」

駄目だ……完璧に聞く耳を持っていない。

「さぁ、あたしがあんたを鍛えてあげることになったんだ。

一緒にがんばろーぜ!!」

「んー……しょうがないなぁ;」

稲築に異様なほど押され、この時は素直に引き受けてしまったが……

これから待ち受ける日々が、苦悩の連続だということを当時の僕が知る由もない。

おわり

なんで不良に絡まれてるところを助けられるとかにしなかったんだろう。

自分でも謎。

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