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Ep.01-08 神と杯

気づけばまたも半年放置……

でも二人お気に入りしてくれてましたし、また書いてみようと思います。

「“銀の智聖女”?」


 門番の言葉にヘルは首を傾げた。アリアが言っていた“師匠(せんせい)の必殺技”がその称号だと言うのは漠然と理解できたが、中身について想像が及ばないのだ。


「聖女って言うのは、手っ取り早く言うと神様のお気に入りみたいなものです。師匠(せんせい)は智恵と魔術の神ウィブロトル様の聖女なので、智聖女とお呼びするのです!」


 アリアがまるで自分のことのように胸を張るのを、フェリはどこか呆れた様子で見ている。


「もちろん、無理にとは申しませんが」


「いいわ、私が連れて来たんだもの」


 頷いたフェリに、門番は安心した表情を見せた。水晶にそのことを伝えた彼は、準備があると言って奥に消えていく。


「神様に気に入られるって、フェリさんはすごいんですね」


 そう心から賞賛した少年に、エルフの聖女は「あの方は色んな人に口と加護を出すから」とやんわり訂正した。

 実際、他の神と比べてウィブロトル神聖者ーーー聖人・聖女は多い。魔術師や学者を中心に信仰されているためにそもそも信者が多く、また別の理由から彼の言葉を伝える存在が必要なのだ。

 ウィブロトル神の聖者は数が多いため、金銀銅の三種に区分けされている。他に区分けされているほど聖者の多い神は、ほとんどいなかった。



◇◇◇



「杯をお持ちしました」


 アリアがヘルに聖者のことを説明している間詰め所の奥に引っ込んでいた門番が、箱を手に戻ってきた。その中身は、仄かに蒼く光る硝子の杯がある。


「これは……?」


「この杯は“真偽の杯”という。ウィブロトル様にお伺いを立てる時に使うもので……俺たちが使うより、聖女様に使っていただいた方がどこからも文句は出ないだろう」


 問いかけに対して是非を答えるこの杯は、神にまつわる道具ーーー神器というーーーの中では手に入りやすい部類に入る。門番は杯を机の上に置くと、隣の通信に使っていた水晶玉の位置をしばらく調整してから、お願いしますとフェリに頭を下げた。


「【生成/最低消費/付与=聖/座標指定】……《湧水(ウォーラ)》」


 少量の水を生み出す魔術と聖性の付与を同時に行い、硝子の杯に淡い輝きを帯びた清らかな水が注がれる。中空から滑り落ちた水は、杯の八分目までを満たした。注がれた衝撃に揺れていた水が落ち着くのを待って、杯に両手を翳したフェリは問う。


「過去現在未来の全てを識る、智恵と魔術の神ウィブロトル様へ、貴方の聖女フェリアンヌ・ウィルヘイミアが問いますーーーヘルはセツナの町に入れるか否か」


 杯の光が強くなると、水はひとりでに波紋を作り出した。ツゥウウウウーーーの羽音に似た音を立てて、中心から生まれた波紋は縁にぶつかって揺れる。


「是、と」


 波紋が生まれたことか、あるいはその数か位置か。ヘルには判断がつかなかったが、フェリにはそれが是という返事であるとわかったようだった。シャラン、とフェリの腕輪が冷たく硬質な音を立てる。


「重ねて問いますーーーヘルはこの町にとって益となるか否か?」


 また同じように、杯は謳って波紋を生んだ。また是と答えたのだろう、とヘルの胸に一足早く安堵が広がろうとする。


「いいって?」


 フェリは少し間を置いて頷いた。ヘルは町に入っていい、けれどそれが益となるかはわからない。


「三度、問いますーーーヘルは町にとって害となるか否か?」


 またも、杯は謳って波紋を作る。益ともなり害ともなるのか。あるいは多大な益と少しの害をもたらすのか、逆なのか。

 杯は基本的に、是非の二択でしか答えを示すことができないのだ。どちらにも同じように是と言われては、聖女であるフェリにもわからない。


「……どちらとも言い難いようね」


 少し眉をくもらせて結論を出したフェリに、水晶玉の向こうの町長もしばらく考え込む様子が無言ではあったが伝わってきた。蓋をするような沈黙の中、ヘルは拳を握ってアリアが髪をいじるのを見ている。

 しばらくして、ふっと息を吐く気配が水晶玉の向こうから伝わった。硬い男の声が、一本の芯を感じる強さで聞こえる。


「ーーーヘル殿、セツナの町は貴殿を歓迎しよう」


 門番はその言葉に唇の端を吊り上げると、表情を緩めたヘルの肩を元気づけるように叩いて三人に道を譲った。

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