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Ep.1-04 魔女と餓狼

遅くなってしまった…せめて1月にはこの章を終えたいなあ


狼の遠吠えが聞こえる。獲物を恐れさせようとする声はあちこちから響いてきて、記憶のないヘルにも明らかに一頭だけではないとわかった。狼の数は全部で七頭。どれも群れを追い出され、食い詰めた若狼達だ。


「ヘル、そこから動かないで頂戴」


フェリの冷たい声に、ヘルは無意識のうちに浮かしていた腰を下ろした。過去の記憶を持たない彼は持っていた剣を振ることができるのかも怪しいのだ、不確定要素をなるべく排除しようというのは当然の心理である。それを横目で見たアリアがぶつぶつと何かを呟くと、手の平の上にふわりと灯りが生まれた。


師匠(せんせい)、来ました!」


火の玉は空中を駆け上がり、パァンと弾けて辺りの闇を払う。無属性魔術《白》の初歩、|《火灯》《ライト》だ。辺りを明るく照らすだけという簡単な魔術だが、記憶のないヘルにはそれが灯りであることしかわからなかった。虚空から生まれた火に、ふと何かの単語がよぎる。しかしその音や意味までは、霧の向こうの記憶は教えてくれなかった。

アオォオオ……ンと遠吠えが響いて、明かりに誘き寄せられた狼達が森から出てくる。痩せこけた身体には肋が浮いているが、それでも枯木のように細くなった四肢には力がある。後のない狼達には、ここで一行を喰らうしか手がなかった。七頭全部が、作戦も何もなく本能のままに突っ込んでくる。今まではまだ策を持ってセツナ雪原に来る商人を襲っていたが、人が通らなくなってさらに飢えたのだ。


「アリア、私の討ち漏らしを片付けて」


「はい、師匠(せんせい)!」


フェリの身体を包むように、蒼白い光が漏れた。こちらも口の中で何事かをぶつぶつと呟いていたフェリがさっと右手を伸ばすと雪が巻き上がり、さらにそこの温度が下がる。巻き上がった雪やフェリが喚んだ氷の粒は、彼女の魔力と願いを受けピキピキと硬い音を立てて形を結んだ。


「……《氷槍兵》、討ちなさい」


月明かりに似た蒼白い光を発して、魔術は完成する。氷属性魔術《蒼》から彼女が開発したオリジナル魔術《氷槍兵》だ。キィン、と冷たい音と共に氷の槍を一閃させた氷人形は、主の命に従って槍を振るい狼を殺していく。のっぺりと無機質な頭部には何の感情もなく、舞いを舞うような動きで自身と雪を赤く染め上げていた。


「すごい……」


ヘルが無意識に、感嘆の声を漏らす。氷でできた槍兵は、狼に足を噛み砕かれても動じることなく槍でその狼を刺し貫いた。先頭の二頭が槍の前に倒れ、残る五頭は唸り声を上げながらぐるりと三人を取り囲む。


「アリアも負けてないですよぉ! ーーーー《炎矢》、発射!」


今度はアリアから薄赤い魔光が漏れる。目を閉じ、口の中で呪文を唱えた彼女が目を開くと、足元の雪が陽炎に溶けた。アリアが火属性魔術《赤》を使って造り出したのは、赤々と熱い火でできた矢だった。その数、五本。

どの矢も違った赤い軌跡を描いて、一頭ずつに突き刺さる。肉の焼ける音と臭いを立てて、狼達は苦痛の叫びを上げた。目に足に腹に赤い矢が刺さった狼達へ、フェリに足を直してもらった氷の人形が止めを刺す。


「アリア、討伐証明の右耳を集めてきて。《氷槍兵》は念のために護衛しなさい」


「わかったです、師匠(せんせい)


氷と炎に目を奪われていたヘルは、アリアを森にやって自分の方へ戻ってきたフェリに「今のは一体何ですか!? 俺にもできますか!?」と詰め寄った。


「最初にアリアが使ったのなら、必要な魔力さえあればできるわ。他は……多分、できないと思う」


「明かりならつけられるけど、氷の槍兵を作ったり火の矢を作ったりはできないんですか……」


フェリは頷いて、カルチェ=ルクシアでの魔術について説明を始めた。


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