Ep.01-11 首狩り刀の印
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これからもっともっと、沢山の人に見てほしいです
……今回と次くらいまで、解説が多くなりそうですが
ヘルのメダルに彫り込まれているのは、天秤を吊り下げる曲刀。首狩り刀と呼ばれる、主に儀礼用として使われる武器だ。上から吊り下げる天秤を、鉤でなくこの武器がぶら下げているのだ。そこはかとなく、禍々しいように感じる。
「あの、このメダルってまずいんですか?」
厳しい顔をするアリアとフェリに、胸が潰される思いでヘルが尋ねた。一旦部屋に、とフェリが自分たち二人の部屋に彼を連れて行く間、夕食の時の浮ついた気持ちは完全に霧散している。記憶を失う前の自分に犯罪歴はないようだったが、やっと手に入れた手がかりがロクでもないものというのはできればお断りしたかった。確かに、黒いメダルは何か禍々しいように思える気がする。
「ヘルさんの持ってるそのメダルは、《神印》と呼ばれるその神様を象徴する物なのです。神殿とかで買えるなんですが……天秤と首狩り刀の神印はなるべく隠してくださいね」
火を入れられたままだった部屋に入り、アリアがかいつまんでメダルの説明をした。
自分の奉ずる神を表す《神印》を持つ人もいれば持たない人もいるが、持っているのは基本的にその神を深く信仰する人々である。持っているからと言ってその神から恩恵を受けられることはないが、信仰の証として持つ人は多かった。値段は貧民層でも手に入る価格から、城が買えるほど高価な物まで様々である。
「じゃあ、女将さんが首から下げてたのはあの人が信仰してる神様の?」
「この辺り一帯では、冬と雪の女神シャーディーリルを信仰する人が多いわ。雪の結晶の《神印》の、試練を司るとも言う女神よ」
フェリは服の内側に入れていた自分の《神印》を出してみせた。通り名と同じ銀製のメダルには、緑の宝石がはめ込まれ羽根ペンと杖が交差している。金属製であるがゆえに、冬の雪国で見えるようにつけるのもはばかられたのだ。ちなみに、聖者のメダルは教会から支給されている。教会にもよるが、聖者にしか使えない素材というもの存在していた。
「アリアは、お母さんからもらった春と風の神ラウーシャリル様の《神印》です!」
アリアは胸ポケットから布の包みを出すと、解いて《神印》をヘルに見せた。使い込まれて艶を持った木に、小さな白い花と淡い緑の竜の絵が描かれている。石の類はついていなかったが、代わりに色がつけられていた。色付きの《神印》は石を買うほどの余裕はないが少しいいものが欲しい、という人に人気だ。
「このメダルの神様は?」
「死と裁きの神ヘルフィヨトル様です。その……無差別殺人犯だとか、独裁者だとか、目的のために沢山人を殺すような人だとか、そういう人たちに人気なんです」
「本来は、“死後の世界で生前の罪を裁く神”なんだけれどね」
ヘルはメダルの模様をなぞりながら話を聞いていた。《神印》は捨てずに持っておいた方がいいと言われ、部屋に戻って横になっても暗い考えが渦巻き続ける。風の音を聞きながら、目を閉じて無理に眠ろうとするとますます考えが膨れ上がった。
犯罪歴はない、といわれていた。けれどもしも、自分が大量殺人者だったら。あるいは、何かの目的のために沢山の人を殺めたような人間だったら。今の自分に人を殺そうという気はないが、もしもその時の仲間のような人が接して来たら。
眠れる気なんて全くなかったのに、気づけばことんと眠りに落ちていた。