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Ep.01-10 宿屋の夜

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 ヘルは自分の部屋に着くとまず、持ち物を検分し始めた。始めに、魔法のかかっている外套(マント)を脱ぐ。脱いだ瞬間寒くなって、暖炉の前に直行した。どうやら、着た人の体感温度を調整にしてくれる効果でもあるようだ。脱ぐ前から少しひんやりとしていたので、完全ではないのだろうが。

 いくつかついていたポケットの中を探ると、小さな袋が一つと短剣、それにメダルが出てきた。


「……女将さんのに似てる」


 触ってみると、黒い金属ないし石でできているらしいと推測できる。ポケットに入ってる間は気にならなかったが、手に持ってみるとずしりと重かった。中央には、親指の爪ほどの大きさの紫がかった黒い宝石のような物がはめ込まれている。


「何この石……すごく高そう」


 女将のメダルの石は、確か小指の爪ほどだったはずだ。メダルの表面に触れると、天秤を吊り下げる奇妙な形の武器の絵が彫り込まれているとわかる。


「なんだろう、これ……曲がった剣?」


 刃が、鎌のように途中で丸く弧を描いている。まるで刈り取るためにあるような形だ、と見ながら思った。何やらおいしそうな匂いがする。


「夕飯ができたよ、さ、降りてきな!」


 ドアの向こうから呼ぶ声に「はあい」と返事をして、ヘルはポケットの中身を元に戻し夕食を食べに向かった。メダルはそもそもどういうものなのか、夕食の席で聞いてみようと決めて。




◇◇◇




「うわあ、おいしそうです!」


 夕食はきつね色に焼けた柔らかいパンと、野菜や肉がたくさん入った濃いシチュー、それに香ばしく焼けた肉とサラダだった。温かいお茶もついている。三人は酒場も兼ねているらしい食堂に来ていた。奥には厨房があり、宿屋の主人が細々と立ち働いている。他には客はいないようだった。

 ヘルは気がついてから今まで野外の保存食で作る食事だったため、ちゃんとした食事は初めてだ。フェリはこのあたりの名物らしい山羊乳の酒を頼んでいたが、ヘルは自分の年もわからないのだからと止めている。アリアは「師匠(せんせい)に駄目って言われてるんです」とお茶を頼んだ。


「神々と精霊の営みに、今日の糧を感謝します」


 無意識に手のひらを合わせる仕草をするヘルに対して、フェリとアリアは手を組んで祈りの言葉を唱えた。今までは呑気に祈って食事を唱えるわけにもいかず略式だったので、お互いにその違いを知らなかったのだ。体に染み付いた祈りの仕草は手がかりの一つになるだろう、とヘルは心中で呟いた。


「ヘルさんは祈り方が違うんでね、住んでいる地域の問題でしょうか」


 アリアはパンをちぎってシチューにひたしながら、ヘルに話しかける。途中からはシチューにちぎったパンを混ぜ、具材の一つにしてしまった。ヘルも真似をしてみると、噛んだパンからシチューが染み出してとてもおいしい。


「国が違えば人や文化も違うし、そうなれば祈りだって違うことはあるわよ」


「そういえば、飾り板は北部の風習でしたね」


「雪のことを考えると、どうしても似たような建物になるからねぇ。看板は雪で凍りやすいし、明かり取りも兼ねて板を細工するのさ。シチューのおかわりはいるかい?」


 シチュー鍋を手にした女将が、飾り板のことを話しているのに気づいて口を挟んだ。アリアとヘルがおかわりと皿を出し、フェリは酒を止めてお茶を頼む。三人はサラダの野菜を肉でくるんだり、お茶のふっと鼻を抜ける匂いと甘みを楽しんだ。




◇◇◇




「……そうだ、これ見て下さい。外套(マント)のポケットに入ってたんです」


 三人は三者三様に感想を述べながら、食堂を出る。戻る道すがら、ヘルは二人にポケットからメダルを出してみせた。


「……これ、もしかして」


「ヘルフィヨトル様の……です、かね?」


 二人の動きが固まるのを見て、ヘルはどんよりと不安に駆られるのだった。

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