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Ep.01-09 セツナの町




 門をくぐった先は、雪が橙に染まり黒へ変わり行く町だった。門と同じ黒石でできた頑丈な家が並び、その窓を塞ぐ木の飾り板からは魔具の明かりが漏れる。太陽は最期の残滓を雪に投げかけて、山脈に沈んで行くところだった。


「……綺麗ですね、少し目が痛いくらいです」


「冬に見たいものの一つですね! 私は好きですよ~」


 少し目を細めたヘルに、アリアが賛同した。断末魔の照り返しが痛いほどに強い道を、さくさくと歩く。雪原から休憩しながら歩いていたので、疲れてはいたが最初に比べると雪道を歩き慣れていた。

 町に着いたのだから、ここで別れるだろう。どこに行けばいいのかも何をすればいいのかもわからないが、がむしゃらに頑張ればなんとかなるはずだ。


師匠(せんせい)、あの宿一人増えても大丈夫ですかね?」


「お祭りでもないから、多分大丈夫よ……討伐証明は明日出しましょう、今からだともう遅いわ」


「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい! ここで別れるんじゃないんですか?」


 二人と別れてどうするかを考えていたヘルは、フェリもアリアも自分を連れて行く気とわかり泡を食って口をはさむ。するときょとんと顔を見合わせた赤色と青色は、そろって笑みを浮かべてみせた。アリアが両手で、ヘルの手を握る。


「そんなこと、一言も言ってないわよ?」


「昨日、師匠(せんせい)と決めたんです。ヘルさんが帰る場所に辿り着けるまで、私達がヘルさんの面倒を見るって」


「い、いいんですか?」


「お金はそのうち、働いて返してもらうけど。それでいいならね」


 元からあった知識はあやふやで、お金について聞かれてもすぐには答えることができない。そもそも、お金を持ってすらない可能性もある。


「……な、何ができるかもわかりませんが、俺にはあなたたちしかいません。お願いします!」


 剣が使えるなら、剣で二人を守ろう。だめなら力仕事でも荷物運びでもなんでもして、俺を知る人の所に帰る。しばし考えて、そう結論を出したヘルは二人に頭を下げた。




◇◇◇




 雪原に来る前にとっていたらしい宿へ歩く二人を追いかける間、ヘルは周囲をキョロキョロと見回していた。どの家も、ほとんど同じに見える。二人は何で判断しているのか、さっぱりわからなかった。


「さ、着いた。ここが私達の泊まっていた宿“六花亭”よ」


 フェリが一軒の建物の前で足を止める。少し大きいが他の建物と何ら変わらない黒石のその建物は、飾り板に雪の結晶と両端が繋がった三日月の絵が彫られていた。上の方には何か文字のような物が彫ってあるが、ヘルには読めない。


「他の建物と何が違うのか、俺にはよくわからないです」


「両端の繋がった三日月の絵は宿屋の印よ。字は読めないようね」


 ヘルの口ぶりから事情を察したフェリが、宿屋の印を教えながら重い木戸を開けた。中は暖かな光に包まれており、酒場らしき開けた場所とカウンターと思われる机が見える。


「女将さん、ただいまです!」


「一人増えたのだけれど大丈夫かしら」


 カウンターに座っていた恰幅のよい女性が、フェリとアリアを見て顔を綻ばせて迎えた。立ち上がると三人よりも背が高く、黒い長袖の服と裾に雪の結晶の刺繍が施された黄色のスカート、白い三角巾とエプロンをつけているとわかる。首には木でできたメダルのような物をかけていて、飾り板ともスカートの刺繍とも違う雪の結晶が彫られていた。中央には白く煙った透明な石がはめ込まれているそれを、彼女は青いリボンで首から下げている。


「これはこれは、お早いお帰りで! ええ、お部屋なら開いてますとも。」


 一応これ、とフェリが見せたのは狼の耳だった。狼が無事討伐されたとわかって、女将の笑みが深くなる。その数が一つや二つでないのに、「さすがは<花>の冒険者たちだね!」と賛辞の声をあげた。


「夕食は出るかしら」


「うちの人が、腕によりをかけてご馳走を作るさ! あのまま狼が雪原に居座り続けたら、いつあたしらもやられるかってヒヤヒヤしてたんでね」


 本当に不安だったのだろう、女将はにこにこと笑って手を叩いた。そしてヘルに目を向けると「お仲間かい?」と聞く。女将が何らかの形でヘルを知っている可能性が消えたことに、安堵とも失望ともつかぬ感情がよぎった。


「雪原で行き倒れていたの。彼にも何か用意して頂戴」


「お部屋ももう一つですね!」


 ヘルは自分で払う、と言いたかったが手持ちがあるのかも怪しいのにそんなことを言えなかった。自然、顔が曇る。


「おやおや、お腹がすいてるんなら早く夕食の支度をしないといけないね。何か食べられないものはあるかい?」


「あ、た、多分ないはずです」


「じゃあ、部屋はお二人の隣にして……これが鍵だからね。夕食ができたら、呼びに来るよ」


 顔を曇らせたのを空腹のせいと勘違いした女将が、にこにこと笑って小さな鍵を手渡した。受け取ったヘルは、こまごまとした考えを一旦押しやって曖昧に笑った。

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