第7話:記憶の守護者
結衣は、消えゆく記憶に対抗するため、自分の魔法を使い始める。彼女が図書館で見つけた古文書には、魔法が「想像の具現化」であると同時に、「思考の物質化」でもあると記されていた。
「記憶を…物質化すればいいんだ」
結衣は、日本の友人たちとの楽しかった日々を思い浮かべる。カラオケに行った夜、アニメの新作について語り合った放課後。その一つひとつの記憶を、結衣は心の中で具現化していく。
そして、彼女の手のひらに現れたのは、小さな光の欠片だった。それは、温かく、彼女の記憶が持つ感情を宿しているようだった。結衣は、その光の欠片を、お守りのように胸に抱く。すると、ぼやけ始めていた友人の顔が、再び鮮明に見えるようになった。
「これなら…」
結衣は、この方法で、大切な記憶を一つずつ取り戻していく。
グランデールの家族の顔、母親の優しい笑顔、弟の無邪気な声。
そして、あの日の惨劇で失った、仲間たちの顔。
しかし、記憶を取り戻すほどに、彼女の体に負担がかかる。魔法を使うたびに、頭が割れるように痛み、腕の傷跡が熱を持つ。
「くそっ…!」
それでも、結衣は立ち止まらなかった。
彼女は、記憶を消そうとする何者かの存在を確信していた。そして、その存在が、自分をこの世界に転生させた原因である可能性に気づく。
その日の夜、結衣は自室で、また一つ記憶を具現化していた。
すると、彼女の部屋の窓の外に、奇妙な影が現れる。それは、黒いマントを羽織った、フードの人物だった。
「お前は…記憶を取り戻してはならない存在だ」
フードの人物は、そう言って窓を割り、結衣に手を伸ばす。その手から放たれるのは、結衣の魔法とは全く違う、冷たい光。それは、彼女の記憶を直接破壊する力を持っていた。
結衣は、記憶を守るために、その光を避ける。
この戦いは、もはや「記憶」をかけた戦いだった。