第6話:消されゆく記憶
結衣が図書館で見つけた古文書を読んで以来、奇妙な出来事が彼女の身に起こり始めた。
最初は些細なことだった。朝、起きてみると、昨日までつけていた日記帳の一ページが真っ白になっていたり、友人と話した内容を思い出せなくなったり。
「昨日、結衣とカラオケに行ったじゃん!めっちゃ盛り上がったのに、覚えてないの?」
友人の言葉に、結衣は必死に思い出そうとするが、頭の中には何も残っていない。
しかし、腕の傷跡だけは、あの日の痛みを鮮明に思い出させてくれた。
やがて、その現象は加速していく。
日本の友人たちの顔が、ぼやけて見え始める。
好きなアニメのキャラクターの名前が、思い出せなくなる。
そして、恐ろしいことに、グランデールの家族の顔さえも、輪郭が霞み始めていた。
「嘘……」
結衣は鏡を見つめた。そこに映るのは、恐怖に震える自分の顔。
誰かが、彼女の記憶を消そうとしている。
いや、もしかしたら、この世界にいること自体が、彼女の記憶を少しずつ蝕んでいるのかもしれない。
結衣は、このままでは大切な記憶をすべて失い、自分が誰なのかわからなくなってしまうと悟った。
「負けたくない。忘れたくない!」
彼女の心に、グランデールで感じた、あの「悔しさ」が蘇る。
結衣は、自分の「想像の具現化」の魔法を使い、記憶を消そうとする何者かに対抗することを決意する。